夜曲、彼女の蜂蜜。それから

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俺に彼女が出来るまで……12、同級生に辱めを受けました②

俺に彼女が出来るまで



 大輔は引きずりこまれた多目的トイレで、バキュームフェラを施されている。
「こっ、近藤さぁん……」
 情けない声を上げるが、肉根は正直だ。美少女のノド奥まで吸われ、舌で愛でられてガチガチだった。
 脳裏に麻美子の、おっとりした笑顔が浮かぶ。
 申し訳ないと感じつつも、近藤のフェラテクに抗うことができない。
 近藤陽菜は、大輔を見上げながら肉根に吸い付いていた。
 じゅぶっじゅぶっ、と濡れた音がする。頬が大きくへこみ、舌先はカリ首に大きくまとわりついたり、亀頭を軽くつついたり。繊細にカリ首を舐めていたかと思うと、横の静脈を根元からカリ首まで、ずるずると音を立ててしゃぶったり。
 近藤が頭を上下させると、大輔の陰毛に彼女の顔が埋もれる。こちらから見えるその光景は、果てしなく扇情的だ。
 しかも近藤が時折に眼を細めて、彼と視線を合わせる。
 理性を破壊するに、充分ないやらしさだ。
「近藤さん、い、いくら死角になるっていっても……」
 大輔は必死で説得しようとする。しかし相反して、麻美子と違うフェラの感覚を楽しみたい欲求も湧き上がる。
 ま、麻美子さんのフェラと違う……。こ、こっちも気持ちいい……!
 ぎこちなくて丁寧な麻美子のフェラと比べ、近藤のそれは豪快だった。しかもツボを押さえまくっている。
 美少女は今度は肉根を横から咥え、顔を左右に激しく振っている。手もおろそかにしていない。陰嚢や裏筋を、丁寧に愛撫してくれている。
 き、気持ちいいよ……。
 理性のタガが外れたら、一瞬で大量に射精してしまう。膝を支える己の力も、臨界点に達していた。
「こ、近藤さん……っ」
 呻いた直後に気がついた。
 そうだ。彼女の頭に手をかけて、股間から外せばいい。
 こんな簡単なこと、どうして思いつかなかったんだろう。
 さっそく、同級生の小さな頭に片手を置いた時だ。
 彼女が「ちゅるん」と肉根を唇から離した。そして、ひざまずいた姿勢で大輔を見上げる。
「なんだか脚がつらそうだよ? 私のセーターの上に座って」
「い、いや。いいよ」
「大丈夫、気にしないで」
 近藤はセーターを脱ぎ、器用に畳んだ。それを彼の脚元へ置く。
 こちらから見える指先の動きが、意外にも繊細に見えた。
 それだけではない。
 清楚な紺色のセーターの下は、淫猥なほど真っ白くて柔らかそうな爆乳があったのだ。しかも、双乳を包んでいるのは真っ赤なレースのブラジャーだった。精緻な刺繍が施されているのは、男の目からでも判別できる。
 理性がぐらりと揺らぎ、あっけなく崩壊する。
 彼女は邪気のない笑みを浮かべた。
「ここに座ったらいいと思うよ」
 もうだめだ。
 思わず天井を仰いだ。それが近藤には了解の合図に見えたのか、またしても肉根は唇の中へ吸い込まれていく。  
 大輔は力尽きようとしていた。ずるずると腰を下ろし、脚を広げて彼女のセーターの上に座ってしまう。
 美少女は完全に座った彼に、うれしそうな視線を寄越した。肉根を指で支え、細い舌先をチロチロと静脈に這わす。見慣れたクラスメートの、強烈なギャップを感じさせる表情だ。
 大輔はただ、彼女の表情と胸の谷間を凝視していた。呼吸が段々と荒くなってきてしまう。
 近藤が肉根から舌を外した。
「長野くんのおちんちん、すごく美味しいよ……。もうだめ、私、没頭しそう……」
 美少女は今にも蕩けそうな顔をしていた。
「あ、ああ」
「ねえ、続けてもいい?」
 同級生が邪気のない瞳で尋ねてくる。
「う、うん」
 近藤は甘えるような口調で頼みこんできた。
「あ、じゃあね……ブラの肩ひも、外してくれる? もう乳首がじんじん痺れて、たまらないの。長野くんに、触ってほしい……」
 彼は催眠術にかけられたように、右手を伸ばしていた。クラスメートのたっぷり濡れた目から、視線が外せない。
 同級生は満足気な笑みを浮かべた。
「大輔くん、触りたくない?」
 淫らな誘いに、ついつい頷いてしまう。彼の股間の方から、美少女の湿った声が聴こえる。
「いいよ……家庭教師さんとは違うだろうけど、いっぱい、ぐにぐにってして……そうしてくれたら感じるから……」
 ――麻美子と違うおっぱい。
 どんな感触がするのか確かめてみたい。
 肉根はますます張ってくる。彼は吐息を荒げ近藤のブラの上から、思いっきり手を突っ込んだ。
 ふわーん、と指先がおっぱいに吸い込まれそうになった。つきたてのお餅に触っているみたいだ。
「ああっ!」
 揉みしだく直前から、彼女は身をよじらせ喘ぐ。ブラジャーを外すのも、もどかしい。
「あんっ、か、感じるよう」
「は、早く続けてよ」
「う、うん……」
 同級生は目を潤ませ、ふたたび肉根を横から口に含んだ。赤黒い肉根に浮いている静脈をなぞるように、近藤の整った唇やピンク色の舌が動く。
 大輔は大輔で、麻美子の乳房とは違う弾力のあるおっぱいを夢中でこねまくっている。
 やがて彼女の舌は滑らかに、蟻の戸渡りをなぞりはじめた。
 ほっそりした指先は肉根を緩急をつけて、丁寧にしごいてくれている。
 大輔は瞼を固く閉じて天井を向いた。
 いつのまにか、彼女のたわわな乳房を揉む手が止まっている。
「き、気持ちいいよ。近藤さん……」
 近藤は、ぷるぷるした唇の中に肉根の全部を収めてくれた。そしてまたしても、ノドの奥深くまで入れたり、カリ首すれすれまで唇を抜いたりの繰り返しだ。
「うっ、で、出ちゃう」
 大輔は陥落の呻きを上げた。
 彼女は唇を外さず、一心不乱に肉根も亀頭も口の中に含んでもてあそび続ける。次の次、ノドの奥まで亀頭を飲み込んだことを感じられたと同時、大輔は勢いよく射精していた。
「うわああああーっ!」
 あまりの気持ち良さに声が出る。近藤の表情を確かめる余裕はなかった。
「んふうっ」
 鼻にかかった牝の声が股間から聞こえる。
 同級生はフェラを続けたまま、精液を全部飲み込んでしまった。

 ――かちゃっ。
 多目的トイレの内側から掛けていた鍵が外れた音だ。

 近藤は扉に顔を向けた大輔に構わず、悠然と立ち上がった。
「あーあ、これからだったのに」

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俺に彼女が出来るまで……11、同級生に辱めを受けました①

俺に彼女が出来るまで



 近藤陽菜は大輔の腕を、ものすごい力で引っ張った。
「うわっ! ちょ、ちょっと!」
 彼女は構わず、大輔をトイレの中に引きずり込む。華奢な体のどこに、そんなパワーがあるのかと思うほどだ。
「なっ、なにす……?」
 ドアを閉める音と近藤が引き戸の鍵を掛けた音は、ほぼ同時だ。
 美少女は同級生男子を顎を上げて見つめる。
「ここのトイレ、どうなってるか知ってた?」
 大輔は言われるがまま振り向いた。
 多目的トイレは二畳ほどの広さがある。大きな洗面台の周りには手すりがあり、シャワートイレは人が近づくと自動で蓋が開閉されるタイプのものだ。
 ぎょっとしつつ、近藤にふたたび体を向ける。
「……な、なに考えてんだよぅ」
 彼女は上目遣いで「うっふ」と淫らに唇をゆがめた。たったそれだけなのに、壮絶にエロい。
「声、かすれてるよ?」
 美少女はいたずらっぽく笑い、舌なめずりをした。いかにも余裕しゃくしゃくだ。
「だからさ……な、なに考えてるって聞いてるだろ?」
 近藤は、ほっそりした指で前髪を直す。
「長野くんと、いけないことしてみたくなっちゃった」
 あまりにも突飛な物言いに、頭がぐらぐらしてきた。
「待て! ここは、そういうことをする場所じゃないはずだ!」
 彼は迫ってくる美少女を必死で押しとどめる。しかし、その掌に目一杯、彼女の爆乳が押し付けられた。
 大輔の脳髄へと瞬時、高圧電流が走るような感覚が襲う。
 家庭教師のおっぱいは大きく、張りがあった。同級生のそれは、掌ごと埋まりそうに柔らかくてふかふかしている。

 麻美子さんの感触と違う……! 女の人によって違うのか!

 頭に、カッと血がのぼった。
 近藤が、そんな変化を目を細めている。
「ほーら、長野くん。私のおっぱい、触って楽しんでるじゃない」
 彼女はたじたじになって逃げる同級生を、壁のコーナーに追い詰めた。
「どう? ねえ、触り心地は?」
 大輔の額から脂汗が滲み出る。
「い、いやあ。そのう。だ、だから、ね? こっこっ、ここって、そういうことする場所じゃないでしょ?」
 いますぐにでも同級生の体から手を離し、便器のある方向へ逃げることもできた。が、もし下手に動いて、女の子がひっくり返ってしまうのはもっと危険だ。彼女の後頭部は間違いなく、シャワートイレへ激突する。
「んー、まあねえ。そう言われたらそうよね」
 そう言いつつ、近藤は大輔に爆乳を押し付けてくる。
「ね、ね? そ、そそそうでしょ」
 彼の腰あたり、じわじわと熱くなってきた。とにかく、この状態をなんとかしないと。大輔は焦る。
 おっぱい少女が、きらきらと双眸を輝かせた。
「じゃあ教えて。なんで急にあんな難しい問題が解けるようになったの?」
「えっ」
 大輔は口を金魚のようにぱくぱくさせた。
「あ、あー。かっ家庭教師がね、ものっそいスパルタ式なの。すっ少しでも正解数が増えないと、頭をね、はたかれちゃうんだ」
 近藤の眼に一瞬だけ、憐れみが宿る。
「へえ、可哀想だったんだねえ」
「だだだ、だから早く学習室に戻ろうよ。まだ続きが残ってるんだよぅ」
「私に聞いてくれたら、こんなことさせてあげるのに」
 彼女は自らのフワフワおっぱいを両手で持ち上げて、にじり寄った。大輔の身に、ますます爆乳がからみつく。
「こ、近藤さん……っ、も、戻ろうよ」
「やだー。ほんとはうれしいくせにー」
 ゆっさゆさでふっわふわの爆乳は、いつしか大輔の両手をはねのけている。ぴとっ、と大輔の腹部に密着していた。
「こ、こんなこと良くないよぅ」
「うっそ。長野くんの股の間、キツキツになってきてるもん。ほんとはうれしいんでしょ?」
 図星だ。
「ねえねえ、どうなのようー」
 小悪魔は濡れた唇を舌なめずる。しかもこの美少女は、大輔の視線がキョロキョロと、便座と天井の間を浮いているのを知っている。
 近藤は精神的にも彼を追い詰めていた。
 大輔はコーナーに背中をへばりつけていた。なんとかして近藤を押し返したい。
 が、いかんせん相手の身長が低すぎる。突き飛ばそうにも突き飛ばせない。
 近藤は脂汗を浮かべる大輔に対し、更に、澄んだ瞳を見開いた。
「長野くんは私が床に転んで頭をぶつけるのと、私のおっぱいを揉んでくれるのと、どっちがいい?」
「し、支離滅裂だよ……」
 しかしながら体は、逆の反応を示す。いましがた指摘された通り、股間のイチモツは充血の加速がすさまじい。
 大輔が息を飲む音が、ガランと広い多目的トイレの室内に響いた。
「ねえねえ、どっちぃ?」
 近藤はつやつやした唇を突き出し「んーっ」と、間隔の長いまばたきを繰り返す。
 これってキスをせがまれているってことですか! いや、でも俺には麻美子さんがいるし! 
 大輔は美少女のいざないから、少しでも逃れようとこころみる。
「どっち?」
 唇なんか重ねちゃったらだめだ、麻美子さんを裏切っちゃうよ。
 彼は下腹に力を込めた。カラカラに乾いたノドから、なんとか声を振り絞る。
「お、おっぱい……かなあ」
「ほらね、やっぱり」
 同級生はゆっくりと目を細めた。大輔が履いているパンツの上から、すーっと撫でる感触が彼の股間に伝わった。
「……うっ」
 小悪魔は呻いた同級生男子を楽しそうに見つめ、「ふふっ」と笑んだ。
 そして、股間を撫でる指を一本ずつ増やしていく。
「や、やめて。やっぱ、やめて」
 近藤は媚びるように唇を尖らせた。
「なあに? 長野くんったら、誰か好きな人でもいるの? ここ、かちかちに固くなってるのに?」 
「い、いるけど……」
 大輔の額から出た汗が流れ、床に落ちる。
「ふーん。最近変わったのは、それもあるのかー。なんだか妬けちゃうー」
 近藤はじれったそうに、少し身を離した。
 大輔がほっとするのも束の間、美少女は彼のパンツのファスナーを下ろしている。
「あっ!」
 大輔は情けない声を上げていた。同級生がトランクスの中に手を突っ込んだのを、拒むことができない。
 近藤がふんわりした感触で、彼のがちがちに固くなった肉根を包む。
「く……ッ!」
 美少女は思わず呻く大輔を艶然と見つめ、小さな手で肉根をすっぽり包みこむ。そしてすぐに、至福の笑みを浮かべた。
「やーん、こんなに太いのー」
 近藤さん! あなた、これっぽっちもイヤそうじゃないんですけど……!
 そう思っていても、言い返せない。
 美少女はふたたび、大輔に爆乳を押し付けながら彼の肉根をシゴキはじめた。
「ねえ、長野くん?」
「は、はい」
 呼ばれた大輔は、近藤の甘えて媚びる声に我に返る。
 見下ろすと、同級生美少女が、まるで小さな子供みたいにうれしそうな顔をしていた。
 近藤は、ゆっくりと肉根をしごき続けている。
「……私に嘘ついたでしょ。ひどいよ、せっかく勉強教えてあげたのに」
「嘘なんか、つ、ついてないし」
 きゅっ……と、肉根をしごきあげる手指に力がこもった。
「スパルタ家庭教師って女でしょ?」
「え」
 近藤は天女のように首をかしげ、ぎくっとした彼に微笑みかけた。
「女、でしょ?」
 彼女は返答に詰まった大輔を愉しむように、肉根を包み動かす手の動きを早める。
「あ、ああ……。う、うん。お、女」
「あーん、やっぱり悔しいー。もっと早く、長野くんにイタズラしてたらよかったー」
 近藤は目を細め、更に動かす手に力を加えてきた。
「こっ近藤さん! こ、公共の場で、これはよくないよ……っ!」
「うっそ、そんなこと言ってるけど長野くんのここ、どんどん太くなって、びくびくってしてるよ? 腰も突き出してくれちゃってるし」
「あ、悪魔か」
「んふっ。そうかも」
 彼女は蕩けそうな表情で、口元に笑みを浮かべる。
「ここはね、三十分経ったら自動で扉が開くんだよ。使う人に何かあったら大変だからっていうのは表向きの理由でね、私たちみたいに、悪いことする高校生が多いから。でもね。鏡の中に監視カメラが仕掛けてあるけど、ここはちょうど死角だから、バレないよ」
 美少女は彼の陰嚢の方まで手を伸ばし、裏筋を撫ではじめた。
「わ、私たちって……お、俺は」
「違わないよ?」
 間髪入れずに応えた彼女はひざまずき、大輔の履いているパンツを足元まで降ろす。そして、剥き出しになった肉根の根元から上まで、チロッと細く舐め上げた。
「近藤さんっー」
 同級生は、さっきよりも情けない声を出した彼を見上げる。
 それから大輔と目を合わせたまま、パンパンにいきり立つ肉根をぷるぷるした唇の中に収めた。
 逃げたい、でも逃げられない。
 近藤の額に、大輔の顎から落ちた汗がしたたり落ちる。彼女は幸せそうな顔をしながら、男の肉根を根元まで口に含む。
 やがて、同級生は舌を遣いつつ、激しく頭を動かしはじめた。

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俺に彼女が出来るまで……10 久しぶりに同級生と会いました

俺に彼女が出来るまで



 クリスマスの翌々日。
 麻美子は机に座った大輔に「これ、年末の宿題です」と言い、大量のプリントを出した。
「あさってまでに、やっておいてくださいね。授業で習っている科目を全部網羅してあります」
「ええ? あさってですか」
 大輔は目を疑った。A4用紙の厚さは五センチほどある。
 教え子は涙ぐんで家庭教師を見上げた。つい先日まで落ちこぼれ同然だった自分に、できるだろうか。
 しかし麻美子は満面の笑みをたたえ、こくこくうなずく。
「これくらいなら、できますから」
「しかも、あさってまで、ですか」
 言いながら家庭教師に対し「宿題の量を減らして」ビームを出したつもりだ。しかし、美人女子大生はあっさりと、それをかわした。
 麻美子は最高の笑顔で言う。
「ふふ、だめです。量は減らしません」
「えー」
 彼女は更に、ダメ押しをする。
「昨夜、夜遅くまでかかって作ったんですよ。中学の範囲からコツコツ復習していったら、大輔さんはきっと伸びます。もし間違ったところがあったら、そこからまた勉強しましょうね」
 恋する男は、がっくりとうなだれる。
 いくら親父に雇われた立場だからとはいえ、俺のことを、ここまで考えてくれる人のことを無碍にはできない。
「……じゃあ、今からやってもいいですか?」
 麻美子は、うれしそうに目を細めた。
「そう言うと思っていました」
 大輔は肩をなでおろす。
「よかった。じゃ、これも含めて今日の授業ってことでいい?」
 家庭教師はふたたびうなずき、大輔の隣に座る。
「大晦日と三が日は、来たくても来れないから……」
 そう言われればそうだ、世間では年末年始なんだもんな。麻美子さんのこと独占したいけど、そういうわけにもいかないよな。
 納得した大輔は、麻美子の額にキスをする。
「わかりました、がんばります」

 ――もう二度と、麻美子さんを落胆させたくない。麻美子さんに心配をかけたくない。その一心で大輔は宿題を仕上げ、またつまずいたところから教えてもらう。
 そんな繰り返しで年も明け、もうすぐ新学期がはじまるという頃。

 大輔は図書館にいた。
 開館と同時、学習室で一番日あたりのいい場所を陣取り、こつこつ「麻美子の手作り課題」を解いているとき。
 通路側から、つんつん、と背中をつつかれる。
「ん?」
 そちらを見ると、近藤陽菜がいた。物珍しそうな眼差しで、大輔が机に広げた課題を覗いている。ライトブラウンに染めたショートカットに、ぱっちりとした瞳を際立たせるアイライン、パープルのアイシャドウが、やけに目につく。
 一瞬で心臓が高鳴った。
 動揺を悟られないよう、ぶっきらぼうに言ってみる。
「なんだ、近藤さんか」
「なんだ、とはひどい人ねぇ」
 近藤はカシスソーダ色の唇を軽く尖らせてみせた。
「新年はじめて会ったのに、挨拶もないなんて。ひどい」
「ごっ、ごめん」
 近藤は顔を熱くした大輔に構わず、隣の椅子に腰かける。
「ま、いっか。長野くんだから許してあげるよ」
「あ、ありがとう」
 かたん、と音を立てて彼女が椅子を引く。ふわっと柑橘系の香りが漂ってきた。
 大輔は思わずうつむき、自分の両頬をぺちぺちと叩いた。
「どうしたの?」
 同級生は怪訝そうな表情で、彼を覗き込んでくる。
「い、いやぁ……。かなり感じが変わったなと思ってさ」
「髪の毛のせいじゃないかな?」
「あ、そうかも」
 曖昧に返事をしつつ、大輔は近藤の胸元に目線を移す。今日の服装は紺色のセーターだ。ニットなので、体の線がよくわかる。
 おっぱい少女は、くすくす笑って大輔の腕に触れた。
「どこ見てんのよ?」
 まさか、きみの巨乳です、とは言えないじゃないですか。困惑した大輔が、目線を無理に「麻美子の課題」にそらす。
 と、近藤もそちらを見遣った。
「長野くんが解いているの? これ」
「そうだけど。なんで?」
 同級生は大輔と課題プリントを交互に見つめる。
「ほんと……長野くんの筆跡ね。別人みたいに変わっちゃったのねえ」
 褒められているのか、貶されているのか、よくわからない。まあ、ここは褒められていると解釈しよう。
「別人、って。近藤さんの方がひどくない?」
 軽口を叩いたつもりだった。しかし、近藤が言葉に詰まって頬を紅く染めた。ほっそりした顎のラインが、ライトブラウンに染めたヘアスタイルに、よく似合う。
 大輔は気まずさを取り払うように、ふざけて唇を尖らせた。
「冬休みの短い時間で変わったのは、そっちじゃん。口紅まで塗っちゃってさ」
 近藤は大輔の目を見て、ほっと溜め息をつく。
「違うのよ。昨日、雑誌のモデルのオーディションに行ってたの。だから今日中に、髪は染め直すつもり。たまの休みなんだもん、染めるくらい勘弁してよ」
「へえ」
 思わず顎をしゃくった。
「そういうのって書類選考を通って、の話だろ?」
「まあね」
 まんざらでもなさそうな言葉が返ってくる。
「で? 合格しそうなの?」
 同級生女子は肩をすくめ、掌を上に向けた。
「どうかなあ、わかんない」
「そうなのか。上手く言ったらいいな」
 いつのまにか二人とも、課題を図書館のテーブルに広げながら話している。同じクラス同士だからなのか、あまり気を遣わないで済むのはいい。
 大輔は、やがて自分のことに没頭していた。知らずしらずのうちに麻美子の宿題も、学校の課題も終わりそうになっている。
 彼はふと、隣からの視線に気がついた。
「あ、ああー。ごめん。気、散っちゃった?」
 そう言った近藤が下を向いた。
「え? 大丈夫だけど」
「そっか」
「近藤さんの方こそ変だよ?」
 同級生は素で答えた彼に、軽く向き直る。
「ごめん、そっちの手元を覗いたらねえ。初歩の初歩でつまずいてた人が解くレベルじゃないよ、もう。それでびっくりしちゃって」
「へえ」
 大輔は感心して、しみじみと家庭教師手製の問題用紙を眺めた。
 家庭教師の面影が頭に浮かび、頬が緩みかけた時だ。だしぬけに近藤の声が飛び込んで来る。
「……長野くんって、本当に変わっちゃったね。いい意味で、だけど」
「いやいや。とんでもない」
 彼は問題用紙から目線を同級生に移す。美少女の目は潤んでいるように見えた。
「やっぱり勉強とかもね。色々と、男性の方が集中すると、女性は負けてしまうよね」
「そんなこともないだろう」
 正直に言った。たとえ御世辞だとしても、スペックが上がったのは麻美子の御蔭だ。
「ううん」
 近藤はかぶりを振る。
「この前、会った時も思ったんだけど。長野くん、この前よりも……もっと変わった」
「どんな風に?」
「うーん、なんていうかさあ」
 同級生は言いよどみ、つるつるのほっぺたを紅くした。
「やっぱ、言うのやめとくよ」
「なんだよ、言えよ。そんな言い方されたら余計に気になるじゃないか」
「いいよ、もう」
 そう言って、ぷい、と頬を背ける。
「変なの。俺にはそっちの方が意外な一面って感じ」
 近藤はなにも言わなくなった。
 だが、茶色の髪の毛から覗く耳たぶが赤くなっている。彼女はそのまま、かりかりとシャーペンをノートに走らせ続ける。
(変なの。ぎくしゃくしちゃって)
 大輔は雰囲気を変えるため、近藤が開いている問題集を見る。
 なんだ、俺なんかより、はるかに難しそうなのやってるじゃないか。
「ねえ、それって教科書の範囲じゃないだろ? どっかの模試でも受けるの?」
「ん」
 同級生は顔を上げた。
「当たり。来月、静院女子大の模試受けに行くの」
 麻美子の通う学校だ。大輔の心臓の鼓動が高まった。
「どうしたのよ? 急にキョドくなっちゃって」
 同級生女子はいぶかしそうな顔をした。大輔は、あわてて手を振る。
「いや、なんでもないけどさ。あそこって、名門のお嬢様学校なんだろう? すげえな」
「よく知ってるね」
 近藤は頬をほころばせて、小さな吐息をついた。彼女の唇が丸くなって「ほう」と息をつく形に、不意に麻美子の痴態が思い浮かぶ。
 同級生が恥ずかしそうに俯く。そして、手元のノートで豊かな乳房を隠した。
「長野くんったら……」
 大輔は近藤のおっぱいを凝視しながら、麻美子とのセックスを思い出してしまっていた。よほどガン見に見えたらしい。
 なにかで気を散らそう、そうでないと同級生の裸まで想像してしまう。
「あ、ごめん。自販機でなんか買ってくるよ。缶ジュースくらいなら奢るからさ、なにがいい?」
 近藤は彼につられるように、一拍遅れて立ち上がった。
「いいよ、一緒に行く」
「そ、そうか」
「区切り付けたかったから、別に」
 図書館の地下階には自販機コーナーがある。そこは軽食も取れるようになっている箇所だった。二人でカバンを持ち、エレベーターに乗り込む。
 近藤は並ぶと、かなり背が低い。目算では麻美子よりも十センチほど低く見えた。紺色のセーターの下は白地に花柄のスカートだ。素足にブーツを履いている。
 エレベーター扉が開くと、トイレの表示が見えた。その引き戸を背に、近藤が立ち止まる。
「ねえ、誰もいないよね」
 彼女は独り言のようにつぶやき、隣にいた大輔を見上げた。
「うん」
 近藤の瞳が、きらきら光る。
「ねえ、こういう時ってキスしたくならない?」
「えっ」
 彼がたじろぐと、美少女は更に言葉を続けた。
「だって誰もいないんだよ。それに、私のおっぱい、じろじろ見てたじゃない」
「それは、そのう……」
 大輔の額から汗が噴き出しそうだ。近藤は、ちら、と彼の股間に視線を流す。
「わかってるのよ? 長野くん、前かがみになって歩いてるんだもの」
「え、えーと。そ、それはですね」
 こちらを見つめた同級生が、相手の話の腰を折った。
「本当は触りたいんでしょう?」
「は、はい。あ! いや、ち、違うから!」
 彼女は満足そうに微笑み、片手で大輔の手をつかんだ。
「え! ちょっと待って! こ、近藤さん……っ!」
 美少女は同級生男子の言葉を聞き取ることなく、もう片方の手でトイレの戸を開けていた。

