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魔王に抱かれた私――優美香

魔王に抱かれた私……2

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2、宿敵


 二日後、デメテールの国葬がしめやかに執り行われた。
 小さな海洋国家ルーンケルンの国王が蘇生できなかったことは、東西の大国に一日も経たぬうち掌握されている。
 レフティを始め、臣下の全員が他国からの侵攻をおそれている。国王の血を引く人間がエレーナ王女だけということも不安要素の一つだった。
 王女を産んですぐに亡くなった王妃の祖国・ナマンは、西の大国エディットに滅ぼされていた。エディットには、生前のデメテールに追放された呪術師たちが多く住んでいる。
 国王が亡くなった知らせは、呪術師たちの積年の恨みをあらためて表面化させた。特に、自分が生まれた国を追われたと感じている呪術師ほど、その声は大きかった。

 国王の葬儀が終わった直後の宮中。
 カインは廊下で、リネン係の女性に呼び止められた。彼が振り向いた時に、彼女が胸の前に抱えている大きなバスケットからタオルが何枚か落ちる。
 カインはリネン係が腰をかがめて床に落ちたタオルを拾おうとするのを押しとどめ、自分が代わりに拾い上げた。
「あ、ありがとう」
「なんだ、フランだったのか」
「『なんだ』は失礼ね。用事があったから呼んだのに」
「それはすまなかったね」
 黒髪を後ろで束ねたフランは、バスケットを持ったまま頬をふくらませた。カインはにこにこ笑いながら、彼女を見下ろして頬をつつく。すると束ねた艶のある長い髪が、さらりと揺れる。
「ごめんね。なにか?」
 フランの丸い頬が赤く染まって行く。
「忙しい時にごめんなさい。小耳にはさんだことなんだけど」
「ああ、忙しいね。これから戴冠式の会議だ」
 本音を言えば五分でも惜しい。だがカインは宮中に入った頃から、様々なことを教えてくれた彼女に呼び止められると断りきれないのが常だ。
「カインは聞いてない? 陛下がお亡くなりになったほんとの訳……」
 彼は途端に顔色を変え、廊下の隅までフランのエプロンを引っ張った。
「きみたち女は率先して変な噂を立てているんじゃないだろうね?」
「それが……」
 彼女はリネン類が詰まったバスケットを、カインの耳と自分の口を隠すように持ち上げる。
「第一発見者はレフティだったでしょう?」
「そうだね」
 カインはごく普通に答える。フランは彼へ背伸びをして、ますます声をひそめた。
「崩御される少し前……ええと、三日くらい前かしら。デメテール陛下に叱責されてたのは知ってる?」
「いや? あの有能な男が陛下に叱られるなんて、ありえないだろう。第一、理由はなんなんだ」
 否定しつつもフランを凝視する彼の眉間に皺が寄りはじめる。 
「それがわかったら苦労はしないわよ。だけど陛下の執務室に、かなり長い時間いたのは事実だもの。廊下を通りかかったスチュワードが激しい口論を聞いたって言うし」
 スチュワードというのは臣下ならびに使用人たちの使用する食堂の、食器管理をしている業務のことだ。カインは首を傾げた。
「それは昼間のこと?」
「午後かな、彼女は洗濯室にも用事があったらしいから、そこ通ったのは」
「それだけ?」
「でもおかしいと思わない? 次の日にレフティは急に休みを入れて雲隠れしてたのよ?」
 同意を求められたカインは、困ったなと正直に思った。レフティとは、同じ仕事をしているわけではないので彼のしていることや行動は管理していない。
「その矢先に陛下が崩御されたんだよ? タイミングが良すぎよ、これって」
 やれやれ、とカインは肩をすくめて彼女に訝しい目線を向けた。彼に睨まれたと勘違いした侍女は、首を横に振る。
