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書き手の大きな独り言

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ごあいさつ――優美香

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ごあいさつ――悠久剣士

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ごあいさつ――中邑あつし

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各小説の属性

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美少女アウト――悠久剣士

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貝割れ美少女――悠久剣士

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零―中邑あつし

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女子高生と恋愛しませんか?

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伊織とキスから最後まで

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放課後、彼女にキスしよう/R18

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包み込むように――中邑あつし

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春まだ遠く―優美香

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ランニング・ハイ―辛口一升瓶さま

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香港ドライブ―悠久剣士さん

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俺と可憐さん―赤閣下さま

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「ゆきずり」―char£sさま

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僕の体をレンタルします―優美香

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魔王に抱かれた私――優美香

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俺に彼女が出来るまで

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王子さまとテレアポします!

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伊織とキスから最後まで
伊織とキスから最後まで 0
2011.11.17 *Edit
プロローグ「男運の悪い女、危機一髪」by.桃香
早番出勤で掃除やゴミ出しをしたあたしは、腕まくりしていた黒のビジネススーツの袖を戻して、セブンスターに火をつけました。
給湯室の換気扇の下で、カセットコンロの上のヤカンがピーピー鳴って、お湯が沸いたことを教えてくれるのを待っているのが習慣です。
狭いのよね、ここの会社の給湯室って。
あんまりセンスがない女子の制服がないから、まだいいんですけど。一番無難なのは、やはり黒のスーツでしょうか。就活にも使うようなデザインのアレ。
ああ、文句言っちゃダメですよね。今、不況でどこの企業も採用を控えている時に、せっかく正社員で雇ってくれたのに。あたしの名前は、田所桃香(たどころももか)って言います。年齢は、もうすぐ二十三歳。彼氏いない歴はナイショです。
去年の九月に中途採用で入社したあたしには、この会社が性に合っているようです。総務の仕事が好きなんでしょう、縁の下の力持ち、のイメージ。
