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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……42

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42、潮の変わり目・1 


 エレーナの部屋からレフティが出て行ってのち、彼女は訪れてきた教会長に言った。
「わたしはもう、大丈夫です。今まで、ありがとうございました」
 教会長は、うやうやしく頷き、もっともらしく彼女に告げた。
「御意に。多少のお傷はあるものの、他は、いかにも倒れられる以前のままだ。あまり仕事に根を詰めないよう、なさってくださいまし」
 女王は心の底で思った。仕事の過労で倒れていたことになっていたのか、と。精一杯の作り笑顔で教会長を送り出した後で、彼女の心に一抹の不安がよぎった。
 ……教会長は、わたしの心が読めるのだろうか?

 エレーナ女王が治癒した噂は、即座に宮中に広がった。ちなみにレフティ以外は、女王の私室には入れないということも、公然の秘密になっている。それでもやはり、女王が元気であるほうが、皆にとっても良いことに決まっている。
 使用人たちは一様に、胸をなで下ろしていた。そして気の緩みから同僚を見つけると、エレーナ女王のことを微細に渡り噂の種にした。
「でもね、不思議なの。教会長が仰っていらしたわ」
「なになに? なにが不思議なの?」
「急にね、ほっぺたに細かい傷がいっぱい付いていたんだって」
「ええー?」
「レフティさま以外がお部屋に立ち入り禁止になってから、だいぶ経つよね? なにしてるんだろ?」
 女たちの嬌声は廊下中に響く。階段を降りてきた人の気配にも、彼女たちは気がつかない。
「……俺が、どうしたって?」
 レフティは今日も噂話をしている女使用人の集団を見つけ、怒鳴りつけている。
「仕事の合間にくだらん話で集まるより、自分の職務の技術を上げろ! 持ち場に戻れ!」
 蜘蛛の子を散らすように使用人たちは去っていく。彼は昔から、女性の集団が苦手だった。特に自分のような男は、陰でなんと言われているかわからない。
 彼が使用人たちを怒鳴りつけた、すぐ後ろ「きゃっ」と驚く声がした。一瞬後で、足元にくしゃくしゃになったシャツやタオルが散らかっていく。
 振り向くと、おろおろした様子のフランがいた。
「あ、あっ。す、すみません。今すぐ片付けます」
 彼女は可哀想なくらい縮こまって、一生懸命に廊下中に散らばった衣類をバスケットの中に詰めて行く。レフティはあわてて腰をかがめ、手伝おうとした。一枚のタオルを取ろうとして手を伸ばすと、驚くほどの速さで、フランがそれを取り上げる。
「レフティさまは、こんなこと、こっ……。とにかく、してはいけません……!」
 彼は床に膝をついたまま、彼女を見上げた。
 フランはこちらを見ようともせず、タオルをバスケットに詰めた。彼女は黙々と、沢山のリネン類を拾っていく。
 レフティは立ち上がって、彼女を見下ろした。
「俺が、なにかしたか?」
 フランが顔を上げる。
「なにもしていません」
「フラン。おまえ、おかしいぞ?」
 彼は腰をかがめ、フランの手首をつかんだ。彼女がレフティを悲しそうな目で見返す。一瞬、ぎょっとしたレフティは、彼女から手を離した。
「すまん、痛かったか」
「痛くないです」
 それだけ言ったフランは、ふたたびうつむく。そして黙々と動き、タオルをバスケットに詰め終わった。
 彼女は片手でエプロンをはたき、レフティの顔を見上げる。しかし、彼の目を見ようともしない。
「お仕事の邪魔をして、すみませんでした」 
「なにかあったのか?」
「いえ、別に。失礼します」
 フランはレフティの横をすり抜けて、洗濯室へと向かおうとする。彼は思わず、リネンバスケットを取り上げる。
「どうしたんだ、具合でも悪いのか?」
 ようやく彼女はレフティの目を、まっすぐに見つめた。彼が見返すと、相手の瞳にみるみるうちに涙がたまってきている。
「ど、怒鳴って悪かった。でもあれは、フランにじゃないよ。仕事をせずに……」
「そういうことではないんです」
 彼女が上官の言葉の腰を折り、まばたきをすると大粒の涙が頬を伝った。
「じゃあ、どうして?」
 おろおろしつつも冷静になりたいレフティは、言った後で咳払いをする。彼女は上官に言った。
「バスケット、返していただけますでしょうか?」
「あ、ああ」
 彼はフランに仕事道具を返してやりながら、耳元で囁く。
「部屋にシャツがたまっているんだ。今夜、取りに来てくれるよね? そんな顔しないで、笑ってくれないかな」
 リネン係は上官から身を離し、悲しそうな顔で首を振った。
「レフティさまは、エレーナさまのお部屋に出入りするようになってから変わられました」
「えっ」
 レフティが、ぎょっとしてフランの顔を見る。彼女は急ぐように上官の横をすり抜け、洗濯室へと向かっていく。
 彼は呆然と佇んだまま、目だけはフランの背中を追っていた。

 フランは心の中で、レフティに言いたかった言葉を繰り返しながら早足で歩く。
 言えなかった。今日も言えなかった、と自分の心を責め立てるたびに廊下に涙の粒が落ちていった。

 レフティさま。エレーナさまと二人きりの時、あなたはなにをしていらっしゃるのでしょうか。
 キスですか、それとも愛撫ですか? それとも……。
 あなたは変わってしまいました。ご自分では気づいていらっしゃいませんか。だんだん冷たくなってきていることを。
 あなたがわたしを抱いているとき、違う女性の顔を一途に思い浮かべているのが伝わるんです。悲しくても我慢できるほど、わたしは大人じゃなかったみたいです。
 ごめんなさい。レフティさまの、お側にいることが辛いんです。

 フランは泣き顔をこらえて洗濯室に入る。すると、今しがたレフティに怒鳴られたばかりの同僚が、何人か近寄ってきた。
「大丈夫? レフティさまになにか叱られたの? 最近、あの方はピリピリしていらっしゃるし、ちょうどレフティさまの後ろにいたでしょう? あたしたちも悪かったけどね。もしも、変に八つ当たりされたんだったら、ここで話して楽になっちゃいなよ」
「いかにも八つ当たりしそうだもんね!」
「フランは気に入られてるから、余計に甘えて怒鳴りつけそうだしー」
「それあるよねー!」
 フランは同僚たちのあまりに呑気な物言いに、思わず笑いがこみ上げてくる。八つ当たり程度だったら、どんなに楽だったろう。
 不意に手を泡だらけにしている同僚の声が、彼女の心に突き刺さった。
「あの人、エレーナさまとフランが似てるって言ってたみたいだよ。税務の男が会議の時に聞いたってさ。笑っちゃうよね、欲求不満もいい加減にしてよって」
 フランはバスケットを作業台の上に置いた瞬間、わあわあと声を上げて泣き出した。洗濯室にいる同僚たちは、おろおろしながら彼女を心配そうな眼差しで見つめ続けるだけだ。

 その頃、エレーナは自分の部屋にいた。彼女もまた、出口のない苦悩から目を背けていたかった。





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