「今までにレフティが突発的に休みを入れるなんて、ありえないことだもの」
 彼はフランの段々と自信がなくなっていくような口ぶりに、女性たちの単なる憶測が大きく膨らんでいるだけではないかと考えた。が、それを直截的に言ってしまうと今度は自分の立場が危うい。
「わたしはレフティの細かい勤務や、今、手がけている仕事の内容は知らない。だけど、そうそう簡単に陛下に叱責を受けるような男ではないよ」
 彼女は目をきらきら光らせ、カインに詰め寄る。
「仕事じゃないことなら?」
「はあ?」
「彼は有能な臣下だけど。私生活で叱られるようなことがなにかあったのよ、きっと」
「きっと、ってねえ……」
 カインは眩暈を抑えつつ、フランを一瞥した。これ以上、足止めを食っていたら会議の時間に遅れてしまう。
「根拠はあるのかい? ことは陛下に関することでもあるんだよ、いい加減な噂を流す人間は許さない」
 彼の厳しい目つきを見て、フランは初めて自分が憶測で物事を話しているかもしれないことに気がつく。しかし、こういう時に引っ込みがつかなくなってしまうのは欠点だ。カインは長年の付き合いで、彼女のそういった性格は熟知していた。
「あなたならなにか知ってると思ったのよ。最近レフティは、部下に行き先も告げずに一日いなかったりもしてたし。あ、そうだ」
「ん?」
「陛下は執務室に入られる前に、わたしたちが厨房で遅い夕食を取っているところに来られたの。その時にできあがったシャツを渡した子も言ってたけどね。いつもと変わりなかったわ。カイン、陛下がお亡くなりになった直後の顔色、ちゃんと見た?」
「いや……どうだったかな。だけど、それだけじゃ」
 彼女は首を上げてカインを軽くにらむ。
「信用してないでしょ?」
「悪いけど正直言って、半分はね。わたしはそろそろ行くよ?」
 フランは「んもう……」と言いつつ、もどかしそうに地団駄を踏んだ。
「女ってバカにしないでよ? あたしたち予想してるの。戴冠式の日、あなたは式場内の警護には入れないわよ。カインの部下は、ほとんど学閥ばかりでしょ? レフティはなにかミスが起きたら、カインたちのせいにしようとしている気、満々なのよ。それに自分の存在を海外の賓客にアピールするつもりだから。レフティって目立ちたがりだし。日頃からカインのことは面白く思ってないし。気をつけて」
「はいはい、どうもありがとう」
 カインはにんまりした笑みを浮かべ、気のいい友の肩を叩いた。彼は判断する。きっと彼女は使用人の間で立っている噂を、誰かに聞いて欲しかっただけだろう。
「じゃあ、わたしはこれから会議に行ってくるよ。またなにか情報があったら教えてくれ」
「それはいいんだけどね」
 フランがカインのシャツの裾を引っ張った。
「まだなにかあるのかい?」
 彼女は口を尖らせて彼を見上げる。
「忙しいのは承知しているけど、また腰のあたりが細くなったわよ? ちゃんと食べてるの?」
 フランはにやにやしながらカインのウエストを撫でた。くずぐったさと照れくささでカインは思わず笑ってしまう。
「別に食事の量を減らしているわけじゃないよ。毎日鍛えているから腰が細くなったのであって。フランも一緒にやるかい? 男が振り返る体になれるぜ」
 女友だちはカインを鼻息も荒く、廊下の壁へと突き飛ばした。
「もう! カインなんか大っ嫌い!」
 彼はフランを愉快そうに眺め、それから目指す方向へと顔を向けた。
「きみに嫌われたら生きていけないよ。撤回してくれ。じゃあまた」

 手を振って同僚をいなしたばかりのカインは思う。女の勘と噂の真偽とやらは当たるも八卦、当たらぬも八卦……。
 しかし、同僚のことを「女だから」とタカをくくっていた彼は、直後に戴冠式の会議で彼女たちが予測していた通りの結末に舌を巻くことになる。

