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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……39

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39、失意の黄昏


 カインが足取りも重く教会にたどり着くと、エーベルが門扉の外側にいた。彼の着ているルーンケルン宮廷の制服には、少しも乱れがない。
 エーベルはカインを見るなり、顔をこわばらせた。婚礼の儀の最中とは、あまりにも違いすぎる。ごくごく短い時間で、体中、げっそりと削げてしまったようにも見える。
「ご無事で」
 エーベルが深々と礼をすると、カインは力なく右手を上げた。
「もしかして全部、きみがやってしまったのか?」
「はい」
 カインは肩を落とし、門扉を開けた。芝を見ると、まるで何事もなかったように綺麗になっている。
「わたしは用無しか」
 自嘲したようなカインに、エーベルが言った。
「大丈夫ですか?……早く部屋に戻りましょう」
 彼は警備官には答えず、敷石を踏みしめて教会の扉を開ける。ひっそりとした空気が満ちていて、今日の式典があったことも、竜巻や稲光があったことも嘘のようだ。
 カインは頭を振った。それから、肩ごしにエーベルに尋ねた。
「参列者の記憶も綺麗に消してくれたんだね」
「一日が恙無
つつがな
く終わったようにも、細工しました」
 エーベルは答えながら、正面に回る。カインの目から見た彼もまた、たった半日で、だいぶ頬が削げてしまっている。
「申し訳なかった。きみ一人に時間の巻き戻しからなにから、すべてさせてしまった」
 未来を先読みして都合よく先々を改変してしまうよりも、人の記憶を消したり操作する方が楽だ。エーベルは竜巻が現れた時から、腹を括っていた。
「構いません。それより、エレーナさまは?」
 カインは首を横に振り、ぼそりとつぶやく。
「ルーンケルンの宮廷に返した」
 エーベルは絶句した。本当に言葉が出てこない。
「……ル、ルーンケルンに?」
「ああ」
 カインが答えながら、自分の首をさする。大蛇の舌が絡みついていた首の周りの火傷の跡が、少しずつ消えて行く。
「相手は仕留めたよ。その時、言われたんだ。『暗殺される定めの者を、生かしておくからこうなる』とね。本当に皮肉だ、こちらの一番弱いところで帳尻が合う」
 エーベルは上官を見つめた。帳尻云々というのは、禁忌とされている術を使ったからだろう。しかし、一体、なにがあったというのだろう? そこまでエレーナさまは、カインさまを嫌いになったのだろうか?
 カインは部下からの視線をそらし、自らの頬を撫でた。
「我々は、魔族や呪術師の間では『裏切り者』らしい。おまけにエレーナさまには『触れるな』と言われたよ。覚悟はしていたが、もう本当に、わたしは『ただの男』に過ぎないようだ。あの方にだけは、心が折れる」
 カインの脳裏に、恐怖で引きつった彼女の顔が浮かぶ。こちらをまるで、ゴミでも見るかのような、あの目。激しく軽蔑したような、あの叫び。
 自嘲し続ける友を見ているエーベルの目に、涙が滲んできた。そんな彼を見たカインが「きみにも、済まなかった」と頭を下げる。
「きみも、わたしの共犯者として狙われてしまう」
「わたしのことは、別に構わないのです」
「なにが善人の定義なんだろう、わたしには難しかったようだ。本当に」
 カインは投げるように、乾いた声を漏らした。エーベルは指で目尻を拭う。
「差し出がましいようですが、わたしがエレーナさまの『心』に手を入れましょうか」
 上官は、ふっと口元だけで笑った。しばしの沈黙の後、カインは荒んだ目でエーベルを見た。
「しなくていい」
「な、なぜ? あなたが不利になるだけだ!」
 思わず大声になった彼に、カインは救われたように笑みをこぼす。
「そう言われると思っていたよ。わたしは今、決めたよ」
「なにを?」
 女王付秘書官が頬を緩める。
「必ず彼女を守り抜いてみせる。たとえ、どん底からでも這い上がって、彼女からの信頼を勝ち取ってみせる。これでようやく、レフティと対等になれた気がするんだ。わたしは、きみの言った通り『運命』を変えてやる。でなければ『善人になりたい』と、転生を願った意味がないんだ。きみも一緒にいてくれる意味も、全部なくなるんだ」
 エーベルの目から、次から次へと涙がこぼれた。
「承知しました」

 とっぷりと日暮れた教会の庭に、焦った表情のリーノ大尉がやってきた。
「ああ、よかった。こちらにいらしたんですね。ずっと探していたのですよ」
 リーノは二人を見つけて、心の底から安心したような顔をする。エーベルが口を開く。
「お疲れさまでした」
「こちらこそ、お二人がいらしてくださった御蔭で、良い式典になりました。ありがとうございました」
 実直な彼は、カインとエーベルを見比べて頭を下げた。カインは言った。
「本当に無事故だったのですか、それはよかった」
「はい」
 リーノはカインを眺めて不思議そうな顔をする。
「なにか?」
「事故はありませんでしたが、不思議なことがあるんです。警備兵の中で、ですね。ノートの中、名前は記してあるのに、顔も存在も知らない人間が四人おりました。部下に尋ねても『知らない』と言われるんです」
 エーベルが目を細めた。
「へえ」
 リーノは本当に不可解だ、と言いたげに唇を曲げて首を傾げる。その目は、こちらの二人にも、済まなさそうに映っていた。
「ノートの筆跡は確かに、わたくしのものなんですけどね。そんな虚構の人物を警備の配置をしていたのかと思うと、なんとお詫びしていいやら……」
 顔をほころばせたエーベルが、彼を励ますように肩を叩く。
「何事もなかったのですから、いいじゃありませんか」
「そうでしょうか?」
 カインはリーノの素朴な実直さに、思わず笑みがこぼれた。
「あなた方のお心尽くし、我々も、うれしく思いますよ」
 大尉はようやく、緊張がほどけたように満面の笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。今、警備に当たった者や設営に関わった者で、気持ちばかりの慰労の食事をしております。お二人とも、出席してはいただけませんか。それもあって探していたところです」
 カインとエーベルは顔を見合わせ、頷いた。
 リーノ大尉が、二人を眩しそうに見ながら言った。
「女王の名代役、本当にお疲れさまでした。是非とも次は、エレーナさまとご一緒に、いらしてください」





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