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魔王に抱かれた私――優美香

異世界将棋道場(魔王のおまけⅡ)

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「うーん」
 唸りつつ対面にいる勝負師を、ちらと見る。そいつはこちらを「フン」と鼻で笑う。そして、余裕たっぷりに銀色の髪をかきあげる。
「早くしてくださいよ、こっち手加減して飛車角落ちで対戦してあげているんだ」
「|裸玉《らぎょく》にしてくれって言ったのに」
「それでは勝負の醍醐味がない」
「うるさい」
「おやおや」
 裸玉というのは将棋上級者が、超初心者に対して「仕方がないけど、やってあげるネ!」的な対戦の仕方。要は、盤上には相手の王将の駒しかない。
 それでも、こちら側にしてみれば、駒の動かし方や勝負の勘所が分かる対局の仕方だ。
 町には将棋道場が、ここしかない。
 将棋の愉しさを教えてくれた人がいて、この道場に一年前から通いはじめた。
 でも。
 わたしは超初心者クラスの中でも、今なお底辺を彷徨う存在で有名だ。他に教えてくれる人もいないから、対戦しながら手数を覚えていくしかない。
 きっと店主や常連からは蔑まれているんだろうな。そうは思うけれども……日常から逃れられる時間も、ここしか考えられない。
 今日はようやく取れた休日だった。朝イチに、たまたま入ったパチスロ店で三万円を八万円に替えた。「今日はツイてるかもしれない!」と、ちょっぴりウキウキしながら道場に入ったら、この男がいた訳だ。
 ぱっと目についた彼の銀色の髪と深緑色の瞳は、よく調和していて、一見とても優しそうに見えた。あんなに優しそうな男前なんだから、きっとレクチャーしつつ対局を進めてくれるに違いない! ……そう思ったのが間違いだった。
「裸玉にしていただけませんか」
 初対面の人に失礼なことかも、と感じつつ申し出る。すると、途端に眉をひそめられた。だめか……と思った直後に柔らかい口調が返ってきた。
「では飛車角の二枚落ちで」
 優しそうな男前は、飛車と角、この駒を抜いて対局してくれるとのこと。二つの駒は、攻撃にも防御にも強烈な力を発揮する。
 ちなみに飛車は十字架のように縦横に動くことが出来る。角は逆に斜め方向に進められる駒だ。
 正直、ちょっと助かったと思った。
「よろしくお願いします」
 頭を下げて盤上に駒を並べはじめてから、すぐに後悔した。
 いつも相手をしてくれる爺ちゃんたちとは、なにもかもが違いすぎる。そして思った。
 ――もしかして、勝負師エーベル?
 先週、裸玉で対局してくれた爺ちゃんが言っていた。この頃、やたらと男前で、なおかつ情け容赦ない手を出してくる男が道場に出入りするようになったと。
 しかも対局前から、対面にいるこちら側を妙な雰囲気で圧倒してくるらしい。
 うおお、まさしくこの男じゃんか! 逃げたい! 今すぐ逃げ出したい!
 彼は「フフン」と、わたしが眉間に皺を寄せて掌に汗までかいている姿を笑った。
 自分のドン臭さを恨んでもしょうがない。将棋は「礼に始まり、礼に終わる」ものだ。お願いします、と言ったからには「ありがとうございました」までが対局。途中で投げ出すのは棋士の風上にも置けない。
 しかし……。
 勝負師という名前で呼ばれる者は誰でも「容赦」という言葉を知らない。わたしは道場に出入り禁止を言い渡されてもいいから、盤をひっくり返して帰りたい気分で一杯になった。
 エーベルは整った指で駒を動かして、わたしを煽っているのは丸分かりだった。なにも、こんなズブの素人相手に本気にならなくてもいいのに。
 対局早々に「おまえは、もう死んでいる」雰囲気が狭い道場に漂っている。気のせいか、段々と鼻の頭が熱くなって、視界が滲んできた。
 横から、店主の声がする。
「エーベルさん、もうちょっと勘弁してあげたらぁ?」
 勝負師に言うでもなく、明らかにわたしを軽蔑する口調である。わたしは思わず、横を向いて店主を見上げた。黒髪で鳶色の瞳の店主は、普段は魔王商売をしているらしい。魔王のくせして名前をカインと名乗る、図々しい野郎だ。
 この店主は本当に、いけ好かない。ルックスはいいんだけど、なにを考えているのが分からないところが不気味だ。
「だってカインさん。この人、ヘボすぎて逆に面白いんですよ」
 エーベルは店主が持ってきた緑茶を美味そうに啜りながら、こちらをニヤニヤしながら見つめる。
「きみが、いつ泣き出すかと思ってね」
 むきい。
 明らかに年下の男にバカにされている。しかも今、道場の中にいるのは三人だけだ。わたしは男前二人に蔑まれて無条件に歓べるほど、マゾの気はない。
「鬼か悪魔か……って、感じがするわ」
 なるべく泣かないように目を見開いて、勝負師に言ってやった。