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俺に彼女が出来るまで……9 またまた家庭教師とラブレッスン②

俺に彼女が出来るまで



 家庭教師と生徒がつながっている場所から、熱いしずくが大量にこぼれ落ちる。
 麻美子は形の良い唇を大輔に向け、キスをせがんだ。二人は、深々と舌を絡め合う。
 大輔は射精したばかりなのに、むくむくと肉根が疼く。それを相手の体から外し、すっかり熱くなった細い体を抱き上げた。彼女は蕩けそうな目で、生徒に腕を回す。
 大輔は丁寧にベッドの上に彼女を横たえ、自らの着ている物を手早く脱ぎ捨てた。
「だ、大輔さん……」
 家庭教師が、ほっそりした腕を上げる。
「なんですか?」
「ぬ、脱がせてください……」
 彼女の頬に、また赤みが射していた。白ブラウスと紫色のブラジャーを剥ぎ取ると、大きな乳房が薄い躰の上で揺れる。
(ぶるん……って! も、もう、たまんない!)
 大輔は呼吸を荒げ、むしゃぶりついた。
 ちゅるちゅる、ちゅばっ……。ちゅるっ……。
 吸い付き、離れる。
 卑猥な音を立て、もう片方の乳房を緩急をつけて揉みしだく。
 自分の手指のすべてに、麻美子の皮膚が吸い付いてくるようだ。餅肌感触に感動のひとことだ。
 愛撫を受け続ける彼女は、鳴きながらシーツの上で肢体を反らす。
「あ、ああっ……あ、 い、いいっ! あ、あっ、あああんっ……!」
 大輔は指を大きく広げても、麻美子の柔らかいおっぱいは餅のように「むにゅうっ」と、隙間からはみ出してしまう。
 時折、指と指の隙間から、桜色の尖った乳首が覗く。彼は弄ぶように乳首をチロチロと舐めたり転がしたりすると、彼女の体がつらそうに跳ねる。
 ふたたび丁寧に乳房へ吸い付き、麻美子の反応を確かめた。細い首筋までが、興奮してきたのか真っ赤だ。眉をひそめて閉じた瞼から、こぼれそうに涙が溜まっている。
 大輔は試しに乳房をギュッと掴んでみた。
「ひああ……っ!」
 麻美子は顔を左右に振り動かす。彼女の閉じた瞼から、涙が耐え切れずにシーツに向かって流れていく。
「も、もっと気持ちよくさせてあげたいです……」
 こちらのささやきが、届いたかどうかは知らない。
 しかし、彼は宣言したつもりだ。スカートの留め金を外すのももどかしく、破かないように剥ぎ取るのが精一杯だけれど。
 ふと、ブラジャーと揃いの紫のショーツが大輔の目に止まる。白い肌に映える色彩だった。昨日の白ショーツよりも、切り込みが深い。
 昨日よりいやらしい下着だ……。
 高校生はごくり、と唾を飲み込んだ。そろそろと女の太ももを撫でながらショーツを抜き取る。
 頭上からは麻美子の甘ったるい小刻みな喘ぎ。
「き、気持ちよくなってください!」 
 大輔は叫び、彼女の膝を開いて存分に秘肉を味わう。膣口にもクリトリスにも唾液をまぶし付ける。
 すぐに麻美子は甲高く鳴きはじめた。
「ぁ、ああんんっ! だ、大輔さん……っ! あはああっ、ああーぁっ! んくう、あああん……ッ!」
 彼は舌や唇で秘肉の隅々まで味わい尽くしてから、ゆっくりと彼女の上に覆いかぶさる。肉根を膣口に触れさせると、麻美子の方から腰を浮かせた。
「あ、ああん……。ふ、太いよぅっ……」
 家庭教師は焦点の合わない瞳を薄く開ける。大輔はたまらず、彼女の瞼に唇をつけた。
 熱く濡れたて蠢く肉壁が、大輔の肉根に絡みついてくる。
 思わず呻き声が出た。
「ううっ……。き、気持ちいい……」
 麻美子を見下ろしながら腰を沈める。肉根の根元までつながった時、背中に電流が走るかと思うほどの快感に襲われた。
 相手も同じだったらしい。一瞬、目を見開いてから悲鳴を上げる。
「あああーっ!」
 牝の甲高い声が、この上もなく甘美な響きに聞こえる。
「麻美子……っ」
 呻きながら繰り返し繰り返し、腰を浮かせては力強く叩きつける。やがて彼女は刺されながら、がくがくと震え出した。
「ああんっ! だ、大輔さん気持ちいいっ! あ! あああぁーっ! キ、キスして……。あ、あぁんん、あんんーーぅ、……ッ!」
 麻美子は唇を塞がれた状態で、何度も激しく腰を浮かせて男を迎え入れる。
 恥骨同士がこすれ合うたびにねっとりした熱い愛液が溢れ、シーツまでぐちょぐちょに濡らしていく。
 もっと深く挿入したい。
 大輔は相手の脚を高く掲げ、自分の肩に載せた。女の嬌声は、トーンを変えて部屋中に響き渡る。
「あああーーーっ!」
 突きまくるたびに痺れるような快感に襲われ、気持ちよさに圧倒されそうだ。ずくずくと卑猥な音が何十回も続いた後、限界がやってきた。
「で、出るっ」
 麻美子が喘ぎ、体を大きくくねらせながら哀願する。
「ああっ、だ、大輔さんの赤ちゃんの元を入れてください……っ! い、いっぱい、く、くださ、あああっ!」
「受け止めてくださいっ……!」
 恥骨同士が響きあう鈍い音と水音が絡まりあった。
 麻美子の膣壁がギュッと締まる。
 直後、精を放っていた。大輔の胸板の下、可愛い女が精液を受け入れる途中で意識を失う。

 部屋の中が暗い。
 どうやら二人ともセックスのあと、熟睡していたようだ。
 大輔は鎖骨の辺りで、おでこをつけて寝息を立てている麻美子の肩をつつく。
「そろそろ帰らないとマズイ頃じゃないですか?」
 彼女は起き抜けの蕩けたような表情をした。それから視線をカーテンの隙間に移す。
「あ、ほんとだ」
 ぽわん、とした言い方が年上らしく聞こえない。生徒の口角は、自然に緩んでしまう。
 二人は同時に起き上がった。
「送っていきますよ」
 大輔は、にっこり笑ってくれた家庭教師の着替える姿を眺めている。その時、なぜか妙な感覚にとらわれた。
 ……本当に、夢みたいだ。
 さっきまで痴態をさらしていた女子大生が、別人に見える。澄んだ眼をしばたかせる彼女は、陶器のようなすべすべした素顔なのだ。
 私服で遊び歩いている頃でも、こんなに可愛い女の子は見たことがなかった。もちろん、話しかけられたこともない。
 それほどの女性と、何度も抱き合ったことが、どうしても信じられない。
 大輔は首を振った。きっと現実に起こったことに、自分の理解がついていってないんだと思い込む。これもたぶん、恋なんだ。
「どうしました?」
 彼は不思議そうにしている家庭教師に向かい、手を振った。
「あ、い、いえ。なんでもありません。行きましょうか?」
 麻美子が、なにか言いたそうに大輔を見た。が、すぐに頬をほころばせる。
「ごめんなさいね」
「いいですよ。こっちも麻美子さんがどこに住んでるのか、知るチャンスだし」
 家庭教師は小さく「あっ」とつぶやく。
「駅の裏側なんですよ、私の家」
「ここの?」
「そう」
 大輔は、内心ほくほくしてしまう。
 昨日は教えてもらえなかった彼女のプライベートなことを知ったよろこびだ。
 このアパートから五分ほどで駅に着く。その裏側だとしたら、本当に近所だ。彼は「まいったなあ」と、つぶやきながら頭をかいた。
「どうして?」
 麻美子は瞳を輝かせた。
「こんな綺麗な女性が近所に住んでるなんて、今まで知らなかった」
 彼女の頬が赤くなる。
「そ、そんなこと。大輔さんって軽々しく言える人だったんですか」
 心なしか、家庭教師の声はうわずっているように感じた。

 そんな風に言われたらさ。俺、なんて言っていいか、わかんなくなるじゃん……。

 外に出ると、いかにもクリスマスといった感じがする。街路樹に余すところなく付けられた電飾が、赤や青の色の光に輝く。
 歩いている人も皆、機嫌が良さそうに見える。
「今夜は、少しだけ街の中が明るく見えますね」
 麻美子は無邪気に大輔を見上げていた。彼は左側を見下ろした。すると、女子大生は、おずおずと左手を差し出してくる。
 彼が不思議に思う間もなく、麻美子が屈託のない調子で口を開く。
「あ、あのう。手、つないでいただけますか?」
「は、はい」
 男子高校生は、女子大生の小さな薄い掌を握る。
 考えてみたら、変な話だ。手も握っていないのにセックスだなんて。現実感がなかった原因のひとつなんだろう、たぶん。
「あ、あのう。大輔さん」
「はい」
「実は、お父様から可能なら毎日通って、勉強を見てくれと言われているんです」
 教え子は眉をひそめた。
 麻美子が大輔の複雑な表情を見て、あわてた口調で言った。
「あっ、でも。今日、復習テストをしてもらって思ったんです。週三回くらいでも、充分な気がするんです。この調子なら、ちゃんと成績は上がります。週三でも」
「そ、そうですか」
 毎日会えないと思うと、それはそれで寂しい。
「私、昨日と今日、すっかり甘えちゃって……こんなこと言える筋合いじゃないんですけれども」
 高校生は、彼女とつないだ手を握りしめる。
「それは麻美子さんのせいじゃないです……」
 大輔は自身の調子良さに呆れた。さっきまで、彼女が俺のモノになったのかどうか考えていたのに。
 いざ本人から「毎日は来れないかも」と聞くと、一抹の寂しさを感じているなんて。
 家庭教師は、つないだ手を握り返した。
「でも、会えない時でも、ちゃんと勉強していてくださいね」
「はい」
 彼女はなにかを振り切るように、口元だけで笑った。
「大輔さんの成績を上げるためなら、なんでもします」
 麻美子は言葉に詰まった大輔を見上げ、なにも言わなくなった。
「そ、そんな寂しくなること、言わないでくださいよ。せっかくのクリスマスなんだし」
「そう言えば、そうでしたね」
 ふふっ、と笑顔になった美人家庭教師の頬を、通り過ぎる車のライトが照らして行く。
「俺も勉強、がんばりますから」
「はい」
 麻美子は屈託のない笑顔を見せた。
 大輔は素直に思う。 

 ……くそう。切ないな。

 

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俺に彼女が出来るまで……8、またまた家庭教師とラブレッスン①

俺に彼女が出来るまで



 大輔の興奮は最高潮に達した。
「あっ、あっ、あのう」
(落ち着け俺……!)
「大輔さん。な、なんでしょうか」
 彼女もまた、頬を赤らめつつ大輔の反応を伺っている。男子高校生は息を吸い、一気に言った。
「じゃ、じゃあ! 俺、これから麻美子さんと抱き合っても、いいんでしょうか」
 家庭教師の頬がぱあっと一面に赤くなる。彼女はためらう様子ながらも、視線だけは外さない。
「わ、私。……自分のこと、淫乱なのかもしれないって思います。大輔さんに『もっと気持ちよくなってもらいたい』って真剣に考えちゃうんです。昨日、どんどんエスカレートして行った私自身に、お、驚きました。けど、あのう」
 大輔はとっさに彼女の唇に人差し指を当てた。それから思い切り息を吸い、言い切った。
「淫乱上等じゃないですか! お、俺も昨日のこと夢みたいでした。もう一回、夢でも見てみたいです。麻美子先生に、もっと教えてほしいです!」
 年上の美人が瞳を潤ませ、生徒の首に腕を回した。
「う、うれしいです!」
 大輔は力強く、家庭教師を抱き返す。
「お、俺もです!」
 ほっそりした存在の違う体温の生き物が、か細く自分の腕の中で震えている。大輔の心臓は破裂しそうだ。
 いつしか麻美子は仔リスのようなキラキラした目で、生徒を見上げていた。
「ま、麻美子先生……っ」
 大輔が衝動のままに呼びかける。
「わ、私を」
 麻美子は唇を震わせ、訴えるような眼差しを教え子に投げかける。
「……先生?」
 家庭教師は目を潤ませ、すっかり頬を上気させていた。
「ベ、ベッドに連れて行ってください……」
「はい」
 彼女なりに精一杯、大輔を誘ったのだろう。
 しかし、どことなく中途半端にモジモジしていて、それが逆に可愛い。
 大輔は相手のジャケットが皺にならないように気遣いながら、女子大生を抱き上げた。気のせいか、昨日とは彼女の香りが違う。
 ベッドに落とす前に、麻美子の貝殻のように整った耳たぶに口を寄せる。
「先にジャケット、脱ぎます?」
 彼女が、こくんと頷く。大輔は静かに、家庭教師をベッドのふちに座らせてやった。
「ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
 麻美子が大輔と視線を合わせたまま、黒のジャケットを脱ぐ。白いブラウスの下、ブラジャーの形に濃い紫色が見える。
 大輔の目は釘付けだ。おまけに大声で叫びそうになる。
 しっ、白ブラウスの下に紫ブラジャーですか! けしからんにもほどがある!
 しかし全力で我慢して、相手の顎を上げさせた。
 麻美子がそっと瞼を閉じる。
 彼は心の中で、夢ではないのだと何度も確かめながら、首を曲げて大好きな先生と唇を重ね合わせた。
 舌を入れない長いキスを交わしながら、麻美子の背中を撫でる。
 相手の呼吸が徐々に小刻みになっていく。途中で喘ぎながら、つい、と麻美子は顔を背けた。
「あ……ちょ、ちょっと待ってください」
 麻美子はおぼつかない足取りで立ち上がった。片手にはジャケットがある。
 彼女は自分の肩ごしに、半ば虚ろな眼差しを寄越した。
「ここに掛けてもいいですか?」
 顎で机の前に置いてある椅子の背を指す。
 大輔は頷きながら、彼女を後ろから抱きしめる。
「あ……ん」
 麻美子は甘ったるい鼻声を漏らし、机に両手をついた。
「ま、待って」
「待てません」
「で、でも感じすぎちゃぅ、あ!」
 生徒は背後から家庭教師の膨らんだ乳房を揉みしだく。麻美子は、半身をくねらせ喘ぎはじめた。
「はぁ……っ。……ああ、あん、ああ、ひあっ。な、なっ……ああ、ああん!」
 大輔は、なかば羽交い絞めの姿勢で家庭教師を支え、ブラウスのボタンを外した。
 そして、さらけた肌の部分にあらためて掌を這わせる。乳房は揉んでも揉んでも、男の手からはみ出て、ぶるん、と揺れた。
 全部つかみきれないのが、もどかしくてたまらない。
 彼女のブラウスのボタンを全部外し、ブラジャーのストラップを肩から外して細いうなじにむしゃぶりついた。
 もちろん、両手で思いきり強く、乳房を弄ぶのは止めていない。
 更に麻美子の嬌声のトーンが変わる。
「ああん! ああっ、ああ……それ……もっと……ふあ……っ! んっあんあああっ、もう立てないんっ! あああーっ!」
「だめ、ちゃんと立っててください……」
 彼女は言われた通りに、崩れそうな膝を力を振り絞って耐えている。生徒は片手で、女子大生のスカートをめくり上げはじめる。
「ああん、い、いやらしい、大輔さんっ……! ああっ、そんな器用に、そんな、あんんっ!」
 彼は相手の、なめらかな尻を撫でて、肉根が入った箇所を確かめる。秘肉から湧き出る愛液は、太ももまで伝わり、ぬるぬると落ちていた。
「いやらしくさせたのは、麻美子先生でしょう……?」
 男の低い声に感応するように、彼女は身を震わせた。
「あ、そ、そうかも……っ! やん、やあんっ! 後ろからそんなの、ずるい……っ」
 わざと、くちゅくちゅ……という音を立ててクリトリスと周辺に指を這わせる。
「そんな……こんなに濡れているのに?」
 クリトリスを集中して撫でる大輔に、肉芽が膨らんでくるのが伝わった。麻美子は両手を机の上に突っ張り、膝で耐えながら喘ぎ仰け反り、哀願しはじめる。
「や、優しくしてぇっ、ああああーっ!」
 彼女は上半身が仰け反っているので、自然と腰が突き出てくる。くねくねと動く尻の動きに合わせ、大輔は麻美子のショーツをパンストごと降ろした。
「いやらしい格好してます……先生」
 ウエストのくびれを撫でながら耳元で囁くと、家庭教師は「ああ……」と喘ぎ、乳房を前に張りだした。
「も、もっと、いやらしくなりたい……」
 彼女は、はあはあと吐息を荒げつつ言う。応える生徒は女の乳房を、片手で絞る。
「ひゃうううっ! あああーっ!」
 麻美子は、がくがくと膝を崩しそうになった。大輔はジーンズのファスナーに手をかけつつ、彼女の上半身を支えた。
「ちゃんと立って……。次に、どうしたらいいか教えてください」
「あぅ……。う、後ろから……入れてほしい」
 生徒はひざまずき、家庭教師がキュッと突き出した尻に顔を付けた。
「ああっ!」
 彼女が悲鳴と共に、太ももを突っ張らせる。秘肉を目がけて舌を差し入れながら、パンストを床まで引きずり降ろした。
「ああ……。あ! あああーっ! い、いあああーんっ!」
 諦めの混じった吐息が甲高い悲鳴に変わった。
 男子高校生の舌先が彼女の秘肉を捉え、不規則に舐めしゃぶりはじめたからだ。
 麻美子は鳴きながら、みずから脚を開きはじめた。
 彼が片手を差し入れ、指でも秘肉をなぞりたて、クリトリスをつついてやる。
 更に嬌声が激しくなった。
「ああんっ! すごいいっ! あ、すごい、あああーっ! あはあぁっ! い、イっちゃう! イっちゃうーーーっ!」
 家庭教師が我を忘れて悲鳴を上げるごと。
 愛液が溢れ、床にまでしたたり落ちる。
「いやああ! 大輔さんのおちんちんでイキたいーーーっ! あああん! あ! ああ! んぅ……っ!」
 彼女が尻をくねらせて鳴き続け、びくん、と全身を震わせた。
 大輔は、がっちりと腰を両手で包む。彼女の膣口から、滝のように愛液が流れてきた。
 感動した男子高校生は無我夢中で愛液を舐め啜る。そのうち、麻美子の鳴き声が力を無くしていることに気がついた。
 いつしか彼女は、がくがくと震える上半身を机にうつ伏せている。
 乱れた黒髪が頬にかかり、閉じた瞼からは涙が流れていた。半開きの口から、弱々しい吐息がこぼれている。
 大輔は立ち上がり、家庭教師の腰を自分の腰へと引き寄せた。
「すげえ、いい眺め……」
 乱れ切った牝が、かすかに背中を波立たせる。
 大輔は肉根を膣口に宛て、一気に刺した。
「あ! あはぁああーっ!」
 麻美子が最後の力を振り絞るように細い背を反らす。その背を起こし、深々と突き込みながら机に手をつかせた。
「もっと奥まで入れたい……」
 彼女は従順に腰を突き出し、密着するように尻を振った。
「あああん! だ、大輔さ……んっ! あああぅっ! あ……ぁ、っんんあああ!」
「き、気持ちいいです! 麻美子先生っ!」
「だ、大輔さんが……あ! ああん! い、いやらしい、からですっ! あ! ああ!」
 ずぶずぶと肉根が往復するたび、家庭教師の股間からは体内から掻き出された愛液がごぼごぼとしたたり落ちる。
 それに肉同士がぶつかり合う、卑猥な音と互いの喘ぐ声が混じりあう。
 互いに気の遠くなるような快感を、存分に味わっていることが存分に伝わってくる。
「ああっ、もうっ! もうだめ、もうだめもうだめえーっ!」
「お、俺もイキそうです先生っ!」
「んっああ……! ああっ、ぁああ、きてっ! 中に出してぇ! 一緒にイきたい! あああーっ!」
「い、イキます! 麻美子先生の中に、俺……っ!」
 ぐっ、とトドメに腰を突き出すと、彼女も同調するように膣を肉根に強く密着させた。
 二人は同時に果てる。
 大輔は白濁液を深々と放出しながら。麻美子は愛液を濁流のように流しながら。

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俺に彼女が出来るまで……7、今さらですが気持ちを確かめ合いました

