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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……52

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52、心のかたち・3

 さきほどからカインは小屋の中にいた。粗末な扉の向こうでは、エーベルとフランが焚き火に当たっている。少し前まで、彼はフランに「自分が魔王である証拠の一端」を見せようかと思っていたのだ。
 宮殿から去る時に、急いでまとめた荷物が入っている包みを見る。すると、水晶玉が収まっている辺りから、かすかに白い光が放たれていた。
「予言?」
 気づいたカインが水晶玉を取り出した直後、思わず彼は手の中から目を背けた。掌の中の水晶玉いっぱいに、裸のエレーナが映し出されている。
 彼女は私室の床に転がされているように見えた。そして、屈強な男の胸板に組み敷かれつつ、激しく抵抗しながら泣いていた。周りには、同じように何も身に着けていない男が幾人もいる。
 レフティはエレーナの腕を押さえつけていた。彼は愉悦の表情を浮かべ、女王の泣く顔を見下ろしている。
「やめてくれ……!」
 カインが呻く声は水晶玉の中の人間たちには聞こえていない。彼は自らを落ち着けるように、深く息を吸った。そして、なるべく言葉を整理する。
「これは、予知なのか。それとも、起こっていることなのか?」
 問いかけると玉の中の景色が歪み、少しずつエレーナの私室が見えてきた。彼女が机に向かい、なにか本を読んでいる姿が映りこむ。
 カインが胸をなで下ろしたのも束の間、女王は急に怯えるように顔を上げて両耳を塞ぐ。
 水晶玉は途端に景色を映すことを止め、光を失った。彼が焦って何度か呼びかけても、普段通りに向こうが透けて見える「単なる水晶玉」に変わったままだ。
 嫌な胸騒ぎがする。
 守ってやりたかった一番の災厄が、女王の私室の扉一枚を隔てたところにある。カインは心のざわつきを押さえ、立ち上がった。
 彼は小屋の中からあわただしく扉を開け、エーベルを呼んだ。
「これから宮殿に向かう。フランを、よろしく頼む」
 エーベルは「わかりました」と頭を下げた。フランは少しばかり離れたところ、焚き火の前に座ったままで二人の遣り取りをじっと見ている。
 カインは彼女に手を上げた。
「きみはエーベルの言う通りにしておいてくれよ? 無謀なことはしないように」
 フランは彼のただならぬ様子に、顔をこわばらせたままで微動だにしない。時間がなかった。カインは目の前のエーベルを見据える。
「頼む」
 フランがまばたきをする間に、カインの姿は消えていた。彼女は絶句し、何度も目をしばたたかせる。が、何度まばたきをしても、彼の姿が見えてくることはなかった。
 焦った様子で立ち上がったフランは、こちらに来るエーベルに向かって大きく目を見開き、唇をぱくぱくさせた。
「ねえ、エーベルは行かなくていいの? エレーナさまが危ないんでしょう? だからカインは宮殿に行ったんでしょう? わたし、二人の邪魔になっているんじゃないの?」
 彼女の心臓の鼓動が早くなる。額から、冷たい汗が浮かんできていた。
 エーベルはフランの心に添うよう、静かに答える。
「カインさまがわたしを必要とされる時は、必ずわかる。きみは心配しなくていい」
「でも……!」
 ふたたび泣き出しそうになった彼女に、エーベルは続けた。
「落ち着いてくれよ、フラン。頼む」
 彼は無理に笑顔を作ってみたものの、フランの胸中はたやすく想像できた。
 なんの前触れもなく突然に、生きてきた世界が変わってしまったのだ。しかも長く同じ宮中で働いてきた同僚が、急に「魔王」と呼ばれて軍属から命を狙われている。それに、女王が皆の前で軍人から頬を打たれ「災いの元」と罵られたというではないか。
 自分とカインならば予測もついたことが、気の善い彼女には思いもよらないことだっただろう。ここまで来るだけでも大変な思いがあったはずだ。
 来れば来たで、探していた男二人から、教会長やレフティの言っていた通りの「憎むべき」存在であると告白される。平静でいられるわけがない。頭の中が混乱してしまっても、なんら不思議はないのだ。
 カインと自分が話したことを、すぐに信じろという方が無理だろう。エーベルは息をつき、フランをふたたび座らせた。
「わたしたち、ここにいてもいいの?」
 彼女はこちらを、心配そうに見上げる。フランの心の揺れが伝わってきた。エーベルは彼女を落ち着けるために、言葉を探した。
「少なくともフランは、ここにいていいんだ」
「どうして?」
 彼は思わず頬を緩めた。
「宮中は危険だ。そういえば……きみもエレーナさまを小さい頃から、ずっとお世話してきた立場だったよね」
「そうよ? デメテール陛下に召し抱えられてから、ずっと。わたしの生活のすべては、あの大きな宮殿の中にあったんだもの。心配して当たり前じゃない」
 エーベルは正面を向き、静かに頷く。焚き火の火が揺らいだ。
「当たり前、だよね。そう、確かに言う通りだ」
 彼はフランに詫びる時間がほしかった。
 彼女がレフティを想う気持ちがあれば、クーデターなど起こさなくて済んだ術をかけていたからだ。その術が効力を失ったのは、自分自身の能力の限界のせいだという後悔があった。
「……さっきも言ったけれども、我々は人を守るための術はほとんどないし、そのための未来も予見できない。でも、わたしはきみに『レフティが変わらないでいる』祈りをかけた。限界だったんだ」
「それって、あんなふうにならないってこと? 怖かったよ、ほんとに狂っちゃったみたいに」
「そう」
 彼はあえて「きみがレフティから心を離さなければ、その術は効いている」ことは黙った。その代わり静かに両手を火にかざし、それから掌を自分に向けた。
 骨ばった指の長い掌は、転生のたびに人を殺めてきたものだ。カインと共に、渇いた欲望と共に。
 膝を抱えたフランは黙ったまま、目の前の火だけを見つめている。時折ぱちぱちと音がして、乾いた木が炎の中で折れていく。
 彼女が正面を向いたまま、わずかな沈黙を破った。
「……そういえば、さっき『善人になりたい』って言ってたね」
 エーベルも炎を眺めたまま、言った。
「言ったよ」
 フランが首を横に振り、静かに両手で顔を覆う。

