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女子高生と恋愛しませんか?

女子高生と恋愛しませんか?……最終話

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第四十話 そのままの君でいて


 腹が減った。
 朝から慌ただしくて、メシを食ってなかったからだ。
 人間はあまりにも多忙だと、食事をするのも忘れると聞いたことがある。今日はそれを体験してしまったようだ。

 愛里を起こさないよう、なるべく静かに台所へ向かう。

 さて、茶漬けでも食うか。
 水道の蛇口をひねり、ヤカンの中に水を溜めていく。
 それをコンロに置いて火を付けた時、ベッドの方から声がした。

「幸彦」
「ああ、起こしちゃったか。悪いな」
「ううん」

 手早く着替えた愛里が、こちらにやってくる。

「お湯、沸かしてるの?」
「うん、お茶漬けが食いたいから」
「そんなので足りる?」

 彼女が、くりくりした瞳で俺を見つめて聞く。

「足りるよ、別に大飯喰らいじゃないから」

 愛里の頭に軽く拳を当てる。ふふっ、と笑う彼女の顔は出会った頃のままだった。

「ねえ、幸彦」
「何?」
「さっき、詩織さんの夢を見てた」
「えっ」

 ぎょっとした俺を見て、愛里がきょとんとした顔になる。

「変かな?」
「変じゃないよ、びっくりしたんだ。俺も、さっき玄関を掃きながら詩織の事を考えてたから」
「ふーん」

 彼女が俺の目を見ながら、にやにやし始める。

「なんだよ」
「恋人同士ってね。本当に仲が良くなると、考える事とかタイミングとか同じになるんだって」

 一瞬、鼻で笑い飛ばしそうになった。だが、考え直して真顔で話をする。

「あのさ、愛里」

 ガスコンロの火を止めて話し出すと、彼女は真剣な顔で聞いている。彼女は最後まで聞き終わり「私もそうしたい」と同意してくれた。

 その後で愛里を送り届ける。来てもらった時には、いつもこうだ。
 彼女は別れ際、俺を見上げて言った。

「私たち、幸せになれるかな?」
「なれると思うよ」
「本当にそう思う?」
「ああ」

 俺の強く頷いた姿を見て愛里は微笑み、背中を向けて自宅へ入っていく。
 いくら幸せを願っても、詩織に通報されれば終わりだ。腹をくくる時かもしれない。

 翌日も、その次の日もひやひやしながら過ごした。詩織が最後に言った言葉は、心にしっかりと刻まれている。

「あなたは懲戒免職、愛里さんは退学」

 三日目、教頭から職員会議の途中で呼びかけられた。

「伏見先生」
「はい? は、はい!」

 俺は仰天して飛び上がり、頭を下げて言った。

「す、すみませんでした!」
「はあ?」
「えっ」

 教頭が呆れ顔で言う。

「新学期からあなたが顧問になる書道部の申請、ようやく理事長に通ったんですよ。そんなに仰々しく謝らなくても。取り消したいんですか?」
「書道部? あ、ああ! すいませんすいません!」

 全身から汗が一気に噴き出た。あっと言う間にワイシャツがびしょびしょだ。部屋は爆笑に包まれ、会議は一時中断している。

 もしかして、通報されなかったんだろうか?
 冷や汗をハンカチで拭っていた時、隣にいた前田先輩が耳打ちをした。

「教頭がね、粘ってくれたみたいですよ。理事長に」
「え?」
「『躾イコール、スポーツ』しか念頭になかった理事長に対して、『日頃から勤務態度もいいから、是非とも伏見先生に書道部をやらせてあげてください』って」

 ありがたいことだ。そう思う反面、強烈な罪悪感も湧いてきた。やっぱり腹の括り時かもしれない。

 週末、愛里が泊まりに来た時に聞いてみた。

「最近、生活指導の教師に呼ばれなかった?」
「ううん」
「そうか」

 彼女は、俺が言いたいことを察したらしい。
 その夜からの俺たちは、変わったと思う。貪り合い煽り合うようなセックスが、どこか変わったような気がする。

 それからも彼女との付き合いは続いた。
 三月下旬の春休み、俺は愛里と二人で東北新幹線の終着駅に降りた。冷えて乾いた空気が心地よい。並んでタクシー乗り場へと歩く途中、急に強い風が吹いてきた。

「寒ーい!」
「そんな薄着で来るからだよ」

 ニットの丸首セーターに、フレアスカートとスパッツを合わせた彼女を眺める。

「だって聞いてないもん」
「桜が咲くのは四月後半だって言っただろう、そこから予想しろよ」
「東京以外は予想できない」
「はいはい」

 頬をふくらませた愛里を、扉を開けたタクシーに押し込む。

「お客さん、どちらまで?」

 運転手に、ジーンズのポケットから出した紙に書いている住所を告げた。愛里は、後部座席から見える風景に目を細めている。

「なんだか暮らし易そうなところだね」
「うん」
「詩織さん、いるかな?」
「わからない。多分、まだ結婚してなかったらいると思う」

 一か八かの賭けをする気分で、俺たちは新幹線に乗ったのだった。

「もう少ししたら、一緒に謝りに行こう」

 俺たちはその約束を果たす為、春休みのこの日を選んだ。
 詩織と最後に別れた、暴風警報のあった日は十一月の後半だ。あれから四ヶ月は経っている。

 あの時、俺は愛里に言った。

「詩織にもう一度、きちんと謝らないといけない。もう少し時間が経ったら行くつもりでいる。そうしないと、俺自身も幸せになれないような気がするんだ」
「私も、そうしたい」
「わかってくれるのか」
「うん」
「ありがとう」