俺に彼女が出来るまで



「あんっ」
 女子大生はキスの途中、ぐい、と肘で男の体をはねのける。
 教え子は思わぬ抵抗に、ぎょっとして力を緩める。彼女が顔を戻し、ぱっちりと瞳を開けた。今にも泣き出しそうにも見えた。
 大輔は飛び跳ねるように、麻美子の体から離れる。彼は手をついて、必死に家庭教師に詫びた。
「麻美子さんごめんなさい! 乱暴にしちゃってごめんなさい!」
 彼女は高校生を見て、あわてて起き上がった。
「あ……。わ、私の方こそ、ごめんなさい」
「すみませんでしたっ! 調子に乗りすぎました! すみません!」
 大輔が大声を上げ、もう一度、手を床についた。
 とにかく、嫌われたくない一心でいっぱいだ。
 やがて彼の詫びる声に混じって、麻美子の悲愴な声がしてきた。
「あ、あっ、大輔さん。あのう、かっ、顔を上げてください。違うんです!」
「へっ?」
 見上げる彼女は額に汗をにじませ、手と首をぶんぶん横に振っている。
「あ、あのですね。私の方が誘われたかったんです!」
 彼女は一気に言葉を吐き出したあと、きゅっと唇を引き結んだ。
「はいぃ?」
 大輔は麻美子を食い入るように見つめる。彼女の双眸が濡れ光っていた。
「あっ……だから、そうなんです」
「だから、って? どういうこと?」
 彼女は困ったように、少しだけ眉をひそめた。それから一瞬俯き、生徒を真っ直ぐに見据える。
「は、恥ずかしいけど……正直に言います。いつになったら私のこと、誘ってくれるのかなあって思っていました。それがいきなり予想外のところで押し倒されちゃったので……」
「は、はあ。そうですかー」
「よっ、予想外なんですよ!」
 拍子抜けした大輔は、呆然と家庭教師を眺めた。
 彼女の白い額から大粒の汗が噴き出る。さらさらした前髪がぺったりと濡れていく。
「あ、あのう。うれしかったんですよ、ほんとです。けど、ちょっとびっくりして、つい」
 麻美子が大輔を見つめる眼差しは、真摯そのもの。
「そういうものなんでしょうか。そのう……女心ってヤツですか?」
「きゃっ」
 麻美子は恥ずかしそうに、両手で顔を覆った。指の隙間から見える肌の色が、ぽっぽっぽっと紅くなっていく。
「えー、だって。私、まるで昨日のことが夢みたいに思えてて。自分でも、よくあんなことできたなとか思ってたんですよぅ……」
「あ……。あの、自分から脱いだりしたことですか?」
 そうだ、思い出した。この人は天然だよ。
 麻美子は顔を覆ったまま、何度も頷く。
「そ、そうです。一目惚れした男の人のこと、なんとか誘惑しなくちゃって思って。そ、それで」
「は、はあ」
「けど昨日は、がんばりすぎました。だから逆に嫌われてしまったのかって思ったんです」
 大輔の口元が緩む。なんだ、考えてることは同じだったのか。
「あ、あのう。俺も麻美子さんのこと、好きです」
 美人女子大生が顔から両手を外し「えっ」と小さく吐息を上げた。
 高校生の心臓は、急にバクバクしてくる。
「い、いやあ。俺も夢みたいだなあって思ってて。きっとこっちの勉強のモチベーションを上げるために、無理して考えてくれて、それでセックスしてくれたんじゃないのかなって」
 麻美子は大きく両目を見開いた。
「そんなこと……。全然、考えていませんでした」
 ああ、やっぱり天然だ。
 想像しているほど、麻美子先生は男慣れしていないのかもしれないな。こっちと考えてること一緒だったし……お互いにテンパってただけか。
 そこまで考えた大輔は、彼女が家に入って来た時からの、ぎこちない行動の訳がわかった気がした。
「そんなに思い込みを激しくしなくても……」
 肩から力が抜けた生徒と、家庭教師の目線が合う。
「えー。でも、やっぱり」
 彼女は照れくさそうにしているが、口元に安心したような笑みを浮かべていた。多少、リラックスしてきたんだろう。
 大輔も安心したせいか、もくもくと腰あたりが熱くなる。
「じゃ、じゃあ、俺と麻美子さんは、あのう。りょ、両思いって思っていいんでしょうか?」
「は、はい」
 麻美子は身じろぎもしない。
 彼女がまばたきをする動きに合わせて、長い睫毛が上下する。大輔が見とれそうだった時、ふと卓袱台に目線が行った。さっき書き上げたA4の小テストがある。
 彼は改めて家庭教師の隣に座り直し、その紙を取った。彼女は目だけで、生徒の動きを追う。
 大輔は麻美子の反応を窺いつつ、慎重に笑んだ。彼女の動作はぎくしゃくして、しかも緩慢なままだ。
「麻美子先生。採点してください」
「あっ、はい」
 けれども生徒は力強く、家庭教師の手を取った。
「えっ……?」
 彼女が意外そうな目で、大輔を見る。すかさず言った。
「やっぱ、採点は今はいいです。そ、それよりも俺、麻美子さんのことをもっと知りたい」
 我ながら、昨日まで童貞だった男とは思えないほどの思い切った言葉だ。こんなこと、相手にもその気がまったくなかったら言えるはずがない。
 麻美子が戸惑ったように、ぱちぱちまばたきをする。
「私の方こそ……生徒さんを好きになっちゃうなんて。ふしだらなヤツ、って思われていませんでしょうか」
「まっ、麻美子さんが、ふしだらだなんて。そんな」
 条件反射的に、必死で右手を横に振ってみせる。家庭教師は頬をほころばせた。
「うれしい。私、なんでも教えてあげたい」
「なんでも?」
 思わず口の中に溜まったツバを飲み込む。
 ごくり、という音は相手にも聞こえたかもしれない。だが、家庭教師は艶然と笑んだ。
「はい」

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俺に彼女が出来るまで…6、家庭教師に褒められました

俺に彼女が出来るまで



 美人女子大生は定刻五分前に家に来た。昨日と同じリクルートスーツを着ている。今日から本格的に、家庭教師と生徒の関係がはじまるのだ。
 大輔は彼女と卓袱台越しに向かい合っている。図書館で勉強した成果を問われている真っ最中だ。
 麻美子は宿題を丁寧に採点しながら、顔を上げた。
「言ったところを、ほぼ完璧に解いてくれているのは助かります」
 赤ペンを持った彼女が、にこにことうれしそうに笑う。大輔は神妙な顔をして頷く。
「今朝、図書館に行って、やってみたんです」
「そうなんですか?」
 麻美子は目を細めた。目尻の端にできる笑い皺が色っぽい。
「この調子なら、基礎はもう大丈夫っぽいですね。よかった」
「いやあ」
 大輔は、どぎまぎしながら頭をかいた。なぜか、彼女の顔を直視できない。どうしてだろう、つい何時間か前の同級生との会話は緊張しなくて済んだのに。
 それに気づいた時、カッと頭に血が昇った。
 家庭教師は彼を見て、つられたように頬を赤く染めた。
 彼女は少し焦ったように、唇を動かす。
「あっ……大輔さん。お勉強、先に進めてもいいですか?」
「は、はい。お任せします」
 家庭教師は大輔の言葉に瞳をそらし、安心したような吐息を漏らした。
 二人の間に流れる空気が小さく揺れる。
 たったそれだけのことなのに、生徒は激しく緊張してしまう。
 おかしなことに閉ざされた空間の中、ひとりが緊張すると相手の方にもそんな空気が伝わってしまうものだ。
 麻美子は息を整えつつ、意外と純朴な生徒を見据える。少しでも「家庭教師でありたい」と言わんばかり。
 彼女の頬にふたたび、赤みが射してきつつあった。
「だ、大輔さん」
「はっ、はい!」
 大輔は姿勢を正した。家庭教師が目を細める。
「あのう。わ、私なりに復習のテストを作ってきたんです。やってみていただけますか?」
「やりますやります!」
 とりあえず緊張状態がほぐれるなら、なんでもいい。大輔は、ぶんぶんと首を縦に振った。
 勢いに押された麻美子は、指先までを赤く染めた。あたふたとカバンの中からA4の紙を出す。
「一時間で、できるところまで解いてみてください」
「ここで?」
 いくらなんでも麻美子さんに凝視されながらでは、できる問題も間違ってしまうよ。大輔は眉をしかめた。 
「いいえ、勉強机のある部屋でいいですよ」
 美人家庭教師は、そちらを軽く見遣った。昨日、童貞喪失した場所だ。
「ま、麻美子先生は?」
「ここにいます。もしも、わからない問題があれば呼んでください。そこからまた、復習を始めましょう」
「はい」
 どうやら何回も問題を解かせて、間違えたところから徹底して教えるつもりらしい。
「じゃあ、一時間後に。それからは自習にしましょうね」
 自習、の言葉に麻美子は力をこめた。言い切ったあと、ぽっと目尻を紅く染める。
 大輔は全身で反応した。一時間後に麻美子さんと抱き合えるチャンスかも? 
 不意に、昨日体験した痴態のすべてが脳裏をよぎる。下半身が熱を帯びた。
 彼は疼く腰のあたりをなだめるため、自分自身に言い聞かせる。
 ……落ち着かなくちゃ。
 俺は、とことん自分勝手だ。昨日のことは夢みたいだと思っても、チャンスがあれば、また麻美子さんの体を貪りたいと思ってしまう。
 これではまるでサルか、ケダモノみたいじゃんか。
 複雑な気持ちを抱いた大輔は、卓袱台に手をついて立ち上がった。そんな彼を家庭教師が濡れた瞳で見上げる。
「だっ、大輔さん。あのう」
「はい?」
「あ、いえ。な、なんでもないです。私、ここで待ってますから」
「はい。じゃ、がんばって早めに終わらせます」
 彼は部屋の襖を閉め、勉強机に向かう。あらためて手作りのテストを眺めてみた。
 午前中に同級生が親切に教えてくれた御蔭か、楽に解くことができている。
 この調子で、単純なケアレスミスさえなければ楽勝だ。思わず口元が緩む。机の上に置いて充電している携帯電話を見ると、まだ十分も時間が余っていた。
 終わった、と報告するには良い頃合いかもしれない。
「この次は麻美子先生の体を、じっくり自習させてください! ……なんてな、動物じゃあるまいし。こんな男、嫌われちゃうよな」
 つぶやき、用紙を持って椅子を立つ。
 体を自習云々は無理としても、時間内で終わったことくらいは褒めてもらえるに違いない。デレデレと緩む頬を片手で押さえ、襖を開けた。
「先生ー、できましたよーっと! ……って、あれ?」
 視界の中、麻美子が卓袱台に突っ伏して寝ている姿が飛び込んできた。彼女は正座していた膝を斜めに崩し、気持ちよさそうな寝息を立てている。
「先生? 麻美子先生? こんなところで寝てたら、風邪、引いちゃうよ?」
 人差し指で、肩をつんつん突いてみた。が、相手は起きる気配がない。
 無理に起こして、採点してもらうのも気が引ける。
「もう少し寝かせてあげてもいいんですけど……」
 家庭教師の耳元で、わざとらしく独りごちた。不意に麻美子が顔を上げる。彼女は目をぱちくりさせ、照れくさそうに唇を尖らす。
「寝るつもりじゃなかったんですけれども」
「お、襲っちゃおうかと思っちゃうじゃないですか」
 大輔は軽く冗談を言った。しかし、言われた相手は両の瞳を大きく見開いた。
「あ、ああっ……じょ、冗談です。すみません」
 彼はあわてて詫びながら、麻美子の「寝起きの顔」に見とれた。
 ぽわんとした表情で彼を見つめる眼差しは優しくて、ちょっぴり気だるくて、前髪が乱れて、そして耳元がほんのり赤い。
「あ、あのう。俺」
「はい」
 返事をしてくれた家庭教師は、吸い込まれそうな大きな瞳で大輔を見つめる。
「麻美子さんのテスト、終わりました」
 彼女は弾かれたように卓袱台の上に視線を移した。
「あ、ああ。ほんとですね! は、早かったんですね! 結構、問題数は多かったんですけど」
(横顔も本当に綺麗だな……。鼻筋も通ってて、睫毛も長くて、ぱちぱちするたびに揺れてるよ……)
 もう我慢できない。
「すぐに採点しますね」
 大輔は家庭教師に答えず、畳の上に押し倒す。
 あっ、と戸惑う声がかすかに聞こえた。彼は力任せに細い体にのしかかり、女のつやつやした唇を貪りはじめる。

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王子さまとテレアポします! ……登場人物紹介 メモ

王子さまとテレアポします! 

登場人物紹介 自分用メモ兼ねています

【前書き】
25話目あたりで「登場人物メモが必要だ」と思いましたし、区切りのいい30話投稿したあとで載せようと考えていました。

【本文】
・ルーカス王子 

スマートというよりも欠食児童並みに痩せている 栗色の髪と目 国民のことは「さん」付けで呼ぶ
ひとりっこ、おっとり 
涙もろいところ、ありまーす
ストレス耐性は意外と高いよね モデル複数

アンティルス国の第三十六代正統王子 だが災害で祖国を亡くす
六歳のときに父を、十歳のときに母を亡くした
手先は器用。桟橋作ったり、小さい舟を作ったり。日曜大工が趣味なのかルーカスw 
地味にチート能力あるよね、この人。
一人称は「ぼく」
 

・須藤加奈 

彼氏に振られて傷心のところ、ルーカス王子に拉致られるヒロイン
国民を基本的に呼び捨て

ちなみに30話まで、ルーカスと一つ屋根の下に住みながらも、ルーカスの部屋に入ったことがない
本当に好かれているのかとw作者はツッコミたい
でもルーカスも加奈のお部屋には入らない 
いや本当はルーカスの部屋であれやこれや書きたいが、そうするとノクターンに行くことになるのだw



・フレディ

 自称・国民第三号 金髪、堂々とした風貌 ととのった眉きりり☆
 ルーカスを「仔犬」と呼ぶ 少し分厚い唇
 前職は農場主でした! 
 一人称は「俺」

 初登場時:がっしりした広い肩幅に短めに刈った金髪が目立つ、浅黒い肌の男性だ。陽の光を背中に受けているせいか、異様な迫力がある。
 将軍の凱旋のごとき雰囲気そのもの。
 隣には、にこにこ笑顔のルーカスがいる。あれでは、どちらが王子かわからない。

(※実は作者自身、「あれでは、どちらが王子かわからない」の一文が地味に大好きなんであります。)

 路上に降り立つと、ひときわ彼が大きく見えた。ルーカスより十センチほど背丈も高く、脚も長い。
 金髪男は眼光鋭く周りを見渡す。その視線は、わたしをとらえてピタリと止まった。案外にも涼やかな声が、こちらだけに向けられる。

・リック 

役所勤め経験あり 思い込んだら即行動! 普段は、おっとり 短めの赤髪 ベネディクトとは昔からの友人

 初登場時:ほっぺたの両側に、深いえくぼがあった。背丈はルーカスと同じくらい。ちょっとくすんだ赤い髪の男性は、同じ色の瞳をしている。陽だまりの中で、とても誠実そうに見えた。

 ルーカス王子さん、って呼ぶ
 一人称は「ぼく」

・ベネディクト

 家屋作りは、お任せ! 黒い髪、いい感じに日焼けした肌、肩幅ちょい広め、ウエストがガリガリ削れ、おおセクシー

白い歯、口調はハキハキ リックとは昔からの友人 

仕事が速い いいことだ

一人称は「ぼく」
ルーカス王子さん、って呼ぶ。

・キロル 

フレディ農場の使用人だった 髪と目の色は黒い 浅黒い肌 眉毛は太い男
素朴で誠実いかにも農民っぽい 
どこでもすぐ寝るというが、まだそんな描写していないから申し訳なく思ってる

フレディを「親方」と呼ぶ
ルーカス王子、加奈さんって言う

・レノイ 

白髪の医者 病人怪我人がいないと具合が悪くなる 無愛想 

・アーニャ

くすんだ赤茶色の髪
薬師 背は低い レノイの娘 ハキハキしているし動作は機敏。うらやましいぞ。

・ガスタール

前歯が一本、欠けている  口ひげあり 声はしわがれてる 目が大きい ポラーナの桟橋に住んでいる 小銭稼ぎが日課だがフレディに咎められる  

・タイラー

フレディの旧い友人 雨の日のみ、ポラーナで食堂経営

・ホーク

坊主頭の苦労人 ヒロインを電話口で怒鳴りつけたことから縁ができる 病気の母を養っている 青い瞳の、がっしり体格 足が速い!






【後書き】
まだまだ増えるよ!



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俺に彼女が出来るまで… 5 同級生と遭遇しました

俺に彼女が出来るまで

 家庭教師は、すでに身支度を整えていた。
「明日から、ちゃんと勉強しましょうね」
 今日のことは忘れてください……とでも言いたいのか。大輔は川田の言葉が、ひどく冷たいように感じた。
 視界の隅にカーテンの隙間が映る。とうに陽が落ちていた。
 大輔は躊躇して口を開く。
「べ、勉強は……がんばります。それと……『川田先生』のこと、送って行きたいんですけれども」
 確かさっき、自宅から近いことが家庭教師を決めた要素になったとも言っていたはずだ。彼なりに川田をエスコートしたかったのだ。
 しかし家庭教師は、目をそらす。
「それはいいです。ここから駅まで、最短五分で着くのはわかりましたから」
「まあ、そうなんですけれども」
 川田の耳たぶが、心なしか赤く見える。
「今日はいいですよ。あんまり甘えてしまったら、けじめがつかなくなりそうだから……」
 大輔は怖気づく。
「でも……」
 相手は、ぱちぱちと、まばたきを繰り返した。
「そんなことより先に、お願いがあるんです」
「なんでしょう」
 川田が緊張している様子が伝わっている。
 こともなげに尋ねた手前、近寄ったり、ましてや衝動のままに抱きしめたりするなんて出来やしない。
 じっと目を合わせていると、彼女の方から口を開く。
「あのですね……『川田さん』じゃなくて、名前を呼んでほしいんです」
 大輔は肩から大きく力を抜いた。
「明日から数学の復習をしましょう。教科書の一ページ目からここまで、私が来るまでに解いておいてください」
「はい」
「一緒にがんばって、成績を上げましょうね!」
 夢見心地で頷き、麻美子を玄関先で見送った。

 大輔は扉が閉まった直後、改めて数学の教科書をしげしげと眺めた。
 ……デレデレして「はい」って言っちゃったけど、どうしよう。
 緩みきっていた頬がこわばってくる。
 家庭教師が指し示した範囲は、序盤から授業について行けなくなった単元ばかり。
 大輔は自分で自分を奮い立たせる。
 がんばれ俺。超がんばれ。せっかく、あんな綺麗な人が色々と教えてくれるんだから。

 そうだ。明日、図書館に行って解いてみようかな。
 場所を変えたらなんとかなりそうじゃん? 根拠のない自信だけどさ。

 彼はごろりと布団の中にもぐりこんだ。
 そこは美人家庭教師の香りで一杯だ。台風一過気分のまま、眠りの中に引きずり込まれる。

 ...

 大輔は今、図書館の学習室にいる。何気なしに壁の時計を見ると、午前十一時を少し回ったところ。
 今日の午後からは本格的に「家庭教師」が勉強を見てくれる。
 それはとてもうれしい。だが、さっぱり課題が解けない。大輔は同じページを何度も眺めているだけの状態だった。

 ええと……麻美子先生は、二時に家に来てくれるんだったっけ? それまでに少しでも解いておかないと、まずいよね。

 大輔はじっくりと数字を眺め、もう一度、一番はじめのページからやり直してみることにした。
 こんな初歩の初歩から、やり直すってダサいなぁ……。
 だけどさ。
 麻美子さんは、こっちの通知表を見て眉をひそめちゃったんだよ。つまり、最初から「マイナスからのスタート」ということになるよな。
「えー、でも、やっぱり少しは見栄を張りたいよ……。せめて初歩の段階だけでも分かってます、みたいなことくらいは……」
 大輔は、いまだにインクの匂いが漂う教科書を開き、ぐずぐずと考えこむ。
 ……いや、しかし! 
 悲惨な成績を見て、母性本能とやらをくすぐられたのではないだろうか。
 それもちょっと待て、自分? それって逆に、超みっともなくないか? ねえ、どうよ?
 彼は数字を書く手を止め、大きく溜め息をついた。
「勉強が手につかないよー」
 真っ白いノートに目線を移すと、どうしても家庭教師の肌の白さと比べてしまう。それに、数式の形がなぜか女性器やセックスの体位の形に見えてしまう。
「だ、だめだこりゃ」
 つぶやいて頭をかきむしると、斜め前からクスクスと笑う声が聞こえてきた。
 顔を上げると、同じクラスの女子が、こちらを真っ直ぐに見ていた。
「えっ」
 大輔の額から汗が吹き出る。
 彼女は同級生に向かい、唇の形を「おはよう」と作って、にっこりと笑った。
 確か近藤陽菜、という名前の同じクラスの女子だ。「ひな」とクラスメートからは呼ばれている。
 憶えている限り、近藤は成績優秀な生徒たちと行動しているイメージしかない。自分とは縁がない世界の子、という認識だ。
 みっともないところ、見せちゃったな。
 あわてて、近藤にお辞儀を返した。
 私服のせいか、見慣れた姿とはだいぶ印象が違って見える。染めていないショートカットの髪が、卵形の整った顔だちによく似合う。大きめの切れ長の目尻が下がっていた。小さな唇に載せたリップクリームの色が、ほんのり赤い。
 近藤は濃紺のセーターから、薄いパープルのポロシャツの襟を立てていた。ニットの服を着ているせいか、乳房が大きく張り出しているのがよくわかる。
 制服では目立たないが、大輔の目から見ても充分に彼女は巨乳の部類だ。ショートカットのせいか、ほっそりした白い首と繋がる鎖骨のラインが強調され、乳房の張り出しともあいまっている。絶妙なバランスだ。
 あ、ヤバい。見とれちゃうよ。
 同級生は不審な目線に気がつき、さり気なく胸元を隠すように大学ノートを机に立てた。
 大輔は思わず顔を曇らせる。
 しかし近藤は、こともなげに言った。
「長野くんでも図書館に来ることって、あるんだね」
「ああ。近藤さんは?」
「図書館に来て遊んでるわけないじゃん。しかも今日ってクリスマスだよ? お互いに悲惨だよね。デートする相手もいないんだもん」
「ま、まあ。そうなんだけど。確かに悲惨だ」
 同級生女子は頭をかいた大輔を「しょうがないなあー」と呆れたように笑った。
「なんだよ。笑うなよ」
「ごめん。ほんとにびっくりしたんだよね」
「俺がここにいるのって、そんなに意外かなあ」
 ふたたび頭をかいてしまう。私服だと高校生に見えないというのも損だな。
「私の家、兄弟が多いからね。休みになるとここに来てるのよ。読みたい本もタダで読めるでしょ。長野くんも、そういう気持ちのときってあるんだなあって」
 近藤は「てへっ」と赤い舌を出した。なんか可愛いな、コイツ。
「お、俺だって近藤さんと同じ高校生なんだから。べ、勉強したいときくらいあるよ?」
「根は真面目だったんだねー」
 大輔は「今だ!」とばかりに、大袈裟に両手を広げた。
「そう! そうなのよ、根は真面目。大真面目。だからさ、ちょっと教えてくれない? 一学期の数学の範囲なんだけど」
「えー」
 近藤は露骨に困った顔をする。
「一生のお願い! 俺からそっちに行くからさ」
 そのおっぱいを間近で観たい、と、口が裂けても言えない。数学を教えてもらうのにかこつけて、隣に座りたい一心だ。
「しょうがないね。そっちに行くから、待ってて」
「すまん」
 同級生は、かたかたと椅子を動かして立ち上がっていた。それから自分の広げていたノートや筆記用具をリュックに詰める。彼女の独り言が聞こえた。
「長野くんって、そんなキャラだったのね」
「お、おう」
 適当な返事をしつつ、テーブルの下で肉根が勃つのを抑えようとする。今日はジーンズを履いているから、同級生にみっともない姿を見せなくて済むんだけどね。
「変なの。って言うか、今まで全然、喋ったことないけど」
 ぱたん、と小さな音を立て、近藤は隣に座る。大輔は心の中で、俺が一番、自分の変化に驚いているんだよと言いたかった。
 ……実は昨日一日で、性獣に変化しちゃったと思うんだ。って、単にキミのおっぱいが見たい一心だけなんだけど。
 わざと難しい顔をして、ため息をつく。
「違うんだよ、成績が急降下したことで親父が怒っちゃって。昨日から家庭教師が来てるんだ」
「へえー」
 近藤は、興味深そうに目を輝かせた。
「その家庭教師って怖いの?」
「まあね」
 彼女が大輔を見る目が、一気に慈愛で満たされる。
 大輔はそれを感じて、心がちくちく痛む。麻美子先生、ごめん。まるで鬼みたいな言い方しちゃって。
「とにかく、それでね。少しでも勉強を進めないと、親父から関西に強制送還されちゃうんだよ」
「えっ? もうすぐ二年生に進級する、この時期に?」
「そう」
「そういえば長野くんって、単身赴任のお父さんとは離れて一人暮らしなんだっけ。でもさ、そうなったら大変よね。で、教科書のどこから教えたらいいわけ?」
「こ、ここから」
 近藤は彼から指し示された箇所を見て、ぎょっとしたように身を固めた。
「……こんなの初歩の初歩じゃない。ダメさ加減にも程があるよ?」
「だから困ってるんだよ。もっとちゃんと授業を受けていればって」
「ほんと、しょうがないなあー」
 彼女は心底から呆れたように唇を尖らせた。
 大輔には昨日の麻美子さんがキスをせがむ唇の形と、妙にダブっている。彼の股間に、血液が集まってきた。
「ご、ごめん。今日だけでいいから」
 近藤は動揺した同級生男子に向かい、溜め息をつく。
「わかった、教えてあげる」
「ありがとう」
 一応、大輔は神妙な振りをしているが、ついつい彼女のおっぱいの形や、乳首の色を妄想しそうになる。気づかない近藤は要領よく、しかも、丁寧に進めてくれる。
 大輔が家庭教師の麻美子から言い渡された範囲まで、あと数ページという時だ。近藤が、ふっ……と自分の腕時計を見る。
「なにか用事あるの? ごめん。俺、気がつかなくて」
 彼女は大輔に向き直り、首を振った。
「違うの、少しお腹すいたなって思っただけ」
「そ、それもそうだね」
「それよりも長野くんの方は、家庭教師が来る時間とか大丈夫?」
「あっ」
 近藤に言われ、気がついた。時計の針が、一時を少し回っている。
「ここまで教えてもらって理解できたから。あとは家でやるよ。ありがとう」
 彼が立ち上がると、近藤も一緒に立ち上がった。
「私も復習できて、よかった。途中でお昼を食べてから帰るわ」
「そう。じゃあ一緒に出ようか」
「うん」
 それから二人は図書館で別れた。
 大輔は家までの道々で、なんだか不思議な気持ちになる。

 ――どうして近藤さんの前だと、緊張しないでいられたんだろう? 

