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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……51

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51、心のかたち・2

「このままでは……レフティさまが、レフティさまが取り返しのつかないことをしてしまう!」
 教会長は泣きじゃくるフランの側に寄り添った。そして、彼女の肩にそっと手を添える。
「フランさん。もう泣かないで」
「でも……」
「宮中の様子は理解しました。カインさまからも、注意するように伺っております」
「カインが?」
 フランは顔を上げた。教会長は一瞬、天井を仰いだ。それから、ゆっくりと彼女に視線を戻す。
「まさか仰っていたことが、こんなに早く現れるなどとは思ってもみませんでしたよ。でも、安心してください。わたくしどもの教会には、宮中の軍閥は一人も入れさせないようにいたしますからね」
「カインは、一体なんと言っていたのですか? それに、今どこにいるの?」
 教会長は立ち上がり、フランに椅子に座るように勧めた。彼女は涙を拭き、教会長の対面になるように腰かける。
「おそらくレフティさまたちは、わたしの母の住居までは探していない。カインさまとエーベルさまは、そこにおられます」
 彼女は目を丸くして教会長を見つめた。上手く言葉が出てこない。
「教会長さまの御実家……?」
「ええ、軍閥の人間は基本的に魔術を嫌う。普通の人間には到底、考えが及ばないような山奥なんですよ。あの人たちには教えておりませんしね。それで、わたしがカインさまに、そこに行ったらいいと申し上げたんです。まあ、実際のところ、母は既に亡くなっておりますが」
「どういうことですか?」
「ま、試しに行ってみますか? わたしがここに来る前、修行を積んでいた場所に」
 フランはしゃくりあげながら、教会長に向かって頷いた。

 なんでもいい、とにかくカインに会わなければ。レフティが勘付く前に。フランは足元に絡みつく蔓つるを振り払いながら、けもの道を前へと進む。
 彼女は一枚の地図を握りしめている。宮殿よりも更に高台にある場所を、ひたすらに目指した。ようやく人が一人通れるほどの道に出たと思った矢先に、鬱蒼とした草だけが生える場所に出る。何度も繰り返した後、目線の上に自分の足幅ほどしかない平らな道を見つけた。
 必死でたどり着き、振り返って下を見る。気がつけば、自分の足元の下は断崖絶壁になっていた。フランは眩暈を起こし、思わず岩肌にぺったりと張り付いた。
「もっと上に修行の場所があるなんて、嘘でしょ……」
 フランは自分の身長ほどの岩肌を見上げる。こんなところをカインもエーベルも登ったのかと思うと、泣きたい気持ちになってくる。
「こんな所で修行なんかするなんて、正気の沙汰じゃないわよ」
 悪態をついてはみるが、少しでも体のバランスが崩れると絶壁の下に落ちてしまう。彼女は思わず上を見上げ、叫んだ。
「魔術師の、ばかやろー!」
 フランの声が木霊になって山の中に響く。
「こ、ここまで来たのに。帰るに帰れないよぅ……」
 べそをかきながら岩肌に張り付いたままの彼女の頭上「あれっ?」という男の声が聞こえた。
 人の声だ! そう思ったフランは、そちらをへっぴり腰で見上げた。すると。呆れたような、しかし、どことなく……うれしそうなエーベルの顔が見える。
「た、助けて」
「しょうがないなあ」
 彼はフランに手を伸ばした。
「お、重いよ。フラン」
「うるさい」
「助けてあげるんだから、文句言わないの」
 エーベルの素の姿が、いたずらっ子のような言葉の響きに染みてくる。フランは胸に詰まる泣きそうな気持ちを抑えながら、言葉を返す。
「早く上げてよ、落っこちちゃう」
「わかったわかった」
 彼女は急にエーベルの力以外にも、自分を引き上げてくれる存在がいることに気がついた。
 フランはつるつるした岩肌を踏みしめ、苦労しながら体を崖の上に移す。と、そこには出会った頃の幼さを残した微笑みをたたえるカインもいる。
「よかった……。ここまで来たのはいいけど、ここで死んじゃうのかと思ったのよ?」
 男二人は、泣きべそをかいた彼女がスカートを払うのを待つ。
「木霊が聞こえたから、来てみたんだよ。ともかく見てごらん」
 カインが身を斜めに動かし、フランの目の前の視界を開ける。
 そこにはバラックにも見える粗末な小屋と共に、空が広々とひろがっている景色があった。そよそよと夕暮れ近い空気が漂い、宮中の喧騒が嘘のように思えてくる。
 彼女は思わず息を飲んだ。
「ここは確かに、レフティさまも気がつかないはずだわ……」
 エーベルが、にんまりと頬を緩める。フランから見て、彼の笑みは、決して手放しで喜ぶようなものでもない。
 彼女は二人を、あらためて見上げた。
「あなたがたの言った通りのことが起こったの。それで、ここに来たのよ」
 カインは頬を引き締め、静かに告げる。
「きみの声が聞こえた時に直観した。きっと、そうなんだろうと。フランがここに来るのも、わかっていたよ」
 フランは彼の言葉を聞き終わる前に、眉を上げた。そして、カインとエーベルを交互に見遣る。
「わかっていた、って、どういうこと? やっぱり、レフティさまが言っていた通りなの? 本当に『魔王』なの?」
 男たちは彼女に向かい、寂しそうな笑みを浮かべた。
 フランは大きくため息をつき、立ったまま顔を覆う。彼女の心の中に、彼らと過ごしてきた宮中生活の日々が浮かんで消えていく。
「どうして黙っていたの……」
 彼女は嗚咽を漏らした。三人の姿を夕陽が照らしはじめている。カインが長い沈黙の後、もどかしそうに言葉を作った。
「『善人』になりたかったんだ。ただ、それだけだった」
「善人……?」
 フランの脳裏に、エレーナの笑顔が浮かぶ。彼女もまた、女王が幼い頃から宮中にいた人間だ。カインとエレーナの姿を思い出しても不思議ではない。
「もしかして、エレーナさまのために?」
「そう」
 遠い目をして頷くカインが別人に見える。フランは肩を落とし、俯いた。
「ずっと、あなたがたの味方のつもりだったのに」
 俯いたままの彼女の上から、エーベルの声がする。
「あのね、フラン」
「なに?」
 フランは顔を上げた。エーベルもカインも、なぜか泣きそうに見える。
 カインがなにかをこらえながら、ゆっくり唇を開いた。
「今度こそ『善人になりたい』と心から願う我々を、きみは信じられるかい? もしも打ち明けていたら、信じてくれたかい?」
 彼女は二人の男の顔を見比べ、瞼を閉じた。そして、心の底から自分の誠実さが彼らに届けばいいと念じつつ、カインをまっすぐに見た。
「難しいことはわからない。でもね、今は信じたい。前からカインのこと、知ってるから」
「……ありがとう」
 そよぐ風が冷たい。フランが気がつけば、空に星がまたたき始める時間になっていた。

