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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……11

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11、痛み・1



 静寂が支配する礼拝堂に、ちりちりと微かな音がした。
 蝋燭の火が消えたのだ。カインは|額《ぬか》づいていた顔を上げた。誰に言うともなくつぶやく。
「今夜は、なぜか蝋燭の減りが早いな」
 夜は、まだ明けない。
 カインの正面の祭壇には、初代国王の像があった。
 雄々しく大地を踏みしめる王の像は、陶器で作られている。右手には硝子張りのランプを、左手には憲法の書を抱いていた。
 そのランプの灯は、建国以来連綿と受け継がれているものだ。
 カインは深く礼をして、新しい蝋燭をランプへと継いで火を分かつ。
 あらためて、礼拝堂の広さと自らの孤独を思う。広々とした夜に浮かび上がる影が揺らぐ。今夜の礼拝堂は、説法台が片隅に置かれているだけだ。
 今日の午後のことだ。エレーナ女王への講義を終えた直後、誰かが自分の執務室の扉を叩いた。
「どうぞ」
 顔を上げるとエーベルが立っていた。前日が夜勤だったのか、無精ひげが伸びている。
「なにかあったのか?」
 尋ねるカインに、部下は複雑な感情を隠さずに告げた。
「善からぬ予感がいたします」
「ふむ」
 エーベルは転生してくる前、カイン自身と同様に魔族だった男だ。常人よりも「第六感」に優れていても不思議はない。
「『善からぬ予感』とは?」
 昨夜、女王の部屋で話をしている時。窓の外が気になって目を移したところ、カーテンの隙間から黒い影が見えたという。それは、カインにもエーベルにも覚えがある、人を憎み|妬《ねた》む思念そのものだった。
「カインさまには及びませんが、エレーナさま御自身に結界を張りました。多分、今日一日は持つでしょう」
「ありがとう。わたしは気がつかなかった」
 深く恥じ入るカインに、部下は笑った。
「カインさまは普段ご自身の能力を、ほとんど閉じておられる。その分、わたしが気がつけば微力ながら、お力添えをいたします」 
「すまない」
 彼は頭を下げた。「ごく普通の男として」女王の側におり、守れるような存在になることを、転生する前に決めていた。しかし、彼女に危険が迫っている時に、自分が役に立たなければどうしようもない。エーベルは彼の気持ちを知っているからこそ、能力を開放しろと言うことを避けている。
 カインは、ただ、歯がゆかった。
 結界など簡単に張れるのは、わかっている。しかし、余程の非常時でなければ魔力に頼りたくなかった。普通の男として、エレーナに愛されるにふさわしい人間になりたい。善人でありたい。そう思っていたが……わたしは間違っているのだろうか?
 カインはふたたび、国王の像へと向き直る。
 |傍《かたわら》には、レフティに放り投げられた水晶玉がある。かすかな音を立てる蝋燭に照らされ、彼は玉に手をかざした。浜辺につけた漁船から降り立つ、いくつかの人影があった。
「これは……」 
 カインは己のざわめきたつ心を押さえつける。感情に流されてはならない。今いちど強く念じつつ、目に映る光景に神経を傾けようとする。密航してきた彼らの心中が、ちらちらと透けて見えた。カインは眉間に皺を寄せ、彼らの唇も読み取っていく。
 長い浜辺を歩いている彼らは宮殿を目指していた。呪術師らが素足で歩く足元を見つめ続ける。やがて玉に、彼らの感情がシャッフリングされて立ちのぼる。
 ……レフティを狙え。
 ……最大のチャンスは軍事演習の日だ。
 ……演習の日なら、我々を邪魔する者は近くにいない。
 カインの眉がわずかに上がる。演習が行われるのは今日だ。
「いったい彼らは、なにを仕掛けてくると言うのだ?」
 思わず、つぶやいた彼は考える。
 呪術師がレフティに目をつけるのは当然なのかもしれない。戴冠式の日、彼は礼拝堂の中にいた。あの日、おそらくは誰が見ても「エレーナに忠誠を誓う臣下」として感じたはずだ。
 レフティはわたしやエーベルのように、気配を消すことはできない。当日は呪術師が礼拝堂の中に入ることは阻止することはできた。けれども彼ら呪術師が戴冠式に出席した人間に、なんらかのツテを持っているとしたら?
 わたしが呪術師ならば、即刻レフティのすべてを洗い出す。今頃は背格好から顔だち、過去の経歴、魔力が使えない人間であることは承知する。
 以前から東西の国に、レフティの名前は轟いていた。彼は宮中の警護に召し抱えられてから、港湾部の警護の責任者も任された時期がある。その際に徹底して不法入国者を洗い出し、強制送還を次々と決めた。当時、彼により強制送還された人間の中に、呪術師が存在していてもおかしくはない。
 彼らには彼らの理由があるだろう。カインにも呪術師たちの「なんとしても祖国に戻りたい、祖国の土を踏みたい」と思う欲求は、理解できる。
 国を追放された呪術師の多くは、ルーンテルンに対して積年の恨みを果たせる時を待っていた。今が絶好のチャンスではなかろうか。