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しばらく御無沙汰いたしておりましたが

未分類

近々、また復活いたします
よろしくお願い致します

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過疎らせまくりごめんなさいっ

おしらせ

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俺に「彼女」が出来るまで……4、家庭教師とラブレッスン②

俺に彼女が出来るまで


 大輔は彼女のぬかるんだ場所を、一心不乱に舐めまわしていた。熱い愛液は啜っても啜っても、尽きることなく溢れてくる。
 舌先でぞろぞろと、粘膜の隅々まで確かめる。ぷっくり膨れた肉芽の下に舌先がはまる。
 無理矢理に押し入り、指で肉芽をつついてみた。
「あ、いゃっ……やぁ、んんーっ! ……あッ! ひぃ! ひああああああーっ!」
 家庭教師は我を忘れて嬌声を上げた。
 耳や舌、五感のすべてが川田に集中していた。肉棒がパンパンに張り詰めている。もうすぐコレが女体に入るのかと思うと、ひたすら興奮ものだ。
 女子大生が悲鳴を上げて、許しを請いはじめた。
「い、入れてぇ……。大輔さんのおちんちん! が、我慢できないっ! ああ! あああ、は、早くぅっ!」
「ここに入れたらいいんですか……」
 ちゅぷっ……と人差し指を埋めると、ものすごい勢いで締め付けて体内に引き込んでくる。
「あ! ゆ、指だめえ! もう、きつい……、きついの……ッ!」
 川田はもはや朦朧となり、目線を泳がせている。
 大輔の野性に火がついた。
「先生、本当は気持ちいいんでしょう……?」
 人差し指と中指をまとめて二本、膣の中にねじ込んだ。彼女の悲鳴が大きくなる。
 熱く濡れまくった肉の壁が、大輔の体にまとわりついた。
 巨乳美人の膣の中に指二本を深々と差し入れ、ぐちぐちと肉壁に触れる。抜き差しするたびに、彼女は喘ぎながら裸体をしならせた。
「ああっ、ひあああっ! いやあああーっ! も、もうっ、ああっ、そこはもうっ! やめ……あああっ!」
 彼女の肉壁が愛液を激しく滲み出しては、大輔の指をきゅうきゅうと締め付けてくる。このままでは指がちぎれそうだ。
 指先を少しだけ曲げて、ごりごりとなぞりたてる。
「あああっ! はああっ、も、もうだめえ、だめ、イ、イッちゃう! ああん!」
 膣口から指が抜ける直前まで、手を動かす。どっ、と愛液が指から伝い、シーツへとしたたった。
「イッちゃうって……どういう風になるんですか?」
 生徒は耳元で囁きながら、はあはあ喘ぐ彼女の顔を眺める。同時に力任せで指二本を膣の奥へと、めり込ます。
「んん……ぅ! んふううううっ! んくううっ!」
 呻く彼女の膣壁が、激しく締まった。
 川田は一拍置いて肢体を突っ張らせて呻き、がくがく震え出した。
 彼女の閉じた瞼から涙がこぼれ落ちている。牝は裸を晒し、男の指を突っ込まれた状態で絶頂に達したのだ。
 大輔は指を外し、震え続ける彼女の体を胸板の下に敷いた。ぶるん、と大きな乳房が潰される。
「あ……あ、あ……」
「すごく綺麗です、先生……」
 既に猛っている肉根を、彼女の膣口に宛てがう。
 川田は小刻みに喘ぎながら、誘うように腰を浮かせた。
「あ、熱い……」
 大輔は自然につぶやく。膣口にぴたっと亀頭が嵌ってからは、迷わなかった。ぐっ、と腰を突き出して根元まで彼女を貫く。
 ずん、という感触と共に、背中に強い電流が走ったような気がした。
「あ……。だ、だい、あ! ああああーーんっ! あはあああ! ああ、ふ、深いいっ! あくぅ! ああっ!」
「ああ……か、川田さん…っ! お、俺、奥深くまでっ」
 家庭教師は涙をこぼしながら、こちらの背中に腕を巻きつけてくる。腰を浮かせ、叩きつけるごと体に走る快感も深くなっていった。
 彼女も必死で虚ろな目を見開き、応えようとしてくれる。
「う、うれしい、大輔さんっ、あ! ああ! は、激しくしないでええっ! お、奥まで来てるようっ! ああーっ!」
「キ、キスしても、いいですか」
「してえっ! ああんキスしてっ、おねが、……っ! んんふっ! んうううーーーっ」
 大輔はひたすらに、彼女に忠実でありたい。力強く、優しく、と頭の中で繰り返しながら、家庭教師に肉杭を打ち込み続ける。
「俺、も、もっと気持ちよくなりたいです……」
 彼女は悲鳴を上げながら、みずから腰を使いはじめた。当たり所が変わって壮絶に気持ちがいい。
 もっと気持ちよくなりたい。
 もっと川田さんに気持ちよくなってもらいたい。
 慎重に腰を回しながら突き入れる。すると、膣の奥深くまで刺激することができるらしい。肉棒が根元まで突き刺さり、角度によっては膣肉が麻痺と弛緩を繰り返す。
 やがて彼女は悲鳴を上げることもできなくなった。
 諦めたような「ああ……」という声を出しながら、高校生にいたぶられるだけだ。
 大輔は二度、フェラ射精したあとだ。十分に女体を堪能することができる。
 つながった相手の膝を更に深く割り、上半身だけ起こす。と、川田の膣口からぬらぬらと光る、太い肉根が見えた。
「見えるよ……先生。俺があなたの体に入って、満足させてあげてるとこ」
 涙を流した恍惚の表情を浮かべた彼女が、うっすらと目を開ける。
「ま……満足して、くれているの? う、うれしい……」
「当然じゃないですか」
 川田が吐息混じりになにか、言っているみたいだ。
「つ、続けて……」
「は、はい」
 言われた通りに家庭教師の体へと、ふたたび覆いかぶさった。
 川田の半開きになった唇から、小刻みに悲鳴が漏れはじめる。軽く動かすほどしかしていないのに、彼女は鳴きながら大輔にしがみついてきた。
「あ、あ、ああ、ああっ! あ、もう、もうだめ、ああーっ! い、いっちゃうっ!」
 今まさに童貞喪失しつつある高校生は相手に応えるべく、がんがん腰を振った。
 繰り返すごと、頭の芯がしびれてくる。
「お、俺も、もうだめになりそうです……!」
「ああ、だ、出してぇ……っ! だ、大輔さ、ああーっ!」
 美人家庭教師が、一瞬しなるように身を反らす。膣の奥までが、ぎゅうっと締まった。
 大輔の頭中、たくさんの火花が散った。
「ま、麻美子先生……っ! で、出るっ!」
「あ、ああ! んんーぅっ!」
 川田が呻き、身を反らせる。大輔は絶頂に達した彼女を力いっぱいに抱きしめ、体内の奥深くで爆ぜた。
 二度も彼女の口腔内で射精していたのにもかかわらず、大量の精液が美人女子大生の子宮めがけて注がれていく。
 膣の中で肉根がビクビクとうねった。
 大輔は彼女の体の震えが収まるまで、抱きしめながら待っていた。
 やがて家庭教師はぼんやりした眼差しで、彼を見つめる。上気した頬が、つやつや光っている。彼女は、ちょっぴり恥ずかしそうにまばたきをした。
「あ、あのね。大輔さん」
「はい」
「私のこと、エッチだと思ってませんか?」
「あ? え、いや、そんなことは」
 川田が、ほっとしたように体中の力を緩める。それに反して、肉棒が彼女の体内で固くなりはじめていた。
「私、大輔さんに一目惚れしちゃったんです」
「えっ」
 家庭教師は意外そうな顔をした。
「おかしいですか?」
「いえ……」
 首を横に振ると、彼女がこちらの額に手を触れてきた。瞳が、きらきら光っている。
「だから……こんな風になれて、うれしいです」
 その一言で大輔の肉根が再度、硬くなった。
「お、俺も……夢みたいです」
 相手の体を引き起こして、膝の上に乗せる。彼女の口元が緩み、ため息混じりの声が出てきた。
「あ……っ、き、気持ちいいです」
「俺も気持ちいいです、もっと気持ちよくなりましょう」
「は、はい……。あ! ああっ!」
 女体を貪りたい本能はおさまらない。
 女子大生に肉根を刺したまま、騎乗位の体勢になった。突き上げると、彼女はあっさり仰け反り喘ぎ鳴く。ほっそりした首元から不釣り合いなほどの、たわわな乳房が揺れた。
 年上の女の子は喘ぎながら、男の体の上で腰をくねらせている。
 大輔は背筋からゾクゾクする快感を味わいながら、素直に言葉に出した。
「いやらしくて、す、すごく綺麗ですよ……麻美子先生っ!」
 麻美子、と呼ばれて彼女が身を震わせる。
「はぁあ! ひ、ひゃああんっ! ま、またイっちゃうぅっ! だ、大輔さぁんっ!」
「そんなこと言って……腰が動いてるんじゃないですか」
「ああっ、そ、そんな……」
 麻美子が喘ぎ、首を振る。乳首を伝った汗のしずくが、大輔の胸元に落ちてきた。
「俺、す、すごい……気持ちいいです」
 彼女は動きを止め、上から生徒をじっと見つめる。
「本当に?」
「は、はい」
 上半身を起こすと、麻美子の方から首に腕を回してきた。互いの汗ばんだ体が密着する。
 彼女は少し虚ろな、しかし羞恥を隠せない眼差しを彼に向けた。
「私……大輔さんが『もっと気持ちよくなりましょう』って言うから、がんばっちゃいました」
「お、俺もがんばります!」
 一生懸命に腰を動かした。彼女が細かく鳴き続け、がくがく身を震わせはじめる。
「あああっ、こんなにセックスが気持ちいいなんて……っ! も、もうっだめえっ、ああ、あぅっ!」
 麻美子が、腰を激しく突き出して果てる。密着している彼女の肌から、またしても汗が噴き出した。
 教え子も汗びっしょりだ。
「な、中でイキますよ俺もっ!」
 大輔は叫んだ直後、麻美子に深く挿入したまま、一気に射精管を開いた。

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俺に「彼女」が出来るまで……3、家庭教師とラブレッスン①

俺に彼女が出来るまで


 大輔は今、フェラチオを施されている。
 我が股間で夢中でフェラを続けている女は、超がつくほどの美人女子大生。大輔の父から雇われた家庭教師だ。
 新米家庭教師が、じゅぶじゅぶ……と音を立て、こちらの肉根を愛おしそうにしゃぶっている。
 舌で愛でられる快感は、もちろんはじめて味わうものだ。
 大輔が夢見心地でいるうち、家庭教師は陰嚢を優しい手つきで揉みながら、ずるずると裏筋を舐めはじめた。
 オナニーでは決して味わえない舌の絡みつく感触。ぴちゃっ、じゅるっ……と聴こえる音、そして相手の息遣いが、更に彼を駆りたてる。
「うう、で、出そうっ……!」
 大輔は固く瞼を閉じて呻く。同時、頭の芯が「ボンッ」と火照った。
 に、二回も口でイカされるなんて!
 見栄も体裁もかなぐり捨てて、必死で射精をこらえている。オナニーしている時は、どんなに力加減を工夫しても早くイケなかったのに、この雲泥の差はなんだ。
 荒ぐ自分の呼吸音の他に、ひたひた、ぴちゃぴちゃ、と水音が聴こえることが更に興奮をそそっていく。
 やがて家庭教師は裏筋をしゃぶっていた口を離して、亀頭をすっぽり唇の中に含む。
「んふっ……んんっ」
 大輔の耳に甘い鼻声が聞こえた。
 もうだめだ。
 彼がふたたび固く目を閉じた瞬間、川田がちろちろと舌先で鈴口を突付いた。敏感になっていた肉根が家庭教師の口内で震えた。
 大輔は思わず身を固くする。今度こそ完全に射精管が開かれる。
「んんーッ!」
 ビュルビュルと放たれた精液が激しい勢いで、川田の唇の中に吸われていく。美人家庭教師はうれしそうに鼻を鳴らし、最後の一滴まで搾り取った。
 大輔は想像する。精液と共に頚椎から背骨まで、ちゅるちゅる抜き取られていく自分……。
 冗談抜きで、俺は骨抜きにされてしまった……。
 蕩け呆けた彼は、精をすべて放出し終わってから身震いをした。
 川田がほわんとした表情で顔を上げる。
 二人の視線がぶつかった。大輔は我に返って口を開く。 
「あ、川田さん。ご、ごめんなさい。俺、あの……」
 家庭教師は目元を下げて、こくん、と喉を鳴らした。
「え! また飲んじゃったの? ど、どうして?」
 問われた川田は、目尻を赤く染める。
「こうすれば男の人って、嬉しくなるんでしょう?」
「いや、あのう。それはそうなんだけど、抵抗ないの?」
 彼女は大輔を見つめながら、髪をかきあげた。
「意外と純情なんですね」
 いや、あんたに言われたくないし。俺が純情なら、そっちは天然だろう。大輔は言いかける。しかし、動かしかけた唇を、女の人差し指が止めた。
「本当にキスも、はじめてだったんですか?」
 川田が男の身体に、ぴったり密着してくる。ぶるん、と大きな乳房が大輔の胸板に押し当てられた。
「きっ決まってるじゃないですか」
 大輔はあらためて彼女を見つめる。顎や首はほっそりとしているのに、乳房だけが不釣り合いなほどに大きい。餅のように白い双丘が、自分の胸板にくっついている。
 なまめかしかった。
 家庭教師が細かく息を吸うたびに、相手の心臓の鼓動まで伝わるような気がした。
「じゃあ、こんなことも?」
 彼女の切れ長の大きな目が、きらきらと光る。大輔が頷くと、相手はうれしそうに笑った。
「あのう……。俺ね、川田さんに気持ちよくなってもらいたいです」
 美人女子大生はゆっくりと頷いた。
「今、どうしたいのかな?」
 問いかける川田の、つぶらな瞳が揺れる。
「もう一回、キスしたい。『川田先生』に、続きを教えてもらいたい」
 大輔は腕を伸ばし、川田の身体を抱き寄せた。家庭教師は大輔を見つめてから目を閉じ、誘うように唇を軽く尖らせた。
 しっかりと覆いかぶさり、静かに唇を合わせる。
 ……さっきみたいに、優しく。丁寧に。川田さんがしてくれたみたいに。
 落ち着いて考えながら、深いキスを交わし続ける。いつしか甘い匂いが立ちのぼる、柔らかい乳房をまさぐっていた。
「ん……っ、ああ……。んふっ……」
 女の息が徐々に上がってくる。
 大輔は乳房をまさぐる手に力をこめて、ぐにぐにと弄ぶ。火照りはじめていた川田の体がしなった。舌を絡めながら片腕で家庭教師の体をがっちりと包み、もう片方の乳房を力任せに絞る。
 耐えきれなくなった彼女の鳴き声が大きくなった。
「ああ……っ。だ、大輔さ、あ……! ああんっ」
 舌の愛撫をうなじや耳たぶ、鎖骨に移す。川田の白く細い上半身が小刻みに震えるたび、感じてくれてるんだ……と思う。
 鳴く声に煽られ、どんどん気持ちがたかぶっていく。大輔は家庭教師の首筋や鎖骨に、幾度も舌を這わせる。
 やがて彼女は昂ぶりのまま、大輔の頭を押さえはじめていた。
「あ……。お、おっぱい、舐めて……」
 恥じらうような声が聞こえた。
「い、いいんですか」
 指や掌で触れるよりも、もっと赦されたような気がする。大輔は答えを聞く前に、真っ白い乳房に音を立ててしゃぶりついた。
「ふ、ふああーぁっ!」
 川田が嬌声を上げて身を反らす。
 大輔は顔を上げ、彼女の肢体を確かめた。
 上半身は裸。ウエストから下は、乱れきって皺くちゃの黒のタイトスカートだ。そこから伸びたパンストを履いている脚の付け根は、まだ見えない。
 真っ白い乳房の上には、尖った小さな乳首が乗っていた。思わず、ぺろんと舐める。家庭教師がふたたび、耐え切れないような悲鳴を上げた。
 両の乳房を舐めつくしたい。もっと、この肌に痣を付けたい。俺だけのものだと誇示するために。
 だから、そうする。
 どうしてこうなったのか、そんなことはとっくの昔に飛び去っていた。
 くびれたウエストを舌で愛でながら、スカートのファスナーに手をかけている。
 大輔の手の甲が直に触れた彼女の下腹部が、かすかによじれた。脇腹を隅々まで舌で洗うように動かしていたから、すぐに感づく。
「つらいんですか……?」
 手を動かすのを止め、耳元で尋ねた。
 家庭教師は赤く染まっている頬をますます赤らめる。
「ち、違うの……」
 彼女は吐息まじりに答える。蕩けそうに潤んだ目で、大輔と目を合わせた。
「あ、あんまり気持ちが良くて……。こんなのって、はじめてだから」
 大輔の理性がガラガラと崩れた。
 荒らぐ息を抑えることもできず、尖っている乳首を口に含んでは離すことを繰り返す。家庭教師は敏感に反応して、激しく体を震わせ続けた。
「あっ、ひああ……っ! あん……っ!」
 感じさせていると思うたび、大輔も拍車がかかっていく。
「もっと、気持ちよくさせてあげたい……」
 首筋を舐め上げながら言うと、相手の方から細い腕を背中に回してきた。彼女の大きな乳房が、男の胸板で潰されていく。
 上半身同士、ぴったりと密着していた。
「う、うれしい……大輔さん。あ……」
 川田の手が、もどかしく彼の背中を撫でまわす。大輔はいったん身を離し、上着をもどかしく脱ぎ捨てた。
 体勢を立て直して、相手を抱き直す。
 あんまり強く抱いたら折れてしまうかもしれない……もうちょっと優しくしなくっちゃ。
 家庭教師が薄く目を開けた。
 大輔は鼻の頭を、彼女の鼻にくっつけた。川田が軽く唇を突き出す気配がする。
「い、いっぱい川田さんとキスしたいです。体中にキスしたい」
「うん……」
 頷いた彼女の目に、つらそうな彼の顔が映っている。家庭教師がなにか言いたそうにしている。
「キスだけじゃなくて……もっとしていいのよ?」
 大輔は頷き、唇を重ね合わせた。唇だけのフレンチキスだ。ちゅっ、と音を立てると、相手が腰を浮かせていた。
 これって「脱がせて」のサインなんだろうか? 頭の奥が熱を帯びているので、判断できない。もしも早まってしまったら、せっかく盛り上がっているのに台無しになってしまう。
 とりあえず彼女の唇を貪り続けた。
 舌を絡めて歯の隅々、裏側まで舐めると、川田の体がぴちぴちと跳ねる。お互いの荒くなっていく吐息が混じり合う。
 やがて彼女は、はあはあと喘ぎながら告げた。
「だ、大輔さん……。お願い……。ス、スカート脱がせてください……」
「あ、は、はい……」
 頷き、上半身を彼女の腰の方にずらす。彼女は膝を折り、腰を浮かせた。スカートは散々にめくれあがっている。パンストの下にはブラジャーと揃いの、レースのショーツが透けて見える。クロッチ部分が濡れていた。
 大輔は慎重に川田の腰に手を回し、スカートホックを外してファスナーを下ろす。
「ああ……」
 頭上からは、喘ぐような甘ったるい声がする。
 そろそろとスカートを膝から抜き取り、パンストに手をかける。大輔の心臓は爆発しそうだ。
 たっぷり濡れた布地で覆われている陰毛が、黒く光って見えるから。
「ぬ、濡れてますよ……川田さん……」
 素直な感情を伝えると、彼女は切なそうに身をよじる。
「だ、だって。感じるの、ものすごく……」
 川田は頬を真っ赤に染めて、恥ずかしそうに枕の中に顔を埋めた。大輔の心の中で、なにかが「ばちん」と弾ける。
 はやる気持ちを必死で抑え、パンストを破かないように脱がせた。
「も、もう我慢できません……っ」
 心からの叫びを吐き出し、ショーツをずらして女性の大事なところに唇をつける。
「はあああっ……んんんっ! あはあ、あああんんんっ! ひああぁん!」
 局部をまじまじと眺める余裕はなかった。陰毛をかき分け、秘所を割り、奥にある濡れている粘膜をも存分に舐める。頭の中に、さっき言われた「もっと優しくしましょうね」の言葉が木霊する。
 ぞろぞろと舌を使うたびに、そこはどんどん濡れてくる。それと共に川田の悲鳴も甲高く大きなものに変わっていた。
「あああーっ! ああ、はあんんっ! あはあっ! い、いやああ! 気持ちよすぎるうっ! あ、あはあああーっ!」
 鳴き声を心地よく聞きながら、もっと気持ちよくさせてやりたいと思う。彼はいったん口を拭い、ぐしょぐしょに濡れたショーツを家庭教師の脚から抜いた。
 途中、女の顔を見る。激しく乱れた髪はほどけ、白いシーツの上に散らばっていた。固く閉じた目の端からは涙がこぼれている。
 川田の赤みがさした真っ白い肌には、あちこちに赤い痣が広がっていた。力任せに乳房を揉みこんだ時に付いた痣が、いちばん紅い。
「もっと気持ち良くさせてあげたい」
 そう言って、力強く彼女の膝を押し開いた。間髪を入れず舌で相手の秘所を割り、ずるずると緩急をつけて舐め続けた。舌が見つけた突起している箇所をぐりぐりと潰していた時だ。
 明らかに今までと違う悲鳴が部屋中に響く。
「ふあああん! ああ、そこだめえっ! ク、クリトリスだめえええっ! あふっ、あはああっ! あ、だ、だめえええっ!」
 そうか、ここが気持ちいいのか。
 大輔の愛撫に拍車がかかった。

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俺に「彼女」が出来るまで……2、家庭教師はスケベです

俺に彼女が出来るまで


 家庭教師が大輔から身を離す。床に白いレースのブラジャーが落ちていた。
「私では不満ですか?」
 川田の身体は、ほのかに熱を帯びていた。
 彼女は豊かな乳房を隠そうともしていない。たわわな白い双房の上、硬そうに尖った桜色の乳首がある。
 ま、まずいよ。これって。
 大輔の動転した脳味噌の中、川田の消え入りそうな声が聞こえた。
「……が、がんばってもらいたいだけなんですよ」
 聞き届けた彼の心臓が、より一層、激しく高鳴る。
 この人……。ピュアすぎるにも、ほどがある! 
 これから先の人生で、こんないい女に迫られるのは最後かもしれない。もしかして親父から「割増料金」でも、もらっているんじゃないだろうか。
 さすがにこのビジョンじゃ尋ねないけど。……ってか、尋ねられる訳がない。
 額に、ますます汗が滲んできた。
 大輔の理性と裏腹、肉根は既に充血している。トランクスの下で張り裂けそうだ。
「そ、そのお気持ちはありがたいんですけれども」
 心にもないことを言う。
「いくら雇い主から言われたとしても、えーと……そう簡単に脱ぐ女性って、どうなんだと」
「簡単じゃありません」
 彼女は目を潤ませた。
「これ以上、恥をかかせないでください」
 大輔は大きくかぶりを振る。深呼吸をして、自分から彼女の柔らかい体に触れた。すべすべした背中が心地いい。
「……わかりました」
「はい」
 川田は小さく頷く。
 誘惑してきた女子大生を抱き上げ、ベッドへと横たえた。その隣に寝そべると、相手の方から抱きついてくる。
「あ、あのう。俺、キスとかしたことないんです」
 声がうわずる。
 家庭教師も声を震わせながら、ぎこちない笑みを作った。
「それも含めて、教師になりますね」
 大輔は不器用に彼女の唇に吸い付き、自らの舌を差し入れる。
 どうすればいいか知らない。けれど、こんなふうにすればいいのかな……などと考えながら。
 折れそうに細い女の体を抱きしめながら、人生はじめてのキスというものを経験しつづける。
 唇を離すと唾液同士が、彼女のおぼろに開いた唇の奥につながっている。更に耳元では、家庭教師の小さな喘ぎ声。
「あ……」
 女子大生の髪は既に乱れきっていた。あわてて腕の力をほどく。
「あっ。ごめんなさい。痛かったですか?」
 川田は彼の焦った問いに白い歯をこぼし、片手で髪をかき上げた。大輔の体の上に、ふわっと乗ってくる。
「もっと優しくしましょうね」
「あ、はい」
 家庭教師は大輔の頭を撫でつつ、彼の唇を優しく塞いだ。
 大輔も彼女と同じように舌を絡め合わせ、歯の裏や根元まで舌でつついたり撫で回したりする。
 部屋の中に、キスをするたびに一拍遅れて水音が響く。異性のほっそりした指が、男子高校生の股間をおずおずと触れはじめた。
 時々、互いに唇を離したりするたび、川田の甘ったるい吐息が漏れる。やがて彼女は唇を、こちらの首筋に這わせていく。
 はあはあと息が上がっている相手は男の上着をめくり上げ、胸や乳首にくちづける。
 女の唇と舌の濡れた感触が、ゆるやかな快感と変わる。それらは大輔の全身を貫いて止まらない。
 ぴちゃ……と家庭教師が首筋にくれた口づけの音が聞こえたとき、彼の全身に快感の大きな波がやってきた。
「ううっ」
 大輔は呻いた。こんなことで射精してしまうなんて。……恥辱以外の何物でもない。
「か、川田さん……俺、もうだめかもしれない」
 必死で歯を食いしばるが、なんの抵抗にもならない。
 反面、女子大生に軽蔑されたくないという気持ちもよぎる。彼女は両の目を潤ませ、大輔の首筋や鎖骨に舌を這わせていた。
「我慢して……。ね?」
「で、でも……っ」
 気持ちを緩めたら、一気に射精してしまう。
 大輔が自らに言い聞かせた直後、川田の掌がキュッと肉棒を包んできた。
「う……っ!」
 呻きながら背中を反らせた。女の「うふっ」と笑う空気が伝わる。一拍あとに川田麻美子が、大輔の肉根をすっぽりと飲み込んだ。

 あっ! そ、それ反則っ、あ! やめてっ!

