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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……26

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26、憂い・2


 エレーナは帆船のデッキに出ていた。
 静かな夜だ。普段は馴染みのない潮風が、後ろで一つに束ねた髪にまとわりつくような気がする。
 初めての船旅なので、なかなか体が慣れてくれない。
 それでも今夜、少しだけ気分がよくなってきた。この船に乗った皆が彼女を心配して、あれこれ世話をしてくれることを申し訳なく感じている。
 彼女がカインとエーベル、加えて幾人かの使用人を連れて航海した時から何日か経っていた。幸い、天候には恵まれている。
 夜空を見上げると星がきらめき、まるでこちらを見下ろしているかのように感じる。高い山の上から見る星空も綺麗だが、夜の海から見上げる空も格段に美しい。
 やがて女王は、月のそばに寄り添うように光る星を見つけた。白く輝く星が、紙のように薄い月の少し上から微笑んでいるようにも見える。
 彼女は思う。
 この夜空は、レフティのいるところにもつながっている。
 不意に、戴冠式前日の宮中会議のことが思い出されてきて赤面した。
 ――わたしをこれ以上、悲しませないでください。
 我ながら、大勢の臣下が居並ぶ前で思い切った発言だったと思う。
 会議でレフティを見つめ、精一杯の気持ちを込めて言った言葉。エレーナには、生涯で初めての「恋の告白」でもあった。
 あれからずっと考えている。彼はわたしのことを、はしたない女だと思っていないだろうか。案の定、聞こえてきた陰口のような言葉もある。
 彼女は小さくため息をついた。別に、レフティだけを特別扱いなんてしていない。彼本人も、そう感じているはずだ。
「でも、もしも……気持ちが、まっすぐ伝わっていたらうれしい……」
 最近、くじけそうな時に思い出す光景がある。傷つき、倒れて息絶えていたレフティが蘇生した瞬間のことだ。
 あの時、彼はわたしを抱きしめてくれた。
 レフティは迷うことなく、両腕をこちらに向かって差し出して出してくれた。彼の逞しい腕や胸に包まれた、ほんのひととき。
 あの思い出が、泣きたくなった時に支えになってくれているのだ。
 エレーナは泣きそうな顔を隠すこともなく、たゆたう波を眺める。そして、そっと胸を押さえた。
 警護官が教えてくれた。その昔、王室が途絶えそうだった時に「戦士」に救い出された赤ん坊は、胸にホクロがある女の子だったと。
 その日からふたたび、ルーンケルンは始まったのだ。
 エーベルに教わった翌日から、何度も夢に見た。高々と天に掲げられた幼子は、わたしだ。無心に微笑んでいるわたしをレフティが、がっちりとした力強い腕で支えてくれている。
「戦士」は幼子を助け出した後、どうしたのだろう。そのままどこかに行ってしまったのだろうか。
 二人で新たに王室のために生きて行かなかったのだろうか。そこから先のことは、警護官は「知らない」と言った。お父さまなら、知っていたのかもしれない。
 女王は涙を浮かべて首を振る。
 戦士と王室の人間では、生きる世界が違いすぎる。結ばれるはずもない。
 暗い海へと、涙がこぼれ落ちて行く。
 わたしは、この行き場のない気持ちを抱えたままで日々を過ごしていくのだろうか?  よほど価値観が変わることがない限り、「行き場のない気持ち」が報われるチャンスさえもない。
 思い詰めたエレーナの目から、堰を切ったように涙が溢れてくる。彼女は声を殺して泣き続けた。