大手の企業さんは、コスト削減の為に福利厚生の仕事を外注しているところが増えてきたんだけど、それを請け負って仕事をしているのが、あたしの会社です。あたしは関東の一部、二十社の担当をしているんです。
あ、お湯が沸いたみたい。ヤカンがピーピー鳴っているので、ガスを止めて、手早く歯磨きをして。それから、今の時間にフロアにいる社員や上司にお茶を出すんですけどね。
都会によくあるタイプのオフィスビルってあるじゃないですか。そのビルの10階の一番隅に、あたしの会社のフロアがあるんです。手を洗いたい時や、お茶汲みする時は、給湯室が廊下を挟んで真向かいだと便利はいいです。
あたしは、煙草の煙を鼻から出ないように吐きながら、廊下越しにフロアを見ました。
あたしの一歳年下にはなるんだけど、入社したときに仕事を教えてくれた、松本伊織(まつもといおり)先輩が、鬼のような形相で朝からパソコンに向かっているのが見えます。体格もがっしりしているから、余計に赤鬼みたいに見えちゃいます。
昔から体育会系の男の人を好きになっちゃうんですけど、一度もその類いの男に好かれたことがないあたしは、百八十センチある身長も活かして、学生時代にラグビーしてたって言ってた伊織先輩のことを眺めてるだけです。入り口から一番好きな男には失恋確定! だから、ある意味ラクかな……。
朝からしんみりしちゃいけませんね。
あたしは自分用にコッソリ隠しておいた玉露をたっぷり急須に入れて、伊織先輩の湯呑茶碗を食器棚から出してお茶を注ごうとしました。
(ん? 他に誰が出勤してるかしら)
鈴木マネージャーと、ええと……。今日は、伊織先輩の他に、あんた方にもサービスしてあげるわよ。玉露が若干もったいないけど。てへっ、とかブツブツ言いながらフロアにいる全員と、自分の分のお茶を注ぎ(つぎ)ました。
一番出入り口に近いところに机がある伊織先輩に、ついつい一番先に声を掛けちゃいます。
「おはようございます伊織先輩。お茶ですよ」
「田所? ありがと、そこに置いといて」
「わかりました」
「サンキュー」
パイプ椅子に座ったままで、両腕を上に伸ばした伊織先輩のワイシャツの背中。横から見ないと気がつかないような場所に、赤い口紅が付いていました。
「伊織先輩? シャツに口紅付いてますけど。仕事場に、そういうの持ち込むって一体どうなんでしょうか」
あたしはピキピキッ、と、こめかみの静脈が動くのが分かります。えっ、と真っ赤な顔をして、ワイシャツをめくった伊織先輩を見て、鈴木マネージャーが言いました。
「田所くん。松本みたいな女たらし放っておいて、俺にお茶ちょうだいよ」
「あっ、すみません」
そそくさと私は鈴木マネージャーのところに行って、湯呑茶碗を置きました。
「田所くんの淹れてくれるお茶って美味しいんだよな。味の素でも入れてんの?」
「まさか。でも誉められると嬉しいですね、単純に」
「正直に言ってるだけなんだけどね」
書類を書いている手を休めた鈴木マネージャー・社内の通名、アブラギッシュ関取デブは、テカテカ脂の乗った頬に埋まった充血した目で、舐めるようにあたしの全身を下から上まで眺めました。
あー、気持ち悪い。
思ってても言葉に出せないのが雇われ女子社員のツライところです。
朝からそんな目をするなんて、そんな人だから奥さん実家に帰っちゃうのよ。こんな三十代後半ばかりだから、あたしは日本の景気は良くならないと思うのです。気持ちは分かりますけどね、鈴木マネージャーの。
でもね、こっちだって生まれたくって巨乳に生まれたんじゃないの。食べても食べても太らないから、親は近所の人から「田所さんとこは子供にご飯を食べさせていない」って陰口も叩かれていたけど、それも別にあたしが望んで、こんな体質に生まれた訳じゃないんだから。ま、最近は代謝が落ちたのか、下半身だけは妙にふっくらしてきたけど。
「ありがとうございます」
鈴木マネージャーに、とりあえずニコッと笑って言って、全員にお茶を配り終えたあたしは、ようやく自分の席に着きました。
……朝から気持ち悪い男ね、ほんっと。誰か仕分けしてくれないかしら鈴木マネージャー。
就業ベルが鳴る十五分前に、今年の四月採用の正社員、篠原知佳(しのはらちか)が出勤してきました。
「おはようございます、モモ先輩」
「おはよう」
知佳はあたしの顔を見て、なにか言いたそうな唇の形を作りました。
「なあに?」
「モモ先輩、煙草一本くださいよ」
「?」
よく見ると、知佳の瞼は少し腫れています。いつもと化粧の雰囲気も違う。なんだか目の周りがパンダみたいになってて。ははん、もしかして。あたしは「いいよ」と頷いて知佳と一緒に給湯室に向かいました。
