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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……18

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18、罠・2



 ある日の夕刻、エーベルは洗濯室に立ち寄った。フランが彼に、紺色のチュニックと黒のパンツを手渡してくれる。
「どこかに行くの?」
 彼女は昔から、宮廷付きの臣下の礼服が好きだった。もしもフランに詰襟チュニックを着た男たちの精悍さや凛々しさを語らせたら、一晩では足りないだろう。
「さすがフラン。鋭いね」
 エーベルは頬を緩める。
 彼は宮中に上がった時から、妙にフランとは馬が合った。彼女もエーベルの目尻を思いきり下げる、人懐こい笑顔が好きだった。
「まあ、リネン係の勤務だけは長いから」
 フランの自嘲気味に笑う言葉に、エーベルも笑いながら手を振る。
「大したことないよ。辞令が降りただけだ。まだ内示だから、なんとも言えないけどね」
 彼女の目が丸くなる。
 エーベルはわずかに眉を上げ、広い洗濯室の中を見渡した。ここからの会話はフラン以外に聞かれたくない。
「ちょっと話せる?」
 彼はフランを手招きながら、洗濯室の外に出た。彼女もなんの疑問も持たず、エーベルに惹かれるように廊下から中庭へと並んで歩く。
「ねえ、もしかして宮中以外のところに赴任するの? 寂しくなっちゃう」
 素直に本心を吐露したようなフランの言葉に、彼は思わず笑いが出た。
「違うよ、持ち場が変わるんだ。あんまり大きな声では言えないけど」
「持ち場?」
「うん。カインさまと一緒に異動する」
 フランは思わず立ち止まり、素っ頓狂な声を出した。
「カインも?」
 エーベルは彼女を見つめ、微笑む。
「今までの『エレーナさまの教育係』だけじゃなくて、本当に秘書扱いになるんだよ。わたしは彼ら専属の警護だ。多分、あさってに『杯の儀式』がある。それまでは内示が、取り消しになるかもしれないからさ」
「まあ……!」
 彼女はうれしそうな顔をして、彼をしみじみと眺める。フランは思い出していた。カインに対して、エレーナ女王の戴冠式の直前、地団駄を踏みながら言った言葉を。
 ――「あなたは式場内の警護には入れないわよ。ほとんど学閥の臣下しかいないカインを外に追い出して、レフティが中で海外の賓客にアピールするための時間に使うつもりだから」
 当時は冷たくてイヤな人だとばかり思っていたレフティと、毎夜のように抱き合う仲になるなんて思ってはいなかったけれども。
 彼女はエーベルと話しながら、心の隅で自分が言った言葉を思い出していた。それを見透かしたエーベルの笑顔がフランを覗きこんだ。
「フランの愛しい人も、わたしたちと一緒に出世だよ?」
 彼女の顔が即座に真っ赤になる。
 エーベルから見ると、こんな風に素直で飾り気のない女性の方がカインには合うような気がするのだが。どうも上官さまのお心では、フランは友人止まりのようだ。
「聞きたい? あ、レフティ本人から聞いているかな」
「なっ、なによ? 聞いてないわよ?」
 同僚に向かって、指の先まで赤くなったフランがあわてはじめた。エーベルは、そっと彼女の心を読み取る。本当にレフティは、なにも話してはいないようだ。
 彼は首を傾げつつ、彼女に告げる。
「レフティは軍事の最高責任者になるのさ。今まで通りに海軍の増強はもちろん、正式に陸軍も作るようにエレーナさまから命じられる」
 彼女は絶句した後でうつむき、ノドから絞り出すようにつぶやいた。
「なんだか、わたしの周りの人……どんどん遠くに行っちゃうみたい」
「そんなことはないよ?」
 エーベルが、静かにフランの肩に手を置く。
「だって……本当に、聞いてなかったんだもの」
 涙声になりそうな彼女の心に、素直にレフティを慕う心に、エーベルは術をかける。レフティが暴走しそうになった時、フランが彼の道しるべになるように。まるで生まれたての赤ん坊を抱き上げる母親のような感情で慈しむ人がいたら、彼のことを心から想う人がいたら、この術は効くはずだから。
 それがレフティが呪術師から討たれた時に、間に合わなかった己の贖罪として。
 エーベルは彼が矢で討たれた時に居合わせた幾人から、詳しい状況を聞いていた。
 おそらく、矢には呪術が仕込まれている。蘇生の術は成功してレフティは生還した。しかし、ルーンケルンの魔術師の力では、体の奥底まで刺さった「呪術だけを除去して」霧散直前の魂を「からだ」に戻すことは不可能だろう。
 であれば、こちらが呪術の発動できない状況を作るしかない。……エーベルは、そう思っていた。しかし、彼は歯噛みする。
 カインさまと同じように、わたしは他者を守る術を持ってはいる。けれどそれは希薄なものだ。
 それでもいい。今のルーンテルンは危なすぎる。近い将来、価値観が崩壊するようなこともあるかもしれない。
 フランを見守る「善人になりたい魔族」は、ひたすら思う。どうか、この「祈り」が、レフティとフランを行く先々で護らんことを。
 すっかり陽が落ちた中庭から見上げれば、一番星が瞬くのが見える。
 そろそろ宮廷内の廊下の燭台に、教会から分けてもらった火がともる時間帯だ。
 彼はフランをまっすぐに見つめた。
「レフティとは添い遂げたいのかい?」
 彼女はエーベルから視線を外し、小さなため息をつく。
「わからない。時々、近寄りがたい時があるの」
「きみでも?」
「ええ」
 フランは唇から飛び出しそうな言葉を噛みしめる。

 あの人が本当に好きなのは、わたしじゃないの。
 わたしはいつまで経っても、あの方の代わりかもしれないの。
 それにもし万が一、あの人がわたしを迎えに来ようとしても無理なの。両親が許すはずがないの。

 エーベルは悲しそうに顔をそらしていたフランに、軽く話しかけた。
「もしもわたしが、フランの願いを叶えてあげると言ったら信用する?」
 女友達は、ふっと口角を上げてうそぶく。
「無理に決まってるわ、この国の価値観が変わらない限り」
 彼はフランを慰めるでもなく、強い口調の言葉を作った。
「本当にそうかな? きみが心に決めれば『運命』なんて変わると思うよ?」
「ありがとう」
 彼女はエーベルを見上げ、ほんのわずか笑ってみせた。



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