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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……29

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29、襲撃・2


 船室から、暮れていく空の色を見たカインがつぶやく。
「まずいな……」
 彼の後ろにいたエーベルも同じように空を見て、ため息をついた。
「荒れそうですね」
「ああ」
 悪天候では接岸できない……二人とも、そう考えていた。碇が下ろせなくなるのだ。しかも雲の流れ方もめまぐるしく、波も急に大きくうねっている。
「もうすぐ暴風雨が来ると思う」
 カインの声にエーベルは頷いた。港に着く前に、雨風は避けていたい。彼らは天気を操る魔術は心得ている。
「治めるように、いたしましょうか」
「そうしようか」
 おそらく、季節の変わり目を告げる雨風だ。
 なにかが変わる潮目には、必ず大きな変化があるものだ。エーベルが同意したのを受けて、彼は手に持っていた水晶玉を目の位置まで掲げた。
「その前に」
 部下が怪訝な顔をする。
「どうかなさいましたか。最近また『預言』が変化しているとか?」
 カインはいかにも納得できないと言いたげな顔をして、目線を投げた。
「その通りなんだ。水晶玉がなにかを訴えかけた時は、外れたことがなかったのに」
 エーベルが咎めるような目つきになった。
「違う。水晶玉が云々じゃないでしょう、カインさまの心が揺れているからですよ」
 カインは眉をしかめる。その顔を見た部下が肩をすくめた。
「わたしはきみが思うほど、弱くはない」
「心の基軸が揺れているから、視える未来にブレが生じるんです」
 言葉の意味は理解できる。が、納得することができない。カインはほんの少し、息を継いだ。
「違う可能性は考えられないのか?」
「あることはある、でしょう。未来なんて『生もの』ですからね。ところでカインさまが視たもの、とは?」
 彼は部下の問いに、部屋の隅に顎を向けた。壁にはカインの腕の長さほどの、剣が立てかけてある。エーベルは頬をさすり、上官を見る。
「今夜あたり、ありそうですね」
 カインは戦いたくない。水晶玉からの予見が外れてくれたらいいのに、と思っている。女王に少しでも、血なまぐさい場面を見せたくない。
 逆に横にいる部下は、必ずしも敬遠はしていないようだ。
「そろそろ操縦の交代の時刻なので、わたしはそちらに行く。きみはデッキに出て、停泊できる程度の天気に治めてくれ」
「かしこまりました」
 いつしか部屋の中は暗くなっていた。かすかに雨が窓を叩く音も聞こえてくる。
 暴風雨さえしのげれば、安全に港に着くことができるだろう。カインは念のため、腰に剣をたずさえて部屋を出る。

