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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……55

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55、たとえ、破滅の朝に見えても・2


 外にカインと女王を残し、小屋に入ったエーベルがつぶやく。
「できれば人の心の中を視たり、人の未来を変えることはしたくない……」
 彼は小さな吐息をつく。目の前には、毛布にくるまって静かに眠るフランがいた。彼女も疲れただろう、そう単純にエーベルは思う。
 考えてみればフランだけではなく、ルーンケルンの民も戸惑っていてもおかしくはない。暴走し続ける軍閥の人間たちの動きが今日限り、すっぱりと終わるはずがないのだ。
 ざわざわと草木が揺れる音が、小屋の粗末な窓から漏れ聞こえていた。エーベルは椅子に腰かけ、深く目を閉じる。
 その頃、レフティは自室に運ばれて寝かされていた。エレーナ女王の部屋で、突然に激しい頭痛に襲われて倒れたのだ。
 彼は固く目を閉じ脂汗を流しつつ、浅い眠りを漂っていた。それに、さきほどからずっと、ひとつの悪夢にうなされていた。人生の半分以上を振り回されている、あの夢だ。カインと転生のたびに、あいまみえることを宿命付けられた過去世の記憶、そのものの「悪夢」。
 レフティの遠い記憶が、無意識の中で目を覚ます。静かで穏やかだった生活が、魔王の率いる魔族の襲撃で破られてしまった夜だ。
 
 おぞましい光景が今まで見ていたどんな夢よりも、鮮明に広がっている。
 彼自身は悪夢の中をふわふわとさまよいながら、あらゆる光景をつぶさに眺めていた。

 叫び声と悲鳴が止まない、燃えさかる村の中。まだ十代にもなっていない背の低い俺が、赤ん坊の妹を抱いて走っている。
 妹は恐怖と空腹で、激しく泣いていた。俺は詫びながら、妹の口を掌で押さえて走り続ける。駈けている最中に聞こえてくるのは村人の声だ。
「女は隠れろ! 早くしろ! う、うわあああああーっ!」
 ばすっ、という音と共に、村人の声が断末魔の叫びに変わる。すぐに野太く冷たい声が重なって聞こえてくる。
「無駄な抵抗をすれば、この男のように体を八つ裂きにしてやるぞ!」
 俺は振り向く。するとそこには馬に乗り、村人の首を振り回して放り投げるカインの姿が確かに見える。
「畜生!」
 叫んだ俺の目の前に、音を立てて一頭の馬が立ちはだかる。見上げれば、冷たい海のように青く目を光らせるエーベルがいる。
 妹を抱いたまま伏せる俺の目の前、カインは不気味に笑みをこぼす。そして鎧姿の魔族たちに命ずるのだ。
「こいつの親を引きずり出せよ。目の前で首を撥ねてやれ。面白い見世物だ」
「やめろ!」
 願いはむなしく、両親はゴミのように殺される。無力な俺は恐怖におののきながら、見ているだけしかできない。彼らはさも楽しそうに家に火を付け、俺に言い放つ。
「けっ! なんにもない貧乏な家に住みやがって。ガキだけは、いっちょまえに二人も作ったんだな」
「おっ、こっちに若い女が隠れてやがる。溜まってるところに、いい餌だ」
「おまえら、こっちだ! こっちの方に若い女がいるぞ!」
 カインとエーベルが気を取られたように、手下の呼ぶ方向に行く。俺は妹を抱いて走り出す。しかし子供の足と馬の速さでは、とてもではないが比べ物にならない。
 やがてカインが俺の目の前に立っている。カインは不敵な笑みをたたえ、俺に言う。あいつの鳶色の眼が光る。
「その女の赤子をよこせ」
「お、女じゃない! 違う!」
 俺は何度も叫び続ける。しかし、後ろから右肩を深く剣で斬られていた。前に倒れる時、勢いで妹が地べたに転がって行く。投げ出されたショックで、赤ん坊が火のついたように泣き出した。
 激痛に耐え、首だけ後ろを振り向く。そこには剣を持ったエーベルが、愉快そうに微笑んでいる。
「なんなら腕ごと切り落としてやろうか? 子供だからと言って容赦はしない」
「男なら殺しておいたほうがいいかもな」
 カインは転がった妹を抱き上げ、目を細めた。

 ――なぜか、カインに抱き上げられた時、妹は泣き止んだんだ。……なぜだ?

「か、返せ。返してくれ! たった一人の妹なんだ!」
「うるせえガキだな」
 エーベルが俺を蹴飛ばす。カインが愉快そうに口元を緩める。その顔を見て、妹は愉しそうにはしゃぐ。

 夢を見ているレフティは、歯を食いしばる。
 なぜ? なぜおまえは、カインに抱き上げられて笑うんだよ……? そいつは魔王なんだぞ! この世でおまえの親を殺し、俺を斬りつけて嘲笑う魔王なんだぞ!

