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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……41

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41、転機・2


 エレーナは、喉の奥から絞り出したような声を上げた。
「まさか、カインが……」
 心の奥底に閉じ込めていた疑問が、一直線に繋がった。彼女は椅子の背に持たれていても、体の中心から崩れて落ちそうになる。
 まばたきをするたびに、カインの優しく微笑む顔が瞼の裏に浮かんでくる。
 夜の海の上、星が降りそそいでくるような気がした、あの時。
 手を伸ばせば互いに触れそうだった。こちらの息遣いまで、向こうに伝わりそうだった。
「わたしにエレーナさまを責める権利はありません」
 彼がそのあと、悲しそうに笑った時に胸が潰れそうになった。
「わたしはあなたのためなら、どんなことでもいたします」
 あの時カインは目線を落とし、もう一度、優しい目で見つめてくれた。その言葉をすべて聞き取った時、眩暈がしそうになった。
 今でもあの夜のことは、全部憶えている。こんなに安心できる存在が近くにあったなんて、知らなかった。
 すごく嬉しかったのに、なぜ。
 なぜ、あんなに残酷極まりないことまで。
 対面ではレフティが、こちらを真摯な眼差しで見つめていることを感じる。彼女は両手で顔を覆った。
「まさか、カインが魔術を使えるなんて。そんな」
「エレーナさまは今までに、疑ったことはないのですか」
 レフティの問いかけが、エレーナの胸に刺さる。責められているようだった。身近な臣下のことを、なにひとつ知らないのかと。
「ありません。だって、彼は今までも苦手なことは努力して、様々教えてくれましたから」
 彼は大きく鼻で笑った。
「それが彼の手段でしょう。カインは優等生を演じ、我々臣下全員を騙し、こうしてエレーナさまも」
 エレーナが顔を上げて悲鳴のように、レフティの言葉を途中で遮る。
「なんのために? ねえ、なんのために、そんなことをしなくてはいけないの?」
「ルーンケルンを乗っ取るためです。エディットに住んでいる呪術師と結託してね。彼と出会った時から、知っていましたよ。でも、誰も信用してくれないと思って黙っていたんです。彼とわたしでは身分や、対外的な信用に落差がありすぎる。きっと、誰もがわたしを気が狂ったとしか見ないだろうと思っていたんです。しかし、いつか尻尾を出すと確信していました」
 女王の心が、ぐらりと揺れた。もう言葉が出てこない。見つからない。心臓の鼓動が高鳴ってくる。
 不意に、エディットに着いた夜のことを思い出した。聖堂の上空をふわふわ浮いていた、あの時のことだ。
「エレーナこそ、我が民族の仇
かたき
」と襲いかかってきた男たちに「エレーナさまには関係のないこと」と斬り捨てた、カインとエーベルの二人の姿も。
 エレーナは残虐なカインの面影を振り払うために、レフティに食い下がろうとする。
「でも、カインとエーベルは、わたしのことを守ってくれたんです!」
 レフティは両手を開き、女王を見据えた。
「そんなの、奴らの芝居に過ぎないでしょう? 違いますか? 現にエレーナさまは、こうしてボロボロになってルーンケルンに帰ってきたんですよ?」
 ボロボロ……言われれば、その通りかもしれない。エレーナは押し黙った。
 あの港で見た血しぶきや、大蛇の爆ぜた脳漿を間近に見たことも、カインとエーベルが仕組んだ芝居なのかもしれない。
「落ち着いてください。エレーナさまは、彼らの打った三文芝居にショックを受けているだけです。ともあれ、体に傷ひとつなく帰ってこられたのです。まあ、教会長とわたし以外の人間には、接触しない方がいい」
 レフティの口元が歪む。しかし対面の女王は、それを彼の魔王に対する憎しみと受け止めた。
「教会長にも会いたくありません」