 エレーナ王女の戴冠式を明朝に控え、カインは宮中の地下にある書庫にいた。
 彼は書庫の一番奥にある机に置いた水晶玉に、燭台の灯りを頼りに骨ばった長い手指をかざす。それから鳶色の瞳を細め、水晶玉に浮かぶ情景をじっと見ていた。
 透明だった玉は最初、彼の首元とスタンドカラーの第一ボタンを映していた。が、またたく間に憎悪に満ちた人間の顔を、繰り返し浮かべるようになった。黒いローブ姿の男たちだ。彼らは憤怒の表情を浮かべ、呪いの言葉を絶えず吐き続けた。
 彼は深く息をつき、短めに刈った黒髪を手で直して革椅子にもたれる。
「明日はなんとしても、悪意の塊から王女を守らなければ」
 追放されたことを恨んでいるであろう呪術師からだけではない。東西の隣国からの脅威からもだ。明日の戴冠式は隣国にとって絶好のチャンスになる。人目に晒された場所で、わずかな隙を狙って王女の殺害に成功すれば、ルーンケルンへの侵略が成功したのも同然だ。それに「殺害した自分」の力を誇示することにもなる。
 西のエディットと同様、東の強国ロードレも自国の覇権を轟かす機会を虎視眈々と狙っている。ロードレとは表向き通商条約があった。しかし、あちらも自国の領土や領海を広げようとする意図は以前から目に見えていた。隙あらばルーンテルンを侵略し、勢力拡大を狙うエディットに対抗したかったのだ。

