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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……6

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6、戴冠式・4


 カインは宮殿の中庭の日陰から、エレーナ女王が教会の裏庭に出てきたことを感じ取っていた。彼は大勢の人に囲まれている彼女を見定め、思わず目を細める。
 黒く長い髪をアップにまとめているので、すっきりした顔の輪郭がなお細く見えた。ほんのり紅く染まった頬と、ぱっちりした黒い瞳が美しい。耳元には亡き王妃の形見の、本真珠のピアスが光っている。又、ローブデコルテのドレスはビスチェの胸元を広く開けたもので、大きなリボンがしつらえてあり爽やかな色香を漂わせていた。
「お美しいですね」
 カインは、予期していなかったエーベルの声にうろたえた。背筋に冷たい汗が流れるのを感じながら、きょろきょろと周りを見回す。すると、横から彼の静かな含み笑いが聞こえてきた。
「こちらにいらしたんですね」
「ああ」
 エーベルが首を上げて上官の顔を眺め、深緑色の目をいたずらっ子のようにキラキラと輝かせた。その顔は、いい年を超えた男のものとはとても思えない。
 カインはエーベルに半分呆れた。なんだ、その子供みたいな顔は。
「しかし、よくまあ」
 部下が右手を上げ、上官の言葉をさえぎる。
「『わたしの居場所がわかったね』でしょう?」
 思わず咳き込んだカインを、エーベルがさらに笑顔で見つめた。
「気がついていらっしゃらなかったんですか?」
「……まさか、きみが」
 カインが相手を凝視したのち、頭をかきながら苦笑した。部下は上目遣いで、詰襟チュニックの裾を直しつつ答える。
「ずっとカインさまのおそばにおりました。ずっとです」
 その口調は柔らかく、カインの心の奥底に響いた。
「そうだったのか」
「はい」
 カインはエーベルを懐かしそうに眺めた。
「道理できみは、わたしが言ったこと以上に何事も成してくるはずだ。すまない、言われるまで気がつかなったなんて」
 部下はあらためて上官から少し離れ、姿勢をととのえ敬礼をした。
「実は、わたしも先日気がつきました。現世でもカインさまを追いかけて転生してきたことも、なにもかも。それに今日の戴冠式が控えているのだから、わたしのことなど気がつかなくて当然でしょう。我々の使命はエレーナさまをお守りすることです。それ以外のことは、注意が行き届かなくて当然かと」
 カインはその言葉で、孤独で張り詰め、なおかつ飢え渇いていた心が癒されていくのを感じていた。彼は余計な言葉はいらなさそうだ、と思いながらエーベルに返礼をする。
「待てよ。今、きみは『追いかけて』と言ったか?」
 エーベルは白銀の髪を直し、頷く。
「わたしもあなたと同じように『善人になりたい』と願いましたから」
「了解したよ。以心伝心の間柄だったことも」
 カインは頼もしい部下を眺めつつ思う。確かに転生を願う時に「善人になりたい」と考えたが、誰の力添えも要らないと思っていた。自分ひとりの意志の力さえあれば、あの時に自分自身に誓ったことが果たせるとも思っていた。今これほど、そばにいてくれる人の存在をありがたいと感じたことがない。
 エーベルは上官のカインに、自分の持ち場に戻ることを告げる。彼はこれから宮殿の中庭警護の担当と交代し、これからエレーナ女王を自室まで警護しなければならない。
「頼む」
「かしこまりました」
 深々と礼をしたエーベルがなにかを思い出したように、カインを見上げた。瞳が曇っているように見えるのは気のせいか。
「もう既にご承知かとは思いますが、レフティには、お気をつけください」
「承知している」
「くれぐれも、あとしばらくの間は、礼拝堂で彼に近寄りませぬよう」
 カインは唇を結び、部下へと深く頷いた。
 そう言えば彼も又、レフティの執念は知っているのだ。カインの心に、ふたたび一抹のやりきれない気持ちが蘇った。