換気扇をブンブン回してから、あたしは知佳に言いました。
「知佳、もしかして男に振られたの?」
「そうなんですぅ」
上目遣いにあたしを見上げる知佳は、小リスみたいな目をパチパチさせて、なにかを必死で我慢しているみたいに見えました。あたしと違って、ほどよくムチムチしてて色気がある美人なのに。この子も男運が悪いみたいです。
あたしはあたしで、知佳なりに、一生懸命に慣れないマスカラを付けて、出勤してきた理由が分かりました。
「失恋すると煙草が吸いたくなっちゃう」
知佳が、ぽつんと言葉を漏らしました。
「あたしと一緒」
「モモ先輩も男運悪いですよね、美人なのに」
言葉に詰まったあたしは、知佳を睨みつけます。
「もう、伊織と付き合っちゃえばいいんですよモモ先輩。伊織ったら、前からモモ先輩のことが好きなんだもん」
知佳と伊織先輩は同じ歳なので、お互いに「篠原」「伊織」と、呼び捨てで呼び合っています。あたしは伊織先輩よりも入社が後だから、「田所」で充分なんだけど。
知佳が伊織先輩のことを好きなのは、あたしは知っています。せいぜい、朝番のお茶出しの時に玉露を使うくらいしかできない。
他の男を好きになったら、伊織先輩への気持ちが消えてくれると思ったんですけど、あたしにはダメでした。知佳はそれを知っています。それなのに、そういうこと言う? と、思わず煙を吸い込みすぎて咳き込むあたしを見て、さっきまで泣きそうな顔していた知佳が、けらけらと笑い出しました。その顔を見て、ようやくあたしも一週間ぶりに、自然に笑うことができたような気がします。
「戻ろっか」
「そうですね」
あたしたちは軽く歯磨きをして、自分の仕事に取り掛かり始めました。
・・・
週末のせいか、あたしと知佳と伊織先輩は、まだ仕事が終わりません。壁の時計を見ると、夜の九時前でした。
このフロアには、あと一人、鈴木マネージャーがいます。なにかの資料のダウンロードをしているようでした。
静かな広いフロアに伊織先輩のお腹が、きゅるるっ……と鳴る音が聞こえました。パソコンと手元を書類を照らし合わせながら、バッジ処理をしていたあたしと知佳は、顔を見合わせて同じタイミングで言ってました。
「そういえば、お腹空いたね」
「お腹空きましたね」
伊織先輩が、あたしと知佳を交互に見ながら言います。
「田所か篠原。どっちか弁当買って来てよ」
「えー」
知佳がいかにも嫌そうな声を上げます。
「イヤよ、伊織が行けばいいじゃない。私もモモ先輩も、今、手が離せないのに。それにこんな夜に、女性を一人で出掛けさせるつもり? なにかあったらどうするの? サビ残だから労災も適用されるかどうか分かんないよ? 自殺以外で適用されたケースなんてないのよ?」
伊織先輩は面倒臭そうに、乱暴に言い返します。
「誰も襲わねーよ。それに弁当屋なんか、駅前まで歩いて十分あれば着くじゃねーか。駅前だぜ? 電気バリバリ点いてるよ?」
「知らないの? 最近、夜になるとこの辺りって怖いんだからね?」
あたしをチラリと見ながら言い返した知佳の声に、伊織先輩は黙りました。あたしは知らない振りしてパソコンを眺めていたけど、心臓が「どきん」と高鳴るのが分かります。
その時、「弁当」という単語に反応したのか、鈴木マネージャーが顔を上げ、伊織先輩に向かって声を張り上げたのです。
「松本。おまえ篠原と一緒に、百貨店の裏の弁当屋に行って来てくれ」
「えっ」
鈴木マネージャーは言いました。
「駅前のは不味いから嫌いなんだよね、遠いけど頼むわ。たまにだから、今、サビ残してる全員に鰻、奢ってやるから。領主書持って来てくれたら金払うよ、文句ないだろ」
百貨店の裏の弁当屋、というのはあたしたち社内での通称です。夜十時まで営業している、そのお弁当屋さんは値段は高いけど味も良くて有名なのですが、ここから車でも往復三十分程度かかります。社内で宴会がある時や、本社の偉いサンが来た時の昼食の注文くらいしか使っていないところです。
「俺ですか?」
不服そうな返事の伊織先輩に対して、鈴木マネージャーはぶっきらぼうに言います。
「おまえ車通勤して来たろ、今日。地下の駐車場に車置いてんだろ? 篠原と一緒に行って来いよ」
「俺ひとりで行きますよ」
「あそこさ、今の時間帯だと大将がいるんだけど、女の子連れてると代金負けてくれんだよ」
「負けるって言ったって消費税程度でしょ?」
「ワンコイン程度だけど、チリツモって言うだろ」
段々、鈴木マネージャーの声が不機嫌になって行きます。それを察したあたしと知佳は、ハラハラしながら口々に言いました。
