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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……19

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19、罠・3



 レフティは昨日から捕虜収容所に詰めていた。軍事演習前日、密航してきた呪術師を取り調べるためだ。彼らは二人組で、浜辺に流れ着いた。それから港町の民家に潜伏し、夜明けを待つ腹積りであったという。
 彼らを通報した民間人には、既に事情聴取は済んでいた。

 海に上がり、目星をつけた民家の扉を開けた密航者たちは、純朴そうな老夫婦が網を縫っているのを見た。そして「匿ってくれ」と懐から札束を出した。
 夫婦は目を丸くした。ゆうに三年間は漁に出ず、のんびり暮らして行けるだけの金額であったからだ。
「こ、こんなに大金を?」
 ぎょっとする夫を笑顔の妻が肘でつついた。
「ありがとうございます。わたくし共で精一杯おもてなしさせていただきましょう。ねえ、あなた」
「ああ、うん。そ、そうだな」
 呪術師二人の気が緩む。
「久しぶりに酒が飲みたい。あるかな?」
 妻はにっこり笑って「ありますよ」と笑い、台所にあった干物を出した。それから裏口へと行き、酒の入った亀の蓋を開けながら、蓋の上に置いていた鈴を鳴らした。
 鈴の音がひっそりと暗闇の中に響く。少し離れた隣の家の者は、そっと外に出て湾岸警備の兵士を探した。
 密入国した人間を政府に報告すれば、多額の報償金が手に入るからだ。ルーンケルンでは十年、遊んで暮らせる金額だった。

