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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……56

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56、告解・1

 星が煌々とまたたく空の下。
 消えかけた焚き火の前、カインはエレーナと座っていた。二人は寄り添い、一枚の毛布を肩から掛け合っている。
「寒くありませんか」
「……大丈夫です」
 彼は返事を聞き、そっと女王の肩に腕を回す。エレーナが、しんみりとため息をついた。カインは思う。夜明けと同時にルーンケルンは、あらたな動乱に巻きこまれていくに違いない。
 もちろん首謀者はレフティだ。彼はレフティの変節に思いを馳せた。あの男は自分と性格は違っても、主君への忠誠心の厚い男であったはずだ、と。
 それがあればこそ、二人の表立っての諍いは無かったのだ。
「やはり、西の呪術師の差し金か」
 カインは隣で寝息をたてはじめたエレーナを、起こさぬように立ち上がる。そして、静かに伸びをした。
 彼はエレーナの戴冠式の日を思い出す。国を追放された呪術師が、満を持して彼女を襲撃に来た日。呪術師たちは思い知ったはずだ。その日に女王を絶命させることは不可能だと。
 いったんはあきらめた彼らが、宮中の人間に呪術の狙いを定めても不思議はない。そうすれば女王を簡単に篭絡できる。
 本来ならばエレーナの命は、そこで尽きているのが天命だったのだ。カインは思う。それを止めたのはわたしであり、エーベルだと。
 魔族には、遥か昔から定められていた禁忌があった。未来を予測し、都合よく改変することだ。誰よりも力を誇り、思うがままに力を奮う己に課せられた唯一の枷である。
 運命を破綻させ歴史を変えた者には、それなりの禍が降りかかる。カインはもはや、それに怯えてはいなかった。
 しかし彼は改めて、他者を守る術を持たないことを悔やむ。
 明らかにレフティが危険だということは、自分もエーベルも予期していた。彼に宛てる、わずかな力を使うことを躊躇したのは明らかに自分の|咎《とが》だ。
 歩き出したカインはこめかみを押さえ、崖の下を見下ろす。この場所からは、ルーンケルンの国土の様子が四方まで見渡せた。海の向こうから、かすかに陽の光が見える時刻が近づいている。
 心なしか、夜風に血の匂いが漂ってくるような気がした。
 もうすぐ太陽が緑の大地を照らすのに、この地の下で繰り広げられるのは殺戮なのか。彼は疼き出す胸を押さえる。近いうちレフティは、この場所さえも突き止めてくる。その前に、最善の手を打たなければならない。
 カインが振り返った時だ。エレーナの大きな黒い瞳が、まっすぐに彼を見ていた。こちらが口を開く前に、女王が唇を震わせる。
「夢を見ていました」
「……夢?」
 彼女はカインを凝視し、一気に言った。
「もしかしたら、わたしはずっと昔に、レフティの妹だったのではないですか? そして、あなたが戦士に背中を切り裂かれた時に、わたしはあなたの胸元にいませんでしたか?」
 カインは深く目を閉じ、開けた。
「仰る通りです」
 エレーナは声を詰まらせた。
「わたしたちの過去に関する文献がないかどうか、ずっと探していたのです。でも見つからなかった。なぜ、こんな風に争い合わなければならないのか。なぜ、お父さまが必死で築いてきた国が、こんな風になってしまったのか。過去の歴史からも学びたいと思っていたのです。でも、探し方も悪かったのかもしれませんが……一冊も見つからなかった」
 女王のひたむきな視線を受け、彼は無言で彼女の目の前に膝をつく。エレーナは言葉をつないだ。
「あなたは、すべて知っているのでしょう? 『わたしたちの始まり』を」
 カインは鳶色の瞳を伏せる。夜明け前の静寂に、彼の声がひっそりと響いた。
「エレーナさま、あなたの夢の通りです。嘘偽りはありません」
 彼は|訥々《とつとつ》と語りだす。
「わたしは欲望のままに転生してきた魔族の頂点にいました。何度、生まれ変わっても欲望が満たされることはなかった。自分の力を持ってしても尚、この人間界は面白かった。どんなに絶やしたように見えても、次から次へと人が営み暮らしていく生活は、わたしにはいつしか驚異にも感じられた……」

 今よりも、ずっと世界が混沌としている時。わたしはある貧しい村を襲ったのです。その時も手下と共に村を焼き討ちにし、人々の大事にしているものを奪い、陵辱の限りを尽くしていました。
 その夜、わたしやエーベルから逃れていた年端も行かない子供がいました。それがレフティでした。
 彼は胸に女の赤子を抱えていました。わたしもエーベルも後を追い、彼の肩を斬りつけて赤子を奪ったのです。
 わたしが地べたに放り出された赤子を拾い上げました。
 その時、不思議なことがありました。それまで激しく泣いていた赤子は泣き止み、わたしの顔を見て無邪気に笑ったのです。
 その赤子は……なんの縁もゆかりのない、しかも魔王に対して笑いかけ、自ら腕を伸ばしてくれたのです。
 わたしは違う人生を生きてみたかったように思います。魔王として生きることに飽き飽きしていたようにも思います。
 他者を傷つけ殺め、奪い続ける果てに、なにがあるのだろうと。ふと心をよぎる気持ちは、しかし日々の愉しみに流されていきました。
 なによりも力を誇示することが、わたしのすべてでした。支配できる土地を広げ、屈服させる存在を増やしていくことが、わたしの存在を証明できる唯一のものでした。
 レフティから奪い取った赤子は、まもなく亡くなりました。最期までわたしに抱かれることを選び、この首に腕を巻きつけて亡くなっていきました。
 その赤子は、あなたです。
 あなたは荒んだわたしに、まっすぐ笑いかけてくれた唯一の存在でした。
 それまで、わたしを見ると泣き叫ぶ赤子を引き裂いて食することが常だったのに、あなたは自ら笑いかけてくれたのです。泣くどころか、笑いかけてくれたのです。揺らいでいた心に、なにかをほんの少しだけ、芽生えさせてくれたのがあなただったのです。
 けれど、赤子はまるで風のように、わたしの前を去って行きました。 
 赤子を埋葬するときに、わたしは術をかけました。
「次に生まれてくる時は、どうか天命を全うできるように。どんな災いにも負けない、強い子になるように」と。
 しかし次も、その次も、わたしは魔王として転生しました。あなたがくれた灯りが消し飛んでいたことも、わたしはすっかり忘れておりました。あなたを奪われた子供が転生し、戦士としてわたしに挑んでくることも、面白くてなりませんでした。ただ、愉快でした。
 彼を何度も討ち取り、わたしはますます強くなって行きました。東の国をすべて手中に収め、ルーンケルンの国王を陥れ、首を撥ねた時は「これで全世界が、わたしの物になる」と思ったのです。

 夜が明けはじめていた。エレーナは目を伏せたカインを、じっと見ている。彼は額を地につけた。

「わたしがデメテール陛下の曽祖父さまの首を撥ねました。いよいよ、曾祖母さまと隣にいた赤子を根絶やしにすれば、この国土はわたしの物になる。そう思い、赤子の顔を見た時でした。過去に笑いかけてくれた赤子、わたしが『次に生まれてくる時は、どんな災いもはね返す強い子になるように』と、なけなしの術をかけた子だと知ったのです」
「……あなたは、わたしにそんな風に祈っていたのですか」

 |額《ぬか》づくカインに、遠い日々が去来する。


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