「伊織、一緒に行こうよ。後からお金出してくれるってマネージャーは言ってるし」
「あ、あたしが行きます。伊織先輩」
眉をしかめた伊織先輩は、あたしたちの顔を一瞬見比べた時、苛々している鈴木マネージャーの声が静かなフロアに響き渡りました。
「つべこべ言ってんじゃねえよ! 黙って上司の言うこと聞けよ! 篠原行って来いよ!!」
あまりの剣幕に、あたしと伊織先輩と知佳は黙りました。大きく深呼吸をして伊織先輩が立ち上がります。
「篠原、行くぞ?」
「あ、あ。うん」
知佳はパイプ椅子の背もたれに掛けてあったスーツのジャケットを取り、慌てて袖を通しています。
「モモ先輩。私、行って来ますね」
えっ? あたし鈴木マネージャーと二人きり?
あたしは余程オロオロした顔をしていたのか、伊織先輩は声を掛けてくれました。
「多分、道は空いていると思うから早目に帰って来るよ。近道も知ってるから」
「う、うん……」
曖昧だけど、なんとか頷いてみせたあたしを見てから、伊織先輩はスタスタと扉の向こうに歩き始めます。「篠原、早く!」と声を掛けられた知佳がフロアから出て行く背中を見たあたしは、同時に絶望に襲われました。
夜のオフィスに響いていた伊織先輩と知佳の足音が、完全に聞こえなくなります。
あたしは、書類をめくる指の先まで、汗が滲んでいました。
(これじゃ蛇に睨まれてる蛙みたい……)
さっきからあたしは、かすかに頭を振りながら、ネットリした鈴木マネージャーの視線に耐えているんです。あの人、仕事そっちのけで、あたしの方をジトーッと眺めているだけです。
「田所さん」
「はい?」
「僕に、お茶、淹れてくれないかな」
さっきとは打って変わって気味悪さ満載の猫撫で声に、あたしは内心では震え上がりました。
「桃香さんの淹れてくれるお茶、美味しいんだよね」
え?
桃香、さんって言いましたか今? えええ? ガタガタと音を立てて、椅子から滑り落ちそうになる勢いを利用して、なんとか立ち上がり声を出します。
「きゅ、給湯室に行って来ます」
あたしは、スーツのジャケットを着込んで廊下に出ました。ヤカンをガスコンロに掛けて、換気扇を回してから、流し台向かい側に置かれている小さな食器棚の引き出しを開けました。
“リラックマ”の小物入れがニッコリ笑って「煙草吸う?」と尋ねてきます。
煙草とライターを取り出そうと、手を伸ばした瞬間。
――ぞくり。
背中に寒気が走りました。寒気、と言うか大量に氷水を掛けられた感じ。給湯室から廊下をパッと見ましたが、誰もいないっぽいです。……まさか幽霊? そんなバカな。
(なんだか怖い)
訳もなく体がガタガタ震えて来ます。ガスコンロの火も止め、隣接している女子トイレの電気を点けてから、個室に逃げ込みました。
節電の為に館内全部の廊下の照明は落ちていたので、余計に怖かったのです。
(お茶淹れて、って言われてたのに。どうしよう……)
五分ほどして、給湯室の方から鈴木マネージャーの声が聞こえました。
「田所くん?」
あたしは慌てて返事をしました。
「あ、はい! すみません今行きます!」
ドキドキしながらトイレの洗面台で手を洗って、ドアを開けると鈴木マネージャーが立っていました。
「いや遅いからさぁ」
「す、すみません」
ヤカンを持ち上げようとしたあたしの後ろから、鈴木マネージャーが急に両方のおっぱいを鷲掴みにしてきました。
「きゃあっ!」
びっくりしたあたしの体から手を離さずに、更に力を込めた鈴木マネージャーが、あたしの背中から、べったりとくっついてました。
「や、止めてくださ」
片手であたしの口を塞ぎ、足の先まで羽交い絞めにして、もう片方の手ではグリグリとおっぱいを揉んできた鈴木マネージャーは言います。
「お茶を美味しく淹れることが出来る女ってさ。俺すごく好きなんだよねぇ……」
「ひっ……!」
あたしのジャケットをむんずと開き、ブラウスのボタンを上から外しながら、ねっとりした口調で鈴木マネージャーの声が聞こえます。
「ねえ、疲れてるとさ。セックスしたくならない……?」
次回・桃香目線でお送り致します。
早番出勤で掃除やゴミ出しをしたあたしは、腕まくりしていた黒のビジネススーツの袖を戻して、セブンスターに火をつけました。
給湯室の換気扇の下で、カセットコンロの上のヤカンがピーピー鳴って、お湯が沸いたことを教えてくれるのを待っているのが習慣です。
狭いのよね、ここの会社の給湯室って。
あんまりセンスがない女子の制服がないから、まだいいんですけど。一番無難なのは、やはり黒のスーツでしょうか。就活にも使うようなデザインのアレ。