 ――レフティが叫んだ時、急に見ていた景色が暗くなった。眠りから目覚めようとする彼を、ふたたび記憶の風景が引きずり込んでいく。まるで、底のない沼に足を取られていくように。
 彼は、はじめて見る光景を凝視した。

 首が座るようになった妹が、はいはいをしながらカインにまとわりついている。
 レフティは夢を見ながら叫んでいた。
「なぜだ! なぜ、そいつに懐く!」
 魔王は幾分困った顔をして、妹を抱き上げる。エーベルが不思議そうな顔をして、カインを眺めているのがわかる。
「へっ、カインがパパかよ」
「わたしにも訳がわからぬ」
 レフティは絶望的な気持ちになってくる。どんなに叫んでも、あの場所に俺の声は届くことはないのだ。
 しかし、彼の心に疑念が湧いた。
 ――なぜ俺はこんな光景を観ている? これもカインの術なのか?
 うなされるレフティの額に脂汗が流れ落ちる。
 深く沈んだ意識の底では、言い訳をするようなカインと、無垢な笑みを絶やさず、きゃっきゃっと腕を彼の首に回す妹がいる。
 エーベルの声が聞こえる。
「あと十年も経ったら、おまえの嫁にすればいい。いや、この子なら……。十年も経たないうちに足を広げるかもしれないな」
「ば、馬鹿なことを言うな!」
「情でも移ったってのか、今までなら女の赤子は食ってたのに」
 カインが眉をしかめて、赤子のはだけた胸の上着を直す。レフティは愕然とした。
 いつから胸に大きなホクロができていた? しかも左の乳房の下だ。エレーナと同じ箇所?

 もしかしたら、俺の妹は?
 あの時から、カインだけでなくエレーナ女王とも運命の輪がつながっていたとでも言うのか?

「情が移るだなんて下等動物みたいなことが、ありえるはずがない」
 カインが仕方なく妹の頭を撫でている光景は、暗転して行く。レフティはふたたび、暗い無意識の海をさまよった。
 次に見た光景では、妹は死んでいた。カインに抱かれていた真っ赤な顔をしていた赤ん坊が、みるみるうちに真っ白い亡骸になっていく。
 レフティは妹に手を伸ばした。やはり、あの時に転んでも手を放すべきではなかったのだ。妹を殺したのはカイン、やはりおまえしかいない。
 彼が悔しさで唇を切れるほど噛んでいた時、カインの痛恨の情のこもった声が頭に響いた。
「ありがとう……」
 なにが「ありがとう」なんだよ! レフティは叫ぶ。何千年も前の記憶の風景なのは知っている、この声も聞こえないのは理解している。しかし、憤る感情を、怒鳴る以外に表せる方法がない。
 カインとエーベルが整列した鎧を着た男の集団の前、花を手向けて妹を地に埋める。上から眺めるだけの存在のレフティには、空々しい光景だった。
「次に生まれて来る時には、どんな災厄も降りかからず……天命を全うする人生になるがいい」
 魔王の言葉にエーベルが問いかける。
「どんな災厄も?」
「そう。たとえ、わたしと会ったとしても。どんな災厄もはね返す、強い子に」

 うなされるレフティの額の汗は止まらない。あいつの言うことは偽善だ。たまたま、赤ん坊の存在で善性が開いたとしても。
 罪なき人を殺め続けた罪を償え。魂の痛みを償え。俺が地獄に引導を渡してやる。貴様がいつから「善人になりたい」などと、寝言を言うようになったのかは知らぬ。カイン、貴様は俺の親だけでなく、妹までも殺したんだ。おまえのせいで、妹、いやエレーナも。
 忘れるな……!

 叫んだ瞬間、彼に見える景色が暗転する。暗闇の中、町の人間の声だけが響いては消えて行く。どうやら暴動を治めていた先々で、自分たち軍人が民からかけられた言葉らしい。
「あなたがたが国を治める立場になってくれたらいいのに」
 同じ人間が小さくつぶやく声がする。
「……乱暴者を取り押さえてくれるのはありがたいんだけどさ、あんたがた。あいつらよりも家を荒らしてくれたよね」
 レフティは眉を吊り上げた。
 俺たち軍人がいなかったら、おまえらの生活は根こそぎボロボロだったくせに! 内心で叫ぶが、次々と集まる声は、彼らの本音と建前を見せつけていく。
「そうしたら、こんな乱暴な人たちに迷惑をかけられることもなかったのに」
「……こう言っておいたら、こいつら満足なんだろう」
「そうよね。貴族の人たちは、なにもしてくれないもの」
「……あんたがたも暴力以外は取柄がないけどね」
 ――黙れ!
 激しい怒りと共に、レフティは汗びっしょりになって飛び起きた。周りには、自分と同じようにギラギラした眼の部下が大勢いる。彼らは指揮官が目覚めるのを待っていたのだ。
 彼の目覚めに、部下たちが集まってくる。レフティは片手を上げて口を開いた。
「もう大丈夫だ。今から町に降りよう」
「町に、ですか?」
 彼は部下の問いに凄惨な笑みを浮かべる。
「どうやら俺たちの存在を、おもしろくないと思っている存在があるらしい。こうなったら、とことん国家を制圧してやる。カインとエレーナの居場所も手繰れるかもしれない」
「……でも、どうやって?」
 レフティはベッドから降り、地図を開いた。皆、そこに集まってくる。
「まずは、文官たちから尋問するとしようか」
「……宮殿隣の教会は、どうなさいますか? あそこに多くの文官が集まっておりますが」
 部下は告げた。教会は既に軍人以外の避難先になっている、と。
「好都合だな、手間が省けていい」
 彼は唇をゆがめ、決意した。今まで自分を軽んじた人間すべてに、思い知らせてやる。

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