 今まで、気がつかない振りをしていたことがある。

 もうすぐ、わたしにも婚姻の話は当然のように出てくるだろう。
 お父さまは側妃を作ることを嫌った。今となっては、男の「血族」がいないことが悔やまれるけれど、運命を恨んでも仕様がない。
 婚姻の日、教会の礼拝堂で教会長から祝福を受けている。その時、隣にいてくれる人がレフティだったらいいのに。
 どうすれば彼のそばにいられるのだろう。どうすれば彼に気に入ってもらえるのだろう。その時、カインは?
「カインは祝福してくれるのかしら?」
 蘇生したばかりのレフティと抱き合った直後、ろくに口を利いてくれなかった。
 そのときの光景を思い出し、女王は胸を痛めた。なぜカインが言葉を交わしてくれなかったのか、ようやく理解できたからだ。
 エレーナは彼と会うたびに、いつからか怖気づく自分を感じていた。
 カインは優しい。気がつけば、いつもわたしの側にいてくれた。どんなにわがままを言っても、上手くいなしたり、なだめたりしながら、わたしを結局「正しい所」へ導いてくれていた。
 でも、カインの大きな優しさは「怖い」。
 結局、わたしはカインには甘えているのかもしれない。
 会議の時に思い知った。あの時、一緒にいた誰の顔も、まともに見ることができなかった。
 カインとレフティ、どちらかがわたしの側にいることは、どちらかの誠意を大きく踏みにじることになるのかもしれない。
 女王はふたたび、大きく首を振った。そして、無理矢理に声に出して自分に言い聞かせる。
「あんなに優しくて揺らがない愛情の男性が、わたしを好きなはずがないじゃない……」
 涙を拭いたその時、離れたところから名前を呼ばれたような気がした。
「エレーナさま。お体が冷えますよ?」
 振り向くと、デッキと船室を繋ぐ入口の間近にカインが立っていた。少し疲れたような顔をして、手にはワインの瓶とグラスを持っている。
 まさか、わたしをさっきからずっと見ていたのだろうか? 
 エレーナはそう思い、居たたまれなくなった。
 彼は笑いながら骨ばった手を振りつつ、ゆっくりと女王に近づいてくる。
「操縦を変わってもらって、寝つく前に一杯、と思ってここに来たんです。最近、目も悪くなっていたので星でも数えながら飲もうかと」
 エレーナは、ほうっと息をついて肩をおろした。
「カインも早く休んでください。寝酒も悪くはないとは思いますが」
 彼は返事をせずに、船べりに立てかけてあった折りたたみの椅子を二脚持ってきた。
「まあ、ここにお座りください。あ、少しお待ちくださいね」
 彼はもう一脚の椅子に、ワインの瓶とグラスを置いて船室へ降りて行く。一体、なにをするのだろう。
 エレーナが見ていると、ほどなくして彼は毛布を片手に抱えて戻って来た。
「お体が冷えたら、大変ですからね」
 女王は毛布を受け取り、礼を言って膝にかけた。カインはワインをグラスに注ぎ、瓶だけを床に置いて彼女の向かい側に座りこむ。
「少しは慣れましたか?」
「ええ」
 彼の問いに、エレーナはうつむいた。恥ずかしかったのだ。
 初日も、その次の日も、慣れない船旅で何度も彼に迷惑をかけてしまった。
 カインは彼女がなにを言いたいのか、察したように笑いかける。
「お気になさらないでください。誰でも初めての船旅は、気分が優れなくなるのは当然ですから」
「そうでしょうか」
 彼女は顔を上げる。カインの鳶色の眼差しが、こちらをいたわるように見ていた。
 さっきまで一人でいたエレーナ女王には、なにを、どう話せば時間が持つのかわからない。
「あ、あのう」
「なんですか。エレーナさまらしくもない」
 エレーナが一瞬、唇を結ぶ。
「わたし、会議の時にカインを危険に晒すようなことを言ったんです」
 カインは唇の端を上げて、にっこり笑った。
「だいたいの想像は、つきますよ」
 女王は目を丸くして彼を見る。
「どうして? わたしは悔しかったのに」
「……悔しい?」
「会議の席上、カインが行くならば軍属から一人も警護に出したくない。レフティも他の臣下も、そう言っているように思えたんです。軍属の人たちの、ものすごく強い悪意を感じました。それでも、わたしは逆らえなかった。そんな自分を、とても卑怯に感じたんです」
 そう、あの時に気がついてしまったのだ。軍の臣下の一人が暗に言った言葉に、レフティが同意した時に。
「『自分の部下を出したくない』って言われたんです。どうして? って聞きたくても我慢しました」
 カインは黙ってエレーナの顔を見つめている。彼女は必死に、こみ上げてくる気持ちを抑えた。
「レフティや軍人たちが、部下を大事にする気持ちは理解できます。だけど、仮にも公式行事にわたしを送り出すというのに、軍属から一人も部下を出さない。カインが行くのなら、カインに全部を押し付ければそれでいい、そんな風にあの人たちは言って知らんふりをしている」
「自分が必要とする人間が、失われることを怖れているのでしょう」
 彼の静かな一言に、エレーナの顔が熱くなった。




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