 射精感が大輔の股間から脳髄まで、一気に駆け上がった。
「あっ」
 ビュルビュルと精を放つ快感に加え、ざらざらと女の舌が肉根の隅々まで這いずり回る快感。
 強烈すぎた。
 大輔は、のたうちまわりそうな痺れを耐える。
「か、かわ。……うっ」
 呻く大輔は眉間をぎゅっと寄せ、無我夢中で相手の頭を両手でつかんでいた。
 股間から「んん、んふぅっ」と甘ったるい鼻息がする。川田は彼の肉根を深々と唇の中におさめ、既に没頭フェラモード。
(せ、せんせいっ……!)
 背を反らせた大輔は自らを情けないと思いつつも、美人家庭教師の口内に精を放つことに集中していた。
 しかも射精の量が半端ない。
「うう……っ」
 呻くたびに精液が川田の口の中に搾り取られていく。彼女は激しく顔を上下させていた。
 ずりゅ、ぐちゅっ。ぴちゃ、ぴちゃっ……。
 卑猥な水音が、繰り返し繰り返し響く。
 綺麗な女性が自分の肉棒を咥え込んでいるための聴覚からの刺激と、精液を彼女の口内に放っている征服感がないまぜになる。
「きっ、気持ちいい……」
 大輔は夢見心地のまま、同じような言葉を繰り返した。
 美人家庭教師の舌はぎこちなく蠢きつつ、精液を搾り取るように舐め取っている。
 快感の波に逆らい、なんとか頭を上げてみた。
「べ、別人みたい。先生、本当に……」
 女子大生が彼の股間から顔を上げる。
「そうでしょうか?」
「はい」
 彼女は照れたような顔をした。
「わ、私も。実は経験があまりないんです」
「あまり……? あっ、し、失礼なことを言っていたらすみません」
 しまった! こんなに綺麗な女の人なんだから、経験人数の一人や二人は変じゃない。聞くだけ野暮だ。
 しかし川田は大輔の股間から顔を覗かせて、もじもじと唇を尖らせた。
「え、えーと。一人だけ」
「ほんとかな」
「本当です。なんか、それで今までずっとセックスって怖かったんですけど、大輔さんとお話ししてたら『この人だったら、いいかなあ』って。それに……大輔さんの成績を上げるためなら、なんでもします」
「そ、そんな……」
 家庭教師は高校生を見つめ、無邪気に口角を上げた。
「あの成績表を見たら、そんな風に考えちゃいます」
 それもそうか……。
 肉根は、ふたたび勃ってくる。川田は愛おしそうに肉棒を眺め、今度はチロチロと舌を這わせて舐め上げてきた。
 大輔は裏筋を舐められ「あっ」と、首を仰け反らせた。同時に川田は肉根をずっぷりと、肉感的な唇に包みこんでいた。
「わっ……! あ、かっ川田さ……っ。あ、あうう」
 情けない声を出した彼に構わず、美人家庭教師は更に顔を股間に沈める。完全に向こうのペースだ。
「き、気持ちいい……」
 目を閉じてフェラチオを堪能する。
 熱くぬめついた舌が、肉根の隅々まで絡みつく。壮絶に気持ちが良かった。自慰とは比べ物にならない。しかも彼女が肉根に歯を立てないようにしてくれているのが、よくわかる。
 大輔の耳には絶え間なく、じゅるじゅると肉根を味わう音が聴こえていた。

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俺に「彼女」が出来るまで……1、家庭教師は天然ですか?

俺に彼女が出来るまで

 大輔は手早く衣服を身に着けた。それから急いで玄関ドアを開ける。
 川田と名乗った子が、軽く身をこなして中に入った。冷気が一緒に、部屋の中に入りこむ。
 彼女は器用に首からマフラーを外し、大輔に向き直った。右の肩に、黒のビジネスバッグを提げている。
「はじめまして。お父様から家庭教師に雇われた、川田麻美子と申します」
「あ、よ。よろしくお願いします」
 慌ててお辞儀を返した。顔を上げようとした一瞬、かすかに漂う汗の香りに気づく。甘やかな女の子の体臭が、石鹸の香りに混じって「ふわっ」と漂う。
 もっと、この人の匂いを嗅ぎたい……。
 ふと生まれた小さな欲望は、男の動きを緩慢にさせる。
 相手に不審がられないよう、細心の注意を払った。彼は川田の足の甲から、視線を少しずつ少しずつ上に動かしていく。
 黒いパンプスに包まれた色白の足の甲の上には、ぎゅっと締まった細い足首のラインがつらなっていた。するすると流れる曲線にかたどられた脛と、つるつるした膝小僧がある。
 可愛らしい膝の上にはストッキング越しでも分かるほど、きめ細かい肌の太ももが見える。
 川田の身に付けている黒のタイトスカートは、普通に街で見かけるリクルートスーツの丈のものだ。膝よりも少し短いカッティングのそれに、今まで何の疑問も持ったことがなかったはずなのに、今はじめて
(こんなにエッチなスカートがあったんだろうか)
と思う。
 頭を完全に上げた彼は、わざと咳払いをした。
 咳の音に驚いたような顔をした家庭教師が、大輔を見つめて笑いかける。
「風邪ですか?」
「あ、いえ……。大丈夫です」
 大輔の耳たぶが熱くなる。
 川田は女性にしては背が高いほうだろう。ほっそりした体を、仕立ての良いリクルートスーツに白いブラウスが包んでいる。ブラウスの生地から覗く首筋や鎖骨がまぶしい。
 新任家庭教師は、にっこりと微笑んだ。
 悠然と笑うと、二重の眼がタレ眼になる。やや肉厚の唇から、白い歯が見えた。
 じろじろ見るのは失礼だ、そうは思っても大輔は彼女の表情を凝視してしまう。
「なにか、私の顔についてます?」
 川田のマフラーを持っている白くて小さな手が、ほんのりと赤く染まった。
「えっ! あ、あー。違います、いや、あの、き、きれいだなあって思って。その」
 大輔自身も、こんな答え方は予期していない。
 直後、美人女子大生は鈴を転がすように笑った。澄んだ明るい笑い声が、ひとしきり玄関先に響く。彼女は照れくさそうに片手を頬に当てた。
「男の人に、そんなこと言われたのって、はじめてなんですよね。笑っちゃって、ごめんなさい」
 嘘つけ。
 こんなに綺麗な人がだよ。生まれてこのかた、外見について褒め言葉を受け取らないはずがない。
 しかし彼の口から実際に出てきた言葉は、またしても自分の意に反したものだ。
「ああ、いえいえ! こっちこそ、すみません。さ、寒いでしょ? 中に入ってください」
「はい、ありがとうございます」
 ちくしょー、親父め。
 家庭教師が女性だとも聞いてないし、ましてや、こんなに美人が来るなんて聞いてない。
 知っていれば、心の準備ができたのにな……。
 キッチンで大輔はつぶやきながら、ヤカンを火にかける。これから勉強を教えてくれる人だから、お茶くらいは出しておかないとね。

 湯が沸いた。
 扉を開けるとテレビや卓袱台を置いてある部屋がある。勉強部屋は、その隣だ。川田のことはテレビのある部屋に待たせている。
 大輔は盆に紅茶と菓子を添えて、卓袱台に座る。
 川田麻美子は、卓袱台の上に大学ノートを広げていた。背筋を伸ばして正座しているのか、佇まいが美しい。
「あ、あの。俺はどうすれば」
 彼は口ごもりながら家庭教師に問いかける。家庭教師は顔を上げ、少しだけ頬を引き締めた。
「大輔さん、二学期の成績から拝見させてくださいませんか」
「えっ。イキナリですか」
 彼女の眼がきらきらと光り、まっすぐにこちらを見つめている。
「家庭教師として、こちらに伺っているんです。当然でしょう?」
 大輔は相手の雰囲気に押され、よろよろと立ち上がった。
 勉強部屋に向かうと、そこには机とベッドが置いてある。
 散らかった机の上に終業式以来、開けていないスポーツバッグがあった。彼はバッグの中から成績表を取り出す。
「はい、どうぞ」
 川田は成績表を両手で受け取り、静かに開いた。途端に彼女は眉をひそめる。
「この下がり方は……ちょっと、ひどいです」
 落胆した様子が、ありありと表れている声だ。
 家庭教師は肩を落として、大輔を恨めしそうに見つめている。
 無理もない。体育を除く全教科、五段階評価で二つ三つ下がっているのだ。しかし、男の悲しい習性として、美人に軽蔑されるのはショックだ。
 大輔は焦った。
 このままでは、せっかくの冬休みも毎日が勉強漬けになってしまう……!
「でもね! 先生! お、俺、まだ、高校一年だし! これから挽回しますからっ!」
 川田は大輔の言葉に、気を取り直したように頷いた。
「わかりました、本当に挽回する気持ちがあるんですね?」
「は、はい」
「ではこれから先のスケジュールとか、決めましょうね」
 彼女はノートにさらさらと、今日から冬休み一杯の日付を書いて行く。
 大輔は一心不乱にノートに向かっている相手に、おずおずと声をかけた。
「あのう……先生のこと、なんて呼んだらいいの」
 川田は顔を上げた。
「普通に『川田さん』でいいですよ」
 彼女は屈託なく微笑む。
「大学生なの?」
「ええ。静院女子大の二回生です」
 思わず口笛を吹いた。この辺りでは有名な進学先だ。
「へえ、頭いいんだ」
 川田の頬が赤くなった。真面目なんだなー、と一瞬、思う。
「そういえば私、自己紹介をしていませんでしたね」
「じゃあねえ……。俺の家に来るようになった、いきさつでも教えてくださいよ」
 親父はどうやって、こんな美人と知り合ったんだ? 本音では、そう尋ねたい。しかしここは、抑えていたほうが得策だろう。
 こっちが下手を打って、川田さんが解雇でもされたら大変だ。川田さん解雇翌日、むっさい男の家庭教師なんか来たら、俺は速攻で親父に文句を言う。
「……たまたまアルバイトを探している時に、大学のサイトに『家庭教師募集』って書き込みがあったんです。近所だったし時給も良かったので、電話をしてみたのが、あなたのお父様だったんですよ」
「へえ。だけど、なにも疑問に思わなかったわけ? すごい危険じゃん、ネット上での遣り取りなんてさ。しかも電話でしか親父と話してないんでしょ。家庭教師募集、とか言って風俗だったら、とか普通に疑問に思わない?」
 川田は真顔で、首を横に振った。
「思いませんでした。私の大学のサイトですから」
「ウブっていうか真面目なんですねえ。俺なら信じられない、しかも異性の家庭教師を志願するなんて」
 なにげない言葉に、彼女の表情がこわばる。
「私も、一日、眠れませんでした」
「す、すみません」
 軽口を叩きすぎたか。
 大輔は素直に頭を下げる。
「長野さん……つまり、大輔さんのお父様が、私を急いで雇い入れたのは『なんとかして息子に成績を上げてほしい』気持ちで一杯だったのだと思います」
「ま、まあ……そうでしょうね」
 脳裏に父の顔が浮かぶ。
 せっかちな性分の、あの人のことだ。担任からの電話でパニクって、家庭教師の募集をかけたんだろう。
 川田は紅茶を一口啜り、大輔を見据えた。
「大輔さんのお父様に言われたことをお伝えします」
 彼は思わず座り直した。
「はい」
 女子大生の瞳が、ためらうように揺れる。
「あなたの成績を上げるためなら、なんでもしてやってくれと」
「あ、ああ……まあね。家庭教師、ですもんね」
 大輔は、この空気に耐えられなくなってきた。

 川田さんだっけ? この人は真面目で純粋すぎる。勉強でもなんでも、この雰囲気を変えられるんだったら、なんでもいい。

 その相手は一瞬、唇を結び、大輔を見つめた。
「今、なにか欲しいものはありませんか?」
「べっ、別に……ないですけど」
 目の前の美人の顔が、即座に曇る。
 ……ヤバい? 
 適当に言葉を濁して、さっさと勉強タイムに行った方がよかったのかも。美人が悲しそうな顔をするのは、胸が痛い。
 川田は言葉に詰まった大輔を見据える。
「成績、上げたくないんですか?」
「そ、そりゃあ。まあ。進級だってしたいし……」
 新任家庭教師からは、彼が全然やる気なさそうに見えたらしい。
 彼女は思いつめた眼差しで、大輔を見つめた。
「恋人、欲しくないですか?」
 はあ? 何を言い出すの? この美人???
「欲しいですか? 欲しくありませんか?」
 川田は食い入るように大輔を見つめている。真向かいにいる彼のノドは、カラカラに渇いてきていた。
「は、はあ? まあ……いたらいいなって思う時はあるけど、モテないし」
 彼女が瞳を曇らせる。
「でも……一緒に勉強する恋人とか、いたらいいなあとか思わないの?」
「とっ、時々は。いいなって思いますよ? でも」
 川田が一瞬だけ目を伏せた。
 大輔が首を傾げたのと、彼女が紅潮した頬を見せたのは同時だ。
「わ、私! 今日から大輔さんの恋人になります! そして、成績をなんとしても上げてもらいます!」
「は、はあっ?!」
 大輔は目をパチクリさせながら後ずさった。逆に川田は、すっくと立ち上がっる。
「あなたがちゃんと勉強して、成績を上げてくれるためなら……私はなんでもします!」
「え。なんでも、って?」
 川田はスーツのジャケットを脱ぎはじめる。
「だって、お父様がおっしゃってたんです! 『きっとあの子は、川田さんが手篭めにしたら一生懸命に勉強してくれる』って!」
「ちょ! ちょっと川田さん……っ!」
 大輔の額から汗が噴き出る。彼女がスーツを脱ぎ出すのを必死で止めようと身体が動く。
 彼の奮闘むなしく女子大生が、身に纏う白いブラウスのボタンを次々に外していく。
「そんなの親父の悪ふざけに決まってるでしょ……っ! それに、こっ、こんなこと! 勉強とは関係ないでしょ……!」
 麻美子の顔は脱ぎ出す前よりも、すでに湯気が出そうに真っ赤だ。
「関係あります! 私、大輔さんの成績を上げることが仕事なんですからっ! それに、雇ってくださった方の言うことは最大限に聞き入れなければなりませんから!」
「ま、待って! 親父も冗談で言ったんだってば! 本気にしないでくれよ!」
 必死で両手を使い、彼女のボタンを外す手を払う。いくらなんでも、これじゃ家庭教師の仕事の域を超えている。
 その時だ。川田は、大輔に力いっぱい抱きついてきた。
「待ちません。この成績の落ち方を見たら、お父様の言葉は冗談には聞こえません。きっと私に、そうして欲しいと思うんです!」
 ふわふわ柔らかい女の体が、まとわりついてくる。
 大輔の頭の芯がしびれてきた。
「ちょっと……! は、離れて……っ」
 理性では戸惑っていても、体の方は正直に反応を示した。止めろ、と頭で命令してはいるが、掌は勝手に美人女子大生の背中を撫で、ブラジャーのホックを外している。
 はらり、と真っ白いレースのブラジャーが床に落ちた。

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うっはw過疎らせまくりwww サーセンwww

書き手の大きな独り言

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俺に「彼女」が出来るまで……プロローグ

俺に彼女が出来るまで

 長野大輔は部屋の片隅で頭を抱えていた。
 十分ほど前、父から電話口で罵倒されたのが原因だ。
「おまえなぁ……っ! 『どうしても、この高校に通いたい、独り暮らしがしたい』と言うから許しているのに、二学期の成績はなんだ! 親の目が届かないからって、遊んでばかりだったのか!」
 彼は高校一年生。父から叱られても当然の、遊びたい盛り。
 本当のことをいうと彼本人も、叱られるだろうとは思っていた。しかし、それが現実になると、鼓膜が破れそうな衝撃と共に精神的にもジワジワくる。
 ――とりあえず謝れ、俺。
「ご、ごめん」
(まあ……ちょっと遊びすぎちゃったかなー)
 実際に父が目の前にいないことは救いだった。
 万が一にでも大輔の表情が向こうに分かったら、更に激しい罵倒が来るに決まっている。
 ……確かにこっちが悪いけどさ、そんなに怒鳴らなくってもいいじゃんよ。
 大輔が内心、悪態をつきかけた時だ。父が大きく息を吸った気配がする。
(あと一回、こっちが謝ったら電話を切ってくれるかな)
 そう思った時。
「おまえに家庭教師を付ける。一学期に遊び惚けた分は、みっちり取り返してもらうからな」
 大輔は目を丸くした。
「えっ。みっちり、って。まさか毎日、勉強?」
 すかさず、鋭い罵声が飛んでくる。 
「当たり前だ! 三学期の成績が上がらなかったら、強制的に関西に呼びつけるからな!」
「ちょ、ちょっと待ってよ。家庭教師なら自分で、さが」
 さがす、の「す」を発音する前に、ふたたび怒鳴り声が聴こえた。
「おまえには任せられん! 俺が選んだ人間で我慢しろ。イヤなら成績を上げてから文句を言え」
 ……言わなきゃよかった。
 余計に父の怒りを注いでしまった。
 向こうは更に怒鳴り続け、大輔には一言の弁明も許さずに電話を切った。
 しばらく経っても、大輔の耳朶には父の声がこびりついている。
 彼は「ふう」と溜め息をつき、通学用のスポーツバッグを見遣る。昨日の終業式から帰宅してから、まだ一度も開けていない。
 中には成績急降下の証を記した通知表と、学校から配られた「冬休みのしおり」が入っている。
 苛々しながら、バッグを部屋の隅へと蹴飛ばした。
「あー、すっきりしない」
 独り言をつぶやき、こめかみを押さえる。

 ……こっちも悪かったから、しょうがないかー。

 肩をすくめ、ベッドの上に寝転がる。
 親から文句が出るのも無理はない。この部屋や生活費は、すべて向こうからの仕送りなのだ。
 彼は思う。
 ……もしかしたら、親父なりに急に転勤を決めたことを申し訳ないと思っているのかもしれない。向こうはなにも言わないけれど。
 であれば尚更、応えるためにも成績を下げるべきではなかったのだ。しかし、自堕落でも構わない独り暮らしの誘惑の数々に負けてしまった。
 いつしか成績は下がり、結局のところ、どやされるハメになってしまった。
 大輔は眉をひそめて拳を作って、壁を殴る。
 バン! 
 予期していなかったほどの音を立て、部屋中が揺れた。
「痛いな。ま、いっか」
 あらためてつぶやき、手を天井に向けてプラプラしてみた。同時に、父が電話を切る直前の言葉がよみがえる。
「もう冬休みだな? 明日の正午、俺が頼んだ家庭教師がそっちに行く。それで三学期の成績が上がらなかったら……わかっているだろうな?」
 一体、なにを「わかれ」というのだろう。大輔の苛立ちは、完全に行き場所を失っていた。
 どんなに親が凄んでも、彼には彼の「器」というものがある。
 こんな時に母親がいたら、きっと取りなしてくれるのだろう。
 しかし、あいにく彼の母は、彼が七歳の時に亡くなっている。もう片方の親である父から見れば、大輔は出来が悪いが心配の種でもあるわけだ。
 もちろん、血の繋がった息子が父の気持ちを全く分かっていない訳ではない。
「あーん、俺のバカバカバカ」
 大輔はつぶやき、むしゃくしゃした気分で布団をかぶった。
 担任め。きっとアイツが、すべての元凶だ。
 きっと俺が通知表を親父にFAXで送る前に、成績を電話で喋ったんだろう。
「家庭教師なんて、冗談じゃねー」
 思わず声に出した。荒れた気持ちが収まらないせいか、口から出る言葉が汚い。
 せっかく、あの口うるさい父親から離れて、高校生活を満喫していたのに。
 しかも明日はクリスマスイブだ。世間では冬休みの真っ最中。
 そんな時に家庭教師と対面だって……やめてくれよ、もう。なんだってそんなに、しみったれた時間を過ごさなきゃならないんだよ。
 しかし成績が急降下したのは事実であって。
 それが原因なのは分かっているだけに、親に向かって全力で逆ギレすることも出来ず。
 ひたすら大きく溜め息をついた。
「明日から夜遊びも賭け事も、できなくなっちまうよー」
 今夜は俺の自由・最後の夜だ。しょうがないか……。
 彼は瞼を閉じ、ぼんやりと考えている。
 父のことだ、これから先、家庭教師に割増料金を払ってでも、こっちの素行まで管理してくるに違いない。
 ――わかっているだろうな?
 父の口癖……さっぱり効き目のない脅し文句が頭をよぎる。
「はいはい。わかってまーす」

 翌日。
 大輔はパッチリと瞼を開けた。 
 たっぷり睡眠時間が取れた御蔭か、頭もすっきりして気分がいい。
 時計を見ると、午前十一時を指している。
「家庭教師が来るのが……正午だったかな。あっ、やばい。あと一時間しかないや」
 あわてて浴室に向かった。どんな人が来るのかわからないが、こざっぱりしておいた方がいいだろう。
 大輔は頭を洗いながら、昨日と同じように高校入学してから今日までのことを思い返してみる。
 はっきりと自覚している転落のはじまりは、親の眼が行き届かないところで、楽しいことに目覚めてしまったこと。
 楽しいこと、といっても女よりも男と遊ぶ方が充実している。
 もっと言えば、大輔は一般的な高校生よりも背が高い。私服を着ると「高校生には見られない」らしい。天から与えられた外見を活かして、パチ屋の常連になるのくらいはお手のものだった。
 場外馬券場に行っても高校一年生だとバレたことは一度もない。
 女や酒よりも、そういう賭け事の方が楽しくて仕方がなかった。
 というか、ぶっちゃけモテない。モテようと思ったこともなかったのだ。
 大輔はシャワーコックをひねって湯を止める。鏡に自分の顔がぼんやりと映った。
 さして男前でもない顔が映っている。ばさばさの濃い眉毛、奥二重の切れ長の目に高くもなく低くもない鼻。面白くなさそうに結ばれた厚い唇。
 見れば見るほど、特徴も魅力もない顔だ。はっきり言って、フツメン中の中レベル辺りだろう。あくまでも比較対象は、クラスメイトだけど。
 体を拭いたあと、あらためて鏡を覗きこみ髭をあたっていた時だ。玄関のインターフォンが鳴った。
 大輔はバスタオルを体にまきつけ、急いでキッチンにあるモニターを見た。
 そこには二重瞼のぱっちりした眼、すっきりした顔立ちの黒髪の女の子がいた。首元に、ブラウンに黒チェックのマフラーを巻いている。
 マフラーの下に白いブラウスが覗く。黒い襟が見えるので、マフラーの下はリクルートスーツか。
「勧誘なら帰って」
 そう言うと、モニタの向こう側にいる女の子は丁寧に頭を下げた。
 長い髪を後ろに青いリボンで束ねている。顔を上げると額の前髪が、さらりと揺れた。
「長野大輔さんですよね? すみません……家庭教師の川田です」
「えっ? 約束は十二時でしょ? 来るの早くない?」
 時計を見ると、まだ十一時三十分だ。川田は申し訳なさそうに、だが、丸い頬を赤く染めて笑みを浮かべた。
「ごめんなさい。道を間違えたらいけないと思っていたら、早く着きすぎちゃいました」
 大輔は面食らった。まるで早く来るのが、当然だろうというふうに聞こえたのだ。
 とにかく外は寒いだろうから、中に入ってもらいたいんだけれども。
「すみません、五分だけ待ってもらえませんか。俺、今、シャワー浴びてて裸なんです」
 川田の頬が、さっきよりも赤くなった。