 タクシーを降りたところは、詩織の家の近くだ。昔、何回か訪れた事がある。
 周りの景色が、すっかり変わっていたので驚いた。コンビニなんか当時は無かったはずだ。

「寒いから、あそこに入ろうか」
「うん」

 彼女の背中を抱きながらコンビニに入った。
 二人でマガジンラックのところから、道路の向こう側に並ぶ戸建住宅をチラチラ見る。

「あの真ん中の大きい家?」
「そう」
「私の家より大きいね」
「この辺の戸建は、あれが普通」
「へー」

 その時、道路の隅に国産車が停まった。
 助手席から、キャメルのコートを着て長い髪を後ろで束ねた女性が出てきた。後部座席にあるスーパーのビニール袋を、何個か持とうとしている。

 愛里と俺は、ほぼ同時に「あっ」と声を上げてコンビニから飛び出した。道路沿いに詩織の家の門扉がある。早くしないと彼女が家の中に入ってしまう。

 詩織は運転席に向けて微笑んだ。クラクションを鳴らした車が再び走り出す。
 俺は信号を無視して道を渡りながら、大声を出した。

「詩織!」

 振り向いた彼女が目を丸くする。

「幸彦? 愛里さんまで……」

 隣に愛里が並んだのを確かめ、詩織に深々と頭を下げた。

「今日は、お前に謝りに来たんだ」

 顏を上げた時、隣にいた愛里も頭を下げていた。詩織が戸惑いながら口を開く。

「どうして急に?」
「詩織も前、急に来たじゃないか」

 彼女が声を上げて笑う。

「そうだね。愛里さん、顔を上げてよ」

 久しぶりに会った詩織は、ものすごくまぶしく見える。

「ちゃんとおまえに、もう一回『ごめん』って言いたいんだ」
「待って」

 詩織が真顔で、話を遮った。

「幸彦、ありがとう。もう充分だよ、わざわざありがとう」
「いや、そんな……」
「そういう真面目なところ、本当に変わってないね」

 その言葉に、愛里がようやく笑った。

「あのね、幸彦」

 詩織が目を細め、俺と愛里を交互に見て言う。

「何?」
「私を見て、何か気がつかない?」
「えっ」

 俺は詩織をまじまじと見つめた。さっぱりわからない。

「ええと……」

 ぽかんとしていると、詩織は朗らかに笑いだした。愛里が「あっ」と小さく言って、体の左側を指差す。

「あ、あの。その指のリングは」
「さすが女の子だね」

 詩織がにっこり笑って、愛里を見つめた。女同士では通じていても俺にはわからない。戸惑っていると、左手の甲を見せてくれた。


「ああ……」

 婚約指輪か。
 思わずため息をついた。キラキラ光る、大粒のダイヤモンドリングは本物だ。それくらいは俺でもわかる。
 悔しいくらい、その輝きは詩織によく似合っていた。

「幸彦とは縁がなかったんだね、きっと」
「えっ」

 呆気に取られた俺に、彼女の言葉が聞こえてくる。

「通報する前に、親が進めてた縁談を受けたんだよね。そしたら相手が、全然気を遣わないで済む人だったの。その時、初めて幸彦と愛里さんの気持ちがわかったんだよ」
「詩織……」

「幸彦と一緒にいた時は、どうすれば好かれるのかという事しか考えてなかった。でも、その人といる時『なーんだ、ありのままでいいのか』って思ったんだ。嬉しかったよ。来月、式を挙げるの」

「そうか」

 詩織がまぶしく見えた理由がわかって、俺は頬を緩めた。

「きっと幸彦と愛里さんも、そうなんだね」

 ありのまま、か。確かにその通りだ。

「私の事は心配いらないよ。あなたよりも幸せになってみせる」
「ああ」

 正直言って、その時の詩織は愛里と同じくらい美しかった。よりを戻したいと一瞬思ったくらいだ。

 それから一ヶ月して、愛里の生理がないことがわかった。俺は覚悟を決めた。

「この子と結婚しよう」

 彼女となら、どんな苦労も乗り越えられるな気がした。
 とにかく、難しい事はどうでもいい。愛里と一緒に歩いていきたいんだ。

・・・

 今、俺は高校教師を続けながら日曜日に書道教室を開いている。生徒は小学生が中心だ。
 一番後ろの席には、誰よりも美しい女性と三歳の男の子がいた。日の光がキラキラ当たってまぶしい二人を見ていると、嬉しさのあまり涙がこみ上げてくる。

「はい、『桜』の字。もうすぐ春になると咲く花だよ。皆、書けたかな?」

 筆を持った俺の手を、誰よりも待ち遠しく待っている四つの視線。
 もうすぐ、それは六つに増える。







(了)



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