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この雨が止む前に

この雨が止む前に……1

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序章・弱きもの、汝の名を名乗れ



 ここ一週間、なんとか持ってくれた天気が未明から崩れている。
 
 ベランダのサッシへと、ぱらぱら叩きつける雨の音で、俺は目を覚まし起き上がる。
「雨か。いやだな」
 独り言が、広い部屋の壁に吸い込まれていく。
 
 朝から雨が降っていると頭をよぎる光景がある。
 夜明けとともに頬を冷たくこわばらせたあの人が、スーツケースを持ってドアを開け出て行った時の一部始終だ。
 その背中や髪の毛の長さは、今でも鮮明に浮かび上がってくる。
 
 逆に、薄れていくものもある。かすかに部屋の中に漂っていた、あの人の残り香とか。少しずつ嗅覚の記憶からは消えて行く。
 胸が痛いのは、きっとまだ愛しているからだろう。
 
 忘れてしまった方がいいに決まってる。
 二人で選んだダイニングテーブルに置いてあった、白地に緑の縁取り(ふちどり)がある薄っぺらい紙切れのことも。
 
「あとはあなたの名前を書くだけよ」

 悲しいとも空しいともつかない感情で頷いた俺は、一体どんな顔をしていたのだろう。
 薄っぺらな紙には、きれいな字であの人の名前が書かれていた。右隣には朱色の鮮やかな捺印も添えられていた。
 
 自分の名前も過去もすべて忘れてしまいたかった、あの朝のことは死ぬまでまとわりつくのだろうか。
 
 湯を沸かしてコーヒーを飲む間に、浴槽の方にも湯を溜める。
 昨日は残業が長引き遅く帰ってきたせいもあり、シャワーすらも浴びずにベッドの中に転がり込んでいた。壁の時計を見ると、まだ午前六時だった。二度寝しようかな。どうせ今日は通院の予約も入れていない。
 
 とりあえず風呂に浸かって、サッパリしたかった。
 洗面所で着ているものを脱いだ時、いつも鏡に自分の上半身が映る。
 脇の下から所々有る手術の跡は、三ヶ月前よりは皮膚の色へと馴染んできたと思いたいのだが。
 
 俺は肺を手術している。
 あの人が出て行った翌々日に、体に巣食った悪性腫瘍を手術で除去した。
 幸いにも初期だった。切除して放射線治療をして、運が良ければ寛解が待っている。それでも楽観的に考えることができない。
 
 風呂から上がっても、まだ外は雨が降り続いている。
「鬱陶しいな、もう」
 舌打ちをした俺は、何気なくテレビをつけた。ニュースが観たい。どうも最近、仙人みたいに世の中の流れから浮いているような気がする。どんな歌が流行り、どんな映画が封切られるのかも、さっぱり分からない。
 
 画面のアナウンサーは事務的な顔で、俳優の訃報を伝えた。ご丁寧にも、俺と同じ病気の名前を告げてくれる。半年前から入院していたとも。画面を観ているだけで気分が暗くなってきた。
 
 自分を少しでも勇気付ける言葉を、声に出して呟いてみる。
 
「今、アナウンサーが言った人は。あの人は高齢者。だから俺とは、関係ない。俺は、まだ大丈夫。俺は、まだ行ける」
 
 そういう風に自分に言い聞かせた後は、胸の傷口がチリチリ痛むような気がする。いつもそうだった。
 亡くなった人を踏みつけて、自分だけは安心しているような気がした。
 
 ――自分だけは大丈夫。自分には関係ない。あれは自分以外の人のこと。
 
 畜生。
 
 ともかく、このまま家にいたら精神的に良くない。
 どこか外に行かなきゃ。……外? 外ってどこよ? 
 前に映画館に行ってみた時は、人混みに当てられて帰ってきたんだっけ……。
 じゃあ静かな所がいいな、静かな所。土曜日でも、不躾な騒音や他人に余計な気遣いをしなくてもいいような場所。
 
 コーヒーを沸かし直しながら、あれこれ思いつく場所を頭に浮かべて消して行く。
 
 自分でも貧しい発想しかねーな、と思った。最終的に思いついたのは、ネットカフェと図書館。この二つ。
 いつもの自分ならば、迷わずネットカフェに行こうとしただろう。
 だが、今までと違う選択をしてみたくなった。図書館に行き先を決める。
 
 砂糖もクリームも入れないコーヒーを口に運びながら、時計を見た。
 
 世間は、ようやく午前九時になってくれていた。
 
 住んでいるマンションから歩いて十分ほどで、市立図書館に着く。
 周りを桜の木に囲まれた白い壁面の二階建ての建物は、採光を多く取っている造りになっている。よくある内装なのだろうが、茶系統の壁や椅子は館内にいる人の気持ちを落ち着かせてくれるような雰囲気だと感じる。
 
 図書カードを作ってもらう間、南側の壁面一杯に取り付けられた窓ガラス越しの景色を見ていた。
 図書館という独特の空気の中にいると、ここから見える雨はとても静かだ。すっかり葉が落ちてしまった桜の枝が風に乗って揺れる景色は、何故か気だるくて美しい。
 
「佐伯孝彦さん」
 司書の女性に呼ばれて、振り向いた。

「はい」
「このカードを、本をお借りする時は一緒に持って来てくださいね」
「ありがとうございます」
 
 受け取った図書カードは掌に乗る程度の大きさだった。学生の頃を思い出した。懐かしいなと思う俺は、背表紙がカラフルに並んでいる書庫へと向かう。
 経済関連の新書が、思ったよりも数多く並んでいる。
 
 本屋と変わんないな。結構、沢山あるんだ。へえ。
 
 テレビ番組に招かれて得意気に解説することで、主婦に人気が出ているらしい人の書いた金融のレクチャー本が眼に留まった。びっちり本が並ぶ列から、引き出してみる。なるほど主婦や高齢者が、思わず手に取ってしまいそうな表紙の色使いと文字の大きさだった。
 
「ふーん」
 
 読んでみようかな。
 どうせ暇なんだ。
 
 その本を片手に持って、奥の方のテーブルに眼線を移す。
 
「あれ?」
 あの人は。
 
 ずっと奥のテーブルで絵本を広げ、食い入るように見ている女性がいる。
 
 似てるな、あの人に。そう思った。
 
 目を凝らしてみた。ぺージをめくる柔らかそうな指、ツヤのある長い髪をかき上げる仕草、目視できる細い肩。下を向いているので顔の全部は見えない。
 
 こちらの視線に気がついたのか、その女性は俺を見て首を傾げて目を伏せた。濡れたような大きな瞳と、色白でほっそりしている顔の輪郭には見覚えがあった。入院している時に出会った女性にそっくりだ。
 
 でも、なにかが違う。
 
 俺が知っているあの人は、あんなに悲しそうな人じゃなかった。少なくとも、あんなに、おどおどした雰囲気じゃない。
 
 それでもなんとなく、引っかかるものを感じた。吸い寄せられるように、その女性のいるテーブルへと歩いて行く。



……入院した日のことが克明に脳裏に浮かび上がってくる。
まるで、走馬灯のように。

 





・・・

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