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ガチバトル・イン・ダンジョン……53

ガチバトル・イン・ダンジョン―山口さま

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ちょっぴり近況報告

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異世界将棋道場(魔王のおまけⅡ)

魔王に抱かれた私――優美香


「うーん」
 唸りつつ対面にいる勝負師を、ちらと見る。そいつはこちらを「フン」と鼻で笑う。そして、余裕たっぷりに銀色の髪をかきあげる。
「早くしてくださいよ、こっち手加減して飛車角落ちで対戦してあげているんだ」
「|裸玉《らぎょく》にしてくれって言ったのに」
「それでは勝負の醍醐味がない」
「うるさい」
「おやおや」
 裸玉というのは将棋上級者が、超初心者に対して「仕方がないけど、やってあげるネ!」的な対戦の仕方。要は、盤上には相手の王将の駒しかない。
 それでも、こちら側にしてみれば、駒の動かし方や勝負の勘所が分かる対局の仕方だ。
 町には将棋道場が、ここしかない。
 将棋の愉しさを教えてくれた人がいて、この道場に一年前から通いはじめた。
 でも。
 わたしは超初心者クラスの中でも、今なお底辺を彷徨う存在で有名だ。他に教えてくれる人もいないから、対戦しながら手数を覚えていくしかない。
 きっと店主や常連からは蔑まれているんだろうな。そうは思うけれども……日常から逃れられる時間も、ここしか考えられない。
 今日はようやく取れた休日だった。朝イチに、たまたま入ったパチスロ店で三万円を八万円に替えた。「今日はツイてるかもしれない!」と、ちょっぴりウキウキしながら道場に入ったら、この男がいた訳だ。
 ぱっと目についた彼の銀色の髪と深緑色の瞳は、よく調和していて、一見とても優しそうに見えた。あんなに優しそうな男前なんだから、きっとレクチャーしつつ対局を進めてくれるに違いない! ……そう思ったのが間違いだった。
「裸玉にしていただけませんか」
 初対面の人に失礼なことかも、と感じつつ申し出る。すると、途端に眉をひそめられた。だめか……と思った直後に柔らかい口調が返ってきた。
「では飛車角の二枚落ちで」
 優しそうな男前は、飛車と角、この駒を抜いて対局してくれるとのこと。二つの駒は、攻撃にも防御にも強烈な力を発揮する。
 ちなみに飛車は十字架のように縦横に動くことが出来る。角は逆に斜め方向に進められる駒だ。
 正直、ちょっと助かったと思った。
「よろしくお願いします」
 頭を下げて盤上に駒を並べはじめてから、すぐに後悔した。
 いつも相手をしてくれる爺ちゃんたちとは、なにもかもが違いすぎる。そして思った。
 ――もしかして、勝負師エーベル?
 先週、裸玉で対局してくれた爺ちゃんが言っていた。この頃、やたらと男前で、なおかつ情け容赦ない手を出してくる男が道場に出入りするようになったと。
 しかも対局前から、対面にいるこちら側を妙な雰囲気で圧倒してくるらしい。
 うおお、まさしくこの男じゃんか! 逃げたい! 今すぐ逃げ出したい!
 彼は「フフン」と、わたしが眉間に皺を寄せて掌に汗までかいている姿を笑った。
 自分のドン臭さを恨んでもしょうがない。将棋は「礼に始まり、礼に終わる」ものだ。お願いします、と言ったからには「ありがとうございました」までが対局。途中で投げ出すのは棋士の風上にも置けない。
 しかし……。
 勝負師という名前で呼ばれる者は誰でも「容赦」という言葉を知らない。わたしは道場に出入り禁止を言い渡されてもいいから、盤をひっくり返して帰りたい気分で一杯になった。
 エーベルは整った指で駒を動かして、わたしを煽っているのは丸分かりだった。なにも、こんなズブの素人相手に本気にならなくてもいいのに。
 対局早々に「おまえは、もう死んでいる」雰囲気が狭い道場に漂っている。気のせいか、段々と鼻の頭が熱くなって、視界が滲んできた。
 横から、店主の声がする。
「エーベルさん、もうちょっと勘弁してあげたらぁ?」
 勝負師に言うでもなく、明らかにわたしを軽蔑する口調である。わたしは思わず、横を向いて店主を見上げた。黒髪で鳶色の瞳の店主は、普段は魔王商売をしているらしい。魔王のくせして名前をカインと名乗る、図々しい野郎だ。
 この店主は本当に、いけ好かない。ルックスはいいんだけど、なにを考えているのが分からないところが不気味だ。
「だってカインさん。この人、ヘボすぎて逆に面白いんですよ」
 エーベルは店主が持ってきた緑茶を美味そうに啜りながら、こちらをニヤニヤしながら見つめる。
「きみが、いつ泣き出すかと思ってね」
 むきい。
 明らかに年下の男にバカにされている。しかも今、道場の中にいるのは三人だけだ。わたしは男前二人に蔑まれて無条件に歓べるほど、マゾの気はない。
「鬼か悪魔か……って、感じがするわ」
 なるべく泣かないように目を見開いて、勝負師に言ってやった。
「だって魔族だもん」
 即答で返された。
「ばかやろう」
 エーベルは俯いて捨て台詞を吐くわたしを、くすくす笑う。こいつ、ホントに楽しんでるだろ。負けても絶対に、涙なんかこぼしてやるものか。
「どうせ魔法を使って、対局相手に意地悪してるくせに」
「きみには魔術を使う必要もありません」
「くっ……」
 思わず、左手の指が震えた。……つうかさ。今、どっちの番だっけ? 
 勝負師は戸惑ったわたしの心を見透かすように鼻息で笑った。
「きみの番ですよ」
「ありがと」
 教えてくれたんだから、一応は、礼を言っとかないとね。
 わたしは散々考えて、盤上の歩を一個前に動かした。歩兵の駒は好きなんだよね。一個ずつ前にしか進めないけれども、いったん敵陣に入ったら「金将」の働きをする。相手|玉《ぎょく》を詰めるにも大きな役割を果たす。
 しかしエーベルとの対局では、こちらの|歩《ふ》の駒は全部剥がされてしまいそうだ。あと三枚しかない。
 うう、好きなのにー。 
「……いいんですか? それで」
 勝負師は悪戯っぽく、上目遣いでわたしを見遣る。そんな風に言われても、他に知恵が浮かばない。
「行っちゃいますよ?」
 彼は舐めた口調で、すっと指を動かした。さっきわたしから剥がした角が、盤上に置かれる。
「あっ!」
 歩の駒を動かしたので、がら空きになったところ。相手の角が真っ直ぐにこちらの王を刺している。
 思わず大声を出したわたしに、エーベルは憎たらしいほど爽やかな口調で言い放つ。
「だから確かめたでしょ」
 くすくす笑う声がする。対局相手だけならともかく、向こう側で観戦している店主の笑い声まで混じっているじゃないか。
「ひどい」
「いやあ、見事な負けっぷりだ」
「ふん、なにさ」
 いかにもご満悦、と言った感じの勝負師に思わず席を立った。さっきまで「将棋は礼に始まり、礼に終わる」と思ってたのに、もうそんな余裕はないみたい。
「勝負師、って言うからには、こっちがお金を払えばいいんでしょ! ば、バカにするのもいい加減にしてよっ」
「まあまあ、落ち着いて」
「これが落ち着いてなんかいられるもんですか! さっさと欲しい金額を言いなさいよ! 三万円までなら払うから!」
 エーベルは目を細めた。
「わたしはお金を巻き上げる人と、そうしない人と峻別して対局しています」
 峻別、だとう?
 ……そういえば。爺ちゃんたちの中でも対局後にお金を払った人と、そうじゃない人がいるらしい。
「その線引きって、なんなのよ」
「質問させてください。きみが将棋をしようと思ったキッカケは、なんですか?」
「どっ、どうだっていいじゃん」
 彼はこちらをじっと見つめる。
「どうだっていい、そんな理由じゃないはずですけど」
 声を落としたエーベルの言葉に、泣きそうになった。
「この盤上は、ひとたび向かい合えば、どんな人の心でも不思議と伝わってきます。きみの気持ちもね」
 彼はわたしに座るように促す。仕方がないから座った。ええ、座りますとも。
「逢いたい人がいるんでしょ。その人に逢いたいから、何度も道場に来てるんでしょ。上達しないのに」
「うるさいな、もう」
「心の底から逢いたいくせに」
 なんなんだよコイツは。こういう時だけ、目に慈愛なんかたたえてる顔しちゃって。
 そう思いながら、わたしは鼻の頭が真っ赤になっているのが分かる。もう我慢できない……そう思ってまばたきをすると、涙がぽろっと落ちた。
「例え雲の上の人でも、きみが逢いたいと思う人と。少しでも強くなって逢いたいんでしょ。わたしは、そういう情緒に弱いんですよ。だから今回は、無料です」
 今回?
 魔族で勝負師のくせに、変な情けなんか要らないよ。そう思ったわたしに、彼はにこにこ笑っている。
「応援してあげましょうか?」
「な、なにを」
「いいから、来週の日曜の夜七時、ここに来てくださいよ」
 わたしは黙って盤の横にある、すっかり冷えた緑茶を飲んだ。

 さて当日の夜七時。

 わたしはなぜか勝負師と平手の勝負をしている。平手、というのは互いに駒を全部並べて対局する方法だ。
「どうしてこうなるの?」
 エーベルは歩の駒を打ちながら、ぼやくわたしを見上げた。
「強くしてあげますから。そしたらアマチュアの全国トーナメントで、また彼に会えますよ」
「もう諦めた、って言ったら?」
 彼はニヤリと笑った。
「毎週一局、一万円いただきます」
「ええっ?」

 進むべきか、退くべきか。
 ……なんだかんだ言って、わたしはこの男にも興味が出てきたのかもしれない。



。。。

同じものを「小説家になろう」にも掲載しています。

もしも私が、コイツらwと将棋をしたら……がテーマです。

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魔王に抱かれた私……おまけ 登場人物紹介

魔王に抱かれた私――優美香


☆ルーンケルンの人物

・カイン

過去世から何度も転生を繰り返してきた魔王。輪廻の中、村を焼き討ちにした時に子供だったレフティから妹を奪う。
レフティから奪った赤子の妹が、彼の気持ちに変化を起こす。
現世はエレーナ王女の教育係としてルーンケルン王室に召し抱えられる。生まれた時から聴力に優れている。召抱えられた時は、音で相手の動きも分かる能力を持っていた。
温和で誠実な人柄は努力して身につけた賜物。
何百回生まれ変わっても、カインと名乗る。
好きな女に、なかなか手が出せない臆病者。

・レフティ

過去世の中、|魔王《カイン》に両親を殺害され、妹を奪われた。その時から「何度、生まれ変わっても魔王を討ち取る」と復讐を誓う。
意志の力でカインと戦う人生を選び続ける。
現世はルーンケルン王室の宮中警護として召し抱えられ、カインに巡り合う。
正義感は厚く野心家でもあるが脆い側面も。魔力はない。
狙った女には手が早い。


・エレーナ

ルーンケルン国の王女。父・デメテールの死去後、女王へと立場を改める。
魔王の過去世において影響を与えた赤子が生まれ変わってきた姿で、カインとレフティと会う。
なんだかんだ言って、この女が一番の無双かもしれないと作者は思う。
「歴史の陰に女あり」

・エーベル

魔族。過去世からずっと、カインの腹心の存在。エレーナ女王の護衛官。
酒癖は悪いかもしれない。
主君には「危険な場所に囮として行って来い」と言うのにもかかわらず、好きな女には「危険な場所には行かせない」とのたまう鬼畜。
何度生まれ変わっても、エーベルと名乗っている。

・フラン

宮殿に勤めるリネン係。宮中に上がった頃のカインを、しばしば助けていた。
レフティと関係を持つようになってから、色々と悩む。レフティがクーデターを起こした時に、速攻で宮中から逃走。
カインとエーベルとは前から仲良し。

・デメテール

出オチのルーンケルン国王。エレーナの実父。

・教会長

宮殿に隣接する教会に居住。聖職に就く魔術師の長である。


☆東国・ロードレの人物

・アール

通商条約の細かい箇所の打ち合わせに、ルーンケルンに上陸。カインと交渉。

☆西国・エディットの人物

・アネイリ国王

出オチ。

・サイレンス皇太子

この人も出オチ。

・ガル

アネイリ国王に仕える侍従長。カインたちを手厚くもてなす。

・リーノ

西国エディットの国軍大尉。カインたちを手厚くもてなす。

・ヴィクティム

呪術師。
レフティをはじめ、ルーンケルン軍隊全体に呪いをかける。

・呪術師のみなさん

自分たちの祖父母の世代が国外追放されたのは、ルーンケルン国王のせいだと思っている。
戴冠式の日などにエレーナを襲撃するが、ことごとくカインとエーベルに撃退される。


☆作者

性別不明。手フェチの変態。いい男大好き。才能ある男が大好き。アッー!



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魔王に抱かれた私……61

魔王に抱かれた私――優美香

61、果てにあるもの

 夜が明けていく。
 エーベルが崖の下へと手を伸ばし、教会から逃げてきた人たちを引き上げている。
 避難者たちは狭い平地に思い思いに座り、肩を寄せ合う。フランは彼らに火を焚き、沸かしたお茶を配っていた。
 エーベルが避難者の列にいた最後の一人を引き上げる。男は彼を見て、顔をほころばせた。
「エーベルさまが、お元気でよかった」
「そちらこそ」
 男は以前、彼がカインと西から帰還した折りに「おかえりなさい」と言ってくれた臣下だ。エーベルが軽く目尻を下げる。
「大変でしたね」
「確かにね、まいりました。急に廷内に集められたと思ったら、あっというまに、なにもかも変わってしまいましたので」
「存じております」
 男はエーベルを静かに見つめ、口を開いた。
「あなたがカインさまと宮中からいなくなってからのことも、ご存知なのですか?」
 エーベルはその問いの真意に気づき、潔く答えることにした。
「ええ」
 若い臣下が深い吐息をつく。
「細かいご事情は存じません。ですが、またご一緒にエレーナさまをお支えしたいと思っています」
 エーベルの胸が熱くなる。男は、あわてたように笑みを浮かべた。
「そんな、泣きそうな顔しなくても」
 エーベルは目頭を押さえ、何度も頷いてみせる。やがて彼の肩に、そっと臣下の手が置かれた。
 彼らの背中から、うれしそうなフランの声が聞こえてくる。
「エレーナさま!」
 彼女が女王に駈け寄る音がする。エーベルが顔を上げると、カインが崖の淵に立っていた。
「ご無事で」
「大勢の人の気配がしたから、崖を二人で登ってきたよ」
「急に出現されたら、びっくりされる方もいらっしゃるでしょうしね」
「まあね」
 カインは頬を緩めて彼に笑いかけ、それから避難者たちを見渡す。
「教会からの避難者は、全員集まっているのか」
「ええ」
 エーベルは続けて言った。
「女性や高齢者は小屋の中におります」
「教会長も?」
 上官の問いに彼は頷く。カインはあらためて言った。
「間に合ってよかった」
「そう思います」
 エーベルはカインの心中を知っていた。ここをレフティとの対決場所にしたくないのだ。
 できれば魔術師以外の避難者の心に、ショックを与えたくない。カイン本人は、魔術を使うことも避けたいと思っている。
 しかし、その願いは叶えられそうになかった。
 二人はすでに知っている。レフティが避難者たちを尾行し、軍勢を率いてこの山を取り囲んでいることを。
 カインたちは、デメテール国王が亡くなった時のことを思い出す。
 ルーンケルン領土を狙う東西の強国は、一日も経たないうちにデメテール死去の事実を知っていた。
 おそらく、レフティが軍事政権を立てたことも同様に知っているだろう。今日のうちに決着をつけないと、混乱に乗じて東西から攻め込まれてしまう。
 なんとしてもレフティを討たなければ、エレーナにも民にも平穏はない。彼はふたたび覚悟を決め、エーベルに向き直った。
「わたしたち四人は、ここから離れよう。女性二人は途中で港に飛ばす。エレーナさまとフランは東行きの船に乗せればいい。女性たちを逃がした後、我々はレフティを迎え討つ」
「御意」
 カインは小屋の中に入り、教会長に「避難者を頼みます」と告げた。老いた教会長は目に涙を浮かべ、彼の頬に触れる。
「どうかご無事で、ここまでお戻りくださいませ」
「おまかせください」
 すぐに戻る、と言い切れないことが歯がゆい。
 カインは高台に登る前、水晶玉を視ている。しかし、これから起こることをなにひとつ示してくれなかった。
 それでも、彼は精一杯の笑顔を作る。
「必ず教会を再建しましょう」
 カインが教会長に言い残して小屋を出る。朝の陽がこの高台にも、広く届きはじめた。彼はエーベルと二人で、小屋と高台すべてに結界を張った。
 振り向くと、エレーナ女王とフランが待っている。彼らは崖の下へと降りた。
 野草が茂る、急傾斜の道が続く。カインの耳に、ぱちっ……という乾いた音が聴こえた。彼は振り向き、後ろにいる三人に告げた。
「火を放たれた音がする」
 一番後方にいたエーベルが頷く。彼の前にいるフランが、心配そうな顔をして後ろを向いた。「大丈夫」というエーベルの声が聞こえる。
 そのとき、カインは感じ取った。
 四方八方から乾いた草が燃える音が迫っている。彼は後ろのエレーナへと振り向いた。
「短剣は、お持ちですよね?」
 彼女は顔をこわばらせて頷く。昨日、エディットの峠でカインから手渡されたものだ。
 やがて彼らの前方、斜面の下方から火の手が見えてきた。
 カインとエーベルが両手を天にかざす。すると黒い雲が空一面に立ち込め、大粒の雨が降り出した。
 彼ら四人がいる場所に、冷たい風が吹き上がってくる。
 ほどなくして、放たれた火は消えた。
 彼方から馬の蹄音が鳴り響く。カインとエーベルは、レフティの怒号を聞き取った。
「駆け上がって矢を引き絞れ! あいつらは斜面の上にいる!」
 周りの野草が焼き尽くされた今、斜面下方から自分たちは丸見えだ。カインは振り向いて叫んだ。
「伏せろ!」
 女たちが伏せると同時に、矢が大量に降ってくる音がした。
 即座に、カインとエーベルが高く飛び上がる。エーベルは女二人に降り注ぐ矢に向かい、手を払う。とたんに、矢がすうっと消えていく。
 フランが宙を見上げた。エーベルが彼女に向かって頷く。彼の視界の中から、女たちの姿が消え失せる。
 宙に跳んだカインは前列の軍人の乗っている馬の脚に、さっと目を光らせた。すると、馬の前脚が次々と折れていく。軍人が鞍ごと落馬する。後ろに続く馬はすべてつまづき、混乱の波が広がっていく。
 レフティの大声がする。
「馬から降りろ! 武器を使え!」
 エーベルは既に剣をふるい、軍人の群れに襲いかかっていた。カインも剣を握りしめ、その後につづく。
 カインの頬を槍がかすめる。彼は身をかわし、飛び上がって軍人の喉元を突いた。二人は次々に襲いかかる男たちを薙ぎ払い、斬り刻んでいく。
 男二人は傾斜を進み、山の中腹にまで降りていた。カインの目の端に、ちら、と宮殿の白い壁が見える。
 そのとき突然、軍人たちが二つに割れて道を作った。
 カインたちは、その奥に目を移す。レフティが陽を背に受け、矢を引き絞っていた。
「昨夜、夢を見ていたよ。エーベル、おまえは俺の矢で死んでたな」
 エーベルは薄い笑みを浮かべ、彼に答える。
「あんたの夢も終わりだ」
 彼は体を翻し、レフティから放たれた矢を叩き斬った。カインが前へと疾走する。
 彼ら二人は次から次へと阻む軍人を斬って行くうち、剣を抜かずに駈ける男の姿が見えた。
 エーベルに男の強い意志が伝わる。
 ――女王は奴らの後ろだ。
「まずい!」
 彼の目が光った。もしかして魔族の掟が発動したのか。しかし、後ろを振り向くことができない。
 レフティは続けざま、矢を放ってきている。カインが叫んだ。
「エーベル! 後ろに回れ!」
 エーベルが彼の声を聞き、瞬時に反応しようとした時。女の悲鳴が辺り一面に響いた。
「きゃあああっ!」
「フラン!」
 若い男がひとり、フランとエレーナに向って銀色の短剣を振り上げていた。疾走したエーベルが、男の首を撥ね飛ばす。そして彼は、二人の姿を術によって消そうとした。
 しかし、女たちの身が消えない。愕然としたエーベルは、カインの声で我に返った。
「逃げろ!」
 叫んだカインの脳裏、魔族の掟が浮かぶ。
 死ぬ運命の者を生かし、歴史の流れを変えた魔族には相応の報いが待っている。しかも、本人の精神が一番脆くなるところで報いは具現化する。
 エーベルは顔をこわばらせ、女二人を背に隠す。女王の小さな声が聞こえる。
「わたしたちは、大丈夫です」
 彼は首だけで振り向いた。
 女王はブラウスの胸元に手を当てている。彼女たちは唇を結んで頷く。彼は前を向き、剣を振り上げてきた男の胴を薙ぎ払った。
 エーベルは女たちから身を離さずに、男たちを討ち続けていた。カインもそれに加勢し、レフティからの矢を払いながら剣を振るう。
 レフティが馬上から、彼らを激しい憎しみをたたえた目で見据えている。彼は背後の部下から、一本の槍を受け取った。
 フラン、エレーナ。よりにもよって、ここにいたのか。
 レフティは体中に沸き立つ憎悪を込めた槍を投げる。それはまっすぐにフランの胸を狙った。カインが横に跳び、槍の柄を斬り落とす。
 槍の石突きが転んだフランのワンピース越しに、深々と地に刺さる。彼女は叫んだ。
「エレーナさま! 逃げてください!」
 女王はフランのワンピースの裾に刺さった槍の先端に手をかける。が、彼女はあまりにも非力すぎた。エーベルがそちらを見遣る。
「エレーナさま! 逃げて!」
 フランが叫んだのと同時、動揺したエーベルの背中に次の槍が向かう。カインが叫ぶ。
「消えろ!」
 瞬時に槍は消えた。しかし、彼らの隙をつく者がいる。駈け抜けた男が女王を素早く後ろ手にとらえ、フランから引き剥がした。
「その女も殺してしまえ!」
 レフティの声にエーベルの業火が燃え上がった。彼は振り向き、その手から剣を放つ。剣がまっすぐに男の肺腑を抉っていく。
「許さん……!」
 倒れた男から剣を引き抜いた時だ。逃げるフランが腕を捕られているのが目に入った。エーベルは彼女の腕をつかんだ男に向い、ふたたび剣を放つ。男の脳天が一撃で割れた。
 エレーナは後ろに向かって駈け出している。
「エレーナさま!」
 カインが女王の後を追う。その時、レフティの馬がエレーナの前に立ちはだかった。女王は顔を上げ、彼の顔を凝視する。
 レフティが悠然と馬から降り、剣を抜いた。
「女王は生かしておけ。それ以外は用がない」
 エレーナが怒りのこもった眼差しで、彼を見上げた。レフティは凄惨な笑みを女王と、彼女の背後にいる彼らに向けた。
「貴様ら、それ以上動くな。動くとエレーナを斬り捨てる」
 彼はそう言ってエレーナの腕を乱暴につかみ、次に頬を力一杯に平手で打った。
「あ……っ!」
 エレーナ女王が皆の目前で倒れる。
 レフティはカインを見据え、彼女の体を引き起こした。女王はふらつく足で一瞬振り向き、カインに視線を投げた。
 彼ら二人は息を呑んだ。エレーナは、手を出すなと言いたいのだ。
 レフティがカインを見据えながら、彼女を横へと押しやる。
「おまえから片付けてやるよ!」
 カインも彼から目を外さず、手から剣を離して地に落とす。一瞬、レフティの心が揺れる。次の刹那、彼は大きく目を剥いた。
 レフティは愕然とした表情で胸元を見た。背後から深々と短剣が刺さっている。
 ぐっ、と渾身の力が更に、かけられたような気がした。
「なっ……!」
 彼は赤い血を吸った黄金色の刃先を目に焼き付けた。直後、前のめりに倒れていく。
 そこにエレーナがいる。
 彼女は涙を一粒、大地にこぼした。