ああ、文句言っちゃダメですよね。今、不況でどこの企業も採用を控えている時に、せっかく正社員で雇ってくれたのに。あたしの名前は、田所桃香(たどころももか)って言います。年齢は、もうすぐ二十三歳。彼氏いない歴はナイショです。
去年の九月に中途採用で入社したあたしには、この会社が性に合っているようです。総務の仕事が好きなんでしょう、縁の下の力持ち、のイメージ。
大手の企業さんは、コスト削減の為に福利厚生の仕事を外注しているところが増えてきたんだけど、それを請け負って仕事をしているのが、あたしの会社です。あたしは関東の一部、二十社の担当をしているんです。
あ、お湯が沸いたみたい。ヤカンがピーピー鳴っているので、ガスを止めて、手早く歯磨きをして。それから、今の時間にフロアにいる社員や上司にお茶を出すんですけどね。
都会によくあるタイプのオフィスビルってあるじゃないですか。そのビルの10階の一番隅に、あたしの会社のフロアがあるんです。手を洗いたい時や、お茶汲みする時は、給湯室が廊下を挟んで真向かいだと便利はいいです。
あたしは、煙草の煙を鼻から出ないように吐きながら、廊下越しにフロアを見ました。
あたしの一歳年下にはなるんだけど、入社したときに仕事を教えてくれた、松本伊織(まつもといおり)先輩が、鬼のような形相で朝からパソコンに向かっているのが見えます。体格もがっしりしているから、余計に赤鬼みたいに見えちゃいます。
昔から体育会系の男の人を好きになっちゃうんですけど、一度もその類いの男に好かれたことがないあたしは、百八十センチある身長も活かして、学生時代にラグビーしてたって言ってた伊織先輩のことを眺めてるだけです。入り口から一番好きな男には失恋確定! だから、ある意味ラクかな……。
朝からしんみりしちゃいけませんね。
あたしは自分用にコッソリ隠しておいた玉露をたっぷり急須に入れて、伊織先輩の湯呑茶碗を食器棚から出してお茶を注ごうとしました。
(ん? 他に誰が出勤してるかしら)
鈴木マネージャーと、ええと……。今日は、伊織先輩の他に、あんた方にもサービスしてあげるわよ。玉露が若干もったいないけど。てへっ、とかブツブツ言いながらフロアにいる全員と、自分の分のお茶を注ぎ(つぎ)ました。
一番出入り口に近いところに机がある伊織先輩に、ついつい一番先に声を掛けちゃいます。
「おはようございます伊織先輩。お茶ですよ」
「田所? ありがと、そこに置いといて」
「わかりました」
「サンキュー」
パイプ椅子に座ったままで、両腕を上に伸ばした伊織先輩のワイシャツの背中。横から見ないと気がつかないような場所に、赤い口紅が付いていました。
「伊織先輩? シャツに口紅付いてますけど。仕事場に、そういうの持ち込むって一体どうなんでしょうか」
あたしはピキピキッ、と、こめかみの静脈が動くのが分かります。えっ、と真っ赤な顔をして、ワイシャツをめくった伊織先輩を見て、鈴木マネージャーが言いました。
「田所くん。松本みたいな女たらし放っておいて、俺にお茶ちょうだいよ」
「あっ、すみません」
そそくさと私は鈴木マネージャーのところに行って、湯呑茶碗を置きました。
「田所くんの淹れてくれるお茶って美味しいんだよな。味の素でも入れてんの?」
「まさか。でも誉められると嬉しいですね、単純に」
「正直に言ってるだけなんだけどね」
書類を書いている手を休めた鈴木マネージャー・社内の通名、アブラギッシュ関取デブは、テカテカ脂の乗った頬に埋まった充血した目で、舐めるようにあたしの全身を下から上まで眺めました。
あー、気持ち悪い。
思ってても言葉に出せないのが雇われ女子社員のツライところです。
朝からそんな目をするなんて、そんな人だから奥さん実家に帰っちゃうのよ。こんな三十代後半ばかりだから、あたしは日本の景気は良くならないと思うのです。気持ちは分かりますけどね、鈴木マネージャーの。
でもね、こっちだって生まれたくって巨乳に生まれたんじゃないの。食べても食べても太らないから、親は近所の人から「田所さんとこは子供にご飯を食べさせていない」って陰口も叩かれていたけど、それも別にあたしが望んで、こんな体質に生まれた訳じゃないんだから。ま、最近は代謝が落ちたのか、下半身だけは妙にふっくらしてきたけど。
「ありがとうございます」
鈴木マネージャーに、とりあえずニコッと笑って言って、全員にお茶を配り終えたあたしは、ようやく自分の席に着きました。
……朝から気持ち悪い男ね、ほんっと。誰か仕分けしてくれないかしら鈴木マネージャー。
