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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……50

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50、心のかたち・1


 フランは半ば取り乱しながら、魔術師に懇願した。
「お願い! どこに行くとか、なにも言ってなかった?」

 ――彼女は昨日の夕刻に交わした、カインとの会話を思い出していた。
 昨日は夕刻からの勤務だった。フランはバスケットを携え、洗濯室から出た途端にカインとエーベルに鉢合わせをしたのだ。
「久しぶりじゃない? そういえばエディット王室の式典に行ってたんだよね?」
 エーベルは気さくに話しかけるフランに、頬を緩めた。
「うん、まあね」
 カインも彼女を眺めて痩せた頬を撫で、ほっと息を継いだ。フランは二人を交互に眺めつつ、頬を上気させた。
「いいなあ。わたしも皇太子の婚礼に招かれる身分になってみたいな」
 いかにも素朴で裏のない彼女の言葉に、カインは心の重荷が軽くなるような気がする。それはエーベルも同じだった。男同士は顔を見合わせ、思わず笑顔を浮かべた。
「そんなに良い旅ではなかったんだけどね」
 カインの言葉に、フランが不思議そうな顔をする。
「そうなの? ……まあ、名代として行ってたら、想像もつかない気苦労もあるわね。よかったら、旅先の洗濯物を出して頂戴。すぐに洗ってあげるから。制服とか、汚れていると思うし」
 カインは彼女の申し出に、首を横に振った。
「汚れているんだけれどもね。今日から我々はしばらく……しばらく、ここにはいないから」
 二人を見上げているフランは、大きな目を更に丸くした。
「どうしたの? また、どこかに行くの?」
 エーベルが静かに手を振る。
「隠しようがないから、きみには言うよ」
「なあに?」
「さっき、エレーナさまから一切の任務を解任された。我々は、しばらく宮中には近寄らない」
 絶句するフランに、エーベルは独り言のように言葉を重ねた。
「しばらく……。うん、そう。しばらく、だ」
 カインは彼に同意するように頷く。が、フランだけが唇をぱくぱくさせながら、必死で頭の中を整理しようとしている。
「えっ? え? どういうこと? カインとエーベルが、なんですって?」
 カインは心を痛めながら、善き女友達に告げた。
「……宮中から出て行くようにと言われたんだよ、エレーナさまに」
「ど、どうして?」
 彼は青ざめるフランに、無理に明るく微笑んだ。
「色々とね。でも、そう遠くないうちに帰ってくると思うよ」
「ちょっ……ちょっと待って! それまで、どこにいるのよ?」
 彼女の動転ぶりに、カインたちは内心であわてた。まさかフランが、そんなに心配してくれるとは考えていなかったのだ。
「とりあえず隣の教会に泊めてもらう。それから先は、たぶん……」
 フランはカインを真剣な眼差しで見つめている。迂闊なことは言えない、と彼は思った。実際、行く宛ては決まっていないのだ。
「たぶん、ここからは離れた場所には行かないと思うよ」
「そうなの?」
「時が来れば、また戻ってくる」
 彼女の顔に、ほんの少しだけ安堵の色が広がった。ふと、エーベルがフランの顔を見て、なにかを思い出したように言いかける。
「どうしたの?」
「きみに頼みがあるんだよ」
 エーベルは頬を引きしめ、彼女に向き直った。
「頼み?」
「そう。わたしからの頼み」
 フランは素直に頷いた。
「近々、宮中になにかしらの災いが起こる。その時が来たら、身ひとつでいいから逃げてくれ。そして二度と宮殿には近寄らないことだ」
「どういうこと?」
 彼女は眉をひそめた。フラン自身も、この頃の宮中の雰囲気が変わったことに気がついている。しかし、エーベルの口から「なにかしらの災い」と言われるのには抵抗を感じた。
「深く問わなくても、すぐにわかることだよ」
 彼女は不安気な目をカインに向けた。彼もまた、厳しい顔つきでエーベルに同意しているように見える。フランは素朴に眉をひそめた。言葉にしようと息を吸った時、エーベルが口を挟む。
「フランには、助かってほしいんだ」
 ――助かる? 
 彼はフランがレフティから、惨殺される未来が視えていた。
 未来を変えてしまうことは、我が身に後から、変えただけの未来と同じ重みの禍根が降りかかってくることに通じる。……エーベルは潔く、禍根を身に受けることにする。
「巻きこまれてほしくない」
 真摯な彼の言葉が更に、彼女の心にたたみかける。フランは一瞬で決めた。
 ――この人たちが、嘘をつくはずがない。
「わかったわ。よくわからないけど、約束する」
 頷いた彼女に、カインは頭を下げた。
「申し訳ないね」
 フランはあわてて手を振った。
「いやだ、なに謝ってるのよ。カインらしくもない。エーベルもよ? それに、わたしたちって付き合いも長いじゃない、水臭いなあ。一生会えなくなる訳じゃないんでしょう?」
 わざとおどけてみせた同僚に、彼ら二人は心の中で詫びた。自分たちの力が足りないせいで、大事な人を傷つけてしまってばかりいる。善人とは一体、なんだろう。
 フランの寂しそうな視線を感じながら、カインたちは背中を向けたのだ。

