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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……30

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30、襲撃・3


 耳を澄ませているカインに「ぱさっ」と、かすかな音が聴こえてきた。エーベルにも聴こえたのだろう。女王を背にした彼は、さりげなく斜め後ろに回り込む。
 フードをかぶり、うつむいていた彼女はエーベルの異変に気づく。カインが声を押し殺し、女王に囁く。
「声を出してはいけません」
 上官の声を合図にしたように、エーベルがランプを持ち替えて剣を抜いた。金属音が静かだった夜の空気に響き渡る。
 女王は息を飲んだ。いつの間にか目の前に、こちらに刃を向ける黒ずくめの人間が集まって来ていた。声を出すな、どころではない。彼女は叫ぶ前に眩暈で倒れそうだ。
 長い船旅から陸に上がったばかりで足元がふらついている。刃は皆、自分に向けてギラギラと輝いているように見えた。
 カインは女王の崩れそうな細い体を後ろからがっしりと抱きしめ、引き起こした。
「お気を確かに」
 彼女は力を振り絞って立とうとした。エーベルの背中が、すぐ目の前にある。彼が抜いた剣の切っ先が月の光にきらめく。
 相対して、にじり寄りつつある刃の数は遥かに多いように思える。カインとエーベルは、そこかしこから激しい憎しみも感じ取った。
 エーベルは左手に持っていたランプを、なにも言わずに一人の男に投げつけた。女王の真横にいた男の体が即座に炎に包まれる。
 男は剣を持ったまま絶叫しつつ、剣を横に構えて飛びかかって来る。女王に火の粉がかかる直前、耳元でカインの声がした。と、同時、燃えさかっていた男の体は、頭から真っ二つに裂けて消えた。
 信じられない光景に女王が身動きできなくなった時、エーベルの落ち着いた声がした。
「カインさま。エレーナさまを」
「わかった、すぐ来る」
 カインは彼女の体を支えたまま、振り向きつつ聖堂の屋根へと飛び移った。
「えっ? カ……?」
 言いかけたエレーナに構わず、体に覆いかぶさり屋根へと伏せさせる。彼は追手の気配を、聴覚でとらえた。
 カインは一瞬で覚悟を決める。
「こちらにいらしてください」
 身を離したカインに、彼女は絶句したまま半身を起こそうとした。その時。
「動かないで!」
 立ち上がっていた彼は、エレーナを強い口調で咎めた。彼女の心臓が破けそうに高鳴る。カインはエレーナに手をかざした。あっ、と思う間もなく彼女の意識が遠ざかる。
 彼はエレーナから意識を抜き、体を夜の闇に隠した。エレーナは我が身に、なにが起こったのかわからない。
 カイン! 
 エレーナが渾身の力で叫んでも、すでに声は音になっていない。カインが腰から剣を抜き、振り向きざま。上ってきていた黒影を、脳天から叩き斬る。
 宙を漂う彼女の意識がとらえるのは、叫び声を上げて屋根から落ちていく黒ずくめの男だった。息つく間もなく、カインの背中から頭上に飛び上がり、剣を振りかざした男が見える。
 彼は口元を緩めつつ身を翻し、その男の胴体をなぎ払った。それからすばやく、聖堂の屋根から降りた。すると、真っ二つに裂けたはずの男の身がよみがえり、月を背にして再度、カインに襲いかかる。
「わたしに勝てると思うな!」
 地に降りた彼は素早く振り向き、左手を男の左胸に伸ばす。カインの手はめりめりと激しい音を立て、男の体に入って行く。
「う、うあああ!」
 無意識に男は、めりこんだ手をつかもうとした。それを男の肩から斬り落とす。
「馬鹿め」
 彼の手は男の心臓を取り出し、発火する。男は驚愕の表情を浮かべ、燃える自らの心臓を目の当たりにしつつ絶命した。
 女王の意識は「からだ」の形のまま、拡散せずに屋根の上を漂っている。彼女は眼前に、おぞましい光景が広がることよりも、我を忘れてカインの姿を追っていた。
 エーベルが門の手前にいる。カインは飛ぶように走り、彼の加勢に入って行く。背中合わせになったエーベルは下段に、カインは上段に剣を構えた。
「殺せるものなら殺してみろ」
 いつもは優しく微笑むだけの、深緑色の瞳の男が口元を上げて呪術師たちを煽る。女王には、はっきりと、カインの鳶色の眼が光ったのが見えた。
 剣を振り上げ叫びながら、二人に斬りかかる男が叫ぶ。
「エレーナこそが、今の我が民族の仇(かたき)。邪魔する奴は許さぬ!」
 眉をつり上げたカインが、その刃を頭上に受けた。
「逆恨みだ!」
 彼はぎりぎりと迫る男の間合いを外し、体を翻す。一瞬の隙を突いたエーベルが背後から男を肩口から脇まで、音を立てて袈裟懸けに斬り落とした。
 肩から斜め下が無くなった男が呻く。
「祖国を追われた者の気持ちが、貴様らに、わか」
 カインが額に剣を突き立てた。最後まで聞く必要がないと言わんばかりに。
「エレーナさまには関係のないこと」

