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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……4

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4、戴冠式・2


 カインは広い道を隔て、自分よりも若干背の低い、白銀の髪の兵士に目配せをした。部下の中で一番信頼をしているエーベルだ。
 幅広の道は人の群れでごった返している。
「来てるぞ」
 エーベルは一言で悟り、深い緑色の瞳を鋭く光らせて、厚い唇を固く結ぶ。彼は視線だけをあちこちに走らせつつ、チュニックのボタンを上から二つ外した。紺の詰襟チュニックは、カインやレフティと同じ臣下の礼服だ。
 カインは真後ろにいる同じ礼服姿の若者に目礼をし、そっと人ごみの中に紛れる。大勢の人の中でチュニックを脱ぐと、私服で警備に当たる部下が隣にいることに気がついた。その部下に上着を渡し、人の流れに逆らいつつ教会の門扉の近くへ向かう。
 上着を脱ぎ、動きはかなり楽になった。テロリストと格闘となれば、確実に上着は邪魔になる。身軽になった彼は、今しがた刃の光が見えた方向を五感で探りつつ走った。人が溢れ、ごった返す門扉の向こう、記帳場所の手前だ。
 カインには、エーベルが距離を取りながら自分の後に続いているのがわかっている。そこで振り向き、指を立て素早く振った。
 エーベルは瞬時に理解した。あれは左に行けという指示だ。彼はチュニックの前ボタンを全て外して左に走っていった。

 王女と同じくらいの年齢の部下が二人、賓客の案内のために汗をかきながら立っている。彼らは緊張した面持ちで口角を上げ、ぎこちない笑顔を作りながら人々を記帳所へと誘導していた。
 カインは、広い舗道の右側に立っている礼服の少年を見た。今日はじめて任務に着く部下だ。その背後から、鋭い刃が首筋に振り下ろされようとしていた。