 操縦室にはヴァリオがいる。扉を開けたカインは剣を持ったまま、舵輪(だりん)を握る彼に向かって呼びかけた。
「代わろう」
「ありがとうございます。実は雲の様子がおかしいので、進むべきかどうしようか迷っていました」
 不安を隠しきれなかったような彼の声に、カインが口角を上げる。
「夜間の停泊の経験は?」
「二度ほど。晴天の時ばかりですが」
「安心しろ、我々が港に到着するまでは暴風雨にはならん」
「はっ」
 ヴァリオが立ち上がり、上官に舵輪を譲る。カインは座りながら、片手で目頭をつまむ彼の方に顔を向けた。
「きみに頼みたいことがある。ロニーにも伝えてほしい」
「なんでしょうか」
 返事をした彼は、思わずカインを凝視した。ランプに照らし出されたカインの顔つきは厳しく、今まで見てきた上官とは別人のような気がする。
 ヴァリオは姿勢を正した。
「わたしやエレーナさまが不在の時、皆と力を合わせて、この船を守ってほしい」
「御意にございます」
「船はもうすぐ、港に着くことができるだろう。碇を下ろしたら、わたしとエーベルは共に女王をお連れして、船を降りて聖堂に向かう。聖堂の中にあちらの王室の迎えが来ているかどうか、わからないのだが。もしも待っていてくれたならそのまま宮殿へと向かう。いなければ朝まで聖堂で過ごし、迎えを寄越すようにするつもりだ」
「全員、降りなくても構わないのですか?」
 彼は素直な疑問の声を出したように思える。カインは言った。
「船が一挙にガラ空きになるのは避けないとね」
「失礼しました」
「構わん。本来ならば、一刻も早く皆を陸に上げたいんだ。船上生活は意外に、体に負担がかかるのは知っているからね。ただ、皆は朝が来てから出て行った方が安全だと思うんだよ。丸腰であっても、陽が出ていれば、おいそれと盗賊も襲っては来ないだろう」
「はい」                                           
 カインは年若いヴァリオの表情が段々、こわばってくるのを察した。
「心配しなくていい。運が良ければ明日の朝はエーベルもわたしも聖堂の中で、きみたちを待っている。それから皆に伝えてくれ。くれぐれも降りた直後に深酒はしないようにと。頭の血管が切れて倒れるからね。しばらくは蘇生の術を施せる人間がいないから、ルーンケルンにつくまでは細心の注意を払ってもらいたい。先にも言っているが、一週間経ったら皆と帰ってくれ」
「御意」
 礼をして退出したヴァリオが、廊下に出るなり他の乗組員を集める気配がする。カインは舵輪を握り、石造りの港を目指す。エーベルの術が効いているのか、窓を叩く雨は勢いも弱くなっている。
 カインの頭の奥底が、ちりちりと痛み出す。
 水晶玉は停泊した状態で、女王が船内にいる時が危険だと教えてくれていた。ただ、エーベルに話した通り、最近は「水晶玉の予見」が絶対、とは言い切れないのが不安の種だった。
 彼ら二人は考えた。夜半に港に到着した時に襲撃があった場合、船内で格闘になれば巻き添えになり、死傷する乗組員も出るかもしれない。
 もしも船外から一歩でもエレーナ女王が出たら、呪術師たちは船の中までは襲ってこないだろう。彼らの狙いは女王だけだ。
 カインとエーベルは決めた。夜間に港に到着した場合、聖堂まで女王を送り届けようと。聖堂の中は呪術師たちは手が出せない。
 自分たちが船を降り、聖堂に入るまでの間に何事もなければ一番いい。しかし、襲撃には船を付けた所から聖堂までの間がチャンスだろう。
 そこを逃れられても、エディット王室から警護が来なければ、呪術師自治区周辺で危険な目に遭うかもしれない。
 ともあれ、乗組員たちの安全は保障しなければならない。もちろん、女王は命に換えても守り抜きたい。
 どちらも守りきれる、最善の道を選ぼう。カインたちには苦渋の決断だった。
 エディット王室が、こちら側の到着を心待ちにしていることは知っている。しかしカインとエーベルには「他者を保護する目的の術」や「他者を保護する目的の予見」の能力が、決定的に欠けていた。
 だから、あちらの王室が、聖堂に泊りがけで自分たちを待ってくれているかが読めなかったのだ。
 そういえば、西の呪術師が戴冠式に言っていた。
――「あんたが噂の魔王さまか」
 奴らはこちらの存在を知っている。そう思った瞬間、カインの頭が痛み出す。全身が、なにかを予兆して泡立ってくる。戴冠式の日に誓ったことがよみがえる。
 あの時、エレーナのためならば自らが盾になろうと誓った。わたしは業火をも厭わずに解き放とう、とも誓ったのだ。

 たとえ彼女が、わたしを下僕としか思っていなくても――?
 わたしはそれでいいのだろうか? 満足できるのだろうか?
 レフティに汚される女王の未来にショックを受けてうずくまるだけの男が、本心から二人を祝福できるだろうか?

 カインは首を振った。
「『運命』なんて逆らえばいい」
 いつしか、エーベルが言っていた言葉が口をつく。それが多分、正直な気持ちなのだ。舵輪を握りしめている手が汗ばんでくる。泡立ってくる全身が教えているのは身の危険。自分にも、自分の最愛の女性にも。
「邪悪な者には、指一本触れさせぬ」
 正面には大きな窓が広がっている。雲の切れ間から、半月が見えたような気がした。
 視線を下に移して目を細めると、遥か向こうにぽつんと浮かんでいる篝火が見えた。灯台だ。
 彼は肩から少しだけ力を抜き、舵輪から手をいったん離した。
 大量に汗をかいた掌を膝に押し当て、舵輪を握り直す。その時、操縦室の扉を叩く音がした。
「どうぞ」
 見るとヴァリオとエーベルが並んで立っている。ヴァリオは表情が固いままだった。二人とも腰に剣を差していた。
「ありがとう。もうすぐ碇を下ろせると思う、朝が来るまでは気を緩めないでいてくれよ」
「御意」
 カインはエーベルを無言で見つめた。余分な言葉は必要なかった。
「もうすぐですね」
「頼む」
 やがて彼は埠頭に船を停め、静かに碇を下ろした。少しずつ、分厚い雲が取れていく空に煌々と半月が浮かんでいた。
 ランプの灯を掲げたエーベルを先頭に、女王を挟んだカインが乗降口を降りて行く。三人とも黒の法衣を着ている。
 彼ら斜め前方に、ルーンケルンの宮殿より一回りほど大きな聖堂があった。赤煉瓦を幾重にも積み重ねた聖堂の手前、広い門の両端には剣を抜いた、いかめしい顔つきの勇者の像がある。
 月灯りに照らされた聖堂に行きつくまで、それほど距離は離れていないように見える。が、そこに行き着くまでの間、昼間に商売でもしているのか、ぽつりぽつりと木造の建物がある。カインは耳を澄ませ、周りの音のすべてを聞き取ろうとしていた。
 エーベルが軽く振り向いて、女王に声をかける。
「お足元、気をつけて」
「……はい」
 彼女が小さな声で答えた直後、カインの耳に「ぱさっ」という、明らかに三人の物ではない衣擦れの音がした。





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