 ――数ヵ月後。

 教会長が目に涙を滲ませながら、ふた組の男女に冠を授けている。
 木造の広い礼拝堂の前方には、小さなランプがある。そこには聖職者が暴動の最中でも必死で守り続けてきた、ともしびがあった。
 エレーナは白のワンピースを身に着けていた。彼女の隣にはカインが、紺の詰襟チュニックを着て立っている。
 その隣にはカインたちと同じ服装の、エーベルとフランがいた。
 簡素な式である。
 祝福の言葉を受け終わった女王が頬を染めたまま、皆に体を向ける。彼女は言った。
「今日をルーンケルンの、あたらしい建国記念日といたします」
 礼拝堂にいた民のひとりひとりが、彼らにあたたかい喜びの拍手を送る。
 それはいつまでも鳴り止むことがなかった。


                                      (了)

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魔王に抱かれた私……60

魔王に抱かれた私――優美香

60、潮の行方・3

 カインはエレーナと二人、見覚えのある峠の木陰に立っている。カインは彼女を気遣いながら、指を差した。
「あちらの方が呪術師たちの自治区です。おそらく我々は、そこに行き着くまでに彼に会うでしょう」
 彼が示した木漏れ陽の揺れる先には、女王の目からも澱んだ気に満ちていることが見て取れた。
 彼女は周りを見回し、小さくため息をつく。アネイリ国王に招かれ、馬車に揺られて宮殿に向かうまでの記憶がよみがえる。
 あの時、この人を信じていられたらよかった。そうしたら自国は今頃、混乱を避けられていたのかもしれない。
 カインは長い睫毛を伏せた女王に言った。
「過ぎたことは、お忘れになりますように」
 エレーナは顔を上げ、彼が差した方向を見る。
「そうね、するべきことをしなくては」
 彼女はきっぱりと前を向いた。
 父が守り抜いてきた国家が危険に晒されている。ちっぽけな後悔にとらわれている暇はない。
「カインがいてくれるから、大丈夫ですね」
 彼は一瞬戸惑ったが、彼女に大きく顔をほころばせてみせた。エレーナはルーンケルンを混乱に陥れた元凶の呪術師を討つために|囮《おとり》になることを決めた人だ。二人で傷ひとつなく、エーベルたちが待つ場所に帰らなければ。……そう思うと、カインの心にも闘志が湧いた。
 しかし彼は同時に、この地に降り立った時から流れる空気の異様さを感じ取っている。ひたひたと足元にまとわりつく、重い泥のような違和感だ。それは風が吹くたびに嵩を増し、濃く立ちこめはじめていた。
 カインは少しでも邪気を払うため、ぱちんと指を鳴らす。右手に、黄金色の鞘に包まれた短剣が現れる。|柄《つか》は彼の目と同じ鳶色をしている。
 彼はその短剣を、両手で女王へと差し出した。
「わたしの力が篭っている守り刀です。懐に入れてください」
「ありがとう」
 エレーナは顔をこわばらせ、彼から短剣を受け取った。彼女は固い笑みを浮かべ、言われた通りに胸元に入れる。
 澱のような空気が更に増してきていた。カインは女王の後ろを歩き、目的地に向かう。
 生暖かい風が吹く。
 がさっ、と木が大きく揺れる音がした。
 カインが振り向くと、そこに引き締まった肩口から黒い布を纏った男が一人立っている。背丈は彼より、やや低い。鼻から顎にかけて、同じ黒い布で覆っていた。
 男は切れ長の目を細め、二人の姿を見比べた。カインたちに、男のくぐもった声がする。
「待っていたよ、魔王」
 そう言った男は右手を高く掲げた。一瞬にして空の色が真っ暗に変わった。男の手には銀色に光る剣がある。
 カインも無言で目を光らせ、大きく右手を伸ばす。男に向かって構えた時には、黄金色の剣を携えていた。
「さっそくのご歓迎に礼を言う」
 彼は左手でエレーナを引き寄せ、顎を上げて男を睨んだ。
「ひとつ聞いておく。西に住む呪術師は陽の高いうちは、術を使わぬのではなかったか」
 男は彼を鼻先で嘲り笑う。
「裏切り者には話は別だ」
 裏切り者、と呼ばれたカインの心に業火がともる。同じ魔族なのにエレーナを生き延びさせて歴史を改ざんし、あろうことか呪術師に不利な未来を作っていると言われているのだ。
「それならこちらも存分にやらせてもらう」
 彼と男は同時に跳び上がる。高く飛んだ空の上、男は斬撃をカインの左側に繰り出してくる。エレーナが息を詰める気配がした。カインは身を翻して男の背を狙い、右手で剣を振り下ろす。
 すると男は振り向きざま、彼の剣を払ってくる。カインはたじろがず、払われた剣で男の喉元を狙って突きこんだ。
「おっと!」
 男も負けじと体を外し、更に高く跳び上がる。逆にカインは大地に降りた。上空から、高らかに男の嗤う声がする。
「魔王も衰えたな」
 彼は真上に浮いた、剣を振りかざしている男を見定めた。
「来いよ。叩き斬ってやる」
「行くぞ……!」
 男は勢いよく剣を振り下ろしてくる。カインはそれを頭上で受け止めて払い、間髪入れず相手の胴を真っ二つに切り裂いた。しかし、地上に転がるはずの上半身だけは浮き上がり、ふたたびこちらに向かって前進してくる。
 迎え討つカインは全力で踏み込み、標的の斜め下から心臓を裂くように斬り上げる。男は口から血を吐き、仰向けにひっくり返っていく。
 どうやら悠長に女王を隠す場所を探している時間はなさそうだ。彼は左手で抱きかかえた彼女の額にくちづけ、さきほど二人が降り立ったらしき木陰を見遣る。
 エレーナの姿が消えると同時、背後からシワがれた声がした。
「魔剣の威力、見せていただきました」
 振り向くと、青白い光の球がぽっかり浮かんでいた。中に姑息な笑みをたたえる赤い目をした老人がいる。白髪を短く刈り、腰が大きく曲がった姿の老人は、こちらを上目遣いで見つめていた。
「まあ、さっきの彼も満足でしょう。前世で魔王に親を殺されたとか言っておりましたものですから、私の尖兵として出てもらったわけで。いや、さすがです。わたしも戦い甲斐があるというもの」
 カインは呪術師の劣等感を瞬時に見抜く。
 彼は目を細め、老人を軽く煽る。エレーナを隠した場所へと、少しでも老人の意識が向かうのを防ぐために。
「死ぬ前に、よく喋る年寄りだな。命乞いでもしたらどうだ」
 老人は赤目を光らせた。いつのまにかカインの周りを、黒ずくめの剣を構えた男が幾人も取り囲んでいる。彼は気配で感じ取る。その数、二十人にも満たない。
「命乞いをするのは、魔王の方でしょう? わたしは運命の必然に従っているだけだ」
 カインは老人を鼻先で笑った。
「なにを言いたいのか。……呪術師も年寄りになると、自分で話していることがわからなくなるらしい。可哀想に」
 彼はなおも嘲笑を重ね、語気を強める。
「老いぼれに最期の言葉を吐かせてやるよ」
 老人は顔をこわばらせ眉を吊り上げた。
「死ぬ運命の者に|現《うつつ》を抜かし、延命させ「善人になりたい」などとほざく魔王などおらぬ方がよい! それならいっそ、わたしがおまえに成り代わってやるわ!」
 カインの口元に凄絶な笑みが浮かんだ。奴の本音はそこか、と思い至ったのだ。我欲のために、レフティを自分の傀儡にしたかったのか、と。
 老人の罵声を合図にしたかのように黒づくめの男たちが、彼に向かって襲いかかってくる。カインは臆せず前に踏み込み、ひとりの男の首を撥ねた。
 襲撃者を屠るたび、彼の剣は光を増して猛威を奮う。叫び声を上げて横薙ぎにして来る者がいる。彼は身を翻し、相手の脳天へと剣を叩き落とす。と同時、男の割れた頭から火が激しく吹き出していく。
 老人のしわがれた大声が辺りに響く。
「頭や心臓を斬られるな!」
「馬鹿め。わたしに敵う者などいるはずがない」
 彼はそう言い、目の前を飛び上がった相手のくるぶしを切り落とす。激しく燃える炎は、足元から一直線に心臓を直撃する。
 男は絶命する直前に老人を振り向き、叫んだ。
「早くお逃げに……!」
 顔を上げたカインの視界、老人が愕然とした表情で後ずさっていた。瞬時にカインは呪術師の背後に回る。
 彼は老人の首に腕をかけた。その腕に力を込めて顎を上げさせ、剣の切っ先を突き立てる。
「ぐっ……!」
 老呪術師は呻き、逃げようとする。が、カインの腕がぎりぎりと彼の首を締め上げていた。
「おまえごとき、わたしに敵うはずがないんだよ」
 老人は目を剥き出しにして彼を睨み、死力を振り絞る。生涯最後の呪いのために。
「き、貴様などに……」
 カインはその言葉を遮る。負の連鎖など真っ平御免だ。
「おまえにくれてやる未来などない」
 彼が言い終わるや否や、魔剣は獲物の喉笛を引き裂いた。呪術師の喉元から、勢いよく赤い血がほとばしる。
 真っ暗だった空に、陽の光が戻りはじめる。
 カインは木陰で立ちすくむエレーナを見つけた。彼女の顔はこわばり、カインをまっすぐ見てはいるが言葉が出てこない様子に見える。
 彼も、そんな女王になんと言えばいいのか迷った。エレーナは小さく息を吸い、カインの胸に黙って頭をつける。
 彼は無言で女王を抱き寄せた。彼女はカインを見上げ、ほっとしたようなため息をついた。
「……カイン?」
 カインはエレーナを覗き込んだ。
「なんでしょう」
「さっき、あの老人が言っていたことは本当ですか?」
「言っていたこと、とは?」
「死ぬ運命の者に現を抜かし、延命……と。わたしは元々、そういう人間だったのですか」
 彼は女王を抱いた腕に力を篭めた。
「そうだったかもしれません。でも、エーベルも言っていたではないですか。新しい運命を作って……だったか」
「ええ」
 カインはエレーナの大きな黒い瞳を見つめる。
「それでいいんですよ、きっと。彼の言う通りなんです」
 二人はどちらからともなく、唇を重ね合わせた。長いくちづけの後、カインは言った。
「ここ数日のお疲れもありますでしょう、どこかでお休みになりませんか」
 女王は素直に頷いた。

 二人は今、小さな宿屋の一室にいる。
 カインはエレーナをベッドに寝かせ、自分はベッドに背中をもたれかけさせた。彼女が起きたら、すぐにルーンケルンに連れて行こうと思いつつ。
 仰向けに寝ているはずの、女王の細い声がする。
「カイン」
「はい?」
 彼が顔だけ振り向くと、恥ずかしそうなエレーナの表情があった。
「どうなさいました」
「添い寝してください」
 カインは驚いて、手だけを横に振った。
「だめです。それではあなたの疲れが取れません」
「小さな頃は、よく一緒に昼寝してくれたではないですか」
 彼は言葉に詰まった。こんなところで女王に添い寝などしたら、理性を抑えきれなくなるのに決まっている。
 エレーナは大きな瞳を濡らし、小さな赤い唇を開いた。
「わたしには逆らわないって、船で言ったくせに」
 苦笑したカインは立ち上がる。彼女がまばたきもせずに、こちらを見ていた。
 彼が静かに毛布をめくった時、エレーナがもどかしそうに両腕を伸ばしてくる。カインも応えるように彼女を抱きしめた。
 最愛の女性が頬を上気させ目を閉じる。カインはエレーナと唇を合わせ、幾度も舌を絡め合った。彼女の息が、少しずつ上がりはじめている。
 いつのまにかエレーナが、彼の背中をおずおずと撫でていた。気づいたカインも、彼女の背中をいたわるように撫でる。
「これでは添い寝にならないですね」
 女王は頬を赤く染め、不器用な指先でシャツのボタンを外しはじめる。
「エレーナさま……?」
 彼女は一度こちらを見上げ、彼の首に唇を押し当てた。
「わたしが……カインのことを癒して、添い寝してあげたいのです」
 つぶやきにも似た小さな声が、彼から理性を吹き飛ばす。カインはエレーナの手首をつかんだ。
 彼女の体を仰向けにさせ、静かに覆いかぶさる。エレーナの閉じた睫毛が震えているのが、彼にはわかる。
「怖がらないで」
 カインのひそやかな声が彼女の耳に流される。エレーナは彼に従った。
 やがて部屋の中に、互いの舌を絡め合っては離す音が満ちていく。彼女はカインのシャツを脱がしながら、彼はエレーナのブラウスを剥ぎ取りながら、幾度も舌を絡め合う。
 二人とも生まれたままの姿になった。
 カインの手が彼女の素肌を撫でるたび、真っ白い肢体が震えた。柔らかい乳房を口に含み、桜色の乳首を舌で転がしてやると、エレーナは背中を反らして身を預ける。
 お互いに存在を確かめあい、全身に唇を押し当てたあった末。
 カインは仰向けにしたエレーナの体の上に乗っていた。彼女の裂け目を指で撫でて舌を延べ、エレーナは喘ぎながら彼の逞しい肉根を口に含んでいる。
 彼女はカインから与えられる快感に、耐えられなくなってきていた。
「んんっ……! ぅぅうっ! ……ああ、あああんんんっ! あああん! カ、カインーーーーっ!」
 カインは構わずにエレーナの中に指を挿し入れていく。指を動かしながら彼は口を拭い、悲鳴を上げる彼女の唇を自らの唇で塞いだ。
 舌を絡めている最中、彼女が虚ろな目を開ける。彼はますます指の動きを加速させた。
「あううーーーーっ!」
 エレーナが彼から唇を外して鳴きながら、朦朧とした目で首を横に振り続ける。その瞳には幸福感に包まれた、カイン自身が映っていた。
「もっとエレーナの可愛い顔が見たい……」
 卑猥な水音とカイン自身の吐息の中、女王が細く小刻みに鳴き続ける声が混じり合う。カインが指先に力を篭めるとすぐ、エレーナは身を震わせて力尽きた。
 カインは彼女のすべてをいたわり、愛したいと感じ続ける。静かに覆いかぶさり、彼は深々と愛しい女の体の中に身を沈めた。
 動くたびにエレーナの背中はしなる。彼はそれをがっしりと包み込み、ありったけの愛情を注ぎ続けた。

 カインは幾度もエレーナの中に精を放ち、彼女は打ち震えながらカインのすべてを受け入れ続けた。
 満ち足りた潮が引き、新しい朝が明けて行く。

 二人の目前に、最後の戦いが迫っている。

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魔王に抱かれた私……59

魔王に抱かれた私――優美香

59、潮の行方・2

 エーベルは立ち上がり、耳を澄ませた。自分たちが暮らしていた宮殿の隣に意識を向ける。教会のあった場所は、瓦礫だけになっていた。瞼を閉じれば、何人かの文官と教会長、神職に就く魔術師たちの気配がする。きっと集団で、ここまで移動する手段を考えているに違いない。
 エーベルは横に座っているフランが、こちらを見上げているのに気がついた。
「本当に、みんな無事なのね?」
 彼はわずかに目尻を下げた。
「ああ」
 彼女は一瞬、エーベルから視線を外す。しかし、すぐに彼を見上げた。
「宮殿の同僚や先輩たちの様子、視えるの?」
「安心して。さっきも言ったけど、レフティに抵抗しない限り、危害は与えられてはいない。きみの心配している人たちは、賢いから上手に振舞っている。全員、無事だ」
「そう」
 フランは立ち上がり、おぼつかない足取りで小屋の扉側へ歩いていく。見ると、焚き火の跡を片付けはじめている。彼女は胸当ての付いたエプロンに、燃えかすを丁寧に集めていた。
「手伝うよ」
「いいわよ、どうせすることないし」
「可愛くないな」
 彼女はエーベルが軽く言った言葉に、顔をこわばらせて横を向いた。
「ごめん」
 フランは黙々と燃えかすを集めてから、彼と目を合わさずに尋ねた。
「これ、どこに捨てたらいいの」
 捨てるもなにも、念じれば消えるものだ。エーベルは彼女に黙って笑いかけ、エプロンに集まった燃えかすに目を移す。
 瞬間、エプロンの上は空っぽだ。フランはなにひとつない、煤けて真っ黒になったエプロンを呆然と見つめた。
「どこに行っちゃったの、あれ」
「さあ」
 エーベルは彼女の手に目を留める。灰で汚れてしまった指先を見た時、心臓が大きく高鳴る自分を感じた。フランは彼が深緑色の瞳が大きく開き、こちらの手指を見ていることに気がつく。彼女は即座に、きびすを返した。
「手が洗えないって不便ね」
 フランの背中から、優しい声がする。
「見せてごらん」
 彼女はなにも言えなくなった。戸惑っているうちに、いつのまにかエーベルは目の前にいる。彼はフランをまっすぐ見つめながら、彼女の両手を取った。
「な、なにす……」
「働いている人の手だよね、きみの手は」
 フランは彼から目を背けた。
「日焼け跡も取れないし指の形も悪いし、爪も」
「わたしはそういう人が好きだよ」
 彼女がエーベルを、悲しそうな目で見返す。
「気休めでもうれしいわ、ありがとう」
「気休めじゃないよ」
 エーベルは激しく高鳴る鼓動を押さえ、なるべく息遣いを鎮めて彼女の手を撫でた。フランは彼の掌からもどかしそうに手を外そうとする。
 しかしエーベルの腕と胸板が、逃げようとする彼女を抱きすくめた。フランは目をしばたたかせ、彼の身から剥がれようと試みる。
 彼は腕に力を篭めた。
「お、おかしいよ。エーベル。こんなの」
「……黙ってろ」
 彼女が知っているエーベルの口調と違い、低く切なそうな言葉が聴こえる。フランが彼を見上げると、ぎゅっと目を瞑り、一所懸命になにかを堪えているような気がした。ふっ……と彼女は、体から力を抜いた。
 エーベルが、そっと唇を近づけようとする。フランが泣きそうな顔を背けた。
「そんな慰め方、おかしいよ」
 彼の頭の芯が、ぐらりと外れる。
「違う……」
 無理矢理フランにくちづける。思うまま、腕に力を込めて抱きしめていく。なんと言えば、この人に心が伝わるだろう。どうすれば、この人を癒せるのだろう。
 エーベルは逃れようとし続ける彼女をきつく抱きしめたまま、膝を崩している。長いくちづけは、破裂しそうな心臓に我慢を強いたものだ。
「どこにも行かせないからな」
 唇を離して一言、言ったきり。彼はふたたびフランの唇を強引に奪い続けた。
「だって……! 変、だよ、エ、エー……っ」
「黙ってろと言ったはずだ」
 エーベルはフランの背中を庇いながら、彼女を地面へと押し倒した。小さな悲鳴がする。彼はなおもフランを胸板で押し潰しながら、くちづけを繰り返した。自分の吐息が荒くなってくるのがわかる。
 ふと彼が顔を上げると、目を閉じて頬を真っ赤にしたフランがいた。どうにかして腕で、こちらを跳ねのけようとしているようだ。
 彼は頬を緩めた。
「無駄だよ、フラン」
 えっ、と怯えた彼女をぴったりと抱きしめ、エーベルは目を閉じた。次の瞬間、フランは驚き、気づく。ここは小屋の中だと。そして彼が、こちらを抱きかかえたまま、自分の下敷きになっていることも。
 あっ、と彼女が声を出す前に、エーベルはふたたびこちらを胸板の下に敷いていた。彼の唇だけがフランの唇に、何度も何度も押し当てられる。
「さ、さっき……っ。か、かわ……くないって……っ」
 両腕を開かれたフランは、上から降ってくる彼の唇から逃げ続けようとする。エーベルは彼女を抱きすくめたまま、無言で髪や額、頬に唇を押し当て続けた。
「や、やあ……っ」
 フランの心に、レフティの面影が不意に浮かぶ。
 ――あの人も確か、こんな風に。
 初めて彼に抱かれた夜も、なしくずしのままで流されたと思い出す。途切れ途切れに浮かぶ記憶の断片が、彼女の気持ちを締めつけた。
 エーベルの唇があちこちに降ってくるたび、あの夜の情景が浮かんでくる。思い返せば奈落の底に突き落とされそうだ。……しかし彼女は気づく。
 エーベルは、唇を押し当てる以上のことはしてこない。
 今ならまだ、友だちに戻れるかもしれない。そう思った彼女は必死で目を開け、彼に懇願した。
「やめ……」
 エーベルは彼女の心を知っている。彼はかぶりを振り、フランの額にくちづけた。
「わたしはあの男と違う」
 フランは目を閉じた。ふたたび涙が流れて止まらなくなる。
 エーベルは彼女にかける力を緩めた。それから丁寧に、フランの涙を唇で拭いながら告げた。
「ねえフラン。……誰かの代わりになんか、ならなくていいんだよ」
 意味を悟った彼女は、堰を切ったように声を上げて泣き出した。エーベルにはフランの心情が、痛いほどわかる。
 彼は相手にくちづけるのを止め、抱きしめながら髪を撫で続ける。辛抱強くフランの泣き止むまで、そのままの姿勢で待っていた。ほどなくして、フランがしゃくりあげながら、こちらを見ていることに気づく。
「慰めてくれて、ありがとう……」
 エーベルはフランを見つめた。
「こんなこと慰めで、わたしにはできない。わたしはカインさまのように、強い理性を保っていられるような男ではないんだ」
 相手の息を吸う音が大きく震える。彼は言った。
「わたしも、わたし自身を見てほしい……」
 そして彼はフランと唇を合わせ、静かに舌を差し伸べる。彼女の背中が大きく跳ねようとするのを、しっかりと抱きかかえながら。
 エーベルは彼女から唇を離し、そっと右手を重ねて指を絡めた。
「あなたが愛しいよ」
 彼はそう言って、フランにふたたび唇を重ね合わせる。彼女は体を固くしながらも、エーベルの舌を受け入れた。
 エーベルが唇を離すと、フランがぽつんと言った。
「友だちだと思っていたのに」
 彼はなにも言わず、腕の中の女を抱きしめた。
 ふたりは互いに怯えながら、舌を絡め合わせる。静かな小屋の中、何度か唇を離す音がした。彼はフランの首に唇を這わせ、丁寧に柔らかい素肌を舌で撫でていく。びくん、と彼女の体が震えるたびに、右手を固くつなぎ、左手では髪や頬を撫でている。
 エーベルはフランの素肌に唇をつけながら、ワンピースもエプロンを引き剥がした。そして、乳房を覆うブラジャーも。
 彼は小刻みに震える彼女の両の乳房を目にして、自然と吐息が荒くなる。片手で乳房を包んだエーベルは、もう片方の乳房に吸い付いた。
「ああ……」
 フランが幾度も身を震わせながら、諦めたような声を上げる。逃れようとしても、エーベルの手指や唇が赦してくれないのだ。
 今までに経験したことのない、優しい心が伝わってくる愛撫だった。エーベルから伝わるすべてが、フランを激しく怯えさせ、萎縮させていく。
「も、もう、怖い……」
 彼女はそう言って身をこわばらせながら、目を開けた。エーベルは柔らかくフランの額に触れる。
「怖いままでいい。今から『彼』を忘れさせてみせるから」
 彼はあらためて、愛おしい女にくちづけをした。レフティと真逆のセックスをしようと思ったら、決してできないことはない。
 しかしエーベルは優しく、彼女の柔らかい体に触れたかった。フランが体を震わせるたびに、きつく抱きしめていたかった。
 彼は時間をかけてフランの体のこわばりをほどいていくごと、つないでいる手に力を篭めた。やがてフランの息が細かく上がっていく。
 いつしかエーベルはぬかるんだ彼女の大事な所を、唇と指先で丁寧に愛でている。
 既にフランの意識は激しく混濁し続け、壊れかけていた。彼女はいつから堪えきれない鳴き声を上げていたのか、思い出せないほど彼に翻弄されている。
「あぁ! ああ……ぁっ、あ! あ……あああ、あはあぁぁぁ……っ!」
 小屋の中には、何度もフランの声が響いていた。
 彼女は優しさのこもった愛撫を延々と受け、何度か呻き声を上げて尽きていた。フランのすっかり壊れてしまった心に、あたたかい声が響く。
「おいで。フラン」
 エーベルの背中に彼女の腕が緩く巻きつく。彼は互いの素肌がしっとりと重なりあったのを確かめた後、ゆっくりとフランの中に入っていった。
 エーベルは彼女の体の奥深くまで自分を沈めた。フランは押し寄せる快感に耐え切れない。身を大きく震わせ、エーベルにしがみつく。
 彼は鳴き声を吸い取るように唇を重ねる。そしてエーベルは自分の心が彼女を欲しがるのに任せ、力強くフランを導き続けた。
「もっとわたしに堕ちてこいよ、もっとだ」
「あああっ、あぁ! も、もうだめ、もうだめえっ、あ、ああああん! あぁ……っ!」
 エーベルは彼女をがっしり組み敷いたまま、乳房を弄び、うなじを味わう。フランの体が火照って、真っ赤に染まっていた。彼もまた、気が狂いそうな快感に全身を貫かれている。彼女は幾度も、エーベルによって呻きの果てに弛緩した。
 彼は射精の時が近いことを感じた。胸の下で、がくがく震えるフランの髪を優しく撫でる。
「あなたの未来も、わたしがもらうよ。いいね」
 エーベルは無抵抗に成り果てたフランの体に、大きくうねりをつけて幾度も己を叩きつけた。彼女の唇から漏れる悲鳴は、彼の唇と舌が絡め取っていく。逃れる先をなくした快感が、フランの体の隅々で爆ぜる。
「ん、んぅぅーーーーっ!」
 愛しい女の呻き声が至福の響きに聴こえる。
 エーベルは痺れるような快感の中、彼女の体内の奥深くに真っ白い精を注ぎ込む。フランは激しく弛緩しながら気を失った。
 彼はそのまま、彼女の頬を軽く掌で包みこんでいた。やがてフランの浅い呼吸が戻ってきたことを感じ、愛おしむように腕や肩に触れていく。
 エーベルの耳に、かぼそい声が聴こえる。
「あ……。あたたかい。エーベルの、からだ……」
 エーベルは微笑み、最後まで聞き取らずに丁寧に彼女と舌を絡めた。自分がまだ深く沈む彼女の体は、熱いうるみを湛えて震え続けている。
「我慢できない……」
 彼はこらえきれずに、ゆっくりと動き出していく。
「あ、も、もう……っ! あぁぁっ! そ、そん……っ! あううぅっ!」
「……なに?」
「き、きつい……っ、ああん! きついよぅ……っ! あ、ああっ!」
「これが……。わたしなんだよ」
 彼の言葉を耳から流されたフランの体が、深く諦めたように脱力する。彼女はふたたび、彼の力強い優しさにまみれながら堕ちていく。
 エーベルは何度もフランに愛情のしるしを放ちながら、あたらしく生まれ変わっていく自分を感じた。