就業ベルが鳴る十五分前に、今年の四月採用の正社員、篠原知佳(しのはらちか)が出勤してきました。
「おはようございます、モモ先輩」
「おはよう」
知佳はあたしの顔を見て、なにか言いたそうな唇の形を作りました。
「なあに?」
「モモ先輩、煙草一本くださいよ」
「?」
よく見ると、知佳の瞼は少し腫れています。いつもと化粧の雰囲気も違う。なんだか目の周りがパンダみたいになってて。ははん、もしかして。あたしは「いいよ」と頷いて知佳と一緒に給湯室に向かいました。
換気扇をブンブン回してから、あたしは知佳に言いました。
「知佳、もしかして男に振られたの?」
「そうなんですぅ」
上目遣いにあたしを見上げる知佳は、小リスみたいな目をパチパチさせて、なにかを必死で我慢しているみたいに見えました。あたしと違って、ほどよくムチムチしてて色気がある美人なのに。この子も男運が悪いみたいです。
あたしはあたしで、知佳なりに、一生懸命に慣れないマスカラを付けて、出勤してきた理由が分かりました。
「失恋すると煙草が吸いたくなっちゃう」
知佳が、ぽつんと言葉を漏らしました。
「あたしと一緒」
「モモ先輩も男運悪いですよね、美人なのに」
言葉に詰まったあたしは、知佳を睨みつけます。
「もう、伊織と付き合っちゃえばいいんですよモモ先輩。伊織ったら、前からモモ先輩のことが好きなんだもん」
知佳と伊織先輩は同じ歳なので、お互いに「篠原」「伊織」と、呼び捨てで呼び合っています。あたしは伊織先輩よりも入社が後だから、「田所」で充分なんだけど。
知佳が伊織先輩のことを好きなのは、あたしは知っています。せいぜい、朝番のお茶出しの時に玉露を使うくらいしかできない。
他の男を好きになったら、伊織先輩への気持ちが消えてくれると思ったんですけど、あたしにはダメでした。知佳はそれを知っています。それなのに、そういうこと言う? と、思わず煙を吸い込みすぎて咳き込むあたしを見て、さっきまで泣きそうな顔していた知佳が、けらけらと笑い出しました。その顔を見て、ようやくあたしも一週間ぶりに、自然に笑うことができたような気がします。
「戻ろっか」
「そうですね」
あたしたちは軽く歯磨きをして、自分の仕事に取り掛かり始めました。
・・・
週末のせいか、あたしと知佳と伊織先輩は、まだ仕事が終わりません。壁の時計を見ると、夜の九時前でした。
このフロアには、あと一人、鈴木マネージャーがいます。なにかの資料のダウンロードをしているようでした。
静かな広いフロアに伊織先輩のお腹が、きゅるるっ……と鳴る音が聞こえました。パソコンと手元を書類を照らし合わせながら、バッジ処理をしていたあたしと知佳は、顔を見合わせて同じタイミングで言ってました。
「そういえば、お腹空いたね」
「お腹空きましたね」
伊織先輩が、あたしと知佳を交互に見ながら言います。
「田所か篠原。どっちか弁当買って来てよ」
「えー」
知佳がいかにも嫌そうな声を上げます。
「イヤよ、伊織が行けばいいじゃない。私もモモ先輩も、今、手が離せないのに。それにこんな夜に、女性を一人で出掛けさせるつもり? なにかあったらどうするの? サビ残だから労災も適用されるかどうか分かんないよ? 自殺以外で適用されたケースなんてないのよ?」
伊織先輩は面倒臭そうに、乱暴に言い返します。
「誰も襲わねーよ。それに弁当屋なんか、駅前まで歩いて十分あれば着くじゃねーか。駅前だぜ? 電気バリバリ点いてるよ?」
「知らないの? 最近、夜になるとこの辺りって怖いんだからね?」
あたしをチラリと見ながら言い返した知佳の声に、伊織先輩は黙りました。あたしは知らない振りしてパソコンを眺めていたけど、心臓が「どきん」と高鳴るのが分かります。
その時、「弁当」という単語に反応したのか、鈴木マネージャーが顔を上げ、伊織先輩に向かって声を張り上げたのです。
「松本。おまえ篠原と一緒に、百貨店の裏の弁当屋に行って来てくれ」
「えっ」
鈴木マネージャーは言いました。
「駅前のは不味いから嫌いなんだよね、遠いけど頼むわ。たまにだから、今、サビ残してる全員に鰻、奢ってやるから。領主書持って来てくれたら金払うよ、文句ないだろ」
百貨店の裏の弁当屋、というのはあたしたち社内での通称です。夜十時まで営業している、そのお弁当屋さんは値段は高いけど味も良くて有名なのですが、ここから車でも往復三十分程度かかります。社内で宴会がある時や、本社の偉いサンが来た時の昼食の注文くらいしか使っていないところです。
「俺ですか?」
不服そうな返事の伊織先輩に対して、鈴木マネージャーはぶっきらぼうに言います。
