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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……38

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38、悪夢・2


 教会の礼拝堂に居合わせた大勢の人は、しわぶきひとつ起こさず婚礼の儀を見守っていた。主教が新郎新婦と全参列者に恵みの言葉を授けたのち、新しく夫婦になった二人は退場すると式次第は終了する。
 紫色のガウンを着た主教が、祭壇を背にして重々しく口を開く。
「汝らが往く道すべてに、光あらんことを神と共に祈る」
「ありがとうございます」
 深々と頭を下げた二人に、割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。すぐに新郎新婦は参列者を振り返る。二人は会場の中央に敷かれた赤い毛氈の上を歩き、教会の外に出るのだ。
 祭壇から見て右側にアネイリ国王と妃殿下、太子が並んでいた。第五太子の横では、エレーナ女王が拍手をしながら立ち上がっている。親族も含めた参列者は皆、新郎新婦の後を追いはじめる。
 カインは祭壇左側から人混みを縫い、近寄ってくる警護兵を見つけた。彼は目を細める。次の瞬間、その警備兵の背後から肩へと手をかけていた。
「まだ全員が捌

けていないですよ?」
 警備兵は紳士的なカインの物言いに、ぎょっとして振り向いた。カインは彼を見据える眼差しに、力を込めて呪文をつぶやく。
「消えろ」
 一言の言い訳をする猶予もなく、警備兵は消えていた。周りの参列者たちは気がついていない。カインは顔を上げてエーベルを見定めた。扉の近く、エレーナの背の真後ろ。警備兵がエーベルから、首を折られて消えていく。
 ふと感じる気配に、カインは眉をひそめた。
 教会内と外から流れてくる空気が、入って来た時とは違う。
「急がねば」
 濃く漂う思念は、エレーナだけを標的にするのを止めている。嫌な予感がした。開け放たれた教会の両扉からは、既に大半の参列者が出ている。新郎新婦は御影石の敷石を歩き始めていた。エレーナの姿は見えない。
「カインさま! 外に出てください!」
 エーベルが彼の目を見て叫んだ声がした。何人かの参列者が、こちらに振り向いたような気がする。カインはそれらの視線に構わず、一気に外へと駆け出した。
 その時。
 ごう、と音を立てて、空がうねりを上げた。教会に集っていた者たち全員が、音のする方を見る。
 城壁の向こう、ちょうど石橋の辺り。青い空の上、あっという間に真っ黒い雲が分厚く固まり、太い蛇が雲から生まれ落ちたように地表に降りる。
 竜巻だ。みるみるうちに、激しい風が巻きあがった。
 真っ黒い蛇の隣、まっすぐな稲光も落ちてくる。太い雲の渦が、吠えながら教会へと向かってくる。
「きゃああーーっ!」
「うわああ!」
 皆がしゃがみこむ。新郎が新婦に覆いかぶさり、参列者たちは飛ばされないように、屈みこんだり噴水にしがみつく。カインとエーベルは強風の中、必死でエレーナを探す。エーベルが必死で空を見上げ、手をかざした。
 カインは声を限りに叫ぶ。
「エレーナさま!」
 彼女の声は聴こえない。どんな小さな音も逃さずに聞き取れるはずの自分が、エレーナの吐息さえも聞き取ることができない。
 黒い蛇はエレーナだけを巻き取り、するすると上がって行った。不意に強風が鎮まり、エーベルが自らの前に両手を伸ばす。すると少しずつ、地表から邪悪な思念が消えていく。
 カインはエーベルに向かい、声を上げる。
「頼む!」
 彼が頷く間もなく、カインは消えようとする大蛇に向かって地を蹴った。
「エレーナさま!」
 彼は女王の名を呼びながら空高く、湿った邪念の霧の中に飛び込む。
 次の瞬間、カインは息を飲んだ。
 霧の中で真っ黒な大蛇が女王の細い体に、ぬめぬめと絡みついている。彼女は気を失っていた。履いていた靴は脱げ、髪飾りもどこかに取れて無くなっている。
 激しい風に煽られたせいか、ワンピースが袖から大きく千切れ落ちていた。ボロボロになったワンピースを、大蛇はチロチロと舌を出して剥ぎ取っていく。大蛇はカインを煽るようにエレーナの首に巻きつきながら、真白い乳房をはだけさせた。
 彼女の衣服が空の下方に落ちて行く。ほっそりした肢体を包んでいるのは、真っ白な下着
ショーツ
だけになっている。
「やめろ!」
 叫んだカインの脳裏、どこかが弾けた。彼は腰の剣を抜き、大蛇に向かって飛びかかっていた。斬りかかる寸前、大蛇は首をこちらに向け、鋭い牙を剥く。
 たじろいだカインに、思念の渦が降りかかる。
『この小娘が、そんなに大事か』
 大蛇は大きく唸り声をあげながら、首をもたげた。
 カインは大蛇の目と目の間をめがけ、問答無用に貫くように構えた。すると大蛇は、わざとエレーナの喉笛のあたりに、素早く頭を付ける。
『突いたらエレーナの命も失くなる。こちらの手間は省けるな』
「な、なにを……!」
『暗殺される定めの人間を、生かそうとするからこうなる。裏切り者め』
 カインの心に冷たい怒りが湧き上がった。
「黙れ」
 彼は剣を捨て、両手で大蛇の頭をつかんだ。大きく口を開けた大蛇の長い舌が、カインの喉元に絡みついてくる。焼けた火箸のように熱い。じりじりと肉の焦げる音と匂いがした。
 カインは大蛇の頭蓋を覆った両手に、力を込めた。
「そんなもので、わたしに勝てると思っているのが間違いだ」
『善人になろうなどと、おこがましいわ!』
 ビシッ、という音が響き渡った。
 大蛇の断末魔の悲鳴と同時に、脳漿が爆ぜて飛び散る。カインが大蛇の頭部を握り潰している最中、エレーナの息を戻した気配がした。
 彼女が恐怖に怯えた眼差しを、蛇ではなく彼に向ける。しかし、カインは手を離す訳にはいかない。とどめを刺しておかない限りは、何度でも蘇ってくるのだから。
「いやああーーーっ!」
 エレーナは宙を落ちながら、あらん限りの力で悲鳴を上げた。カインが上着を脱ぎながら、すぐに後を追う。
 彼女の体を自分の上着で包みながら、抱きかかえようとした時だ。
 エレーナ女王は激しく怯えながら、カインを睨みつけ大声で叫んだ。
「わたしに触らないで!」
 彼の胸が張り裂けそうになった。しかし、命令に従えばエレーナの体は真っ逆さまに落ちてしまう。
「落ち着いてください」
 カインは目を固く閉じ、エレーナの身を強く抱きしめた。そして彼女の耳元に、一言一言を噛みしめるように届ける。
「エレーナさま、落ち着いてください。今すぐ安全な場所に行きますから」
「ひぃ……っ」
 彼女は上着越しからでもわかるほど、がたがた震え続けている。カインの頬に、一筋の涙が伝う。

 胸が痛い。
 こんなことなら、この方の側にいたいなどと思わなければよかった。
 運命に逆らいたいなど、思わなければよかった。

 カインは目を見開き、抱きしめたままのエレーナに向かって言った。
「宮廷へ」
 腕の中は瞬く間に、からっぽになる。
 彼は体の半分を引き裂かれそうな痛みを覚えた。しかし、やらなくてはならないことがある。わたしには、まだ、仕事が残っている。
 カインは天を仰ぎながら、大地に降り立つ。彼は大きく深呼吸をした。
 そして、エディットの宮殿がある城塞都市をめざして足を踏み出した。




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