 エーベルは彼自身が告白した通り、カインの忠実な臣下だった。
 カインは世界がまだ三つに分かれる前から桁外れの魔力を持つ血族に生を受け、何百回も転生を繰り返している。その能力を他者のために使うということは、前世が終わる直前まで考えたことがない。
 憎悪や嫉妬など負の感情を体現した方が楽だ。人が本来持てる欲のタガが外れたら、モラルなど役に立たない。
 カインの中に溜まる泥のように暗く重いものは、欲望や嫉妬、殺意などの負の感情だった。彼は又、己に歯向かう者の首を斬り捨て、雨晒しにしている光景を見る時が至福の瞬間でもあった。
 ある時はひとつの国をすべて焼き払い、殺害や強奪を繰り返した。
 ある時は広い領土を力で制圧し、ある時は目障りな土地に住む男性には強制断種をし、女性には自分たちの血族と強制的に交配を繰り返して民族をほぼ殲滅させつつ侵略に成功した。
 エーベルとは酒を酌み交わしながら、討ち取った敵の首を並べて鑑賞していた遠い記憶がある。二人で魔力を使わず、力任せに若い女奴隷をどれだけモノにできるかとも競ったこともある。
 カインは悲鳴を上げて逃げ惑う女性たちを組み伏せて足を開かせ、猛り狂う自分自身を暴力的に沈めていく、壮絶な征服感に酔いしれることが好きだった。
 虚しいと感じたことは一度もない。精を放つ瞬間のためだけでなく、欲しいと思うものに向けて持てる力を振るうのは当然だと思っていた。
 しかし己に逆らう目障りな存在は、いつの世も現れる。それがレフティだった。
 カインは深く瞼を閉じる。

 わたしたちが理解しあえる時はない。これも宿命なのだ。きっと現世で、お互いにどちらかが先に殺されるまでは憎しみの連鎖は終わりそうにない。
 だが、きみは信じてくれるだろうか。
 ここに生まれてくる前、わたしとエーベルがきみに討たれた時に誓ったことを。

 カインが静かに教会を振り返った頃、エレーナ女王の戴冠式はつつがなく終わろうとしていた。あとは宮中の警護の一切をエーベルに任せている。
 主に礼拝堂正門前を任せていた二人の若い部下の声が、礼拝堂の開け放たれている裏口扉のそばから聞こえてくる。
「カインさま、もうすぐ式次第がすべて終了いたします」
 彼らは安堵の表情を浮かべ、扉を閉めようとしているところだったらしい。さきほど記帳台の前で叱った少年が紅潮した頬をほころばせ、カインに向かって一礼をする。
「ご苦労だったね」
 カインは礼拝堂の中に入り、部下の少年たちにねぎらいの言葉をかけた。それをきっかけとしたのか、ほっとした顔の部下が周りに集まってくる。
「みんな、ご苦労だった。しかし、エレーナさまがご自分の部屋に入られるまで気が抜いてはならないぞ」
 彼は集まってきた部下に、ひとまず頭を下げた。再び顔を上げたとき、明らかに部下たちの緊張が解けた視線ではない、突き刺すような視線を感じた。
 自分のいる場所の正面にあたる、正面扉にレフティがいる。カインはそちらに向かって片手を上げた。
「式典中の建物の中の方は、ご苦労だったな」
 レフティはカインの声を聞き、琥珀色の髪をかきあげてふんと鼻息を吐く。それから片手を上げ、近寄りながら言った。
「気分が悪くなって倒れた人がいた。その程度で済んだよ」
「何人くらいだ?」
「十人もいない。宮中で休ませている」
「わかった。ありがとう」
 レフティの心の内をカインは理解しているつもりだった。彼はこちらへの憎しみを、無関係な大勢の人の前で剥き出しにすることは避けている。
 だが彼は、もしカインが用心もなく人ごみの中に立っていたら静かに背中を刺しにくるだろう。そして知らぬ顔で死骸を放り出すのだ。誰かが気がつく、その時まで。
 カインの考えていることを悟ったかのように、レフティが薄笑いを浮べながら口を開く。
「お陰様で、礼拝堂に闖入者はいなかったよ。きみには礼を言う、ありがとう」
 それはそうだろう、わたしとエーベルがエレーナ女王の暗殺を企てていた者はすべて処分したのだ。カインはそう言いかけ、言葉を呑み込んだ。
 いつだって、レフティはわたしの上にいる。
 カインはともすれば、不満をぶちまけてしまいそうだった。知ってか知らずか、レフティは目を細めて話しかけてくる。
「今日が終わったら、また新しい一日が始まるんだな」
「ああ」
 周りの人間にはわからない、二人だけに通じる会話だった。レフティが目尻を下げて顎を撫でる。ここにいる大勢の部下たちの目には、仲の良い二人としか映っていなかった。




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