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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……23

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23、長い夜・3


 カインは執務室のドアを内側から閉める。振り向くとエーベルが長椅子に腰かけたまま、こちらを見て肩をすくめた。
「こんなに酔ってしまったのも、久しぶりかもしれません」
「構わんよ。わたしも酒を口にするのは久しぶりだ」
 部下に笑いかけたカインは、エーベルの向かい側に深々と腰かけた。二人の間にあるテーブルには、金属製のワインクーラーがある。
 大きめの氷がたくさん詰まっていたはずのそれは、冷えた水が並々と湛えられていた。あとは一本の赤ワインがあるだけだ。
 カインが最後の一本を引き抜き、丁寧にボトルの水を拭き取りコルクを抜いた。
「次にきみと、こうしてゆっくり飲めるのはいつだろう」
「すぐにまた、その機会は来るでしょう」
 二人は何度目かの乾杯を交わし、それぞれにワインを口に含む。
「しかし……きみが厨房から貰ってきてくれるワインは、ことごとく美味いね」
「普段から厨房付の荷物運びもしてあげてますからね。使い走りにしやすいようで」
 エーベルは深緑色の目を光らせて笑った。彼の笑顔が、二人の間の蝋燭のともしびに照らされる。カインはしみじみとエーベルを眺めた。
「そういう人たらしの才能が欲しかったよ。転生する時に、願えばよかった」
 上官の冗談ともつかない告白に、部下は大きく顔をほころばせる。
「だから申し上げたではないですか。カインさまが持てる能力を、すべて開放すれば済むことです。人心の掌握や操作は、お手のものでしょう?」
 カインは頬を緩めつつ、かぶりを振った。
「決めていたんだよ。十八の誕生日……つまり『魔王』が、カインの体の中に覚醒してから」
「なにをですか」
 エーベルが興味深そうにカインを眺める。
「わたしは自分の本来の力には、できれば頼りたくない。カインとして、普通の人間として、一歩一歩積み重ねて行きたいんだ。戴冠式の日は例外だったけどね」
 部下が唇を結び、脱力したように背中を椅子の背につけた。カインの目から見て、エーベルはいかにも不満そうだ。
「エーベルは不服かい?」
 彼の問いに、エーベルは頷く。
「『善人でありたい』ならば、賢くあるべきでしょう。愚鈍では守りたい人を守れない」
「違うよ、エーベル。そういう意味ではないんだ」
 カインは彼のグラスにワインを注ぎつつ、エーベルの目を見やる。
「エレーナさまをお守りするために、力を使うのは簡単だ。だけど、それが正しいのかどうか、迷っている」
 グラスに唇をつけたエーベルが眉をひそめた。
「迷っているとは?」
「今までとなにが違ってくるのだろう? 欲しいものを欲しい時に手に入れていた、あの頃と」
 二人の間に、ほんのわずか沈黙が流れた。先に部下が言葉をつなぐ。
「心、とは厄介なものですね」
「そう思う。普通の人間が、こんなに大変な存在だとはね」
 正直に心の内を明かせるのはエーベルだけだ。カインは自分の頬を撫でながら、しみじみとグラスの中を眺めた。
 向かい側にいる、もどかしそうな男が小さく息を吸った。
「端的に申し上げましょうか。エレーナさまを、愛しいと思っていらっしゃるのでしょう? その感情に素直に従えばよろしいのでは?」
 エーベルの口調は思いがけず強いものになっている。彼自身は気がついていたが、気持ちの上でカインに引くつもりはなかった。
 カインはうつむき、押し殺した声で答える。
「力づくで奪ってもエレーナさまは、わたしを選ばないんだ。どんなに水晶玉に問うても、あの方の心がレフティにある限り」
「弱気になりましたね」
 エーベルは言い切った。なぜ、この人はエレーナさまのことが絡むと、こんなに弱い男に成り下がるのだろう。男が女を愛するということは、ここまで弱く愚かに変わるものなのか。
「そうかもしれない」
 カインは彼からの言葉に、少し気を取り直したような顔になった。弱気……他ならぬエーベルに指摘されたとすれば、それはきっと正しいのだろう。
 エーベルの半分酔いに任せた素直な問いが、心にたたみかけてくる。
「カインさまは、そんなにレフティが怖いですか?」
「そうではないんだよ、ただ」
「ただ?」
「上手く言えないが……」
 カインは言いよどみ、すぐになにかを振り切るように顔を上げた。
「真夜中の教会で、水晶玉に浮かぶレフティがエレーナさまを汚す光景を見てしまってから、わたしは訳のわからない感情に突き動かされている。エレーナさまも、心のどこかで待ち望んでいることなんだよ。それが尚更、わたしの心を苦しめる。それに、レフティには、わたしのような迷いがないんだ。そのことが恐ろしい」