 カインは履いているブーツの中から短剣を出し、少年を狙うテロリストの背後に回った。それから狙いを定め、短剣をテロリストの背中へ突き刺して中までえぐり込む。
「ぐ……っ」
 礼服の少年がその音に振り向こうとした時、骸(むくろ)は既に消えていた。代わりに彼は、少し離れたところで上官が右手を上げている姿を見つけた。
「ご苦労さま」
「あっ! ありがとうございます!」
 上官にねぎらいの言葉をかけられ、少年の顔中に広がっていた緊張が一気にほぐれていく。
 カインは笑みを浮べつつ、左側に目線を移す。樫の木陰の下、坂道を登ってくる人たちからは死角になるところにエーベルがいた。彼は若い警護兵と二人で、茶髪の男の膝をつかせて腕を締め上げている。
「あっ、あれは……」
「きみは心配しなくていい、引き続き賓客たちの誘導に当たれ。誘導役の二人とも気が散っているから、ほら。記帳台まで混雑してきた」
 部下が焦ってカインの指の方向を見た。地元から来たいでたちの男の子が迷子になったようで、泣きべそをかいている。
「失礼しました!」
 若い警護兵は職務の顔に戻り、子供の方に駆け寄っていく。カインは任務に戻った部下を見定め、エーベルの方へと人ごみを縫って動いた。
「吐いたか?」
「いえ、なにも」
 エーベルは上官の顔を見ずに、テロリストの両腕をギリギリ締め上げている。カインはその男の正面に回った。二人の兵士に地へ膝を折られた侵入者が、憤怒の表情でカインを見上げる。
「あんたが噂の魔王さまか」
「ありがたい。名誉なアダ名だ」
 カインは答えるがいなや、相手の背中へと短剣の柄を振り下ろした。テロリストがうめき声を上げて地面に身を落とす。
「つれていけ」
「はっ」
 地下牢で取り調べるまでもなく、その心を読み取れば東からの刺客だとわかっていた。カインの目をちら、と見た警護兵が同僚を呼ぶ。一方、カインはエーベルを手招いた。
「わたしは裏手に回る。表は任せた」
「かしこまりました」
 教会の裏手には換気口がある。華奢な男ひとりくらいは充分に忍び込めるだろう。カインの頭がちりちりと痛む。早く着かねば、そこから礼拝堂に侵入されてしまう。
 彼は再び、部下たちの視界から姿を消す。次に彼がまばたいた時には換気口の金網を外していた。
 ちょうどいい、ここならば誰も来ない。
 ほくそ笑んで両の掌を奥へとかざす。青い炎が真っ直ぐに放たれ、標的を焼き尽くした。カインは憎悪にも似た渇きの気配がすべて消えた後、空いた空間を眺める。
 神経を研ぎ澄ませると、礼拝堂の様子が脳裏に浮かんだ。
 エレーナ王女が、白い胸元を大きく開いたローブデコルテを身にまとい、ひざまずきながら冠を受けている。
 幼い頃から大きな二重の瞳をくりくりさせて、いろいろな質問を投げかけてきた。小さな手でペンを取り、ノートに自分の名前を何度も書いては楽しそうに笑っていた。地図帳を塗りつぶしながら「ここに行ってみたいな」とつぶやいていた。
 その細い指も、爪先も……あなたは、わたしのそばで大きくなったのだ。
 思わず感傷に浸りそうだった。闖入者の気配は未だ続いているのに。
 頭を振り、背後へと視線を投げた。カインは目の端で青いロングコートの裾がたなびくのを認めた。左だ。宮殿の屋根から自分に向かって矢を引き絞っている男がいる。
 カインの感情の揺らぎなどお構いなしに、目を細めた金髪の男はこちらに向かって弓を放つ。彼は身を翻して宮殿の壁を駆け上がり、背後から敵の首に手をかける。
「あっ」という声と同時、ごきっ、という振動がカインの体に伝わった。驚愕の表情を浮かべた男の体が彼の視界から消えていく。
 手加減などするものか。わたしはあなたの盾になるのだから。
 カインは視線を下方に移した。
 教会敷地の中の招待客は礼拝堂に入っている。建物の外側にいる人たちは、たとえ招かれていなくても一目でいいからエレーナを見たいと思っている自国の民だろう。
 父亡き後のルーンケルンを統べる若き女王の即位を、祝福するために集まってきているのだ。カインは純朴な国民たちを傷つけてはならないと思いながら呼吸を整え、再び教会内の敷地を見渡した。
 戴冠式の最後には、女王となったエレーナが礼拝堂から出ることになっている。
 彼女自身は危険を充分に承知していたが、国民の祝福に応えるために「お手振り」の時間を設けて欲しいと臣下たちに要望していたのだった。
 もちろん、レフティもカインも強硬に反対はした。が、エレーナは「せめて晴天ならば、わたしは国民たちの前に出たい。皆の気持ちに少しでも応えたい」と頑固に押し通した。それ以上は、誰もその真摯な願いに逆らうことができなかった。
 お手振りの場所は、普段は滅多に解放されない教会の裏庭だ。表門から入った民たちは一旦、礼拝堂の中に入り裏庭に抜けるような造りになっていた。
 カインはもうすぐ女王が出てくる予定になっている、宮中の広い中庭とつながった裏庭を眺めていた。広い芝に照りつける太陽の光が、朝よりも強く照り返している。やがて彼は一点を見つめて目を細めた。手をかざすと、その姿が拡大されて見える。
「今日はおまえが『一番の悪意』なんだな」
 教会の柱の影に背丈の低い、ほっそりした人間が見える。さっき換気口の金網を外したすぐ近くだ。身を隠しているつもりだろうが、見逃すわけには行かない。
 カインはその人影を見ながら思念を探り当てた。彼は今朝がた、麓(ふもと)にひろがる集落に忍び込み、殺害した若い女性の白いワンピースを身にまとっている。
「エディットからの呪術師か」
 密航という手段でルーンテルン国内に入ったのはいいが、ほとんど着のみ着のままの格好だったため、背格好も同じ女性を殺めて怪しまれないようにここまで来たらしい。顔つきも女性的なため、教会正門にいた警備の部下も自国の民と見間違いしてしまっている。
 彼は略奪した衣装に身を包み、激しい呪詛の言葉を指の動きとともに唱えていた。おそらく、エレーナが裏庭に出た瞬間に呪詛を発動するつもりだろう。
「わたしを出し抜けると思うな」
 カインは宮殿の屋根の上で、つぶやきながら大きく左手を上げた。瞬時に現れた黄金色の大きな弓を、掌に握りしめて下腹に力をこめる。右手では、やはり黄金色に輝く太い矢を引き絞っていた。
「こういう時、我ながら魔王でいてよかったと思うよ」
 エレーナ。あなたを守るためならば、わたしは業火をも厭わずに解き放とう。
 彼は目を細め、呪術師の心臓をめがけ矢から右手を離す。ひゅんと音がした直後、真一文字の閃光が呪術師の胸板へと突き刺さる。
 真っ白いワンピースに身を包んだ呪術師が、うろたえながら矢を体から抜く。血しぶきが芝に飛び散った。カインはその光景を、素直に美しいと感じた。



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