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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……37

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37、悪夢・1


 リーノは唇を固く結び、カインとエーベルを凝視した。
「とんでもありません。お二人が教えてくださらなかったら、婚礼の儀が終わり次第、わたくしは銃殺刑になってもおかしくないのですから」
 彼はそう言って、深々と頭を下げる。カインとエーベルは彼に対する警戒心をほどき、あらためて向き直った。
「明日は婚礼の儀、それと翌日と翌々日に、御披露目の宴席が設けられていますよね」
「ええ」
 リーノはノートをテーブルに置き、何枚かページをめくって指し示す。
「こちらが御披露目の際、一日目の警備の配置。そして隣が二日目のものです」
 エーベルが燭台を壁から取り、木製のテーブルの上に置いた。見開きになったノートの上段に、細かい式次第が書かれており、下方に大広間のスケッチがある。
 見た瞬間、カインとエーベルの頭の中に、サイレンス皇太子と花嫁が、大勢の招待客から祝福を受けている映像が浮かぶ。
 しかし、広いフロアの中にエレーナ女王の姿はなかった。二人は思わず、顔を見合わせる。
「どうかなさいましたか……?」
 リーノが落ち着かない様子で彼らに尋ねた。カインは、わざと目尻を下げた。
「大丈夫、きっと善い御披露目になりますよ」
「ありがとうございます」
 実直な大尉は二人にふたたび礼をして、部屋を後にした。エーベルは扉を閉め、上官であるカインに振り向く。彼の顔つきは厳しい。
 カインは悪びれる様子もなく、ぽつりと言った。
「こういう事態の折、あまり大尉の心は読みたくないな」
 自分たちは大尉と一緒に、チェスをしているわけではない。このツケは、必ずや我が身に降りかかる。
「エレーナさまを最優先に考えませんか」
 部下の一言が、カインの背中を押してくれる。彼は無言で頷き、大きく息を吸った。どの道、昨夜の聖堂で戦った時から覚悟は決めているのだ。
 水晶玉が予見してた「未来」を変えてみせる、とカインは思う。……あとは突き進んでみなければ、わからない。

 翌朝。
 善き日に、ふさわしい晴天となってくれた。エディット王室は皆よろこび、夜明けとともに国民や招待された貴族や賓客が次々に宮殿へと訪れてくる。
 カインとエーベルはルーンケルンの制服を身につけ、エレーナの部屋の前にいた。頃合いを見て、重い扉をノックする。
「……はい」
 中から小さな声がした。カインは扉を開けた直後、思わず声を上げそうになる。感嘆の吐息をつきかけた彼は、すぐに顔をほころばせた。
「お綺麗ですよ、とても」
 部屋の奥には、着替えや化粧を施してくれた女官たちがいる。彼女たちの誇らしげな顔のすぐそば。エレーナが、銀の縁取りが施された大きな姿見の前に立っていた。
「そ、そんな。なんだか恥ずかしくなってしまいます」
 彼女は頬をほんのりと染め、うつむいた。髪はアップにまとめており、すっきりした顔立ちが際立つ。淡い桃色のシフォンの、丈の短いボレロと同じ色合いの膝丈ワンピースは、カインがはじめて目にした物だった。
 ひとりの女官がカインを見て、くすりと笑みを漏らした。
「なんだか秘書官さまと、エレーナさまの御式みたいですね」
「と、とんでもありません」
 そうは言いつつも、彼は頬が熱くなってくる。カインの後ろで二人の遣り取りを見ながら、にやけた顔をしていたエーベルが咳払いをした。
「まいりましょう、カインさま」
 部屋を出るエレーナに、仕度を手伝ってくれた女官たちが礼をする。カインの隣にエレーナが並び、その後ろにエーベルが続き、宮殿の横にある教会へと向かった。
「この宮殿の隣に教会があると伺ったのだけれど……。迷いそうだわ」
 エレーナはカインを見上げる。
「本当に、ルーンケルンとは桁違いに大きい城ですからね」
「生まれてすぐに暮らすことになっても、迷子になりそう」
 城壁で囲われた敷地内、宮殿の横には同じくらいの大きさの教会がある。そこでサイレンス皇太子が婚礼の儀を行うのだった。
 今日から三日間、向こう岸と広い川を繋ぐ石橋が掛けられるようになっている。城壁の内側はルーンケルンの大きな町が、すっぽり入るくらいの広さがあった。そこでも市民は生活を営んでいる。
 カインは、ふと、横を歩くエレーナの顔を見た。
「なあに?」
 彼女はどことなく楽しそうに、カインを見上げる。
「昨日、あれからエーベルと、どうされていらしたのですか?」
 朝食後、侍従長と大尉が去った後、女王は警護官と一緒に出かけていたのだ。エレーナはカインを見上げ、いたずらっぽく舌を出した。
「内緒」
「えっ?」
 ぎょっとした秘書官に向かい、エーベルが笑いながら言った。
「城下にお忍びで、買い物に出かけただけですよ」
 カインは振り向き、本気で眉をしかめた。
「わたしの気も知らずに、まあ」
「エレーナさまの身を案じる事態が起きないと、わかった上でのことです。現に、こうして一緒に歩いていらっしゃるではないですか」
 エーベルは飄々としている。
 カインは苦笑いをするばかりだった。彼なりの気配りだろうと勘付くが、それにしても無防備すぎる。きっと彼は剣も持たずにエレーナと歩いていたのだ。
「まあ、わたしもきみも心配性だと、エレーナさまがお困りになってしまう」
 カインは、こめかみをぽりぽりと掻きながら前を向く。そんな彼に、エレーナが言った。
「船に乗ってくれた者たちのためにと、心尽くしの物を選んでいたんです。多分、昨日くらいしか自由に使える時間は無いだろうし」
 ごく自然に話す女王の口振りに、カインとエーベルは心が痛んできた。そして、同じことを思う。
 ――必ず、エレーナさまをお守りしてみせる。