 やがて兵士二人が、老夫婦の家に入って来た。密航者を家屋の外に引きずり出す際、格闘になった。その時に、呪術師と兵士は一人ずつ命を落とした。
 亡くなった部下は若かった。彼はエレーナ女王と同じ歳だと名乗っていた。レフティは彼が入隊してきた時に琥珀色の髪を見て、同じ地方の出身だと思ったことを憶えている。
 彼は初めて対面した時、話してくれた。武術に長けた一点でデメテールに見出され、宮中に召しかかえられたレフティに憧れ、海軍に志願したと。
 レフティは唇を噛みしめる。部下を亡くした重みと同様に、湧いてくる疑念があった。
 なぜ彼らは上陸するのに軍事演習前日を狙ったのだろう?
 なにか暦の上での特別な意味があったのだろうか。彼ら呪術師の慣習や、術の掛け方などがわからないためか、尚更に不気味さが募った。
 捕虜の取調べの行き帰り、レフティの脳裏にカインの言葉が蘇ってくる。
「今日だけでいい」
 あいつはあの朝にそう言った。どういう意味だったのだろう?
「あいつなら俺が死にかけたことを止められたのか? あいつなら、呪術師が来た意味もわかるのか?」
 思わず漏れた独り言に、彼は自身でかぶりを振る。部下が命を落としていることが、レフティを更に苛立たせる。
 カインのもう一つの言葉を思い出す。
「呪術師に操られた状態で、女を抱いて気持ちいいか?」
 何度考えても苛立ちや歯がゆさは、大きな怒りに成り変わる。
 俺は呪術師に操られ、女にウツツを抜かし、挙句の果てに大事な部下を殺した張本人とでも、あいつは言いたいのか?
 ふざけるな!
 俺は必ず暴いてやる。カインは西の連中と結託して、ルーンケルンの中が混乱するのを待っていたに違いない。今のルーンケルンの混乱も、元を糾せばカインが全て仕込んだことに決まっている。絶対にあいつらの存在を許さない。二度と陽の目を見られないようにしてやる。
 部下が収容所の扉を開けてくれる。灰色の石の廊下の先、捕虜を待たせている部屋があった。暗い灰色の壁が寒々しい。
 レフティは前髪を直しつつ、もう片方の手で木の椅子を引き、座った。彼の背後に部下が立つ気配がする。机の向こう側には赤い髪と目の色の、頬がげっそり削げている男がいた。
「軍人さん?」
 捕虜を見据えた彼は、なにも答えずに顎を上げた。
「昨日も言ったけど、俺たちがここに来た事情とかさ、あんたがお出ましになる前に喋ってるんだけど?」
 レフティは男を睨む。こんな時だけは魔術師が羨ましく思える。彼らは程度の差こそあれ、人の心が読めるらしい。
「嘘をつけ。昨日、俺はおまえから『さあね』の言葉しか聞いていない。方針を変えたよ。俺はここに来る前から、おまえは徹底的に調書を取られるのは拒否していたよな。今までは『話し合い』で取り調べたが、今日からは違う遣り方にしよう」
 捕虜はタカをくくったような笑顔を浮かべた。
「見たところ、あんたはお坊ちゃんっぽいけど? なにをしてくれるんだよ?」
「お坊ちゃん、ねえ……」
 レフティは声を押し殺し、上目遣いで捕虜を見たと同時に右手を突き上げた。勢いよく風を切った彼の手が捕虜の顎を打つ。大きな音と共に、捕虜は壁際まで吹き飛んでいる。
「レフティさま!」
 レフティの背で部下が驚いたように声を出す。取調室の壁には木製の椅子と唇を切った男が、ばらばらにへばりついていた。
「いいか! 今日は話してもらうからな!」
 怒りに震えたレフティが立ち上がり、素早く捕虜のシャツの首を持ち上げる。彼は呻き声を上げてレフティの手を外そうとする。そうしなければ喉元がシャツに激しく食い込み、呼吸ができない。
「ぐぅ……っ!」
 レフティは呻いた捕虜を立たせ、その額を力一杯、壁に叩きつけた。
「おまえの国とは国交がないんだよ。それにここは収容所だ。このまま俺が怒りに任せておまえを殺しても、誰も俺を罰することはできないんだ」
「うう……」
「良かったな、俺の苛々しているところに居合わせて」
 男は口元を拭い、憎々しげに彼を見た。レフティにはその様子がカインに見える。ますます頭に血がのぼった。
「俺は部下たちみたいに紳士じゃないんだよ」
 捕虜の膝の裏を、更に思いきり蹴飛ばす。
「おまえたちが殺した俺の部下の痛みなんか、こんなもんじゃないんだろ? 反抗的な顔しやがって!」
 レフティは捕虜の赤い髪をつかみ、首を後ろに反らせた。
 男が途切れ途切れに呻く言葉があるようだ。レフティは部下が動き、その声を聴き取るに任せながら思いきり髪の毛を掴み続ける。
「こいつ、なんて言ってるんだ?」
「『なにを話せばいい』と言っています」
 部下はひどく心配そうに上官の顔を眺めていた。ふん、小心者め。軍法会議など、いちいち心配していられるか。レフティは内心思いつつ、捕虜から手を外す。その時だった。
 取調室の扉が開いた。
 レフティと同じ白いシャツを着た屈強な男が、つかつかとやってくる。
「失礼いたします。レフティさま。エディットの男が、捕虜に会わせろと」
 レフティは眉をしかめた。
「もし、そいつも呪術師だったらどうするんだ? こいつと結託して、俺たち全員が死んじまうかもしれないんだぞ」
 上官へと屈強な部下が耳打ちをする。
「教会長、直筆の書面を持っておられます」
「はあ?」
 レフティの脳裏に、女王の戴冠式に冠を授けた魔術師の姿が浮かんだ。
 収容所に西の捕虜がいることは臣下たちも知っているだろう。だが、なぜ教会長なんだ? 釈放でもして欲しいのか? 
 今までにも何度か、西国エディット側の要求で捕虜の釈放を求められたことはある。ルーンケルンの教会長の署名が必要なほどに、この捕虜は危険な人物なのだろうか。訳のわからない苛立ちが湧いてきたレフティは、先に室内に入った部下に声を荒げた。
「こいつを椅子に縄でくくりつけておけ!」
「御意に」
 彼は白いシャツの部下を連れ、門の方向へと歩き出した。考えただけで、怒りが収まらない。もし万が一、捕虜の釈放を……などと考えたくもない。
 屈辱的なことには違いなかった。部下一人を失い、なんの罪にも問うこともできずに釈放を要求され、しかも我が国の教会長からも、釈放しろとの圧力がかかっているかもしれないなんて。
 レフティは思っている。自分の義を追求する前に立ちはだかる者は、全てが敵であり、圧力であり暴力だと。
 入口近くに季節に合わない黒の厚手のコートを着た、腰の曲がった老いた男がいた。老人はレフティの姿を認め、深々と礼をする。真白い髪は短めに刈ってあり、左側の灰色の眉は古傷のせいか歪んでいる。赤い目と酷薄そうな薄い唇が、狡猾そうな雰囲気を全身に漂わせていた。
 老いた男は上目遣いにレフティに言った。
「お忙しいところ、申し訳ありません。ヴィクティムと申します」
「なんの用だ」
「レフティさまに、こちらを」
 差し出された四つ折りの便箋を開けば、末尾に教会長のサインがある。忌々しく感じたレフティは、もう一度、便箋のはじめから目を通す。
「釈放しろだと?」
 やはりか、という怒りと屈辱で全身が震えそうだ。レフティは思わず便箋を破きかけた。もしも部下がいなければ、目の前の老人を八つ裂きにしているだろう。
 部下がレフティの手から落ちた便箋を拾い上げた。彼は中を読み、老人に向かって言う。
「捕虜におまえも同席すれば、レフティさまの聞きたいことを全部言うんだな?」
「この国で一番偉い魔術師と約束しました。彼が言うことに真実を誓わせましょう」
「本当に、レフティさまを傷つけないと誓えるのか?」
 ヴィクティムは部下に対して、唇の端を歪めて笑ったように見える。
「我々が用済みになったら、その場で殺してくれても構いませんが?」
 レフティは老人を冷たく見据えた。
「おまえら次第だ」
「そうでしょうねえ」
 彼は眉を歪め、笑みを浮かべる。
「悪いが、おまえの手も縛らせてもらう」
「どうぞどうぞ」 
 ヴィクティムの両手を縄で固め、一端を部下が持つ。三人で取調室に戻った。捕虜は椅子の背に、がんじがらめに縛り上げられている。
 赤髪の捕虜はヴィクティムを見るなり顔色を変えた。老人が笑いかける。
「楽にすればいい。わたしが来たのだから」
 捕虜は震えながら唇を開く。
「俺は失敗したのか」
 レフティと部下たちは、捕虜の変わり様に眉をひそめた。しわがれた声が、ゆっくりと響く。
「失敗? そうではない。おまえの役目が終わる時間を告げに来ただけだ」
 ヴィクティムは振り向き、真っ青になった捕虜を尻目にして問うた。
「さて、あなたがたの聞きたいことは」
 レフティは顎をしゃくった。
「この捕虜に話ができるのか? この状態で?」
「御意にございます」
「なるほど」
 レフティは改めて椅子に座り直し、捕虜に対峙した。
「なぜ二人で密航してきた」
「それは……」
 捕虜が扉のそばにいるヴィクティムに目を移す。



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