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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……12

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12、痛み・2



 陽が昇りはじめている。
 カインは、顔を覆っている指のすき間から射し込む光を感じた。
 息を吹きかけて玉を磨く。さらにそれを、シャツの胸ポケットから出した正絹の布で包んだ。
 ぎい、と音を立てて正面の扉が開いた。視線を移すと、レフティが光を背に受けて佇んでいる。
「おはよう、魔王さん」
 カインは無言で頷く。
「最近は、書庫に引きこもることは止めたのかい?」
 レフティの言葉には、明らかに毒があった。
 カインは彼を見据えたまま立ち上がり、膝についた埃を払う。レフティは扉に手をかけたまま、一連の動作を何も言わずに眺め続けた。
 カインは静かに扉に近寄り、自分を挑発しようとする同僚の前で立ち止まる。そして、彼をまっすぐに見つめた。
「レフティ」
「なんだよ」
 同僚はカインをじろりと見た。
 彼は一週間ほど前から、人相がすさんできた。精悍な体つきはしているが、頬はこけているし、無精ひげを生やしたまま宮中に上がり、エレーナ女王に目通りすることも増えている。
「下世話なことを言わせてもらうが」
「どうぞ」
 レフティの言葉遣いは丁寧だった。
 だが、上目遣いでカインを見据える様子は獲物を狙う肉食獣のようだ。カインは深く息を吸う。
「頼むから、今日は宮殿の敷地外には出ないでくれないか。女王のためだ」
 彼は言い終わってから頭を下げた。頭上から、あざ笑うかのようなレフティの鼻息が聞こえる。
「朝から皮肉のつもりかい? その水晶玉を使って、俺の行動を逐一管理してるつもりか」
「そういうことじゃない。わたしは、ただ」
 レフティは相手の言葉を、強く手を振ってさえぎった。
「余計な御世話だ! 朝から祈りに来てみりゃ、おまえがいることだけでも腹立たしいのに。それに輪をかけての節介かよ」
 カインは怯まなかった。
「呪術師に操られた状態で、女を抱いて気持ちいいか?」
 レフティは「呪術師」の言葉を聞くが早いか、目を光らせた。
 それから即座に右手を上げて振り下ろす。カインは頬を打たれる寸前に、彼の手首をつかむ。
 ぱしっ、と乾いた音がした。怒りで顔を真っ赤に染めた相手が怒鳴る。
「言うに事かいて、それか!」
 カインは同僚の手首を持った状態で、静かに言い放った。
「きみとは戦いたくない。今日だけでいい」
 レフティは相手をにらみ、じりじりと顔を近づけた。本音を言えば、こちらも左手で突きを食らわせたい。しかし下手に動くと、腕を折られる。
 彼は戴冠式の前日、書庫で両の腕を取られた時の痛みは憶えていた。それだけは避けたい。
「何を言いたいのかは知らないが」
 レフティは言い、右足を一歩引く。間合いを外されたカインも、手首から手を離した。
「カイン。おまえだって、想像の中で何回エレーナさまを犯してる? バレてるんだよ、虫も殺せないような顔をしてるくせに」
 カインの頭の中で「挑発に乗るな」という言葉が響く。
 しかし、体は正直だった。レフティを強くにらみ返している。
「今、きみはなんと言った?」
 陽の光が徐々に男たちを照らしはじめている。レフティは昇りはじめた太陽を背にして、カインに挑むように親指で胸を叩いた。
「エレーナさまを何百回も犯してるんだろ? 今まで女たちにしてきたようにな!」
 今まで、という言葉がカインの心に憤りを生む。
 わたしの過去は消せないのか。
 脳裏に、禍々しい記憶が蘇る。カインは声を振り絞った。
「エレーナさまは……きみにしか、心を奪われていない」
 レフティが「は?」と声を漏らす。乾いた声で、後ずさりしながら女王の教育係をあざ笑う。
「おめでたいな。身分が違いすぎる、おまえもわかってるくせに」
「あの方と長くいればわかる」
 カインは一度レフティから目線を外した。屈辱。敗北。これらの言葉が脳裏をよぎる。彼は今一度、唇を歪めて勝者に向かう。
「身分など障害にならない。エレーナさまは、そんなことを気にする方か?」
 レフティは顎を上げ、鼻先で相手を哂った。
「そこまで育てたのは自分だって言いたいのか、バカバカしい!」
 カインは拳を握りしめ、同時に膝を折った。頭が割れそうに痛む。自分が自分で、なくなってしまいそうだ。
 相手の全身に結界を張るどころか、命の奥底に閉じ込めていた牙が暴発しそうだった。胸を押さえ、うずくまる彼に同僚が言い放つ。
「おまえの言うことなんぞ、誰が聞くか!」
 敗北者は顔を上げた。
「エレーナさまのため。それでも、きみは聞いてくれないのか」
 レフティはカインに「馬鹿にしやがって!」と怒声を浴びせた。そのまま踵(きびす)を返し、肩をいからせて宮殿へと向かう。門を開いた兵士が彼へと黙礼をする。
「ご苦労」
 兵士へと鷹揚に声をかけ、掃き清められた階段を上りはじめる。歩きながらカインの懇願していた一言を思い出す。
「今日は宮殿の敷地外に出るな。女王のためだ」
 バカバカしい。そんなことができるものか。こっちは陸軍の軍事演習が郊外で予定されているんだ。
 彼は思わず舌打ちした。
「ふざけんなよ」
 レフティは宮中に上がるようになって以来、カインが目障りで仕方がない。
 彼は本性を隠して忠実な部下を装い、女王のそばにいる。陛下が亡くなった時もそうだった。今でも、あの時の光景がまざまざと思い出される。カインはエレーナの肩に気やすく手を置いていた。まるで、自分だけは心を許されているとでも言わんばかりに。
「畜生め!」
 レフティは大股で自らの執務室に入り、扉を思いきり強く閉めた。
 頭の中にはずっと、カインの顔がちらついている。
 彼はついさっき、鳶色の瞳を曇らせて膝をついた。それから、傷ついたような表情を浮かべてこちらを見たのだ。
 その瞬間に苛立った。
 おまえは、俺を過去に何度も倒してきたはずではなかったか。殺してきたはずではなかったか。
 何度も何度も俺の大事なものを根こそぎ奪ってきた、憎く強い者ではなかったのか。
 ――うるさい、馬鹿にしやがって!
 みずから吐いた言葉がよみがえる。