 カインは自らの掌を見つめた。わたしの力は他者を傷つけるためなら無尽蔵に出てくる。が、他者を護るための力は、あまりにも無きに等しい。
 せめて、エーベルが教えてくれた「他人からの黒い思念」から、エレーナさまをお守りしなければならない。目の前にいる相手になら、気づかれずに魔術をかけることはできる。そう思った時だった。
 燭台の揺らぐ灯りの下、水晶玉から怨嗟の言葉が聞こえてくる。彼は玉を凝視し、手指をかざした。
「あの男の腹の底を晒せ。そうすればルーンケルンは即刻、戦火に見舞われることになろう。戦乱に乗じて我々が占領する」
 老いた男が密航してきた仲間に語る声だった。老人はなにかを伝授しているような気配もする。
 腹の底とはなんなのだろう。彼らはレフティの心を完全に操るつもりなのか。疑問に思うカインの眼差しの先。レフティがシャツを脱ぎ捨てている光景が映しだされた。
 カインが見つめる先、次の場面ではレフティは嫌がる女の乳房をまさぐりながら激しく腰を動かしていた。あえぎ泣く女の揺れる乳房の上、彼の汗が落ちていく。
 二人が体を重ねるシーツも、汗や体液でぐっしょりと濡れている。見るからに薄い女の体がレフティに突かれるたびに声を上げる。彼は桜色あざやかな乳房を舌で転がし、力強く女の脚を抱え腰を突きこんでいく。女は幾度も絶頂に導かれる。
「んはあ……っ!」
 水晶玉が、呻きながら果てる女の顔を覗かせた。玉を凝視していたカインは愕然とする。
 レフティの分厚い胸板の下、瞼を閉じ頬を紅潮させた女の顔。それは紛れもなくエレーナだった。やがて女の喘ぐ顔は、フランへと変わっていく。
 彼はエレーナやフランの耳元で囁き続けていた。
「この国は俺のものになる」
 レフティの心の中に幾人かの臣下が浮かぶのが見える。その臣下は皆、亡きデメテール国王の頃から内政に不満を唱えていた者たちだった。もう、玉を見ていられない。レフティはエレーナと何十回も深く唇を重ねている。

 カインは、がっくりと肩を落とした。察するに、レフティは軍事政権を打ち立てる気でいる。否、それよりも実現して欲しくはない状況が衝撃だった。
 レフティとエレーナ女王が抱きあうなど、今のルーンケルンにはあってはならないことだ。それが実現してしまう。
 彼は打ちのめされる。まざまざと見せつけられた、もしやと思っていた光景は心の奥で長い間畏れていたもの。エレーナがレフティに犯されていく悪夢。
 カインの心を、尖った刃物で奥深くまで刺されたような痛みが襲う。水晶玉の予測は外れたことがない。彼は胸を押さえ、玉から視線を外した。やるせない感情が胸を満たし、涙となってこぼれ落ちる。
 今のカインには国家の一大事よりも、エレーナをつなぎとめておけないことの方が打撃だった。彼女の盾になろうと決めていた心が折れていく。
 理性は玉を見ていなければと命じている。しかし、感情が泡立って落ち着かない。
 心と体が二つに裂ければいいのに。
 そうしたら楽になれるのに。なにもかも割り切って、エレーナのそばにいれるのに。
「わたしはもう、だめかもしれない」
 つぶやきが、蝋燭の灯りしかない空間に残響を作る。正直な気持ちだった。カインは水晶玉に虚ろな眼差しを投げ続けた。

......

