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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……43

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43、潮の変わり目・2


 ――「変化」の潮の流れは、徐々に早まりつつあった。

 エレーナ女王がレフティ以外の人間の接触を遮断して、十日あまり経っている。
 彼女は近頃、やり場がない気持ちに苛まれていた。いつになったらカインとエーベルが、宮中に姿を現すのか。帰路の航海でなにかあったのだろうか、と。
 もしかしたらカインに激しい拒絶の気持ちを表してしまったことで、航路を変えてしまったのではないだろうか。
 思い至ったエレーナは、鏡の前で首を振った。
「いいえ、それはありえない。だって、あの船はレフティの軍のもの。責任感が強いカインなら、必ずルーンケルンに帰還するはず」
 彼らをおぞましく思う気持ちは変わらない。だが、軍の帆船がいつまでも帰ってこないことは、それはそれで大問題のような気がする。
 カインやエーベルのことを考えると、いつも、もうひとりの自分が自分を嘲っているような気がする。
 ――命を助けてもらったくせに。
 でも彼は、お父さまを見殺しにしたの。
 ――あの時「人払いをしてくれ」って、レフティに言ったわ。きっと、カインなら。
 カインなら、なによ!
 エレーナは耳を塞いで小さく叫ぶ。認めない、認めたくない。お父さまは、残虐なことを嫌った。ほとんどのことは、交渉で解決してきた。呪術師だって生身の人間だ。あんな風に、むごい殺し方をしていいはずがない。
 もしかしたら、人払いをして、お父さまの心臓を取り出して燃やしていたのかもしれない。
 彼らが呪術師の額や心臓を剣で真っ二つに割り裂き、潰していく光景を思い出すたびに総毛立つ。
 ――そうね。それくらいの力を隠し持っているのなら、レフティの言う通りかもしれないわね。
 もうひとりの自分が、薄い笑いを浮かべている。そのたびにエレーナは顔を覆ったまま、体が温まってくるのを待つのだった。

 ノックの音がする。扉越しに、レフティのくぐもった声が聴こえる。
「エレーナさま、お食事をお持ちしました」
 彼女は大きくため息をつき、両手を顔から外した。
「鍵は開けています。入ってください」
「御意に」
 エレーナはレフティの、片手でテーブルに盆を置く仕草を見ていた。今日の彼は、どこかしらせわしなくて、顔色も悪い。
「なにかあったのですか?」
 彼女は、ごく自然に問いかけた。部下はエレーナ女王に目線を移し、頭を下げた。
「実は、港湾部で若干」
 女王は眉をひそめた。それでなくても会議に出席していないことで、良心の呵責もあったところだ。
「聞かせていただけますか」
 レフティはためらったが、意を決したように唇を開く。
「些細な事件なんですが」
 彼はそう前置きをして、話しはじめた。

 東国・ロードレに行ってきた船舶に乗っていた若い商人が、検疫検査の時にロードレから輸入してきた果実や穀物のほとんどを没収されたという。
 その時、港にいた検査官は商人の輸入したものばかりでなく、罰金とは別に、彼の私物である衣服や東国で使われている貨幣も奪っていたのだった。
 検疫所を管理していたレフティの部下のひとりが、日誌を点検した際に発覚した出来事だった。
 部下が検査官を問い詰めると、検査官はこう言って開き直った。
「商人たちは、前から気に入らなかったんです。我々に逆らうようなことばかりしていた。役人よりも身分が下のくせに、わきまえていない」
 若い商人は抗議したが検査官は、一切、聞き入れずに彼を建物の中から放り出したという。
 港湾軍人は即日、レフティに報告をした。もしかしたら今まで自分たちが気がつかなかっただけで、日常的に行われていたのかもしれない、と。

