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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……49

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49、「呪術」発動・2



 開け放たれた扉の向こう側には、目を血走らせたレフティがいた。議場にいた誰もが息を飲み、彼を見つめる。
 レフティの眼差しと、剣の切っ先はエレーナ女王へと向いていた。彼女は部下に刃を向けられていることに気がついた瞬間、全身を震えと眩暈が襲った。
「なぜ……?」
 呆然としたエレーナの唇が、かすかにゆがむ。彼女のかすれた声が、しんとした議場に響いた。レフティの冷ややかな言葉が返ってくる。
「あなたは俺を騙しているでしょう?」
「騙す? わたしが?」
 レフティが、つかつかと議場の中に入ってきた。彼の後から部下が議場に入り、壁に背中を向けて居並んだ。室内が軍人に占拠された形だ。レフティの部下は皆、彼と同じ正気を失った目をして剣をかざしている。
 レフティは室内を見渡し、最後に視線をエレーナ女王に向けた。
「カインを宮中から追い出せと言ったのに、逆らったでしょう?」
「なっ、なんのことです……?」
 彼女は激しく首を横に振った。昨夜までは理解しあえていると思った部下が、自分に剣を向けるなどありえない。ましてや相手は「カインには渡さない」と言い、自分の処女を散らした男なのだ。エレーナはただただ、急変したレフティを凝視することしかできない。
 それとも「男」とは、女の気持ちにお構いなく、セックスができる生き物なのか。彼女の心の中、わずかな静寂の間、様々な思いがよぎっては消えて行く。
 彼は目を血走らせ、そんなエレーナを嘲笑うかのように顎を上げた。
「カインとエーベルを国内のどこか……。いや。本当は宮中に匿っているでしょう?」
「おりません! わたしが『出て行って』と命令したのです、あなたも聞いていたでしょう? 疑うなら今すぐ探したらどうですか」
「ふん、どうだかね」
 レフティは鼻先でエレーナを笑いながら近寄り、彼女の後ろに立った。そして背中から女王をとらえ、彼女の目の前に切っ先をちらつかせる。
 室内に「ひっ」という声が幾つか上がる。壁際に立つレフティの部下は、声を出した女性たちを鋭く睨みつけた。レフティはエレーナにだけ聞こえるように囁く。
「あれだけ『あいつには渡さない』と言ったのに。あなたは全く理解していらっしゃらない」
「や、やめてください……」
 彼女の心に、カインの言葉がよみがえった。
 ――レフティを指揮なさるのがエレーナさまなのですよ。
 エレーナは瞼を、ぎゅっと閉じる。記憶の中のカインは、なにもかも許すように笑っていた。彼女は静かに問いかける。
 ――そうね? わたしはレフティを指揮していいのよね?
 カインが頷いてくれたような気がした。女王は大きく唾を飲み込み、背後のレフティに首を向ける。
「本気で、わたしに逆らうつもりですか? 信じることもできないのですか? 思い込みで、こんなことをして満足ですか?」
 エレーナの押し殺した声に、彼の眼差しが一瞬、怯む。
 彼女は力を緩めたレフティを、思いきり突き飛ばした。不意を突かれた彼の手から剣が落ちる。エレーナ女王は振り返り、彼を一喝した。
「控えなさい!」
 生まれてはじめて感じる強烈な怒りが、彼女に生まれていた。議場の中は静まり返り、エレーナとレフティの姿を、誰もが固唾を飲んで見つめている。
「暴動を鎮めに出かけたと思えば、レフティ自身が暴動の中心になっているではありませんか!」
 彼は血走った目をエレーナに向ける。その姿は、まるで、なにかに取り憑かれたようにしか見えない。
 レフティは唇を歪めた。落とした剣を拾おうとした時、エレーナがさっと腰を屈める。女王は彼よりも、わずかに早く剣を拾い上げた。
 そして、壁際にずらりと立ち並ぶ軍人たちに言い放った。
「レフティよりも、わたしの言うことを聞きなさい!」
 張りのある若い声が、議場にいる全員の耳に行き届く。その声に眉を吊り上げた一人の港湾軍人が、つかつかとエレーナに歩み寄った。
 その軍人は憤怒の表情で、ぎょっとした形相を隠せない女王の頬を打つ。
「あんたになにがわかる! 魔王の手先め! あんたが国家に災いを呼び寄せてるんだろうが!」
 魔王の手先? わたしが……?