 エレーナは首を振った。聖職に就く魔術師も力の向け方を変えれば、カインのように残酷な人殺しもできるのだ。
 彼女は心底、彼らをおぞましく思った。
「お父さまが魔法を使える人間を、全員追放していたらよかったのに」
 レフティは、ひそかにほくそ笑んだ。
「デメテール陛下だって、カインならば即刻、蘇生して差し上げられたでしょう。なのに、それをしなかった。彼は、あなたの御父上を見殺しにしたんです」
 女王は、がっくりとうなだれて肩を落とした。父が生きていれば、こんなことには。
 レフティはエレーナの言葉を待った。思い通りになるまで、あと一歩だ。
 エレーナ女王を手に入れれば、カインも潰せる。こちらは軍も持っているのだ、国民も皆、こちらの味方になるだろう。
 彼女は顔を上げた。
「エディットからカインとエーベルが帰ってくるまで、この部屋にはレフティ以外、入ってこないようにしてください。二人が帰ってきたら、ここに来るように」
 レフティは椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。
「御意に」
 ほどなくして、彼が扉を閉める音がする。ふと、ベッドの横に目が止まった。
 やはりカインの上着は、影も形もなくなっている。
 エレーナは大きなため息をつき、お茶に口をつけた。お父さまならば、こんな時、どうしただろう?
 彼女は他にも、レフティ以外の宮廷中の人間が、自分のエディット行きのことをどう考えているのかと思う。
 おそらく宮中の人間の記憶が、自分が戻された時を境に、全て塗り替えられている。しかし、レフティが手帳に記した文字までは消せなかった。
 皆の記憶が塗り替えられた時から、なぜか教会長以外の人間とは合わないようにされている。彼女はカインに対して、複雑な気持ちが湧いた。
「わたしに『治癒の術』など、いらないのに」
 独り言が思わず漏れた直後、レフティの言葉が次々と脳裏に浮かぶ。
 ――「彼は、あなたの御父上を見殺しにしたんです」
 本当は蘇生させることもできた。けれどカインは、この国を乗っ取るために、父を絶命させたとレフティは言った。
 なにもかも、レフティの言う通りかもしれない。
 カインのことが、おぞましかった。エーベルもだ。どんどん湧いてくる嫌悪感を打ち消せない。
 本当に彼らは長い時間をかけ、こちらを信用させて国家を転覆させる機会を伺う人間なのだろうか。
 彼らはわたしの目の前で、自分たちの残虐さを見せつけた。あれも芝居なのだろうか?
 ほんの少し、胸の底がちくちく痛む。
 わたしが暴力が嫌いだということを、カインは知っているはずだ。いくら危ない相手だからと言っても、呪術師を捕縛することだけでは済まないのだろうか?
 それとも生かしておいたら、報復されるほど恐ろしい人間たちなのだろうか?
 じゃあ、そんな「恐ろしい人間」を斬り捨てるカインたちは、もっと強く恐ろしい人間なのではないだろうか?
 そういえば大蛇が死ぬ前、なにか言ったような気がする。なんて言っていたのだろう?
 エレーナの頭が痛みだした。
 ――「わたしはあなたのためなら、どんなことでもいたします」
 カインの言葉を思い出すと、なぜか涙があふれてくる。大勢の人を殺めてまで、わたしを守ることが、あなたにとっては正しいことなの?
 カインとエーベルの誠実さの裏側にある凶暴な顔。知りたくなかった。エレーナ女王はふたたび、ベッドの横を見る。やはりカインの上着はない。

 もうひとりの自分が囁く。
 ――カインは言葉通りに身を捨てて、わたしを守ってくれたのではないの?
 ――「エレーナさまにお仕えすることが、わたしの使命だから」と言ってくれたのではないの?
 ――目の前で恐ろしい光景が広がったことで、冷静になれないだけじゃないの?

 エレーナは泣きながら叫んだ。
「誰か本当のことを教えて! 誰でもいい、わたしを助けて!」





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