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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……31

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31、それぞれの葛藤・1


 聖堂の午前十時を知らせる鐘が鳴る頃に、エディット王室からの迎えの馬車が来てくれた。
 身支度を整えたエレーナを見た西国宮殿からの無骨な印象の御者は、大きなため息をついた。
「なんとまあ、お美しい」
 女王は白のブラウスと、くるぶしまでの長さの紺スカートを身にまとい、薄化粧もしていなかった。しかし、すっと背筋を伸ばして御者に礼をした姿は品位があり、美しい。
「とんでもありません。宮殿まで、よろしくお願いいたします」
 エレーナは御者の目をまっすぐに見つめ、細い右手を出した。生まれながらに整った眉が少しだけ下がると、大人に成りきれていない黒い瞳がきらきらと揺れる。
 御者は思わず両手を上着の裾で拭った。彼はあわてながら右手を出し、女王と握手を交わす。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
 顔を上げた御者はカインとエーベルとも握手を交わし、皆で馬車へと向かう。焦げ茶色に塗られた天蓋付きの箱馬車は手入れが行き届いていた。一見して七、八人ほどは乗れそうだ。
 荷物を積み込んでから女王が先に中へと入り、真向かいにカインが座る。エーベルは馬を操る御者の隣に腰かけた。
 壁一枚隔てたカインに、雑談を交わすエーベルたちの声が聞こえる。
「呪術師の自治区の辺りを通り過ぎることは? それが一番の不安なのだが」
「宮殿には陽が落ちる前に着くと存じます。それに、もうすぐ宮殿から兵士が立ち並びますよ。ご安心ください」
「そうか、ありがとう」
「どういたしまして。皆さま、女王さまとお会いできることを楽しみにいたしておりました」
 エーベルの、ほっとしたような雰囲気が伝わってきた。
 カインは真向かいにいる女王が「呪術師」の言葉に指先を震わせ、頬がこわばったことを感じる。ちら、と彼女の顔を見ると、唇をきつく結んでいた。
「どうかなさったのですか」
 彼女は目をそらした。
「なんでもありません」
 彼から話しかけられたくなかった。昨日の夜に見た光景を思い返す。どう考えても、あれは夢なんかじゃない、夢にしては生々しすぎる。
 女王は目覚めてから徐々に、正気になりつつあった。
 カインが対面から、静かにこちらを見ていることを感じる。この人は昨日、わたしに、なにをした?
 一旦は背けた顔を彼の方へと移し、向き直る。普段のカインなら、秘書官として細々と注意をうるさいくらいに言うはず。なぜ今日は、それがないんだろう?
「カイン?」
「はい」
 彼は、にこやかに女王を見つめた。カインも内心、恐れている。昨夜に浴びた血の匂いは消したはず、彼女の意識も寸分たがわず、闇に隠していた体に戻したはず、だけど。
 ――エレーナの「心」にだけは、触ることができなかった。つまり、記憶だけは失くすようにできなかったのだ。
 それがこの先、彼自身が女王の存在を失うことになったとしても。カインは彼女の心にだけは、どうしても手を付けることができなかった。
 もちろん、エーベルには叱られた。彼ならば割り切り、彼女の真っ白くて繊細な心から、忌まわしい記憶だけを取り出して迷うことなく捨てただろう。
 そして、いつもと変わりない朝を迎えたはずだった。
 けれどカインには無理だったのだ。他ならぬエレーナの「心」にだけは、手を入れてはいけないような気がした。
 彼は動揺を悟られぬように、対面の美少女を見つめた。できるだけ、普段と同じように。
「エディット王室には、どんな方がいらっしゃるのかしら。も、もう一度、教えてください」
 女王の声が上擦る。
「アネイリ陛下と王妃さま御夫妻、それに殿下が五人いらっしゃいます」
「こ、今度、婚姻の儀を交わされる御方は?」
「皇太子のサイレンスさまでございます。御年、二十五歳だそうです」
「そう」
 エレーナは素っ気なく返事をしたあと、なにげなくカインの足元を見た。黒のパンツを膝下から覆い隠しているのは同じ色のブーツだ。
 昨夜の足元は編み上げのサンダルだった。素足に確か……赤い血が付いていたはずだ。女王は眉をひそめ、彼のブーツのつま先を凝視する。
「昨日のサンダルは?」
「履き替えましたよ」
 彼女は、当たり前のように答える秘書官へと目を向けた。
「ねえ、カイン」
「なんでしょうか」
「わたし、変な夢を見たの。聞いてくれる?」
 女王の黒い瞳が彼を、まばたきもせず見つめ続ける。
 カインの左の胸が、ずきずきと痛みだした。
「はい」
「あのね、わたしたちが泊まっていた聖堂の屋根にいるの。一人で」
「一人で?」
 彼は女王を見つめ、相槌を打つように言葉を出す。隠さなければ。なんとしても、気づかれないようにしなければ。
「そう。一人だったの。ふわふわ浮いていたの。自分の体を探していたのよ」
「へえ。面白い夢ですね」
 カインは、わざと肩をすくめた。いかにも興味深そうに、女王の目を見つめながら。
「そしたらね」
「ええ」
 彼女は真剣に話に聞き入っているカインを見て、言葉を探した。なんと言ったらいいのだろう。カインはエーベルとわたしを守ってくれたのに。
 女王は喉元にたまった、つばを飲み込んだ。
「か、体が見つかる前に、目が覚めたの」
「見つからなかったんですか?」
「ええ」
 エレーナ女王は肩を落とし、下を向いた。彼女の頭の中、満天の星の下で優しく微笑んでくれた、カインの表情が浮かんだ。
 優しさや慈しみを、いつも惜しみなく降りそそいでくれるカインと、面白いように人を殺し続けていた彼と、どちらが本当のカインなの?
 わたしは、どちらを信じて甘えていたらいいの?
 エレーナの胸一杯に、切ない気持ちが広がった。単純に切なくて、やりきれなかった。こんな気持ちを、本人を目の前に言えない自分が歯がゆかった。
 彼女は言葉を変える。
「お父さまも……。お隠れになった時、あんな感じだったのかしら」
 彼には答えるべき言葉が見当たらない。



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