スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←魔王に抱かれた私……39 →魔王に抱かれた私……41
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 各小説の属性
もくじ  3kaku_s_L.png 零―中邑あつし
もくじ  3kaku_s_L.png 狼になりたい
もくじ  3kaku_s_L.png 追憶の人
もくじ  3kaku_s_L.png おばかさん
もくじ  3kaku_s_L.png 作詞したもの
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png はんぶん、ずつ
もくじ  3kaku_s_L.png おしらせ
もくじ  3kaku_s_L.png 書き手の御挨拶
もくじ  3kaku_s_L.png 真珠
もくじ  3kaku_s_L.png 酔狂なレビュー
  • [魔王に抱かれた私……39]へ
  • [魔王に抱かれた私……41]へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
 

魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……40

 ←魔王に抱かれた私……39 →魔王に抱かれた私……41
40、転機・1 


 なにかが変わる潮目には、必ず大きな変化があるものだ。

 カインとエーベルが、エディットの警備兵たちとの慰労会に出ていた頃。時差のため、ルーンケルンは翌日の朝になっている。
 エレーナ女王は、ベッドの上で目が覚めた。目を開けた途端、激しい頭痛がした。なんだか腕や腿の辺りに、シーツとは違う感触がある。
 彼女は恐る恐る、起き上がってみた。ほとんど素肌の体には、詰襟ジャケットが掛けられている。
「こ、これは……」
 エレーナは息を飲んだ。目が覚める前に見ていた光景が、一気に頭の中に押し寄せてくる。カインが今まで見たこともないような恐ろしい形相で、大蛇の脳味噌を潰していたことも、全身に、ぬめぬめと大蛇が絡みついていたことも、なにもかも。
 彼女は思わず悲鳴を上げた。
「い、いやあああああーーーっ!」
 すぐに部屋の扉を外から叩く音がした。侍女の声だ。
「エレーナさま?! どうなさいましたか? エレーナさま!」
 女王は扉の方に向かって叫ぶ。
「今、行きます!」
 そう言ってカインの上着を片手でつかみ、乱暴にベッドの下へと投げ捨てた。小走りでクローゼットに走り、乗馬用のシャツと黒のスカートをあわてて身に着ける。
 エレーナはシャツのボタンをはめながら、部屋の扉を開けた。ドアの側には水が張ってあるブリキの洗面器と、真白いタオルがある。
「大丈夫ですか? ご無理なさっては、いけませんよ」
 彼女は問いかける侍女の顔を一瞥する。いつもなら、真っ先にエーベルが来るはずだ。
「エーベルは?」
 相手は、ぽかんとした顔をした。
「エーベルさまは、まだお帰りになっていらっしゃいませんよ」
「まだ? どういうこと?」
 侍女はエレーナに問い詰められたことがない。彼女は普段おっとりしている女王を、凝視する。
「エディット王室の『婚礼の儀』に、エレーナさまの名代として行ってらっしゃるじゃないですか」
 エレーナは侍女が当然のように答えた言い方に苛立ち、ついつい大声になった。
「そんなの決めてないわよ!」
 広い廊下の端まで彼女の声が響く。はじめて見るエレーナの怒りに侍女は青ざめ、何度も深く礼をした。
「お待ちいただけますか? 今、会議に出ていた臣下の方を、どなたか探してまいりますから!」
 あわてふためいて階下へと走る侍女は思う。
 ――きっとエレーナさまは熱から覚めて、夢の続きを見ていらっしゃるに違いない。とにかく誰か臣下をお連れしなければ可哀想だ。
 ばたばたと廷内を走る侍女の後ろ、ちょうどレフティが食堂の扉を開けた。彼は廊下を走る音に、顔をしかめて怒鳴りつける。
「はしたないことをするな! みっともない!」
 彼は早朝まで軍閥の人間たちと、そこにいたのだ。陸軍が小規模ながら編成できた、その祝いの席を設けていたのが宮廷の食堂だった。
 レフティに怒鳴られた侍女が振り向き、なにかを言いながら駆け寄ってくる。
「走るなと言っているだろう!」
 扉の隙間から食堂の中にまで、彼の怒鳴り声は響き渡る。侍女はレフティに怒鳴られたにもかかわらず、息を弾ませながら見上げた。
「レフティさま! エレーナさまのお部屋に、今すぐ行って差し上げてください!」
 レフティは眉をひそめる。
「エレーナさまが? お目覚めになったのか?」
 侍女は何度も頷き、へなへなと床に座り込んだ。
「そんなところに、むやみに座るものではない」
 冷たく言い放たれた侍女が「申し訳ございません」と言って、立ち上がる。彼は相手の息が整うまで待った。
「本当にお目覚めになったと?」
「は、はい」
 レフティは早足で、エレーナの私室へと向かう。侍女も乱れた髪を直しながら、彼の後を追った。宮殿の最上階に、女王の部屋がある。彼は息一つ乱れず、扉を叩いた。
「レフティでございます」
 かちゃり、と音がして扉が内側から開かれる。
「入ってください」
 彼は目を丸くした。今までに一度でも、エレーナ女王から、部屋に入れなどと言われたことがない。
