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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……36

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36、式典前夜


 エーベルの真向かいには、エディット国軍大尉のリーノがいる。力強く話すリーノとは対照的に、侍従長のガルの眉間には軽く皺が寄っていた。
 彼らは本音を隠しているように思える。本当はもっと言いたいこともあるのではないか。エーベルは対面にいる二人の男の心の中をちら、と覗いてみた。
 ガルもリーノも、まず第一に「自分の国の威信に傷がつく」ことを恐れている。アネイリ国王が、こちらルーンケルンと国交を結びたいのは本心らしい。たとえ先々、ルーンケルンを侵略するような事態になったとしても。
 アネイリはルーンケルン女王を自国王室の婚礼に招待した事実があれば、東の国、ロードレに対して何らかの揺さぶりにもつながるのではと考えていたのだ。
 それにアネイリ国王は、エレーナに関心を持っていた。戴冠式の日に、ささいな事故を一つも起こさずに見事に仕切った手腕を知りたいと思っていたのだ。彼は、自らの国からルーンケルンに政治的動乱を起こそうとした人物が幾人か出たことを、苦々しく思っているせいもあった。
 それになにより体面として、賓客に傷をつけるようなことがあれば、自国民だけではなく対外的にも信用は失墜してしまう。
「この国は、海外の賓客の安全さえも守れない」という噂が立てば、代々の国王が必死で治めてきた苦労が水の泡になる。
 結果、ますます無法者が住みやすい国になってしまう。国王は、それだけは避けたい。特にエレーナ女王は、あらゆる人間から注目を浴びている。逆に彼女の安全を保障できれば、エディット王室の名前も東に対してアピールできるかもしれない。
 エーベルは素知らぬ振りをして、どことなく難しい顔をしている侍従長のガルに身を向けた。
「アネイリ陛下は、エレーナさまをご心配してくださっているのですね? 失礼ながら、わたくしどもは、信頼申し上げてもよろしいのですね?」
 ガルは胸のつかえが取れたような顔をして頷く。
「もちろんです。わたしは陛下のお若い時から存じておりますが、公にはいたしませんけれども、あの方も呪術師は好きではないのです。王室の意に反して、自治区を許すような破目に至っておりますが」
 エレーナがカインに、不思議そうに首を傾げた。
「なぜ、お父さまはエディットと接触を絶っていたのかしら」
 カインが答えるよりも先に、リーノが口を開く。
「デメテールさまのお考えは、わかります。デメテールさまはアネイリ陛下と違い、少しでも穢れたものは受け付けなかった。反対にアネイリ陛下は、清濁合わせ飲むところがございます。それが呪術師たちからは、『隙』にも見えるのでしょう。ただ、彼らはあくまでも王室の『間借り人』の集団でもあります。ですから、定めた法には厳しく従わせることにしているのです」
「そうなのですね」
 彼女は納得したような顔をした。カインはエレーナ女王に対する、エディット王室の考えを一通り聞き終えたと思い、口を開く。
「アネイリ陛下と皆さまのエレーナさまに対するお気遣い、聞かせていただき、納得いたしました」
「ありがとうございます。わかっていただけて光栄です」
 侍従長と大尉は顔をほころばせた。
 ただ、カインもエーベルも、彼らの言うことをそのまま受け取るのは抵抗がある。領土拡大のために、いつ攻めてくるか知らない相手であることには変わりない。彼らが手持ちのカードを何枚か見せてくれたとは言え、腹の底はわからない。
 エーベルがリーノに言った。
「了解いたしました。それでは申し訳ないのですが、明日の女王の警備に携わる人間の人数なども教えていただけませんか」
 相手が、わずかに目を見開く。エーベルは見逃さなかった。
「今すぐでなくても結構です。今夜までに見せていただければ」
「御意」

 夕食後、カインとエーベルは明日の準備をしている。二人ともルーンケルン王室の礼服を着て、エレーナの横にいるつもりでいた。昨夜、荷物から出していたジャケットとパンツについた皺を、改めて直していた時だ。
 部屋の扉をノックする音がした。
 エーベルが「どうぞ」と言いながら扉を開けると、リーノがノートを持ち、立っている。
「今朝はお寛ぎのところ、お邪魔してすみませんでした。こちらが、エレーナさまの警護に立ってもらう兵の名前と簡単なプロフィール、それと配置を書いたスケッチになります」
「ありがとうございます」
 カインとエーベルが丁寧にノートを受け取り、指し示された箇所を丹念に見て行く。誰もが国軍兵の精鋭に見える。おそらく、リーノなりに一生懸命考えてきたのだろう。プロフィールを見ただけで、それは十分に伝わってくる。
 しかしエーベルとカインは、大尉の顔をまじまじと見つめた。大尉は思わずカインの目を見返す。カインは言った。
「我々を運んできてくれた御者はともかくとして、この中に、何名か女王の御命を狙っている人間がいます」
「えっ」
「いや、御者も我々をいったん油断させておいて、ということも有りうる」
 リーノは愕然とした表情で、彼ら二人を見つめた。
「どういうことですか……」
「彼らテロリストは、どんな手でも使うということです」
 エーベルはそれだけ言って口をつぐみ、カインに目線を移した。人心を読む術を使うことを、彼から止められていたから。
 魔族にとって、これから起こりうる事件に関連する人間の心を読み、未来を予測することは禁忌なのだ。チェスの次の手を読む程度ならタブーに触れることはない。しかし、歴史が変わってしまうことを先読みの上、都合のよい回避をすると必ず破綻させた未来のツケが回ってくる。
 カインは首を横に振った。
「気に病むことはないよ」
 リーノだけが、二人に行き来する感情がわからない。エーベルは大尉の目を見据えた。下手に勘ぐられたら困る。
「あ、あなた方は一体」
 カインは人差し指を立て、唇の前に持って行った。黙って、のサインだ。大尉は思わず頷きそうになる。
「どっ、どうして?」
 それだけ言うのが精一杯だ。エーベルが彼に話しかける。
「わたしたちはエレーナ女王を、堅くお守りするために生きている。理由はそれで十分でしょう」
 大尉は絶句しつつ、二人の顔を見比べた。そういえば聞いたことがある。ルーンケルンには「魔王」と噂される人物がいると。今までは下卑た居酒屋や娼館で肴にしていただけの話だったけれど、もしかしたら。
 カインの声が聞こえる。
「工作員たちは、たった一つの使命を果たすために過ごしている。使命を果たす機会は、巡ってくるかもしれない、こないかもしれない。それでも注意深く、たった一つの『やるべきこと』のために過ごしている。彼らはおそらく、彼らの歪んだ使命を明日に決行するでしょう。わたしたちはなんとしても、阻止しなければならない」
 彼の心に、戴冠式の日に誓った言葉が浮かんだ。

 ――あなたを守るためならば、わたしは業火をも厭わずに解き放とう。

 カインは静かに言った。
「お役に立てるかどうかはわかりませんが、工作員も仕留めて差し上げます」





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