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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……22

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22、長い夜・2



 壁の上方から蝋燭の灯りが、フランの頬を照らしている。レフティは彼女の片手を取って握りしめた。
「俺を頭がおかしい男だと思う?」
 フランは首を横に振った。彼は負けず嫌いだが、偽りを好む人間ではない。でも彼女は、次の言葉を聞くのが怖い。
「もしかして、レフティさまは……」
 レフティはフランを注視し、唇を真一文字に結んだ。
「カインが『魔王』?」
 フランは言いかけ、言葉に出すことを止めた。彼の言うことは、あまりにも突拍子がなさすぎる。レフティは彼女の驚きを予想していた。
「きみは彼とは仲が良いからね。信じられなくて当然だろうな……」
「そ、そうじゃな……」
 彼はフランの表情を見て、かすかにため息をつく。心の中に、言わなければ良かったのだろうか……という後悔の念が生まれた。
「じゃあ、フランは『運命』という言葉は信じる?」
 レフティの問いかけに、彼女は頬を緩めて頷いた。
「目には見えないだろうけれど、そういうものは『ある』と思います。季節が来れば、渡り鳥が広い空の決まった道を通って移動するみたいに。上手く言えないけれども、きっとレフティさまが言うことも、本当なんじゃないかと思うんです」
 フランはつぶやき、レフティの右肩を優しく撫ではじめた。柔らかい掌の感触が、ざっくり斬られたばかりのような傷跡の上をなぞっていく。
「俺は昔……ここに生まれて来る前に、魔王に親兄弟を殺されたんだよ。それだけじゃない。生まれるたびに、大事な者がカインに奪われ、殺されてきたんだ」
 フランは静かに聞いていた。レフティが言う言葉が、真実かどうかはどうでもいいような気がした。単純に「聞いてあげた方がいい」と思ったのだ。
 レフティには彼女の思いやりが、しんしんと伝わってくる。彼は顔を上げた。今日に体験した収容所の出来事や、ヴィクティムとの遣り取りが幻のように思えてくる。あの老人は帰り間際、俺になんと言ったのだろう。
 彼は思う。……呪術師に誑かされるものか。騙されてはならない。それよりも国家や、目の前にいる女の方に心を傾けるべきだ。
 レフティは気づいていた。目の前の女……フランに情が移りはじめている。
 エレーナに対しての情熱は失せてはいないものの、女王は未だに高嶺の花だ。親密の情を分かち合えるフランとは別に、エレーナは自分の地位を確立するために手に入れたい女だった。
 彼は軽く頭を振った。フランの心配そうな視線が気にかかる。
「ありがとう」
「ううん」
 フランの無心の笑顔が、静かな部屋に満ちる。彼女は、ただ一途でいたかった。


 エレーナは壁を見る。乳白色の壁の上、もうすぐ蝋燭の火が消えそうだ。
 彼女は眉をひそめ、机の引き出しを開けた。
「この本を読み終えなければ、一日が終わらない……」
 つぶやいた彼女は机の引き出しを開けた。予備の蝋燭が切れている。今夜から、扉を開けたところにエーベルではない誰かが立っていることは知っていた。
 エレーナは歯噛みする。
「カインかエーベルでないと、詳しく聞きたいことなのに……」
 彼女の頭の中には、カインとエーベルから教わったことが重くのしかかっていた。この国の歴史。自分の父のたどってきた人生。そして、これからの自分。
 エレーナは不意に、カインの温かい眼差しを思い出していた。
 あの日、眠くて仕方がなくて言った言葉に、彼は部屋に射し込んでいた陽だまりのような笑顔で応えた。
「あなたがレフティを率いて、この国の民を守って行く使命があるのですよ」
 眠たくて、ぐずる子供のように「十七歳になったばかりなのに」と言った、あの時。カインの口から「レフティ」と名前が出てきたことで、エレーナの背筋は伸びた。
 直後、この国が戦士によって王制を復活した歴史があることを知った。カインの話を聞きながら、自分が戦士から助け出された赤子だったら良かったのにとも思った。その想像に頬を熱くした自分に、カインは笑った。
「戦士が魔族を斬り捨て、空に掲げた赤子は女の子だったと聞いています。なんでも心臓の辺りに大きなホクロがあったとか」
 エレーナは静かに掌を左の胸元に置く。偶然でも、なんでもいい。あの人の支えになりたい。
 あの人の支えになりたい。
 たとえ結ばれなくても……いいえ、そんなことを考えなくてもいい。わたしがレフティを好きな気持ちが真実のものであれば、時が熟せば必ず添い遂げられるようになるでしょう。
 エレーナの頬が人知れず熱くなった。誰もいない、広すぎる部屋の隅で十七歳の乙女はうつむく。
 心を許せる友が欲しい。そうしたら迷いも惑いも、聞いてもらえるのに。
 彼女は孤独を感じる。環境が変わっていく胸騒ぎがしていた。良い方向なのか、悪い方向なのかはわからない。こんな時に、自分のありったけを話せる人が側にいない。迷いも、決意も、受け止めてくれる人が誰もいない。
「聞いて欲しいだけなの」
 夜だけが、自らに課せられた壮絶な孤独から逃れられる時間だった。昼間の喧騒にも似た「国家」「国民」という重い言葉の繰り返しが蘇る。彼女は耳を塞いだ。
「ずっとずっと、聞いて欲しいの。一番、頼りたいの」
 瀕死の状態から目覚めた時に、真っ直ぐに自分へと腕を伸ばした男。きつく温もりを刻んでくれた男。
 彼女には初恋とも言える相手だった。彼もまた、自分を好いてくれていると信じたい。

 だが今夜、エレーナの気持ちは言いようのない不安に襲われていた。
 レフティは……最近、どこか変わった。どこが、と、はっきりとは言い切れないけれど、この頃、あまり笑いかけてはくれなくなった。
 彼のことを好きになるということは、心に固く蓋をすることと同じだ。
 いざと言う時に逢いたくても逢えない。もし万が一、知れ渡った時には誰も祝福してはくれないだろう相手。
 エレーナは壁の燭台を見上げる。じりじり……と音を立てて蝋燭の火が尽きそうだ。彼女は起きていることを諦め、柔らかいベッドの中に滑りこむ。
 彼女は橙色の暖かい灯火が消える直前、不安な気持ちが湧くのが昔から嫌いだった。
 寝返りを打ち、白い手を伸ばして、ほんの少しだけ窓を開ける。夜風とともにエレーナの頭によぎる不安感が、心を押し潰していく。
 きっと、未知の土地でもある、エディットへ近々公式訪問するということもあるのかもしれない。エディット王室の婚礼に招待されているという話だ。
 彼女には見当もつかなかった。
 エディットに着くまでの間、幾つもの夜を過ごすと言われる。航海のことを考えると心が沈む。レフティと会える時間が減ることだけではなく、足元から冷えて行くような嫌な胸騒ぎがする。
「わたしは無事に、この場所に帰ってこれるだろうか」
 なぜか、急がなければならないという衝動にかられた。なにを「急がなくては」なのか、とりとめのない考えが次から次へと浮かんでは消えていく。
 蝋燭の火が消えた。闇の中で、彼女は孤独を噛みしめながら眼を閉じる。




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