 老いた魔術師は困ったように、フランをなだめる。
「もしかしたら、ですが。教会長は、カインさまがどこに行かれたか、ご存知かもしれません。昨日の夜、お話しされているのを見ましたから」
「本当ですか?」
 彼女の顔が、ぱっと明るくなった。
「確約は、できませんよ?」
「い、いいんです! 教会長さまに会わせてください!」
 ようやくフランは肩から力を抜き、魔術師の後をついて行った。教会長はエレーナ女王の戴冠式で、冠を授けた人間だ。彼女は一縷の望みを託した。
 教会の中の造りは、宮中とよく似ている。フランは自然と、両の掌を握りしめていた。やがて彼女を連れた魔術師が、ひとつの部屋の扉を叩く。
「どうぞ」
 中から張りのある、明るい声がした。魔術師が扉を開けると、奥のマホガニー製の机についている教会長が顔を上げる。
「宮中のリネン係の方ですね」
 教会長はフランが名乗るよりも先に、彼女に笑いかけた。フランは、大きくため息をつく。
「フランと申します。急に申し訳ありません。どうしても教会長さまに、お伺いしたいことがございます」
 老いた教会長は微笑み、彼女を手招いた。
「こちらへどうぞ」
 フランを案内してくれた魔術師が下がり、扉を閉める。彼女は、うなじのほつれ毛を直しながら教会長の元へと歩き、深々と頭を下げた。
「カインの居場所を教えてください。今、宮中が大変なのです」
 教会長はフランを、じっと見つめた。
「大変、とは?」
 彼女は大きく深呼吸をする。さっき肌身に染みた混乱状態を、上手に言葉に表せる自信がない。
「軍部の人間が、カインとエーベルを『災いの元』として血眼になって探しています。エレーナ女王も軍人に頬を殴られました。レフティさまも急に、人が変わったようになってしまわれました」
 フランは思いついた言葉を、一気に吐き出した。教会長は身じろぎもせず、耳を傾けている。
「昨日、カインとエーベルに言われたんです。『宮中に災いが起こる。そうしたらフランは逃げろ、二度と宮殿には近づくな』と。教会長さまは二人から、なにか聞いてはいらっしゃいませんか?」
 彼は小さく「ふう」と吐息をこぼし、椅子に座り直した。そして、改めてフランに問いかけた。
「フランさん。他にレフティさまは、なにか仰っていませんでしたか?」
 彼女は首を横に振り、両手で顔を覆った。
「カインのことを『魔王』だと」
 教会長は深く目を閉じ、開ける。
「同じことを、カインさまは仰っておられました」
 フランは激しくかぶりを振った。
「嘘! 前からレフティさまは、カインのことをそんな風に仰っていた。でも、そんな恐ろしい存在がカインだなんて! それと今日のことと、なんの関係があるっていうんですか!」
 彼女の記憶にあるカインは、いつも穏やかに笑んでいる男としか残っていない。それと、教え子のエレーナ女王の言葉に一喜一憂する、どこにでもいる教師の姿だ。
 不意にフランの脳裏、小さい頃から読んでいた絵本の内容が浮かぶ。
 魔王と魔族たちは、この世界を侵略しながら生き延びてきたと言い伝えられている。彼らがルーンケルンの戦士に阻まれ、魔王が殺された話だ。
 絵本の結末は、戦士は称えられる。が、逆に魔族は忌み嫌われて終わる。

 彼女は大きな悲鳴を上げ、教会長の目前で泣き崩れた。このままでは、カインがレフティに殺されてしまう。
 わたしはレフティさまを止められなかった。わたしのせいだ。


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