 エレーナは片方の頬を押さえ、自分を殴った部下を睨みつけた。その、ごくわずかな沈黙の後、壁際にいた軍人たちに向かい、議場にいた一人一人が飛びかかっていく。
 彼女は議場の乱闘に乗じて、一人の女性が議場から出て行くのを見定めた。
「あれは、さっきの……!」
 女王は直観した。ロニーと一緒に挙手したリネン係だ。彼女は即座に使用人の後を追った。
 もしかしたら、彼女がカインの居場所を知っているかもしれない。昔から何度か、カインと彼女が親しそうに話をしているのを見たことがある。
 エレーナは走りながら、一縷の望みに賭けた。
「待って……!」
 エレーナは叫んだ。が、リネン係の背中は立ち止まることなく、駆け出す速度を上げた。
「ま、待って……!」
 女王はリネン係を追いかける。もしも見失ってしまったら、二度と彼女に会えないような気がしたのだ。
 リネン係は中庭を抜け、宮殿に隣接している教会の敷地に入った。エレーナが彼女の先回りをして、教会へと行ける早道に向かおうとした時だ。
 ざっ、と芝を踏みしめる音がした。
 彼女の目の前に立ち塞がる男がいる。顔を上げると、レフティが不気味な笑みをたたえ、こちらを見下ろしていた。
「どこに行こうとなさっているのですか?」
 もう終わりだ……エレーナ女王は、がっくりとうなだれた。彼女の頭上、勝ち誇ったようなレフティの声が聞こえる。
「あなたはもう、俺のものなんですよ? 勝手なことをされては困ります」
 俺のもの、という言い方が彼女の癇に障った。エレーナは唇を噛みしめ、顔をあげる。打たれた頬が、ひりひりと痛みだした。
「訳を聞かせていただけますか? なぜ突然に、こんなことになったのかを。それさえ話してくれたら『勝手なこと』をしないよう、誓えるかもしれません」
 レフティは眉を上げ、女王をきつい目線で見据えた。
「かもしれない、とは? 俺は軍人として、ルーンケルンから災いの種を断ちたいだけだ。草の根分けても、カインとエーベルの居場所は突き止める。たとえ国外に逃げていても」
 エレーナは頬を押さえ、彼を見上げた。
「わたしは彼らに、なんの手引きもしていません」
「嘘だ」
 彼は顎を上げ、女王に向けて鼻を鳴らす。エレーナは思わず、頭に血が上った。
「嘘ではありません!」
 どうして信用してもらえないのか。彼女は理不尽な思いで胸が一杯になる。レフティがエレーナの心を見透かすように、わざと腰を落として上目遣いで彼女を見つめた。
「彼らが国外に出た形跡がないからです。かと言って、めぼしいところを探しても、どこにもいない」
 エレーナは唇を震わせた。
「だからと言って『わたしが手引きをしている』とは言いがかりです。宮中は探しましたか?」
「もちろんです。議場に入る前に部下に隅々まで探させた。しかし、彼らはどこにもいない」
「わたしが知る術(すべ)は、ありません」
 しかし、レフティは首を横に振った。
「あなた以外に誰がいる? 彼ら二人は、あなたの側にいなければ単なる腑抜けに過ぎない。わかっているはずでしょう? 小さい頃から一緒にいたあいつを、あなたは丸裸のまま放り出せるはずがない。きっと後から、なんらかの便宜を図っていたに決まっている。……この俺の目を盗んで」
 エレーナの顔に絶望が広がっていく。どう言っても、この男には通じない。
 言われてみればレフティの言う通りなのだ。カインもエーベルも、ひたすらに自分のために尽くしてきてくれた臣下だった。その彼らに、感情のおもむくまま「出て行って!」と叫んだのは他ならぬ自分だ。

 女王の膝から力が抜けていく。
 レフティは彼女を見下ろし、勝ち誇った笑みを浮かべた。そして首を振り、ひそかにつぶやく。
「ヴィクティム……あんた、俺をこうしたかったんだろう?」
 エレーナの聞いたことがない、西の呪術師の名前だった。

 フランは荒く息を継ぎながら礼拝堂の中に入り、声を枯らしながらカインの名前を呼んでいる。
「カイン! カ、カインー!」
 素肌に一枚の大きな布をまとった品の良い老魔術師が、彼女の格好を見て驚き、静かに声をかけた。
「カインさまもエーベルさまも、もう教会からは出て行かれましたよ」
「ええっ……! ま、まだ一日しか経っていないのに? ど、どこに行ったの?」
 フランは気が狂いそうになりながら、魔術師にすがりついて叫んだ。
「お願い! 知っているなら教えて! た、大変なの!」
 ――彼女の頭の中には昨日の夕方、二人と交わした会話の光景がありありと浮かんでいる。




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