「おまえ車通勤して来たろ、今日。地下の駐車場に車置いてんだろ? 篠原と一緒に行って来いよ」
「俺ひとりで行きますよ」
「あそこさ、今の時間帯だと大将がいるんだけど、女の子連れてると代金負けてくれんだよ」
「負けるって言ったって消費税程度でしょ?」
「ワンコイン程度だけど、チリツモって言うだろ」
段々、鈴木マネージャーの声が不機嫌になって行きます。それを察したあたしと知佳は、ハラハラしながら口々に言いました。
「伊織、一緒に行こうよ。後からお金出してくれるってマネージャーは言ってるし」
「あ、あたしが行きます。伊織先輩」
眉をしかめた伊織先輩は、あたしたちの顔を一瞬見比べた時、苛々している鈴木マネージャーの声が静かなフロアに響き渡りました。
「つべこべ言ってんじゃねえよ! 黙って上司の言うこと聞けよ! 篠原行って来いよ!!」
あまりの剣幕に、あたしと伊織先輩と知佳は黙りました。大きく深呼吸をして伊織先輩が立ち上がります。
「篠原、行くぞ?」
「あ、あ。うん」
知佳はパイプ椅子の背もたれに掛けてあったスーツのジャケットを取り、慌てて袖を通しています。
「モモ先輩。私、行って来ますね」
えっ? あたし鈴木マネージャーと二人きり?
あたしは余程オロオロした顔をしていたのか、伊織先輩は声を掛けてくれました。
「多分、道は空いていると思うから早目に帰って来るよ。近道も知ってるから」
「う、うん……」
曖昧だけど、なんとか頷いてみせたあたしを見てから、伊織先輩はスタスタと扉の向こうに歩き始めます。「篠原、早く!」と声を掛けられた知佳がフロアから出て行く背中を見たあたしは、同時に絶望に襲われました。
夜のオフィスに響いていた伊織先輩と知佳の足音が、完全に聞こえなくなります。
あたしは、書類をめくる指の先まで、汗が滲んでいました。
(これじゃ蛇に睨まれてる蛙みたい……)
さっきからあたしは、かすかに頭を振りながら、ネットリした鈴木マネージャーの視線に耐えているんです。あの人、仕事そっちのけで、あたしの方をジトーッと眺めているだけです。
「田所さん」
「はい?」
「僕に、お茶、淹れてくれないかな」
さっきとは打って変わって気味悪さ満載の猫撫で声に、あたしは内心では震え上がりました。
「桃香さんの淹れてくれるお茶、美味しいんだよね」
え?
桃香、さんって言いましたか今? えええ? ガタガタと音を立てて、椅子から滑り落ちそうになる勢いを利用して、なんとか立ち上がり声を出します。
「きゅ、給湯室に行って来ます」
あたしは、スーツのジャケットを着込んで廊下に出ました。ヤカンをガスコンロに掛けて、換気扇を回してから、流し台向かい側に置かれている小さな食器棚の引き出しを開けました。
“リラックマ”の小物入れがニッコリ笑って「煙草吸う?」と尋ねてきます。
煙草とライターを取り出そうと、手を伸ばした瞬間。
――ぞくり。
背中に寒気が走りました。寒気、と言うか大量に氷水を掛けられた感じ。給湯室から廊下をパッと見ましたが、誰もいないっぽいです。……まさか幽霊? そんなバカな。
(なんだか怖い)
訳もなく体がガタガタ震えて来ます。ガスコンロの火も止め、隣接している女子トイレの電気を点けてから、個室に逃げ込みました。
節電の為に館内全部の廊下の照明は落ちていたので、余計に怖かったのです。
(お茶淹れて、って言われてたのに。どうしよう……)
五分ほどして、給湯室の方から鈴木マネージャーの声が聞こえました。
「田所くん?」
あたしは慌てて返事をしました。
「あ、はい! すみません今行きます!」
ドキドキしながらトイレの洗面台で手を洗って、ドアを開けると鈴木マネージャーが立っていました。
「いや遅いからさぁ」
「す、すみません」
ヤカンを持ち上げようとしたあたしの後ろから、鈴木マネージャーが急に両方のおっぱいを鷲掴みにしてきました。
「きゃあっ!」
びっくりしたあたしの体から手を離さずに、更に力を込めた鈴木マネージャーが、あたしの背中から、べったりとくっついてました。
「や、止めてくださ」
片手であたしの口を塞ぎ、足の先まで羽交い絞めにして、もう片方の手ではグリグリとおっぱいを揉んできた鈴木マネージャーは言います。
「お茶を美味しく淹れることが出来る女ってさ。俺すごく好きなんだよねぇ……」
「ひっ……!」
あたしのジャケットをむんずと開き、ブラウスのボタンを上から外しながら、ねっとりした口調で鈴木マネージャーの声が聞こえます。
「ねえ、疲れてるとさ。セックスしたくならない……?」
次回・桃香目線でお送り致します。
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伊織とキスから最後まで

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放課後、彼女にキスしよう/R18

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彼女のおっぱいは僕のもの!

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狼になりたい

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追憶の人

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韓流なんてぶっとばせ

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二度目の破瓜……

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おばかさん

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作詞したもの

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ライナーノーツ(自筆

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ごあいさつ&リンク先

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はんぶん、ずつ

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おしらせ

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この雨が止む前に

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書き手の御挨拶

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真珠

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酔狂なレビュー

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包み込むように――中邑あつし

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清水のほとり―藤崎悠貴さま

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紅い満月の夜に―Roseさま

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春まだ遠く―優美香

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天女の湯浴み―辛口一升瓶さま

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ランニング・ハイ―辛口一升瓶さま

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香港ドライブ―悠久剣士さん

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俺と可憐さん―赤閣下さま

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「ゆきずり」―char£sさま

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僕の体をレンタルします―優美香

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魔王に抱かれた私――優美香

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俺に彼女が出来るまで

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王子さまとテレアポします!
