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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……53

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53……心のかたち・4

 カインにきつく抱きしめられたエレーナは、悲鳴を上げて抵抗する。女王は激しく腕を動かし、彼の身から離れようと暴れた。
 カインはかまわず、彼女の体をぴったりと抱きしめる。
「静かに」
 ばたばたと暴れるエレーナの耳元で言い、目を閉じる。同時に、レフティが部屋の扉を壊して入ってくる気配がした。

 カインは女王を抱き、小屋の床に転がっていた。どすん、という音に、ほどなくしてエーベルとフランがあわただしく扉を開ける。
 エーベルがカインに駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
 その声に女王が固く目を閉じたままで、大きく悲鳴を上げる。カインは彼女を抱きしめていた腕をほどき、背中をさすった。
「落ち着いてください、ここには、軍人はいないから……!」
 エレーナは「いやああああ!」と大きく叫び、彼の身を突き飛ばして離れた。そして床を這い、彼から逃れようとする。
 戸口にいたフランは、女王の姿を見て絶句した。叫び続ける彼女の頬が、真っ赤に腫れ上がっている。唇の端も切れていた。つやつやした髪もばさばさに乱れ、とてもではないが「女王」の姿ではない。
「一体、誰が……エレーナさまを!」
 口走ったフランはたまらず、女王に駆け寄り|跪《ひざまず》く。
「エレーナさま、落ち着いてください。ここには、あなたを傷つける者は誰もいません」
 泣きすぎて真っ赤な目をしたエレーナが、顔を上げた。彼女はフランの顔をじっと見、それから激しく泣き出した。
 フランは黙って女王の両肩に手を添えて頷き、彼女に向かってなだめるように繰り返す。
「安心して、いいんですよ」
 カインがフランの肩をつつき、毛布を差し出す。フランは彼に小さく礼を返し、それを女王の体にかけた。
 少しして彼女は気づく。小屋の中には、自分と女王の二人きりだということに。やがて、エレーナが俯いたまま何度か、しゃくりあげている。
「ほ、ほんとに」
 フランは女王の言葉に耳をすませた。
「本当に、安心してもいいの?」
「もちろんじゃないですか」
 彼女は泣きやみかけたエレーナに、温かく言葉を返す。女王はくすんと鼻を鳴らし、あらためて両手で毛布をかぶりなおした。
 エレーナは二度ほど大きく深呼吸をして、フランを見上げる。
「ねえ。どうしてこうなったのか、あなたにわかる?」
 問われた彼女は、困ってしまった。フラン自身、よくわかっていないことが多すぎる。なので、率直に言った。
「わたしにも、わからないことが多すぎるのは事実です。だけど、もしかしたら……。わたしたちの知らない真実は、どこか違うところにあるのかもしれません」
 エレーナは深いため息をついた。リネン係の言う通りなのかもしれない。あまりにも急に、現実のなにもかもが変わりすぎる。
「どうしてこうなったんだろう、って思うの」
 女王のぽつんと漏らした言葉に、フランも唇を少し尖らせた。
「本当に、わからないんです。エーベルは『避けられなかったこと』だって、言うのですけども……」
「そう」
 ふたたびエレーナが俯き、腫れた頬の半分を毛布の中に埋めた。
 フランは立ち上がり、小屋の中を見渡してみる。女王の頬を冷やすために、水がほしかった。この狭い建物の中には水瓶はなさそうだ。
「少しだけ、お待ちくださいね」
 エレーナに声をかけて扉を開けると、焚き火のそばに立っていたカインが振り向く。
「どうした?」
「なんとか少し、落ち着いたみたい。エレーナさまの頬っぺたを冷やしてあげたいのよ。スープを作ってくれた時に、使ったお水がほしいんだけど。どこにあるの?」
「小屋の裏側だけど、下手したら崖の下に落ちるよ」
 彼女はカインを凝視し、鼻から大きく息を吸った。こんな夜に崖下に落ちるなんて、真っ平御免だ。
「じゃあどうするのよ。可哀想じゃない」
 彼が思い出したように、フランの顔をまじまじと見つめた。
「一緒に来てくれるかい?」
「いいわよ」
 カインは返事を聞くが早いか、小屋の中に入って行った。
「ちょっと、カイン!」
 フランがあわてて彼の後を追う。カインの背中越し、開いた扉の向こう側に女王が毛布にくるまっているのが見える。
 エレーナ女王は彼を大きく目を開いて見つめ、かすかに首を振っていた。カインの頭の中には、女王のあらゆる感情が流れ込んできている。 
 ――レフティが言っていた。カインこそが、ルーンケルンの災厄そのものだと。彼を討たなければ、わたしにもルーンケルンにも平安は訪れないのだと。
 ――でも、わたしはレフティに何度も頬を打たれた。
 女王の脳裏にはレフティが眉を吊り上げ目を剥き出しにして、その手をこちらの頬に打ちつける情景が何度も浮かぶ。そのたびに倒れそうなくらいの痛みが、頬から全身に響いていた。
 フランは泣き出しそうな表情になったエレーナを見て焦った。なにもできなくてもいい、彼女の近くに行きたい。しかし、カインの背中が邪魔をする。
 彼の声が静かに響いた。
「今、エレーナさまがなにを考えていらっしゃるか。当ててみましょうか」
 彼女が頷く間もなく、カインは続ける。
「レフティに頬を殴られましたよね? 彼は『王位を渡せ』と言ったのでしょう?」
 フランが絶句して彼の背中とエレーナを見比べた。エレーナはカインの顔を凝視したまま、涙をぽろぽろとこぼし始める。
 彼は女王の前に歩み寄り、両膝をついた。そして、彼女に向かい、両手を差し伸べる。
「あなたの心の傷は癒せないかもしれない、でも。その頬の痛みは取って差し上げましょう」
 カインは呆然としているエレーナの返事を聞かず、両方の掌で彼女の頬を包んだ。後ろから眺めているフランは、思わずため息をつく。
「動かないで……」
 低く言った彼の掌から、橙色の蝋燭の灯りにも似た光が漏れる。エレーナの表情が、ほんの少しだけ明るさを帯びてきていた。
 ぼうっとした淡い光が、カインの掌から放たれ続ける。やがて彼はエレーナの頬から、ためらいつつ両手を外す。フランは目を丸くして女王の顔を凝視した。カインをはさみ、彼女とエレーナの視線がぶつかった。
 エレーナ女王は、こちらの反応を待っているのだ。そう直感したフランは、腰が抜けそうになりながらも何度も頷いて見せた。
「あ。……す、すごい。は、腫れていたのが。ぜ、全部、きれいに治っていらっしゃいますよ」
 フランは言い終わってから、本当に尻餅をつきそうになった。その背中を、エーベルが支えてくれている。
 エレーナの頬の腫れはもちろんのこと、泣きはらしていた目元の赤みもすっかり取れていた。女王は黒い瞳は大きく見開き、無言で片手を頬に触れさせる。
 女王はかすかに目線を落とし、小さく息を吸った。そして、カインをまっすぐに見つめて唇を震わせた。
「もう、痛くありません……」
 フランは床にぺたんと座り込み、カインとエーベルをきょろきょろと見比べていた。カインが膝をついた姿勢で、フランを肩ごしに見つめる。
「鏡、持ってる?」
 問われた彼女は立ち上がり、首を細かく横に振った。フランの後ろにいる、エーベルもかぶりを振っている。カインはふたたび、鳶色の目を穏やかにエレーナへと向けた。
「お部屋に入り込んだ無礼を、お許しください」
 彼をじっと見つめるエレーナ女王の瞳に、ふたたび大粒の涙が溢れ出る。



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