 わたしはエレーナさまと「あの日」から、ずっと一緒にいる。体内に魔王の記憶と能力が覚醒した、あの日から。
 亡き父君から教育係を仰せつかった時は、緊張で指が震えていた。どこに出しても恥ずかしくない王女に育てることが、みずからに与えられた使命だと思った。
 エレーナさまは教えた事すべてを、細やかに身につけていった。彼女が、皆の望んだ通りの女性になりつつあった頃の話だ。
 レフティという男が、頻繁に宮中に呼ばれるようになった。
 彼は、何もかもわたしとは正反対な男だ。はじめて彼と話をしたのは宮中の廊下だったと思う。雨の降る日だった。湿気っぽい廊下で、男がうずくまっている。近寄ってみると、琥珀色の髪がさらさらと揺れていた。
「廊下に座ってはいけないよ」
 彼は声をかけると、あわてて顔を上げた。
「あ、す、すみま……」
 こちらを見る紫紺の瞳に、心がざわついたことを憶えている。わたしは動揺をさとられないように話しかけた。
「具合でも悪いのか。救護室に連れて行ってやるよ」
 話している最中に、考えが言語化される前に感じた。そう、直観した。この男は宿命の男だと。
「だ、大丈夫です。もう、帰りますから」
 彼はそう言って、よろけながら中庭から出て行った。わたしはレフティの背中を見送りながら佇むしかなかったのだ。
 今でも忘れられないのは、レフティがはじめてエレーナさまに目通りした時の表情だ。
 十五歳の誕生会をデメテール陛下が行った晩。エレーナさまは散々、駄々をこねていたことを思い出す。
「なんでこんなことしなくちゃいけないの? 眠たいのに……」
 周りの臣下も、わたしと一緒に「社交界デビューです、しっかりしてください」と言い、彼女をなだめて化粧をさせ、着替えさせた。
 いざ扉が開き、大広間のスポットがエレーナさまに当たると大したものだ。彼女はすっくと立ち、周りの人たちに溢れんばかりの笑顔を振りまきはじめた。
 わたしは当時、大広間にいた人々の表情を憶えている。誰もが王女の御衣裳を楽しみにしていた。化粧映えするであろうぱっちりした目元や愛らしい口元など、エレーナさまの後ろから大広間を見渡すと招待客の期待以上のものであったらしい。
 扉が開いた次の瞬間、息を呑むような静寂の後で皆がどよめいた、あの時。
 彼女の姿を見て時間が止まったような人々の群れから一歩踏み出し、頬を紅潮させた男がエレーナさまに手を差し伸べた。
 それがレフティだった。
「踊っていただけますか?」
 エレーナさまは一瞬からだを固めたが頷き、手を取ったのだ。
 彼女は背中が大きく開いたドレスを着ていた。アップに束ねた髪の後れ毛が揺れた時、耳たぶが赤くなっていたことを思い出す。
 あの時から二人の間に、二人にしか通じ会えない空気が流れている。どちらか一方がどんなに隠そうとしても、もう片方が熱い視線を送る。
 カインは前から知っている。どんなにがんばってエレーナに認められようと思っても、初めから恋の勝負はついているのだ。
 どんなに彼女が自分に甘えてくれているようでも、それは家族的なものでもなければ、ましてや恋人に対するそれではない。
 彼女が二人きりの時にだけ見せる、甘えた表情が好きだ。大きな瞳を輝かせ、楽しそうにこちらの話を聞く表情が好きだ。
 でも。
 エレーナにとって自分は単なる下僕でしかないのだ。
 下僕……なんと悲しい言葉だろう。どんなに愛しても報われない、まして抱き合えることなど永久にない身分だ。
 カインには身に沁みている。抑えてはいるが彼女のひたむきで一途な気持ちは、いつもレフティが独占していると。彼自身も感づいているはずだ。二人を妨げるものは、この国に永く敷かれている身分制度だけだと。
 カインは「自分の使命」に没頭することより他、なす術がなかった。好きだという気持ちを紛らわせていられるのは与えられた仕事しかなかった。
 彼は今ほど、この身を引き裂きたいと思ったことはない。



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