「それは嫉妬ではないのですか?」
 カインは絶句した自分をごまかすように、ワインを体の奥底まで流し込む。
「『嫉妬』? わたしに、そんな感情があったというのか?」
 エーベルは深緑色の眼差しを揺らしながら、カインを見つめた。
「それ以外に、なにがあると?」
「なにもかも欲しいままにしてきた、わたしが? 誰に、なにに嫉妬していると言うんだ?」
 部下が、子供のような笑顔を浮かべた。
「レフティでしょう?」
 カインが大きくため息をつく。
「レフティは、いつもわたしの上にいるよ。きみの上にもだ。『あの光景』の衝撃は、受けた者でなければ理解できぬ」
 エーベルが真顔に戻る。
「それは、あくまでも『前世まで』のこと。現世は違う。カインさまが思っておられる『運命』など、意志の力で変わるものです。命が惜しくなりましたか? そんなはずはない、なぜならあなたこそが、わたしの久遠の友だからだ」
 カインは部下であり、友の言葉にあらためて椅子に座り直す。
「安っぽい励ましでは、そうそう我々が死ぬかもしれない流れは変えられないよ?」
 エーベルが、にやりと笑った。
「本当にカインさまは、弱い男に成り下がったのかな? わたしには、そうは思えないのですが」
「『水晶玉の予言』が外れたことなど、今までにないんだ。それが気にかかる」
「ふん、我々が西から生きて帰ってくるという予言も外れるとでも? 軍閥の人間の予測を超えて?」
 彼の言うことは真実だった。
 ひとたび、カインたちが西へと旅立てばルーンケルンは女王不在となる。その間の女王代行を執るのは、実質的にレフティになることは間違いないだろう。
 軍閥の人間の多くは、最悪のケース……エレーナをはじめ、カインもエーベルも亡骸でルーンケルンに帰ってくることを内心では望んでいる。心の声をレフティが知らないだけで。
 エレーナ女王はあまりにも若く、また、女だということが軍閥には気に入らない。自分たちの長を新しく立てた方が、東西両国に付け入る隙を与えずに済むと考えていた。
 唯一、軍閥の頂点にいるレフティだけがエレーナの帰還を固く信じていた。カインは身を捨てて、どんな手段を使っても女王をルーンケルンに帰還させるだろう、そう考えていたのだ。
 カインたちにはレフティの考えが理解できる。陽が東から上れば月が西に落ちるように、レフティにとってエレーナ女王が存在することは「道理」なのだ。
 なによりも彼は、自分が魔王の能力を隠して生活していることを知っている。
 カインはエーベルに吐露を続けた。
「それだけじゃない。レフティはエレーナさまを『道理』であり『権威』と位置づけている。あの男の真っ直ぐな心は、エレーナさまを彼が思っている以上に傷つけることになるだろう。ただ」
「ただ?」
 上官は部下に向かって複雑な顔をした。
「この頃、わたしに予言をくれる水晶玉の景色が変わってきたような気がする。理由は、わからないのだけれども」
「ええ」
 エーベルは頷きながらカインの話に聞き入っていた。
「もしかしたら、少し前に水晶玉で視た未来が変わるのかもしれない。予感めいたものかもしれない、もしかしたら、単なるわたしの『祈り』であり『願望』かもしれない。こんな風に思うこと自体、わたしは魔力を封印しすぎて退化したのかもしれない。そうなれば本当に拠り所のない『ただの男』に過ぎない」
 カインは以前この部下から、言われた言葉を思い出す。
「今はルーンケルンの乱世です」
 乱世、そうなのだ。水面下で様々な思惑がうごめき、地表に芽吹く機会を待っているだけの悪意の種が、そこかしこにあるだけの。
 カインは言われるまでもなく知覚していた。世間的なことだけではない。水晶玉で映し出された光景が脳裏に浮かぶたび、はじめはショックでどうしようもなかった心が猛々しく騒ぎ出す。
 エレーナがレフティに荒々しく組み敷かれ、恍惚の表情を浮かべていた、あの映像。絡み合う二人の素肌の隙間から、生々しく匂い立つ汗や体液のすべて。心を引き裂き、打ちのめすには十分すぎる、あの光景。
 思い出すたびにレフティのみならず、彼が大事にしている何もかもを生身のまま引き裂きたくなる。善悪などなかった。エレーナだけを守れたらそれでいい、そんな衝動で、全身が真っ黒に焦げそうなのだ。
 その衝動を収めるためにも、運命は変わってくれた方がありがたい。カインはエーベルの言い放った言葉に、訳もなくすがりたかった。
「本当に乱世になってきた、きみの言う通り」
「ええ」
 頷いたエーベルはカインの心情を理解している。理解した上で言い放つ。心が壊れそうなほど、愛に震える弱々しいだけの男に。
「『運命』なんて逆らえばいい。どうせ我々は、ここまで好きに生きてきたんです」
 言われたカインは、ふたたび顔を上げた。エーベルは彼を力強く見つめ、唇を結んだ。


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