 俺は、あいつと違って人の心を読めない。意志の力で殺めることもできない。
 あいつのように未来を教えるような水晶玉もない。ないない尽くしだ。
 なのに、なんだって?
 こんなどうでもいい出自の男に、国家元首が心を奪われてるって? 
 口から出まかせも大概にしてくれ。
 長く宮廷の中に出入りするようになればなるほど、身分の差が理解できるようになる。エレーナさまと抱き合えるなんて途方もない夢でしかない。そんなことを考える我が身の愚かさも身に沁みている。
 宮中に上がるたび、後ろ指をさされているような気がした。臣下たちの噂話が耳に入ってきたこともあったんだ。
 あいつに、俺の苦しみが理解できるわけがない。

 ほら、あの人だよ。身の程知らずにエレーナさまを見ている男は。
 へえ。
 ちょっと陛下に目をかけていただいてるからと言って。
 どこの馬の骨とも分からない男に。エレーナさまは正気を失われているんじゃないか?
 陛下とは違うタイプの男に惹かれるんだろう。カインの方が似合ってるのに。

 一日だって、侮蔑と嘲笑に怯えない日はなかった。だから必死だった。睨みつけて剣を抜く前に、彼らを実力でねじ伏せた。
 それが結実したのは戴冠式の日だ。俺は間近から、あのひとの神々しい姿を見る権利を得た。
 その一方で、閉じ込めていた気持ちがますます大きくなった。少しでも機を伺うそのたび、カインの姿が目に入る。
 邪魔ばかりしている人間が、嫌味たらしく負けたような目をしやがって。
 忌々しい思いが、一気に噴き出したような気がする。積もり積もった言葉を嘲笑に替え、相手にぶつけたような気もする。
 それでも、全然気が晴れない。
 苛立ったレフティは壁を叩く。拳を握りしめたまま窓の外を見ると、黒い雲が東に流れていくのが見えた。
 まあ、いい。
 どちらにしろ、相手は「たった一つの点で」俺に屈しているのだ。レフティの心の中を、戴冠式でのエレーナ女王の姿がよぎる。
 そこに思い至った彼は唇をゆがめ、ほくそ笑む。
「身分……身分か……」
 レフティは壁に大きく貼られている、ルーンケルンの地図を凝視した。
「ちょうどいい、今日の軍事演習は実戦を想定しよう」
 こつこつと壁を叩く彼の心の奥底に、どす黒い野心が湧き上がる。
 機は熟した。自分を蔑んだ連中とカインに対し、まとめて復讐できるチャンスだ。
 彼の口角が吊り上がり、その顔に凄絶な笑みが浮かぶ。
「気づかせてくれたことに礼を言うよ。おまえもこれまでだ」



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