 教会の門を入ると、ルーンテルン宮殿の中庭の三倍ほどの広さの、青々とした芝の庭園になっていた。真紅のバラがあちこちに植えられ、長方形に切り出された御影石の敷石が五列に並び、まっすぐ教会の入口扉へと向かっている。敷石で造られた道の途中には噴水があり、陽射しを浴びた水滴が宝石のように輝いていた。
「素敵……!」
 エレーナは目を輝かせてつぶやいた。
「広々としていると、こういう飾り方ができるのがいいわね」
「そうですね」
 歩きながら三人は、他に来ていた大勢の賓客や招待客と挨拶を交わす。カインの目に映るエレーナは、頬を幾分赤く染めているように見える。教会の入口の方から、エレーナを見つけた国軍大尉のリーノが真っ直ぐに歩いてきた。
「エレーナさま、おはようございます。どうぞ、こちらに」
 リーノに案内されて教会の中へと入る。掌で示された場所は、アネイリ国王や妃殿下の列席する位置のすぐ近くだった。
 大尉は声をひそめ、カインとエーベルに言った。
「急遽、エレーナさまの御席を、太子さまたちの横に作らせていただきました」
「恐縮です」
 頭を下げる秘書官と警護官に、リーノは手を振る。
「わたくしには、この式典をつつがなく終わらせる責務があります。お気になさらず」
 彼ら二人は、エレーナの真後ろになる位置の壁際に立つ。やがて、厳かに式典が始まった。

 何気なく目を光らせていると、リーノと同じ軍服の男が教会内のあちこちに立っているのがわかる。式次第は次々に進んでいく。
 カインが立っている場所からは、エレーナの髪をまとめた真珠の髪飾りと、ほっそりしたうなじが見える。彼女は一心不乱に、新郎新婦を見つめていた。おそらく心底、新しい夫婦を祝福しているのだろうと、カインは思う。
 エレーナは「女王」という重責があるけれど、ごく普通に、十代の少女の心を持っている。新婦の姿に重ね合わせる未来もあるだろう。
 未来、未来か……。
 カインは心で、そっとつぶやく。
 そんな不確定なことは知らぬ。わたしの今生の願いは、エレーナさまをお守りする、盾になることだ。思い至った彼の心に、聖堂での出来事が浮かんで消える。
 善人になりたいと願い、彼女の盾になりたいと願い、生まれてきた今生。どちらも手に入れて生まれてきた。けれども、どちらも失ってしまいそうな予感がする。
 しかしわたしは昨夜、誓った。エレーナ女王のためなら、どんなことでも……と。
 その時、彼の耳元でレフティの声がした。
 ――「善人になりたいなどと、笑わせるな!」
 様々なことを考えているカインの頭が、激しく痛み出してきた。己の指先から、徐々に血の気が引いていく。
「カインさま、大丈夫ですか?」
 エーベルは彼を上目遣いに見る。カインがかぶりを振って、エーベルに目配せをした。新郎新婦が教会の建物から退場していく時間だ。




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