 亡くなったデメテール国王は貿易と国防に力を入れていた。そのせいか各地にある港のほとんどは整備が行き届いている。海上貿易を円滑に進めていくうち、自然と港湾部は発展していたのである。
 しかし、大事な交易を守る海軍がいまだ人材が足りない。そのことはデメテールの頭を悩ませていた。 彼は若い日に即位した頃から、交易を守る海軍を補強したいと考えていた。
 海を守る軍隊が堅固なものであれば、ほぼ鎖国状態のルーンケルンも独立状態を保つことができる。そう考えた彼は有能な人材を見つけ、破格の待遇で宮中他に召しかかえた。
 西は人口増加がめざましい大国。東も細々と交易はあれど、西の脅威を感じて次々と手を打ってきている。いざとなればルーンケルンは東の盾として戦場になるかもしれぬ。  
 人口でも国土でも東西と比べ半分以下の、海の真ん中にある、危ういバランスで成り立っている国家がルーンケルンであった。
 今まで我が国は、なんとか独立を保ってきている。しかし、もう限界が近い。カインは水晶玉の中に映る情景を消し去り、頭を振った。
 自分が王女を、この国家を守るための盾になる。明日だけではない、これからもずっとだ。
 そうつぶやき、奥歯を噛みしめた時だ。
 暗い書庫の鉄扉がかすかに音を立てた。彼が息を飲んで椅子ごと振り向くと、眼光鋭い精悍な男が立っている。その白いシャツと琥珀色の髪が暗い室内に、ぽうっと浮かんでいた。
「レフティか、おどかすなよ」
「すまない」
 彼は口元だけを上げた笑みを作り、つかつかとカインのそばにやって来た。
「驚いたな。まさか、カインにこんなことができるとは」
 カインが首を横に振る。
「自分のいる場所に危険が迫っている時だけだ。それ以外は使えない」
 レフティの彼を見る目が、きらりと光った。
「『使えない』? 『使わない』の間違いじゃないのか」
「まさか」
「それで、なんの用だ?」
 レフティは彼の問いに答えず、眉をつりあげて薄い唇を歪めた。
「本を読みに来ただけだ」
「それは失礼した。では、わたしは書庫から出ていくことにするよ」
 カインが水晶玉を絹のハンカチで包む途中、レフティが右手を置いて動きをさえぎった。
「待てよ」
「?」
 燭台のともしびが、ぼんやりと二人の顔を照らし出す。カインが不思議そうな顔をして相手を見つめ、水晶玉から手を離した。
「今から本を探すのだろう?」
 レフティがカインの言葉に顎を上げ、忌々しげに言い放つ。
「気が変わった。おまえの企みを近いうちに白日の元に晒してやる」
「どういう意味だ?」
「自分の胸に手を当ててみろ。そこに答えがあるはずだ」
「なにを言いたいのか、さっぱりだが」
 カインが相手を静かに押しのけ、水晶玉を抱えた。しかし、レフティがすばやくその前に立ちふさがる。
「おまえの前世は、魔王だ」
 カインは大げさに、呆気にとられたような顔をする。
「寝不足か、きみは? 明日は戴冠式だ。そんな妄想に取り憑かれていて、王女を守れると思うのか?」
「十分寝てるさ。それよりも、魔王が長い時間をかけてこの国を乗っ取ろうとしていた計画の方が脅威だろ?」
 カインは鼻先で同僚をあしらい、前に進もうとした。レフティは彼が扉に向かうことを許さずにいる。琥珀色の髪の毛が蝋燭の灯に照らされ、揺れた。
「答えろ。陛下が崩御されたときに、なぜ俺に『部屋を出て行け』と言った?」
 レフティは同じ背丈ほどのカインをにらみつけ、その手の中にある水晶玉を取り上げる。不意を突かれたカインは手を伸ばしたが、水晶玉を床へ放り出されてしまった。
 ドン、と音を立てて玉は扉の方へと転がっていく。扉へ向かうカインを、なおもレフティは止めた。どうやら、なんらかの形で満足してもらうまでは解放してもらえそうにない。カインは内心で大きなため息をついた。
 レフティの押し殺した声が聞こえる。
「まずは質問に答えてもらおうか」
 カインは冷めた目つきで同僚を見つめた。
「言いがかりも大概にしてくれ」
「言いがかりなどではない。なぜあの時、人払いをしようとしたのか答えろ」
「しつこいな」
 レフティが胸ぐらをつかもうと、すっと手を動かした時だ。
 燭台のともしびが、かすかに揺れた。
「……っ!」
 カインがレフティの右腕を取り、彼の背中側へと回り込んでいる。一瞬の早業だった。さらに、逃げようとする相手の腕に力をかけ、もう一方の手では左腕もとらえている。
 それから、同僚を本棚へと押しつけて言った。
「きみがわたしに尋ねていたのは、人払いをしようとした理由だったか?」
「ああ」
「陛下に……能力のほんのわずか、くれてやろうと思っただけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
 レフティは舌打ちをした後、相手を見つめた。
「見事だよ、やっぱり俺のにらんだ通りだ」
 カインは負け惜しみを言う同僚の右腕をいったん締めあげ、それから身を離す。
「きみの妄想癖が、明日の戴冠式で暴走しないことを祈るよ。しっかりしてくれ」
 戴冠式、の語気を強めたカインに、レフティは不本意ながらも頷く。そして締められていた右腕を回しつつ、憎々しげににらんだ。
 カインは意に介さぬ、という表情で鷹揚に扉へと向かっていき、転がった水晶玉を拾い上げている。
 彼は感じていた。
 レフティの憎しみがこもった視線が、自分の背中に突き刺さっていることを。
 そこでわざと笑顔を作り、振り向いてこう言った。
「鍵は閉めておいてくれ」
 彼が扉を閉める直前に、書庫の奥から小さな声が聞こえた。
「逃がしはしない」
 カインは暗い廊下を歩きながら目を閉じた。レフティの強い意志が、ひび割れた水晶玉から伝わってくる。
 逃がすものか。許すものか。必ず息の根を止めてやる。
 カインは立ち止まり、石の壁に灯る燭台を見上げた。
 いつから彼は気がついていたんだろう? 「わたし」の存在に。
 いつ頃に彼は自覚したのだろう? 互いに宿命の相手だということに。
 蝋燭の橙色の炎が揺れ、痩せた頬をぼんやりと白い壁に浮かび上がらせている。彼は第一ボタンを外した後、ため息をついてうなだれた。





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