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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……48

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48、「呪術」発動・1


 エレーナ女王が目を覚ましかけた時、陽射しが強くなっていた。さきほどから何度か、廊下の方から扉を強めに叩く音があり、それが彼女の眠りを妨げた。
「エレーナさま! エレーナさま!」
 侍女の声だ。女王は眉をひそめ、ベッドから身を下ろす。自分の体を見ると、隅々までレフティがつけたキスマークが散らばっていた。「カインには渡さない」彼は言いながら、何度も痛みと、同じくらいの強さの快感をくれた。
 今もまだ体内に、彼の体の一部の感触が残っているような気がする。
 エレーナは身にシーツを巻きつけ、扉へと向かった。重い扉を開ける気はなかった。その代わり、強い口調で返事をする。
「レフティ以外の人間には会わないと言ったはずです」
 すると扉越しに、半ば悲鳴のような侍女の声が聴こえる。
「クーデターが起こっているのです!」
「冗談は止めなさい! そんなもの、ルーンケルンに起こる訳がないでしょう」
 侍女は多分、こちらを部屋から出すために虚言を吐いている。エレーナ女王はそう思い、鼻先で笑った。しかし、次の瞬間に彼女の耳に飛び込んできたのは、父の代から宮中に仕えている男の声だった。
「侍女は嘘は申しておりません。お体の具合が悪いのは致し方ありませんが、女王さま自らが指揮を執られる御心積もりはございませんか」
「えっ……」
 エレーナは、それきり動けなくなった。嘘ではなかったのか、と。
「わ、わかりました。今、着替えます。宮中にいる臣下を会議場へ集めていただけますか」
「御意に」
 彼女は急がねば、という気持ちと同時に、不思議な屈辱感を味わっていた。少なくとも父が存命中ならば、こういったことはなかった。
「どうしてわたしばかり、こんな目に」
 エレーナの視界が滲んでくる。まばたきをすると、涙の粒が床に転がる。いつかカインが教え諭してくれた言葉が、脳裏をよぎった。
 ――レフティを指揮なさるのがエレーナさまなのですよ。
 ――彼は有能な軍人であり、あなたの忠実な臣下です。ですが、それに甘えてはなりません。
 彼女はブラウスのボタンをはめながら、つぶやきつづける。頭の中は、カインが帰国してからずっと、混乱状態から治まっていない。

 あなたはわたしを裏切っていたの? 本当に、レフティの言う通りの禍々しい「魔王」だったの?
 カイン。
 あなたに行かないでと願ったわたしを、許してください。傷つけた言葉を言ってしまった、わたしを許してください。
 わたしは、あなたに甘える資格を失ってしまいました。

 頬の涙を拭い、着替え終わったエレーナが扉を開ける。侍女と、父と同じ歳ほどの臣下が頭を下げた。
「もう、皆が集まっております」
「わかりました」
 彼は肝心の女王が来ないことに、業を煮やしていたのだろう。彼女にも、その程度の想像はつく。
 エレーナは眩暈がしてきた。今の自分が臣下たちをまとめ、国家を導くことができるのだろうか? 自然と言葉が口をつく。
「レフティは?」
「港に鎮圧に向かっております」
 女王は足元が崩れるような気がした。本当に、こんな時に自分を支えて導いてくれる人が誰もいない。
 彼女は動揺を悟られぬよう、注意深く老臣を見据えた。
「わかりました、会議で詳しく伺います」

 議場に入ると、既に宮中にいる人間のほとんどが集まっていた。この場にいないのは門番程度のようだ。エレーナの見慣れた顔が、あちこちに見える。誰もが不安そうな表情を隠せない様子だった。
 女王の耳に、ひっそりした刺を含む声が聞こえてくる。
「……なんだ。お元気そうじゃないか」
「デメテールさまも、男子を後継者にしておけばよかったのに」
「エレーナさまでは動乱を治めきれないよ」
 自分を軽蔑されるのはいいが、父を貶められることは許したくない。しかし、今は為す術がない。すべては自分が招いたことだ。彼女は唇を噛みしめ、顔を上げた。
「ここに軍閥の人間はいますか?」
 エレーナは必死で声の震えを抑える。
「誰か、これまでのことを説明できる者はいないのですか? どんな些細なことでも構いません、起こった順番から、整理立てて考えられる糸口がほしいのです」
 議場の後方、ためらうように幾つかの手が上がる。
 エレーナには共にエディットに向かった料理人のロニーと、名前は知らないが、カインと仲が良かったリネン係の女性がいるのがわかった。
 エレーナは藁にもすがるような思いで、ロニーを見つめて頷いた。
 彼は「わたしは軍人とは違いますが」と前置きをして、軽く咳払いをする。
「構いません、できるだけ多くのことを知りたいのです」
「御意に。今回のことは前触れらしきものは、ひと月前ほどからありました」
 議場にため息が起こり、皆が彼に視線を移した。
「ひと月、と言うと?」
「ええ。『剣の儀式』が終わった頃からです」
 ロニーは言葉を続ける。議場にいる者たちは、彼を注視していた。ロニーの話によると、その頃から検疫所周辺では小さな諍いが多発していたらしい。
 商人たちに融通を利かせる役人と、役人に嫌われていた交易商人や、真面目に東の国に渡って働いていた職人や鉱夫は緊張状態だった。
 レフティは港湾軍人たちが宮中に上がって報告をする際に、「堅苦しい」という理由で時折だが食堂を使っていた。彼なりに、部下たちの激務をねぎらうつもりもあったのだろう。その折り、しばしば料理人たちは、レフティを含めた軍人たちの話を耳にしていた。
 国の機密事項に触れるかと慮ったロニーは、料理人や食器類やカトラリーを管理するスチュワードにも「食堂内で見聞きしたことは口外するな」と命じていた。が、剣の儀式からロニー自身に漏れ伝わってくる噂話にしては、妙に生々しくて不気味な予感がする軍人たちの話が多くなっていたのだ。
 エレーナは、ふと思いついてロニーに尋ねた。
「もしかして『剣の儀式』から、つい最近まで記憶が定かではないということはありませんか?」
 彼は多少、顔をしかめる。
「ええ、まあ。……でも、疑っていらっしゃるのですか?」
 女王は、あわてて手を横に振る。失敗した、と思った。今この場所で尋ねるべき話ではなかった、と。
「違うのです、ごめんなさい。なんとなく、わたしに届けていただく食事が変わったような気がして」
 ロニーは口からでまかせを言ったエレーナに、顔をほころばせた。
「さすがですね。味が違うと仰りたいのですね。一昨日まで熱っぽくて、なかなか厨房に入れなかったんですよ。皆に指示を与えるのが精一杯でして。……でも、そんな辛い体調の時に限って、軍人たちのキナ臭い話が耳に入ってきたんです」
 エレーナは胸をなでおろし、ロニーに頭を下げる。エディットに向かった者たちは、被害者かもしれないのだ。カインとエーベルに、それぞれ塗り替えられた記憶を持っているという点で。
 彼女が顔を上げた時、さきほど手を挙げていたリネン係の女性と目が合った。カインよりも少し前に宮中に上がってきた使用人であることは知っている。彼女の話を聞こうと思った時だった。
 議場の両開きの扉が乱暴に開けられた。エレーナ女王をはじめ、全員の視線がそちらに向いた。

 そこに立っていたのは剣を構えたレフティだった。
 彼の背後には、何百人という軍人が同じ構えで剣を振りかざしている。


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