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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……27

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27、抱きしめたい


 エレーナは戸惑いながら、カインに問いかける。
「自分が?」
 彼は女王よりも戸惑った笑顔を浮かべた。
「あなたも。軍閥も、レフティも……大事に思っている人間は、誰ひとり失くしたくないんです。その気持ちは、わたしにもよくわかります」
 彼女はカインに、唇を震わせながら応えた。
「わたしはあなたを、ないがしろに思っているわけではないんです! そうじゃないの、そうじゃないのに、あの時は誰一人、カインのことを庇う発言がなかったんです。わたしも勇気がなくて、結局、あなたを危険に晒すようなことになってしまったんです」
 彼は女王の目を、じっと見つめる。
「わたしは……レフティが大事です。でも、カインのことも」
 カインがエレーナの話を遮って口を開いた。
「エレーナさまは、正しいことを仰ったんです。なにも気に病むことはありません」
 彼女は左の胸が痛くなった。カインの表情は笑っていながら、とても悲しそうに、なにかをあきらめたようにも見える。
 カインも女王と同じように心が痛かった。エレーナが一心に愛情を傾けているのは自分ではない。女王の「生きていて欲しい」存在が、レフティであることも承知のつもりだった。こうして西へと行く道を、彼女に付き従うことも折り込み済みだ。
 しかし、予想以上にエレーナが傷ついている顔を見ると、彼の方がやりきれない気持ちになってくる。女王は彼を直視できずに顔を覆った。
「わ、わたしは……。レフティには、生きて欲しいんです。お父さまのように、急に手の届かない、声の聞こえないところに行って欲しくないんです」
「……存じております」
 低い声がエレーナへと、夜風に乗って届く。
「そのためにカインを、わたしは失いかけているのに? あなたやエーベルの安全を奪ってしまうかもしれないのに? それでもあなたは『承知しました』って言うの?」
「申し上げますよ、あなたの仰せの通り」
 カインは静かにグラスを床に置いた。上目遣いに女王を見ると、細い肩を震わせている。
「わたしにエレーナさまを責める権利はありません」
 女王は顔を覆っていた手を外し、うつむいたままだ。カインは左の胸を押さえつつ思う。なんと言ったら彼女が笑ってくれるだろう。
 黙ったままの二人の間に、幾つかの星が流れた。
 カインは軽く息を吸った。
「エレーナさま」
 エレーナは下を向いたままで、小さく肩をすぼめる。
「あなたはまるで、西に行く途中、わたしやエーベルが死んでしまうことを前提に話しているように聞こえます」
 女王は顔を上げてなにかを言いかけ、激しくかぶりを振った。カインの眼差しは、どこまでも優しく彼女を見つめている。
「わたしとエーベルは命に換えても、あなたをお守りいたします」
「そういうことでは……!」
 カインは必死に自分の気持ちを訴える女王に、大きく頷く。
「ちゃんと、承知していますよ。断言いたしましょう。なにがあっても、わたしや彼も、もちろんエレーナさまも。無事に宮殿に帰るのです。安心してください」
 エレーナは唇を震わせたままで彼を見つめた。
「なにがあっても、ですか?」
「ええ」
 カインは微笑み、立ち上がった。そして、エレーナの肩にそっと手を触れる。
「ワインも全部、開けてしまいました。エレーナさまもご自分のお部屋でお休みください。これから夜明けにかけて、もっと空気が冷えてまいります」
 彼女はカインを、半分、泣きそうな顔で見上げた。
「本当に断言できるのですか?」
 エレーナの目線に合わせるように、彼は腰を屈める。カインは言いかけた言葉を飲み込み、おずおずと唇を開いた。
「わたしはあなたのためなら、どんなことでもいたします」
 彼女はカインの柔らかく光る鳶色の瞳を、じっと見つめる。吸い込まれそうな光をたたえた彼の目が、エレーナの傷ついていた心を癒した。
 女王は怯えながら彼を見返す。
「ど、どうして?」
「えっ」
 カインは少し驚いて彼女を見つめた。エレーナは、まばたきもせずに自分を見ている。彼の心が震えた。
「あなたには『打算』や『利害』という感情はないのですか? どうしてそんなになにもかも、達観したように、わたしに付き従ってくれるのでしょう」
 彼は頬を緩め、ふたたび女王の肩を叩いた。さっき触れたときよりも、少しだけ力をこめて。
「エレーナさまにお仕えすることが、わたしの使命だから」
「使命?」
「そう」
 心の中にある、ありったけの気持ちを全て吐き出してしまえたら。お互いにそう思いながら、言葉で全てを表すことができない。
 エレーナがカインをしばらく見つめ、それから口元を緩めて笑顔を作る。
「わたしの側にいてくれる人たちが、みんなカインみたいな人だったら良かったのに」
 彼は女王の子供っぽい言葉に、小さく笑った。

 カインは女王を「足元が危ないから」と言いつつ、壁に掛けてあったランプを持って部屋まで送る。
「ありがとう。おやすみなさい」
 エレーナの言葉に、彼は頷いた。
「灯りは要りますか?」
 彼女は首を横に振った。いつ陸に上がれるか見当もつかないのに、蝋燭の無駄使いをすることはできないと思ったのだ。
「多分、要らないと思います」
 エレーナは船室の扉を開ける。月灯りが部屋の中ほどまで照らしていた。彼女はふたたび、カインに顔を向けて笑った。
「明るいから、大丈夫みたい」
「……わかりました。おやすみなさい」
「ありがとう、おやすみなさい」
 エレーナが扉を閉めた後、カインは壁にふたたびランプを戻してため息をつく。左の脇には畳んだ毛布と、手には空になったワインの瓶がある。
 こつこつと歩きながら、彼は右手で頭をかいた。

 エレーナはベッドの中で遠ざかる足音を聞いていた。ひたひたと眠気が近寄ってくる。
 彼女の落ち着いた心の中、急にレフティの含み笑いが浮かぶ。
「エレーナさま。仰せの通りにいたします」
 あの時、彼はそう言って頭を下げた。顔を上げてからの、別人のような笑い顔。仰せの通り……言葉では服従を誓い、内心では明らかにわたしの意志と違う思惑をたたえていた、あの顔。
 女王はベッドの中で「あっ」と思わず声に出す。
 あの時に感じた違和感が、航海に重くのしかかってくる気持ちの原因なのかもしれない。



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