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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……33

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33、それぞれの葛藤・2


 馬車は坂道を上がり始めたようだ。車内には沈黙が流れていた。背もたれに寄りかかるエレーナの耳には、さきほどから怨嗟の呻き声がこだましていた。
「エレーナこそが、今の我が民族の仇(かたき)」
 カインの声が、追うように耳の底で響いてくる。
「逆恨みだ!」
 そして、その後に見たものは。……あれらは夢だと言うのだろうか?
 わたしを守るために? カインとエーベルは、あんなに残虐な手段を使うの? 生きたままで、あの人たちを捕縛できないの?
 わたしたちを襲ってきたのが「呪術師」なの? あんなに剥き出しの悪意や憎しみに対抗し、助かるには残虐さしかないの? あそこまで?
 あれは夢じゃない、絶対に夢なんかじゃない。でも、わたしの体は傷ひとつ、ついていない。じゃあカインは? エーベルは?
 ……すべて思い出したら吐き気がしそう。これ以上は思い出さない方が、いいのかもしれない。
 彼女は片手でこめかみを押さえ、対面の秘書官に告げた。
「ごめんなさい、あなた方の言う通りかもしれない。わたし、本当に疲れている気がします」
 女王は相手がなにも言わずに頷くのを見届け、眼を閉じる。
「少し、おやすみになりますか」
 カインの優しい声がする。エレーナはそれには返事をせず、こめかみを押さえたまま口を開いた。
「馬車が停まったら、起こしてください」
「御意に」
 体の芯から澱んでいくような疲れを感じる。
 彼女は履いていた靴を脱ぎ、体を横に傾けた。ほどなくして胸の辺りから、なにかが覆われたような気がした。
 目を薄く開けると、カインが制服の上着を脱いでいる。女王の体に掛けられているのは、彼の詰襟チュニックだ。
「あっ」
 慌てて上着を返そうとするが、彼は手でエレーナを押しとどめた。白いシャツが目にまぶしい。
「お体が冷えてはいけません。汗臭かったら、申し訳ないのですが」
 カインの笑顔が、どことなく固く感じる。女王は見た途端に胸が痛んだ。もしかしたら、わたしのせいでカインは傷ついているのかもしれない。
「ううん、ありがとう。少しの間、貸してくれる?」
「どうぞ」
 彼女は目を閉じる。自分で寝ると告げたくせに、気詰まりな沈黙に耐えられない。いつも空気のように側にいて笑ってくれる人が、ぎくしゃくした笑顔で返事をする。
 かたかたと動く車輪の振動が、二人の腰から上に響く。
 カインの対面には、窓際にうずくまったエレーナの細い体がある。彼はいつものように、穏やかな気持ちで女王を見つめていられない。

 どうすれば互いが以前のように笑いあえるのか、わからない。

 エレーナ女王の脳裏には、カインの様々な表情が浮かんでは消えていた。
 父親から「今日から、おまえの勉強を見てくれるよ」と言われた時、子供心に「あのお兄ちゃんに会いたいな」と思っていたことが現実になったと思い、単純にうれしかったこと。
 それから誕生日を迎えるたびに、彼は、まるで自分の妹のように喜んでくれていたこと。
 わたしはいつから、彼と一緒にいる時に壁を作ってしまったのだろう。
 いつから彼は、わたしの頭を撫でて褒めてくれなくなったのだろう。いつも鳶色の目を細めて、わたしがなにかできる度に、うれしそうにしていたのに。
 少しずつ歳を重ねる度に、少しずつ互いに変わっていたような気がする。でも一体、どこが変わったんだろう?
 やがて彼女は、まどろんできた。わずかに体を動かすと、掛けてもらっているカインの上着から彼の匂いがした。
「汗の匂い……」
 女王が父を思い出して漏らした言葉に、カインが反応する。
「すみません」
「ううん、いいの。お父さまを思い出したから」
 エレーナは自分で言った言葉に、はっとして目を開けた。忘れもしない、お父さまの亡くなった夜。カインは、なんて言っていた? レフティは、そこにいた皆は、わたしも含めてどんな反応をしてた?
 彼女の脳裏に父を亡くした夜のことが、一瞬で浮かび上がる。
 あの夜、カインはお父さまを食い入るように見つめていた。
  ――廊下の人払いをしてくれ。そして、王女と一緒に、この部屋から出てくれ。
  ――わたしの言う通りにしてくれ。
 レフティが激しく彼をなじったけれど、なにをしようとしていたの? カインの立っていた床には、握った拳から赤い血がしたたり落ちていた。カインは唇を噛みしめて、なにかに激しく耐えているように見えた。
 なにを耐えていたの?
 女王の頭には、昨夜、聖堂の屋根の上で気が遠くなったことが浮かんで消えた。
 まさか、わたしの体から「なにか」を出して、戻したの? カインには、それができるの? お父さまに、それをしたくて耐えていたの?
 彼女は小さな叫び声を上げ、座席から飛び起きたように立ち上がった。カインの上着が床に滑り落ちて行く。
 直後に女王は気がついた。上着の持ち主が、青ざめた顔でこちらを見上げている。彼は深く傷ついたような目をして「エレーナさま」と言った。
「あっ、ご、ごめんなさい! せっかくカインが上着を貸してくれたのに!」
 我に返った彼女が腰を屈める前に、カインは床から上着を取る。
「一度、馬車を停めていただきましょうか……? 外の空気を吸いましょう」
 彼は上着についた埃を軽く払い、振り向いた場所にある窓から御者に話しかけた。
「すまんが、少し停めてくれるか?」
「御意に」
 エレーナは申し訳なく思い、カインに向かって頭を下げる。
「お気になさらず」
 女王は真向かいの声を聞きながら顔を上げる途中、彼の指先に、なぜか目が止まった。カインの血の気を失って真っ白になった指は、かすかに震えている。



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