 ここまでレフティは女王へ事務的に話すように努めた。
 彼女は下を向き、ノートに話の要点を書き取りながら聞いていた。彼の話が一段落ついてから、エレーナは顔を上げた。
「このようなことは、前からあったのでしょうか?」
 レフティは女王に対して、首を横に振る。
「以前から役人の末端の検査官と、交易商人の小競り合いはありました。ですが、このように一方的な暴力沙汰は初めてです」
「そうですか」
 エレーナは大きく、ため息をついた。こんな時に相談できる人間が誰もいない、と思った瞬間、カインの顔を思い浮かべてしまう。
「だめ。自分で解決するの」
 思わず漏れた独り言に、対面にいたレフティは大きくかぶりを振った。
「いえ、わたしの問題です。これから現場に行って、詳しく聞き取りをしてまいります。エレーナさまは、こちらでお待ちください」
 彼女は下を向いた。こんな時に、なにもできない自分が歯がゆい。
「すみません、お力になれなくて」
 レフティは改めて女王に向かい、笑みを浮かべる。
「とんでもない」
「このことは、他の臣下の方々はご存知なのでしょう?」
「はい。ですがエレーナさまは、無理に会議にご出席なさらなくても結構です」
 きっぱり言い切った彼に、エレーナは信頼しようと思った。
「わかりました。ただ、わたしも調べ物がしたいのです。レフティが帰ってくるまで、書庫におりますので、帰って来られたら声をかけていただけますか?」
「御意」
 彼は思う。
 女王に会議に出てこられては、なにかとまずい。
 レフティは港へと馬を走らせた。海からさほど離れていないところに、目指す建物がある。
 彼が扉を開けて入った途端、皆のざわめきがピタリと収まった。気のせいか建物の中は、人が多く感じられる。カウンターの内側と外側の空気が、なぜか異様に殺気立っていた。
 黒いシャツを着ている商人とレフティの目が合った。彼の顔は青ざめている。
「どうしたんだ」
 商人はブルブル震え、床へとうずくまった。
「わ、わたしではありません! どうか話を聞いてください!」
「なんのことだ?」
 訝しく思っているレフティの元へ、港湾軍人が急ぎ足でやって来る。視線を向けると、部下が一礼して口を開く。
「この者たちに暴行した検査官のうちの一人が、殺害されました。今、遺体を海から引き上げております」
「なに?」
 彼は目を光らせ、商人の背中を見下ろした。検査官の制服を着た者の多くが、こちらを複雑な表情で眺めているのがわかる。
 レフティは腰をかがめ、震えている商人の肩に手をかけた。そして、彼の耳元で囁いた。
「なにか知ってるみたいだな、おまえ」
「ひぃ……っ」
 商人は血の気の引いた顔を上げる。その言葉は暗に、命は救ってやるが、牢獄で暮らせと引導を渡しているように聞こえたのだ。
 レフティは更に凄んだ。
「正直に言えば、牢獄での生活を融通してやるよ」
 彼は静かに立ち上がり、その場をぐるりと眺め回す。
「検査官の中で、商人の暴行に関わった者は挙手しろ。そもそも、それがキッカケだろう?」
 彼の低い声はフロアにいる全員が聞き届けた。が、誰もが顔を見合わせるだけだ。レフティは鼻で笑うように息を継ぐ。
「この場で俺に言いづらいなら、後で詰所に来い。命が惜しいのであればな」
 港湾軍人はもちろんのこと、検査官の一人ひとりが内心では震え上がっているのが感じられる。言い捨てたレフティは扉を開き、少し離れた海軍の詰所に向かって歩きはじめた。
 しばらくして、背中に「ビシッ」と痛みを感じた。
 レフティは振り向く。すると検疫所の入口あたり、にやついた顔の鉱夫や商人が何人か固まっている。転がっていく小石も見つけた。
 彼は小石を拾い上げ、唇を歪めて握り直した。なぜか制服を着ていない人間が全て、敵のように思えてくる。
 こんな時、魔術師だったらどうするだろう。そう思ったレフティの心に、西から来た呪術師・ヴィクティムの面影が浮かんだ。

 ――その翌日の未明、検疫所は何者かに火を付けられて全焼している。



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