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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……13

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13、罠・1


 エーベルは宮廷内の広い廊下を、本や書類を抱えて歩いていた。すぐ目の前にある扉が勢いよく開き、急ぎ足で白いシャツの男がそこから出て行く。
 彼は瞬時に眉をひそめた。白いシャツの背中には、黒い影がへばりついている。多分、宮廷内では自分の他にカインしか見えないであろう不吉な影。
 あの背中はレフティか。
 エーベルは避けられない「なにか」を予感した。かすかに動揺していた時、カインが向かい側から下を向いて歩いてくるのが見えた。
 思わず声が出てしまう。
「カインさま」
 呼びかけられたカインは顔を上げた。エーベルから見ても血の気のない顔をしている。
「ああ、きみか」
「大丈夫ですか?」
 上官は彼の心の底からいたわる声に、若干だが目尻を下げた。
「なんとかね……ところで、きみは今日、なんでもいい。外出する用事があるか?」
 エーベルは、さきほど目撃したレフティの背中にへばりついていた影を思い出す。
「間に合うならば、用事を無理にでも作ろうかと」
 カインの目がきらりと光る。途端、彼は息をつぎ、背筋を伸ばした。エーベルは思う。やはり、この人は久遠の昔からこちらの言いたいことには察しがいい。
「話が早いな。わたしの部屋に少し寄ってくれ」
「はい」
 部下は上官専用の執務室に入り、ドアを閉める前に通りかかった使用人に声をかける。
「カインさまに熱いお茶を持ってきてくれないか」
「かしこまりました」
 カインはドアを閉めたエーベルに笑み、痩せた体を椅子に下ろした。部下は当然のようにカインの向かい合わせになるように椅子を向けて座る。
「今日は外出なさらないのですか」
「エレーナさまを、お連れせねばならぬ場所がある。きみに用事がある方向とは逆だよ」
「遠方なのですか?」
「ああ。行き先の施設に宿泊することになる」
 エーベルはカインを見て不憫に思った。彼自身が早目に戻ってこられるのであれば、なにもこちらに「外出して欲しい」と依頼することはないのだ。部下は逡巡したが、言葉に出すことにする。
「率直に申し上げます。今すぐ持てる力をすべて、ご開放ください」
 上官は押し黙ったまま、彼を見つめた。昨夜までとは状況が違うのだと、カインは改めて悟った。だが、今の心持ちで言う通りにしたならば、なにが起きるか見当もつかない。
「エーベル。きみはなにを見た?」
「レフティの背中に不吉な影を」
 カインは目線を落とし、大きく息を吐く。エーベルで見えたのであれば、自分の目からはもっとクリアに見えるに違いないと思ったのだ。それはそのまま二人の能力の違いを表す事柄でもあった。
「きみの目からも見えたのだね?」
「はい」
 エーベルは思う。前世までのカインは身の危険を感じたら、すぐさま手を打っていたのだ。例え、周りにいる幾人かを亡くしても。
「今、封印している力を開いてしまうのは危険すぎる」
「でも」
 カインは言いよどんだエーベルを見つめ、目を細めた。彼は、自分のことを第一に考えてくれている。なおさら、目覚めかけている凶暴さを放つわけにはいかない。
「ありがとう。きみの気持ちは受け取っておきたい」
 エーベルは上官に向かって唇を真一文字に結び、強い眼差しで見据えた。
「今のレフティは危険です。それでなくても今はルーンテルンの乱世だ。あなたならもう既に、彼の考えは見えているはずです。なぜ、わたしの気持ちがわかっていて、レフティを守ろうとなさるのです?」
 カインがやや気色ばんで、部下からの問いに答えようとした時だ。
 扉の外側からノックの音が聞こえた。
「どうぞ」
 エーベルが振り向きつつドアの方まで大股で歩く。
「お茶をお持ちいたしました」
 女性の細い声がドア越しに聴こえる。エーベルがドアノブを取り、重い扉を半分だけ開く。カインの座っているところから、白磁のティーポットとカップが二つ見えた。エーベルが盆を受け取り、ふたたびカインに向き直る。
 カインは部下の顔をいたずらっ子のような目で見ている。エーベルは肩を軽くすくめた。
「失礼しました。わたしも熱くなってしまったようです」
「かまわん。わたしも使用人が来なければ、激した言葉を吐いていただろう」
 上官はエーベルの注いでくれたお茶を口に運びながら、自分自身に言い聞かせるようにつぶやく。
「どうしていいのか途方に暮れるんだよ」
「なにがですか?」
「エレーナさまはレフティのことが好きだ。わたしもできれば女王を彼に添わせてやりたいと思う。それが彼女の望むことだから」
 エーベルは言葉を失った。
「……でもそれは『普通の女性』であれば、という但し書きはついている。エレーナさまの両肩に、国家の全てがかかっているんだ」
「ええ」
「エレーナさまのお心は、たった一人の男にしかないんだ。もしも彼女が王族の身分を捨てるなら、それはそれでいい。おそらく、あの方はレフティと身分を天秤にかけた時、前者を取るだろう。だが」
「だが……?」
「レフティは、やがて彼女の気持ちを踏みにじることになる。みすみす傷つくのがわかっているのに、そんな男に黙って指をくわえて差し出せる人間がいると思うかい?」
「カインさま……」
「わたしは『善人になりたい』と以前、息絶える時に思った。そして今、ここにいる。彼女の思う通りの人生を歩ませてやりたいと願う心と、そうではないと彼女を糾したい心がせめぎ合う。これがわたしの選んだ運命なのだろうか。今のわたしには、なにが『善人』の定義なのか、わからない」
 エーベルは、弱気になってうつむくカインに言った。
「『運命』なんて逆らえばいい」
「えっ」
 ぎょっとした表情のカインに、部下であるエーベルが傲岸に言い放つ。
「本当のあなたは、答えがもうわかっているはずだ」
 言われたカインは一晩で削げた頬を片手で押さえつつ、部下をしげしげと眺めた。
「わたしは弱気なのだろうか」
 エーベルは、ふっと口元を緩めた。
「昨日の夜、あなたがなにを『視た』かはわかりません。ですが、言わせていただければ」
「ん?」
「カインさまはエレーナさまが絡むと基軸が狂われる」
 カインは今日、はじめて声を上げて笑った。