 エレーナは意識だけしかない、なのに、それさえも失せそうなほどの眩暈を感じる。
 民族の仇?
 自分と共に来た二人は愉しむように、踊るように、生身の人間を切り刻んでいるように見える。気を取り直して見ると今度は、エーベルが身をかわして人影を惑わせ、カインが戸惑った男の脚を薙ぎ払い、心臓に剣を突き立てていた。
 呪いを含んだ呻き声が次々に上がる。とどめを刺され、目を剥いて叫ぶ男の胸や喉から、勢いよく血が噴き出す。

 埠頭の白い石畳の上、エーベルに脚を斬られ倒された男が仰向けの姿勢で唇を動かした。
「か、必ず……ルーンケルンに」
 カインが剣を振り上げ、男の首を刎ねる。夜目にもわかる血しぶきが、カインの足元を激しく濡らす。
「無駄だ」
 その声は恐ろしく冷酷で、カインのもののようでいて、彼のものではないような気がする。二人とも別人に見える。自分の知らない、男の顔が二つ。
「あの人たちは、一体、誰なんだろう……」
 女王は気が遠くなった。

 気がつくと、温かいシーツの上に寝かされているような気がした。乾いた風が流れてくる。いくつもの人の声が反響して聞こえてくるような気もする。
「お目覚めですか」
 黒髪に鳶色の瞳の男が、こちらを見下ろして笑いかけていた。
 女王は飛び起き、彼に向かって声を上げる。
「カイン? 本当にカインなの? わ、わたしは一体……!」
 彼女は叫んだあとで「声が出る?」と思った。そんな女王を、脇で立っていた警護官が銀白色の髪を直しながら微笑んだ。
  二人の男は、ルーンケルンの宮廷付の臣下の制服に着替えている。エレーナ女王は目を疑った。紛れもなく紺色の詰襟チュニックは見慣れたもの、だけど。
 これは現実なのだろうか?
「あなたがたは、だ、誰?」
 カインは意外そうに目を開き、くすりと笑いながらエーベルに話しかけた。
「旅の疲れが出たらしい」
「そのようですね」
「違います、旅の疲れなどではありません!」
 エーベルのような、昨夜は別人に見えた男が深緑色の目を細める。
「憶えていらっしゃらないのも当然でしょう。陸に上がった途端に、眩暈を起こして倒れられたんですよ」
「えっ……?」
 違う、この人たちの言っていることは違う。エレーナ女王はカインの顔を凝視する。しかし、彼は顔色ひとつ変えようとしない。
「エディット王室から、もうすぐお迎えの馬車が参ります。その前に、お顔を洗っていらっしゃい」
 女王はタオルを差し出された。見るからにふわふわした、乾きたての白いタオル。彼女は黙って受け取り、ベッドから降りて、よろよろと立ち上がった。
 広い建物の中には、異国の言葉が飛び交っている。部屋の隅から隅までベッドがあり、その脇には旅支度をしている人だらけだ。
 どうやら夜が明けて、だいぶ経つらしい。異国の言葉でも、旅立ちの心は伝わるものだ。
 彼女は指をさされた洗面所へと歩きながら、二人の男の方を振り向いた。目が合ったエーベルがにこやかに笑い、彼女に目礼をする。

 あれは夢だったのかしら? 彼女はよろけながら、自分の着ている服に目が止まった。黒い法衣ではなく、白のブラウスを身に着けている。

 わたしは本当に、夢を観ていただけなのかしら?



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