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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……34

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34、それぞれの葛藤・3


 エレーナ女王を載せた箱馬車は、峠を降りきった。御者はカインに、馬を走らせながら話しかける。
「この先に休憩所をご用意いたしております。わたくしが馬を取り替える間、皆さま方には、しばし外の空気を吸っていただきたく存じます」
「ありがとうございます」
 改めて前方を見る。エディットの兵士がさきほどまでとは違い、間隔を詰めて立ち並んでいた。背筋を伸ばした男性が着る、黒の詰襟に金ボタンの制服は凛々しく見えた。
 ふっ、と嫌な予感がしたカインが御者に尋ねる。
「警護に当たってくれる兵士の間隔が詰まってきたように思うのだが」
 御者は口笛を吹き、馬の手綱を手首に絡めた。
「この辺りからしばらく、呪術師の自治区に隣接しているのです。皆さまに安心していただけるように、様々なルートを考えました。農奴たちも以前から協力して道を作ってくれたのですが、どうしてもここ周辺だけは我々の力が及ばなかったのです」
 カインは彼の頬が軽くこわばっているのを察し、それ以上の言葉をかけるのを止めた。ただ、御者の話から考えると、西の王室は必ずしも呪術師の存在を好んでいないようだ。ルーンケルン王室と似た悩みがあるのかもしれない。
「後ほど、詳しくお伺いしましょう」
 カインの言葉に御者は頷き、馬の足を急がせた。言われてみれば峠を越えてから、配置されている制服姿の男の大概は、職業軍人としてキャリアを積んでいるのだろう。港から峠周辺はエディットの玄関口にも当たる。その周辺で見た警護兵と、明らかに顔つきや体格が違っている。
 やがて彼の眼前に、見覚えのあるような風景が広がりはじめた。
 辻を曲がり、石畳の広い道に出ると二階建ての建物が並んでいる。灰色の石造りの建物は、一階は商店、二階は宿屋になっているのだろう。道行く人の年齢や性別、格好も様々だ。
「拓けていますねえ」
 カインは、しみじみと声を漏らす。御者は彼に顔を向け、ほんの少しうれしそうにした。
「ここは、昔は首都だったのです。今はこうして宿場町のようになっていますが」
「へえ」
 彼は沿道に立ち並ぶ兵士の隙間から垣間見れる、賑やかな雰囲気に目を細めた。東の国・ロードレと積極的に交易を勧めている結果、人の出入りも多いのだろう。ルーンケルンの、のどかな雰囲気とは違う魅力だとカインは思った。
「もうすぐ石橋を渡ります。そこで昼食を取っていただきたく思います」
「ありがとうございます」
 箱馬車は進み、前方に大きな川が見えてきた。渡り切ると正面には、ルーンケルン宮殿とよく似た造りの城があった。
 城の内に入り、エレーナ女王たちはそれぞれ大きなため息をつく。床には余分なものが一切ない。人が隠れられるような彫刻も、美術品も置いていなかった。その代わり、天井が大きく吹き抜けになっているホールは、光が全面に降り注いでいる。もしも戦闘状態になれば、上から大量の矢を放つことができのだろう。
 エーベルは感嘆したように言葉を漏らした。
「堅固な作りですね……」
「昔は歴代の陛下がお住まいになっていたのです。しかし、国内に人が増えるようになり、不穏な空気になってきたので居を移されました。この近辺は昼間は安全なのですが、いったん陽が落ちると不審な者が増えてまいります。ご家族に万が一のことがあっては、いけませんので」
 御者の言葉に彼は眉をひそめた。
「不審者とは呪術師のことですか?」
「ええ」
 女王の秘書官と警護官は、互いに顔を見合わせた。
 二人とも、ルーンケルンから追放された呪術師たちが、この国に移り住んだ頃から、城を新しく建てて王族たちが転居したのかもしれないと思ったのだ。
 同時に、エレーナがカインを思いつめたような顔で見上げている。
「どうしました?」
「ルーンケルンの魔術師たちと、どう違うのか教えてください」
 彼女から、そんな質問が出てきたことは今までなかった。秘書官は、できるだけわかりやすく説明しようと試みる。

 魔族は二通りの人間に分けられる。魔術師と呪術師だ。彼らは日頃、滅多に不思議な力は使わない。
 彼らは、はるか昔から「よほどのことがない限り」自分の持つ力を使わないようにして、周りと共存してきた。なんでも魔法を使って解決すると、市民の経済活動などに大混乱が生じてしまうからだ。
 又、彼らの使える能力は、一人ひとり違う。
 能力や倫理観が高い者は聖職に就き、魔術師と呼ばれるようになり、ますます魔力を磨いた。逆に、魔力も低く、社会に溶け込めない志の低い者は呪術師となった。

 魔法を使える者は「混乱を生じさせるもの」として捕らえられ、殺害され続けた歴史を持っている。
 長い時間の中で「魔法を使える者」と「魔法を使えない者」の間には、不文律ともいえる取り決めができていた。
 昼間のうちは表立って呪術を使い、道を歩いている者を襲ったりはしない。そんなことをすれば、必ず突き止められ、殺されてしまう。
 もともと古来からの魔術の類いは、あからさまに人の目には見えないものだ。人の潜在意識に深く根を張り、芽が出るまで辛抱強く待てるものが淘汰されていくと考えられていた。
 ごく一部の呪術師のように、呪文を唱えれば即座に相手を殺められる能力は稀有な存在なのだ。しかし魔術師は、自分たち「魔法を使える者」が社会に溶け込むバランスを考えた。昼の間は、呪術師が暴走しないように常に目を光らせる。その代わり「陽が落ちてからは好きにしろ」とばかりに、彼らに対しての監視を止めた。
 人間たちは魔術師たちに対して感謝と敬意を表し、教会には積極的に寄付をした。
 エレーナ女王が治めるルーンケルンには呪術師はいない。聖職に就く魔術師がいるだけだ。彼女はお茶を飲んでいる間中、黙ってカインの話を聞いていた。

 一同は休憩を取り終え、箱馬車は再度、エディット国王が待つ城へと向かいはじめた。女王の対面には秘書官がいる。
 エレーナはカインに、努めて明るく話しかけた。
「馬車に酔ったんですって?」
 彼は少し驚き、それから頬を緩める。
「どうも狭いところは苦手です」
 彼女はくすくす笑いながら、彼の目を見つめた。
「カインにも苦手なことがあったのね」
「それはそうですよ、普通の男ですから」
 女王から見る秘書官は、なんとなく恥ずかしそうに見える。物心ついた時から彼と一緒にいる時間が長いせいか、喜怒哀楽はすぐわかる。
「そうね、ごめんなさい」
 彼女はカインの目尻が下がるのを見定める。心の奥底で氷のようにわだかまり冷え切っていた感情が、ゆっくりと溶け出していた。
 ……温和で優しいカインが、あんなに眉を吊り上げて、人を殺すわけがないじゃない。
 エレーナは対面にいる彼と、言葉を交わしながら感じている。昨夜に見たことは、すべて「夢」だということにしよう。きっと、今、目の前にいるカインが「本当のカイン」なんだろうと思う。
 おりしも、緩い坂道を登っている馬車の中に射し込む陽射しが傾いてきている。
「もうすぐ宮殿につくと思う?」
「そう思いますよ」
 カインは窓の外に目を移す。エレーナ女王の少しの言葉や動きで、心が揺れる自分を愚かだと思いながら。





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