 馬に乗ったレフティが高台から、演習のために集結した軍人たちを見下ろしていた。規則正しく戦型を作る彼らはレフティの誇りだった。海から吹いてくる風が心地いい。
 隣には二人ほど自分の部下がいる。レフティの背の方向から、頭に包帯を巻いた軍服姿の男がやってきた。
「レフティさま、申し訳ございません」
 レフティは彼の方を向く。周りの空気が緊張を帯びてくる。
 包帯を巻いた部下が昨日深夜、ある港湾近辺で一人の軍人が殺害されたことを報告した。
「なに?」
 レフティが目を光らせ、報告した部下をにらみつけた。
「亡くなった軍人は一人で警備に当たっていたのか?」
 怒りを押し殺したような上官の声に、皆が乗っている馬の耳が、ぴんと立つ。
「い、いえ……一人では」
 にらまれた彼は吹き出した額の汗を拭い、かすれた声で答える。レフティは人命にかかわるミスを一番に嫌う。しかも人が一人亡くなっていることで、部下たちの緊張は頂点に達していた。
「わ、わたしも、その場におりました。砂浜の……地面から急に二人の男が我々を襲うために」
 レフティの眉が、ますますつり上がっていく。
「二人?」
「は、はい」
 部下の顎から、拭いきれない汗がしたたり落ちる。紫紺の眼差しに、きつく見据えられノドが乾くのがわかる。
「ひ、一人はわたしが仕留めました。ですが」
「『仕留めた』というのは絶命させたのではあるまいな?」
「捕虜として」
「ならばいい。殉職した軍人ときみの当直中の話は後で聞く。この演習が終わったら、捕虜のところに連れて行け。事と次第によっては、きみ自身も覚悟は決めてもらいたい」
「はっ」
 レフティが訓練を繰り返している軍人たちを見下ろした時だ。強風が下方から吹き上がってきた。すると、なぜか彼が乗っていた馬が怯えていななき、前脚を高くあげた。
「んっ?」
 彼はいつもそうするように手綱を引き締め、両足を乗せている|鐙《あぶみ》を踏みしめ力をかける。が、レフティの右腕に射られた時のような痛みが走った。
 周りにいた残る三人が乗った馬もレフティが乗っている馬につられたかのように、興奮して騒ぎ出す。ほどなくしてレフティが乗っていた馬だけが、指示を聞かずに坂道を下りはじめた。
「ま、待て!」
 彼は手綱を引き絞り怒鳴った。同時に首の真後ろ、太く尖ったものが突き刺さる。レフティが叫ぶ余裕もなく鞍から振り落とされて地面に転がった。
「レフティさま!」
 レフティの耳の奥。落馬した彼に気がついた部下たちが駆け寄る音がする。激痛に耐えながら腕を回し、矢のようなものを引き抜く。
「これは……?」
 手の中で木製に見えた矢が煙のように消えて行く。彼の意識が遠くなった。
「レフティさま!」
 自分の体の外からは、うつぶせになった我が身を引き起こしてくれる部下の声が。頭の奥底からは今朝がたカインに言われた言葉が大きく響いた。
 ――今日だけでいい。
 このことだったのか、カイン。レフティは愕然とする。しかし、もう手遅れだった。 



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