 小屋の前、焚き火の周りに三人は座っている。
 フランがスープカップで両掌を温めながら、二人に尋ねた。
「これからどうするの?」
 カインは彼女の問いに少しだけ唇を尖らせ、考え込む。フランは彼の言葉を待った。
「レフティの出方次第で、我々も動きを変えるつもりでいる」
「そう」
 フランは力なく俯き、言った。
「少し前に、レフティさまは『夢で魔王にうなされる』と仰ってたことがあった。カインは魔王だって。その時、もっと真剣に聞いて差し上げていたら……あんなふうに、変わってしまわれなかったかもしれない。わたしが悪いの、きっと」
「それは違う」
 エーベルが首を振った。
「なにが違うの。少なくとも、あの人と近いところにいたんだもの」
「そういうことじゃないんだよ、フラン。我々は人を殺めたり、傷つけることには長けている。でも……人を守ることの能力は、ほとんどないんだ」
 彼女は瞼をぱちぱちさせながら、エーベルを眺めた。
「なんだか世間が一緒くたになって、こっちを騙しているような気がしてきたんだけど」
「どういうこと?」
 エーベルの瞳が炎を受け、澄んだ海のような色になる。彼は、その目でフランを見つめた。
「あ、ああ……。なんて言ったらいいのかしら。レフティさまが変わってしまったのは、あなたがたの『魔力』が足りなかったから、っていうことなの? 教会長さまも仰ってたけれども、本当にそうなの? 本当に善人になりたくて、転生してきたの? ごめんなさい、こんなこと言うなんて。さっき信じたいって言ったばかりなのに、どうしても実感が沸かないの」
 カインはなにも言わずに焚き火を離れ、小屋の中に入って行く。エーベルは彼の背中をちらりと見遣り、ふたたび彼女に視線を向けた。
「そうだよ。きみの思っている通りさ。子供の頃に誰かから教わらなかった? あの通りなんだよ。わたしも、カインさまも」
 フランが大きくため息をつく。今日一日、あったことを整理しようと思っても上手く行かない。なにが本当で、なにが嘘なのか。彼女の心に、軍人に頬を打たれたエレーナの姿が浮かんできた。きっと、エレーナさまも同じように混乱しているに違いない……。
「じゃあ、こんなことになったのは必然だったのかしら」
「たぶん。避けては通れなかった」
「……もしも本当に伝説の通りなら、レフティさまと、あなたがたが刺し違えるところなんか見たくないわ」
 彼は静かに笑った。
「カインさまは言ったよ、『運命なら変えてみせる』って」
 フランは膝を抱え、彼らが話してくれた言葉の一つ一つを思い返している。エーベルは彼女を軽く覗き込み、言葉をつなぐ。
「三人の負の連鎖が、終わる時が近づいている。その時に、我々はエレーナさまと、信じてくれたきみが生きていてくれたら、それでいい」
 彼女は胸を突かれ、涙をいっぱいに溜めた目でエーベルを見据えた。
「男って勝手ね」
 言いたいことは沢山あった。しかし、フランは陳腐な言葉しか出てこない自分を呪う。当の言われた本人は、愉快そうに大きな声を上げて笑った。
「あはは、ルーンケルンの再生に、エレーナさまは絶対に必要なんだよ」
「そういうことじゃないわよ」
「わかってるって」
 エーベルは真顔に戻り、フランに向かって力強く頷いた。
「わたしは危険を知らせに来てくれた、きみのために信義を尽くそう」



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