「だって魔族だもん」
 即答で返された。
「ばかやろう」
 エーベルは俯いて捨て台詞を吐くわたしを、くすくす笑う。こいつ、ホントに楽しんでるだろ。負けても絶対に、涙なんかこぼしてやるものか。
「どうせ魔法を使って、対局相手に意地悪してるくせに」
「きみには魔術を使う必要もありません」
「くっ……」
 思わず、左手の指が震えた。……つうかさ。今、どっちの番だっけ? 
 勝負師は戸惑ったわたしの心を見透かすように鼻息で笑った。
「きみの番ですよ」
「ありがと」
 教えてくれたんだから、一応は、礼を言っとかないとね。
 わたしは散々考えて、盤上の歩を一個前に動かした。歩兵の駒は好きなんだよね。一個ずつ前にしか進めないけれども、いったん敵陣に入ったら「金将」の働きをする。相手|玉《ぎょく》を詰めるにも大きな役割を果たす。
 しかしエーベルとの対局では、こちらの|歩《ふ》の駒は全部剥がされてしまいそうだ。あと三枚しかない。
 うう、好きなのにー。 
「……いいんですか? それで」
 勝負師は悪戯っぽく、上目遣いでわたしを見遣る。そんな風に言われても、他に知恵が浮かばない。
「行っちゃいますよ?」
 彼は舐めた口調で、すっと指を動かした。さっきわたしから剥がした角が、盤上に置かれる。
「あっ!」
 歩の駒を動かしたので、がら空きになったところ。相手の角が真っ直ぐにこちらの王を刺している。
 思わず大声を出したわたしに、エーベルは憎たらしいほど爽やかな口調で言い放つ。
「だから確かめたでしょ」
 くすくす笑う声がする。対局相手だけならともかく、向こう側で観戦している店主の笑い声まで混じっているじゃないか。
「ひどい」
「いやあ、見事な負けっぷりだ」
「ふん、なにさ」
 いかにもご満悦、と言った感じの勝負師に思わず席を立った。さっきまで「将棋は礼に始まり、礼に終わる」と思ってたのに、もうそんな余裕はないみたい。
「勝負師、って言うからには、こっちがお金を払えばいいんでしょ! ば、バカにするのもいい加減にしてよっ」
「まあまあ、落ち着いて」
「これが落ち着いてなんかいられるもんですか! さっさと欲しい金額を言いなさいよ! 三万円までなら払うから!」
 エーベルは目を細めた。
「わたしはお金を巻き上げる人と、そうしない人と峻別して対局しています」
 峻別、だとう?
 ……そういえば。爺ちゃんたちの中でも対局後にお金を払った人と、そうじゃない人がいるらしい。
「その線引きって、なんなのよ」
「質問させてください。きみが将棋をしようと思ったキッカケは、なんですか?」
「どっ、どうだっていいじゃん」
 彼はこちらをじっと見つめる。
「どうだっていい、そんな理由じゃないはずですけど」
 声を落としたエーベルの言葉に、泣きそうになった。
「この盤上は、ひとたび向かい合えば、どんな人の心でも不思議と伝わってきます。きみの気持ちもね」
 彼はわたしに座るように促す。仕方がないから座った。ええ、座りますとも。
「逢いたい人がいるんでしょ。その人に逢いたいから、何度も道場に来てるんでしょ。上達しないのに」
「うるさいな、もう」
「心の底から逢いたいくせに」
 なんなんだよコイツは。こういう時だけ、目に慈愛なんかたたえてる顔しちゃって。
 そう思いながら、わたしは鼻の頭が真っ赤になっているのが分かる。もう我慢できない……そう思ってまばたきをすると、涙がぽろっと落ちた。
「例え雲の上の人でも、きみが逢いたいと思う人と。少しでも強くなって逢いたいんでしょ。わたしは、そういう情緒に弱いんですよ。だから今回は、無料です」
 今回?
 魔族で勝負師のくせに、変な情けなんか要らないよ。そう思ったわたしに、彼はにこにこ笑っている。
「応援してあげましょうか?」
「な、なにを」
「いいから、来週の日曜の夜七時、ここに来てくださいよ」
 わたしは黙って盤の横にある、すっかり冷えた緑茶を飲んだ。

 さて当日の夜七時。

 わたしはなぜか勝負師と平手の勝負をしている。平手、というのは互いに駒を全部並べて対局する方法だ。
「どうしてこうなるの?」
 エーベルは歩の駒を打ちながら、ぼやくわたしを見上げた。
「強くしてあげますから。そしたらアマチュアの全国トーナメントで、また彼に会えますよ」
「もう諦めた、って言ったら?」
 彼はニヤリと笑った。
「毎週一局、一万円いただきます」
「ええっ?」

 進むべきか、退くべきか。
 ……なんだかんだ言って、わたしはこの男にも興味が出てきたのかもしれない。



。。。

同じものを「小説家になろう」にも掲載しています。

もしも私が、コイツらwと将棋をしたら……がテーマです。

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