「よろしいのでしょうか?」
「構いません」
 彼女は侍女に「お茶をください」と言ったきり扉を閉めた。レフティを見上げると、緊張した様子をしている。
「そこのテーブルで、お話ししましょう」
 指さしたテーブルは、深夜にエーベルと世間話を交わしていた場所だ。エレーナは椅子を引きながら、こめかみを押さえた。
「わたしは一体、どうしていたのでしょう?」
「どうしていた、とは?」
 レフティは女王の真向かいに腰かけ、彼女を見つめる。
「目が覚める前に、どうしていたのか知りたいんです。なにも変わらずに物事が動いているようで、すごく不安なんです」
 彼は落ち着かない様子の女王を眺め、かすかに目を細めた。そして、心の底から浮かんでくる笑いを深刻そうな顔をしつつ、かみ殺す。
 ――やっぱり、カインが「返してきた」のが真相らしいな。
 エレーナはこちらを、すがるような瞳で見つめている。彼は椅子に座り直した。
「エレーナさま、ご安心ください。女王はエディットに行ったことに、なっておりません」
 女王は胸の内をズバリと言い当てられたような気になり、ますますレフティを凝視する。彼は緩みそうな気持ちを引き締めつつ、言葉を選んだ。
「でも、本当はエレーナさまは、カインたちと一緒に海に出ているのですけれどもね」
 彼にはエレーナが、ごくりと唾を飲み込む音まで聞こえてくる。
「本当は?」
 女王は自分が経験したことが、嘘ではないと直観した。きっと、エディットの港の聖堂で体験したことも真実なのだ。
 でも、レフティは一体なにを根拠に、そう言い切れるのだろう、という疑問が浮かぶ。
「これを見ていただけますか」
 彼は胸ポケットから手帳を出して開いた。レフティの日記代わりのメモや、自らが定規を使って桝目を引き、スケジュールを一冊の手帳にまとめてあるものだ。
 レフティは手帳の栞を抜き、人差し指で指し示した。几帳面そうな細かい赤字で、こう綴られている。
 ――エレーナさま、エディットへ出航。
 女王は愕然とした表情を隠そうともせず、レフティに問うた。
「ど、どういうこと? でも今さっき、侍女は『行ってない』って」
 彼は、わざと重々しく声の調子を変える。
「宮廷内が全部、あの男に騙されているんです」
「だ、ま……」
 レフティは大きく息を吸って、女王の目を見据えた。
「カインを信用してはいけません。彼はやがて、この王室を乗っ取るつもりです。だからエレーナさまに対しても、こんなことが簡単にできる」
 エレーナが呆然としていると、扉をノックする音が聞こえる。レフティが立ち上がった。
「お茶でございます」
「ご苦労」
 彼はドアを閉め、白磁のポットから、熱いお茶を注いで女王の目の前に置いた。
「わたしも不思議に思っていました。一昨日の午後のことです。わたしが夜勤明けで宮廷に戻ってみると、エレーナさまはこちらの部屋にいらして、ずっと目を覚ましていらっしゃらないことになっている。使用人に聞けば、教会長が通いで、こちらの部屋に治癒の術を施しに来ているという。そんなバカなことがありますか。わたしは手帳を見ながら指折り数えていたんです。あなたが帰って来られることを」
 レフティは自然と、声が檄してきていた。
「確かに、治癒の術は難しい。人の目に触れても困る。でも教会長が、エレーナさまを暗殺しないとも言い切れない」
 エレーナの唇が震える。
「魔術師でしたよね、教会長は」
「そうです」
 レフティは、毅然として言い切った。彼女を見ると、すっかり血の気が引いた顔をしている。彼は暗い歓びを覚えた。
 自分よりも位の高い女が、自分の言いなりになる予感。屈服させることができる予感。
 そして、今まで自分をバカにしていた者たちを、一気に見下すことができる予感。
 彼は陰湿な予感に心を震わせながら、声をひそめる。
「しかし、この国の魔術師は能力が低い。たとえ教会長であってもね。だが、教会長を上回る魔力を持っている人間がいるんです」
「どういうことでしょう……?」
「カインです」
 エレーナの体が一気に冷たくなった。





☆こちらもランキング参加しております。もしも、面白かったらクリックしてくださったら嬉しいです。




もくじ  3kaku_s_L.png 各小説の属性
もくじ  3kaku_s_L.png 零―中邑あつし
もくじ  3kaku_s_L.png 狼になりたい
もくじ  3kaku_s_L.png 追憶の人
もくじ  3kaku_s_L.png おばかさん
もくじ  3kaku_s_L.png 作詞したもの
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png はんぶん、ずつ
もくじ  3kaku_s_L.png おしらせ
もくじ  3kaku_s_L.png 書き手の御挨拶
もくじ  3kaku_s_L.png 真珠
もくじ  3kaku_s_L.png 酔狂なレビュー
  • [魔王に抱かれた私……39]へ
  • [魔王に抱かれた私……41]へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
 
  • [魔王に抱かれた私……39]へ
  • [魔王に抱かれた私……41]へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。