 カインは目を開ける。そこはエレーナの私室の中だ。扉を叩く音が、乱暴に鳴り響く。目の前には机に向かっている女王がいた。彼女は体を震わせながら、固く目を閉じて両手で耳を塞いでいる。
 彼は扉に目線を走らせた。レフティが集団の中にいるのは知っている。
 聴力の優れたカインの耳に、扉を叩く軍人を止めたレフティの声が届いた。
「どんな手段を使ってもいい、孕ませろ」
 ぞっとするほど低く冷たい声に、扉の向こう側にいる何人かが同意する様子が伝わってくる。レフティは中庭でエレーナをとらえた後、何度か彼女の頬を打っていた。宮中の人間、全員の目の前で。そして拘置所の中に放り込む予定だった暴動に携わった者たちを、中庭に並べて一人残らず処刑していた。
 人は興奮状態が治まらない状態であれば、どんどん振舞いがエスカレートしていくのは常だ。もしもフランがエレーナの呼びかけに応じて立ち止まっていたら、彼女も一緒に首を撥ねられていただろう。……ほんの一瞬でカインの脳裏には、それらの情景が生々しく浮かんでいた。
 思わず顔を歪めたカインに、レフティの声が聴こえる。
「俺たちのうち誰かの子を孕めば、誰も邪魔をする者はいなくなる」
 急がなければ。カインはエレーナ女王の肩に手をかけた。びくっ! と、大きく身を震わせた彼女は、おそるおそる彼を見上げる。
「あっ……!」
 カインは人差し指を立て、唇の前に持って行った。
「声は立てないで」
 エレーナ女王がこちらを、すっかり怯えきった眼差しで見ている。その頬は真っ赤に腫れ上がり、瞼にも激しく泣いた跡があった。今朝から自室にこうして座るまでの間、どれだけ心に深い傷を負ったのだろう。
「あなたを守りに来ました」
 それだけ言うのが精一杯だ。言った瞬間、カインは傷ついた目をしているエレーナを、がむしゃらに抱きしめていた。


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