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魔王に抱かれた私……58

魔王に抱かれた私――優美香

58、潮の行方・1

 エレーナの眼前、額を地に着けたカインがいる。彼は女王に告白を続けていた。
「あの日、わたしとエーベルはルーンケルンの最南端にいました。海に散らばる諸島のうち、この大陸から一番離れたところです」
「そこに……わたしの曽祖父もいたのですね」
 彼はエレーナの問いに地に額をつけたまま、声を詰まらせる。
「……わたしが国中の呪術師を扇動して人心を翻弄し、曽祖父さまの失脚を企てました」

 ・・・

 当時のルーンケルンは、貧しいながらも平和そのものの国だった。東西の大陸との行き来もあまりなく、人々は素朴に日々の暮らしを過ごしていた国だったのだ。
 そこに魔王は目をつけた。四方を海に囲まれた海洋国家を上手く使えば、新天地として未来永劫に栄えさせることができる。既に東の大陸を手中に収めた魔王に、迷いはなかった。
 ルーンケルンを取り囲む海は、天然の城壁になる。外敵の脅威は受けにくい。それだけでも十分な価値があった。
 それ以上にカインには、なぜかルーンケルンには心が傾いていた。地図を見るたびに、いつも不思議な衝動にかられていた。一刻も早く、あの大地や海を手に入れなければならない。あの地を踏めば、大きくなにかが開けそうな気がする、と。
 側近でもあるエーベル以外には、心を悟られぬよう綿密な準備を重ねた。東西から呪術師を集結させ、人心を扇動させるように。
 そして遂にルーンケルン大陸の国民が皆、国王に背くことに成功させた。細々と交易をしていた東西の王室も魔王によって潰えている。
 誰ひとりとして、ルーンケルン王族の味方になる人間はいないと思われていた。言うなれば袋の鼠だ。
 機は熟した。
 そう考えたカインは水晶玉を覗き込み、うっすらと口元を緩める。
「ほう、なんとか自力で島にたどり着いたと見える」
 国王家族は高台の宮殿から暗殺者の追っ手を逃れ、命からがら諸島最南端に着いていた。大きな風が吹けば、あっけなく転覆してしまいそうな漁船が岸辺に泊まっている。
 水晶玉は長く白い砂浜を映していく。腰布だけを巻きつけた背の高い痩せた男が、後ろに続く女を気遣いながら歩む。今にも折れそうな細い背中の女は、両手になにかを抱いているようにも見えた。
 エーベルがカインと玉を見比べ、含み笑いを交わした。
「こんな面倒なことをしなくても、すぐに殺そうと思えば殺せるのに。あなたは残酷ですね」
「命乞いをする人間の姿を見るのが興味深いよ。追い詰めれば追い詰めるほど、彼らの本性が現れる」
「本性、ねえ」
 カインは目を細め、底意地の悪い笑みを浮かべた友を見る。|生々世々《しょうじょうよよ》、自分と共にあらゆる快楽を貪り尽くしてきた男だ。互いの考えは手に取るようにわかる。
「そろそろ『あの男』も出て来る頃だと思いますよ? ほら、あの船の後ろ、誰も乗っていない幽霊船が流れ着いている」
 エーベルが愉快そうに水晶玉の中を指差した。カインが眉をひそめて海辺を見ると、確かに国王たちが乗ってきた漁船と同じような船が打ち上げられている。
「人間のくせに、やたら意志だけは固い『戦士』だったか。まさか、本当に亡霊になどなっていないだろうな」
 エーベルが目を細める。
「船底に隠れていたりするかもしれませんよ」
「まさか」
 彼もまた、戦士など歯牙にもかけぬと思っていた。
「馬鹿馬鹿しい、なにが戦士だ。国王もろとも潰してやるわ」
 カインは吐き捨てるように言い残し、エーベルに目線を流して消える。残された友は後を追った。

 二人は空の上から、砂浜を歩く国王親子を見ている。女王は白い布にくるんだ赤子を抱いていた。
 いつしか国王親子の周りには、老いた島民たちが集まってきている。彼らの身なりは貧しかったが、一人ひとりが優しく国王と妻をいたわっていた。
 島民たちが王のために用意しているらしい住居の方角へと、皆が移動しはじめてからまもなく。カインとエーベルは、皆の前に音もなく現れる。
 カインは腰の剣を抜き、民の集団の中にいる国王を見据えた。
「ルーンケルン国王だな?」
 国王は茶色の瞳を大きく見開く。
「おまえは……まさか?」
「そう、その『まさか』だよ。おまえが待ち焦がれていた魔王だ」
 カインが言った途端、島民たちは青ざめて悲鳴を上げた。逃げようとするが、集団の後方にはエーベルが剣を構えている。
 国王は叫んだ。
「民には、なんの罪もないではないか!」
 エーベルが鼻を鳴らした。
「おまえの巻き添えになって死ぬんだよ、さっさと我々に国を渡さなかった罰だ」
 ひとりの男が猛然とエーベルに喰ってかかる。
「陛下を騙してきたのは、おまえらなんだな!」
 彼は物も言わずに、その男の体の横から斬りつける。悲鳴を上げる間もなく、男は地に倒れた。
 恐怖に怯える一行に、魔王の冷たい声が聞こえる。
「歯向かう者は、こうなるんだ。死にたくなければ王に願えよ。ルーンケルンを、魔族の物にしてくれとな」
 国王が島民たちを押しのけ、カインを憤怒の形相で睨みつけた。
「わたしの民を貶めた罪は許さぬ!」
 地を踏みしめたカインは国王を眺め、せせら笑う。
「清廉潔白だけで、のうのうと生きてこれたのが幸運だったということだ。些細な悪意さえも見抜けない性分と、己の運命を恨むがいい」
 ぐっと怒りをこらえた国王の、茶色い髪が風になびく。その時、赤子が火のついたように泣き出した。国王がちら、と背後に意識だけを移した時だ。
「喰らえ!」
 虚を突いたカインが駆け抜けた。次の瞬間、国王の首が飛ぶ。辺りには血しぶきが飛び散った。遺された島民と女王が叫び、逃げ出していく。
 だが、エーベルは剣の刃先を女王の額へと、ぴたりと据えた。彼女は胸の赤子を抱きしめる。エーベルが、こちらにやってきたカインに身を譲る。
 カインが女王と赤子を見下ろす。
「我らの慰み者になれば、お前も赤子も助けてやろう」
「夫と共に殺すがいい!」
 彼は腰を屈め、女王の顎をつかんだ。
「いい度胸だ。赤子と一緒に夫の元へ送ってやる」
 カインがそう言い、女王の胸に抱かれた赤子を見た。まぶしそうに彼を見つめ、目を細めていた赤子が突然に笑いかけて片手を伸ばす。
 魔王の時間が止まった。
 ――この子は!
 ほんのわずかな間に、彼の流転の魂の記憶が開く。今までにたった一人、自分を怖がらずに無条件に笑いかけてくれた人がいた。ほのかに灯った、温かくて照れくさい気持ちを味あわせてくれた人がいた。
 たった一人「どんな災いもはね返す強い子になるように」と、他者を護る術がないのにもかかわらず心から祈った人がいた。
 エーベルがカインの異変に気づく。振り向いた彼は魔王と赤子を見て、すぐに悟った。
「おまえが、まさか。こんな形で」
 それきり絶句した魔王の隣、なにかが風を切る音がした。一拍置いて、エーベルの呻く声がする。カインは顔を上げた。
 そこには呆然とした友が、右胸から長く突き出た血に濡れた矢のシャフトを見ている。
「なっ……!」
 反対側を見ると浜辺を背にした戦士がいた。彼は素早く背中から矢を取り、こちらに向けて弓を引き絞っている。
 仁王立ちのエーベルは忌々しそうに戦士を睨む。彼は背中に手を回し、矢羽根からそれを引き抜こうとした。しかし、次の矢が彼の喉笛を貫いていく。
「エーベル!」
 カインが叫んで女王を突き飛ばし、大きく手を振り上げた。魔王の手にはクロスボウが握られる。
 勢い良く突き飛ばされた彼女の腕から、赤子が白い砂の上に放り出される。カインは女王に思わず叫ぶ。
「伏せろ!」
 力尽きて倒れるエーベルの胸板が、立ち上がろうとした女王の背中を押し潰す。前方を見れば、戦士がじりじりと間を詰めていた。
「おのれ……!」
 魔王の視界に、赤子が女王にすがりつこうとしている姿が見える。彼は赤子を守るように、大きく一歩後ろに下がる。
 カインは相手に向かって叫んだ。
「女子供を、ここから逃がしてからだ! 我々の対決に邪魔な者は要らぬ!」
 近寄る戦士が、高らかに笑う声が大地に響く。
「なにを今さら善人ぶってやがる! その女子供も今まで殺してきた貴様が!」
 カインは戦士の言葉に驚き、彼を凝視する。魔王の頭の中では、様々な感情が目まぐるしく回っていた。

 善人……?
 ああ、そうか。あの戦士のように他者を守り、命を捨てることも惜しまぬことを善と呼ぶのか。

 もうこれで、わたしも尽きるのだろう。わたし自身の、この子にかけていた祈りによって。

 今度こそ、わたしは生まれ変わりたい。今度こそ。

 なぜかカインの目から熱いものが、はらはらとこぼれ落ちる。訳もわからぬうち、彼は片手でエーベルの体と赤子を抱き寄せていた。
 背後では戦士が剣を抜く音がする。
「次に生まれてくる時は、本当の善人になりたい。善人になった姿で、おまえたちとふたたび、めぐり逢いたい」
 ――どんな災いにも負けない、強い子になりますように――

「善人になりたいなどと、笑わせるな!」
 つぶやいた魔王の背中を、戦士が深々と切り裂いていく。

 ・・・

 山の高台に朝陽が昇りはじめている。瞼を開けたカインは、触れている地面の温度が変わっていたことに気づく。
 目の前にはエレーナの白く細い足首があった。彼の耳に、女王の小さな声がする。
「顔を上げてください、カイン」
 カインは唇を結び、顔を上げた。エレーナが目に涙をいっぱい溜めて、こちらを見ている。彼は両膝を着いたまま後ずさった。
「わたしは奪った赤子が亡くなった時に、心に穴が開きました。はじめて感じた悲しみでした。人の気持ちが理解できたと思ったのも束の間、魔王として世界に君臨することを繰り返していただけの男です。あなたの曽祖父さまを討った時、あの時の赤子がすぐそばにいることに気がつかなければ、今生も同じ過ちを繰り返していたでしょう」
 エレーナ女王がカインに大きくかぶりを振って、いざり寄る。
「……ずっと前から、カインはわたしの側にいてくれています」
 彼は深くうなだれた。
「デメテール陛下に目通りして今のあなたにお会いした時に、魔王が覚醒したのです。今でも覚えています。陛下に『チャンスをくださいまして、ありがとうございます』と申し上げたことを」
「チャンス……?」
「そう。わたしは善人になりたかった。使える力をすべて封印して、普通の男としてあなたをお守りしたかった。今度こそ、生まれ変わりたいと願ったんです。自ら立てた誓いを大きく破った戴冠式の日から、そんなことを願う資格を失ったのかもしれません」
 カインが力なく立ち上がり、エレーナに背中を向けた。
「虫がいいことは承知しています。わたしとエーベルが、あなたの曽祖父さまを陥れてルーンケルン王族の血脈を根絶やしにしようと企んだ。なによりも、その遥か前に……ご両親を殺め、あなたを兄から引き剥がした。わたしが攫ってしまわなければ、わたしと出会ってしまわなければ、当時から天命を全うできる人生を送れていたのかもしれない。わたしの祈りが、それから先のあなたの輪廻を邪魔しなかったかもしれない。わたしこそ、あなたを裏切り続けてきた元凶なのだと思います。レフティがわたしを恨み続けても無理はない」
 彼は深く頭を垂れた。やがて背後から、あたたかくこちらを包み込む存在を感じる。彼女は、カインの背中に強く頬を押し当てた。
「……贖罪の気持ちだけでは、父やわたしの近くには居られなかったのではないですか?」
 振り向いた彼をエレーナが、涙をぽろぽろこぼして見上げていた。カインは俯き、掌を額に当てる。
「今でもわからないのです。なぜ、誰からも恐れられていた魔王に、あの赤子だけが笑いかけて懐いてくれたのか」
 彼女はまばたきをし、無理矢理に笑顔を作る。
「それも、わたしたちの必然なのかもしれません」
 二人は見つめ合い、それから静かに抱き合い続けた。

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魔王に抱かれた私……57

魔王に抱かれた私――優美香

57、告解・2


 エレーナの眼前、額を地に着けたカインがいる。彼は女王に告白を続けていた。
「あの日、わたしとエーベルはルーンケルンの最南端にいました。海に散らばる諸島のうち、この大陸から一番離れたところです」
「そこに……わたしの曽祖父もいたのですね」
 彼はエレーナの問いに地に額をつけたまま、声を詰まらせる。
「……わたしが国中の呪術師を扇動して人心を翻弄し、曽祖父さまの失脚を企てました」

 ・・・

 当時のルーンケルンは、貧しいながらも平和そのものの国だった。東西の大陸との行き来もあまりなく、人々は素朴に日々の暮らしを過ごしていた国だったのだ。
 そこに魔王は目をつけた。四方を海に囲まれた海洋国家を上手く使えば、新天地として未来永劫に栄えさせることができる。既に東の大陸を手中に収めた魔王に、迷いはなかった。
 ルーンケルンを取り囲む海は、天然の城壁になる。外敵の脅威は受けにくい。それだけでも十分な価値があった。
 それ以上にカインには、なぜかルーンケルンには心が傾いていた。地図を見るたびに、いつも不思議な衝動にかられていた。一刻も早く、あの大地や海を手に入れなければならない。あの地を踏めば、大きくなにかが開けそうな気がする、と。
 側近でもあるエーベル以外には、心を悟られぬよう綿密な準備を重ねた。東西から呪術師を集結させ、人心を扇動させるように。
 そして遂にルーンケルン大陸の国民が皆、国王に背くことに成功させた。細々と交易をしていた東西の王室も魔王によって潰えている。
 誰ひとりとして、ルーンケルン王族の味方になる人間はいないと思われていた。言うなれば袋の鼠だ。
 機は熟した。
 そう考えたカインは水晶玉を覗き込み、うっすらと口元を緩める。
「ほう、なんとか自力で島にたどり着いたと見える」
 国王家族は高台の宮殿から暗殺者の追っ手を逃れ、命からがら諸島最南端に着いていた。大きな風が吹けば、あっけなく転覆してしまいそうな漁船が岸辺に泊まっている。
 水晶玉は長く白い砂浜を映していく。腰布だけを巻きつけた背の高い痩せた男が、後ろに続く女を気遣いながら歩む。今にも折れそうな細い背中の女は、両手になにかを抱いているようにも見えた。
 エーベルがカインと玉を見比べ、含み笑いを交わした。
「こんな面倒なことをしなくても、すぐに殺そうと思えば殺せるのに。あなたは残酷ですね」
「命乞いをする人間の姿を見るのが興味深いよ。追い詰めれば追い詰めるほど、彼らの本性が現れる」
「本性、ねえ」
 カインは目を細め、底意地の悪い笑みを浮かべた友を見る。|生々世々《しょうじょうよよ》、自分と共にあらゆる快楽を貪り尽くしてきた男だ。互いの考えは手に取るようにわかる。
「そろそろ『あの男』も出て来る頃だと思いますよ? ほら、あの船の後ろ、誰も乗っていない幽霊船が流れ着いている」
 エーベルが愉快そうに水晶玉の中を指差した。カインが眉をひそめて海辺を見ると、確かに国王たちが乗ってきた漁船と同じような船が打ち上げられている。
「人間のくせに、やたら意志だけは固い『戦士』だったか。まさか、本当に亡霊になどなっていないだろうな」
 エーベルが目を細める。
「船底に隠れていたりするかもしれませんよ」
「まさか」
 彼もまた、戦士など歯牙にもかけぬと思っていた。
「馬鹿馬鹿しい、なにが戦士だ。国王もろとも潰してやるわ」
 カインは吐き捨てるように言い残し、エーベルに目線を流して消える。残された友は後を追った。

 二人は空の上から、砂浜を歩く国王親子を見ている。女王は白い布にくるんだ赤子を抱いていた。
 いつしか国王親子の周りには、老いた島民たちが集まってきている。彼らの身なりは貧しかったが、一人ひとりが優しく国王と妻をいたわっていた。
 島民たちが王のために用意しているらしい住居の方角へと、皆が移動しはじめてからまもなく。カインとエーベルは、皆の前に音もなく現れる。
 カインは腰の剣を抜き、民の集団の中にいる国王を見据えた。
「ルーンケルン国王だな?」
 国王は茶色の瞳を大きく見開く。
「おまえは……まさか?」
「そう、その『まさか』だよ。おまえが待ち焦がれていた魔王だ」
 カインが言った途端、島民たちは青ざめて悲鳴を上げた。逃げようとするが、集団の後方にはエーベルが剣を構えている。
 国王は叫んだ。
「民には、なんの罪もないではないか!」
 エーベルが鼻を鳴らした。
「おまえの巻き添えになって死ぬんだよ、さっさと我々に国を渡さなかった罰だ」
 ひとりの男が猛然とエーベルに喰ってかかる。
「陛下を騙してきたのは、おまえらなんだな!」
 彼は物も言わずに、その男の体の横から斬りつける。悲鳴を上げる間もなく、男は地に倒れた。
 恐怖に怯える一行に、魔王の冷たい声が聞こえる。
「歯向かう者は、こうなるんだ。死にたくなければ王に願えよ。ルーンケルンを、魔族の物にしてくれとな」
 国王が島民たちを押しのけ、カインを憤怒の形相で睨みつけた。
「わたしの民を貶めた罪は許さぬ!」
 地を踏みしめたカインは国王を眺め、せせら笑う。
「清廉潔白だけで、のうのうと生きてこれたのが幸運だったということだ。些細な悪意さえも見抜けない性分と、己の運命を恨むがいい」
 ぐっと怒りをこらえた国王の、茶色い髪が風になびく。その時、赤子が火のついたように泣き出した。国王がちら、と背後に意識だけを移した時だ。
「喰らえ!」
 虚を突いたカインが駆け抜けた。次の瞬間、国王の首が飛ぶ。辺りには血しぶきが飛び散った。遺された島民と女王が叫び、逃げ出していく。
 だが、エーベルは剣の刃先を女王の額へと、ぴたりと据えた。彼女は胸の赤子を抱きしめる。エーベルが、こちらにやってきたカインに身を譲る。
 カインが女王と赤子を見下ろす。
「我らの慰み者になれば、お前も赤子も助けてやろう」
「夫と共に殺すがいい!」
 彼は腰を屈め、女王の顎をつかんだ。
「いい度胸だ。赤子と一緒に夫の元へ送ってやる」
 カインがそう言い、女王の胸に抱かれた赤子を見た。まぶしそうに彼を見つめ、目を細めていた赤子が突然に笑いかけて片手を伸ばす。
 魔王の時間が止まった。
 ――この子は!
 ほんのわずかな間に、彼の流転の魂の記憶が開く。今までにたった一人、自分を怖がらずに無条件に笑いかけてくれた人がいた。ほのかに灯った、温かくて照れくさい気持ちを味あわせてくれた人がいた。
 たった一人「どんな災いもはね返す強い子になるように」と、他者を護る術がないのにもかかわらず心から祈った人がいた。
 エーベルがカインの異変に気づく。振り向いた彼は魔王と赤子を見て、すぐに悟った。
「おまえが、まさか。こんな形で」
 それきり絶句した魔王の隣、なにかが風を切る音がした。一拍置いて、エーベルの呻く声がする。カインは顔を上げた。
 そこには呆然とした友が、右胸から長く突き出た血に濡れた矢のシャフトを見ている。
「なっ……!」
 反対側を見ると浜辺を背にした戦士がいた。彼は素早く背中から矢を取り、こちらに向けて弓を引き絞っている。
 仁王立ちのエーベルは忌々しそうに戦士を睨む。彼は背中に手を回し、矢羽根からそれを引き抜こうとした。しかし、次の矢が彼の喉笛を貫いていく。
「エーベル!」
 カインが叫んで女王を突き飛ばし、大きく手を振り上げた。魔王の手にはクロスボウが握られる。
 勢い良く突き飛ばされた彼女の腕から、赤子が白い砂の上に放り出される。カインは女王に思わず叫ぶ。
「伏せろ!」
 力尽きて倒れるエーベルの胸板が、立ち上がろうとした女王の背中を押し潰す。前方を見れば、戦士がじりじりと間を詰めていた。
「おのれ……!」
 魔王の視界に、赤子が女王にすがりつこうとしている姿が見える。彼は赤子を守るように、大きく一歩後ろに下がる。
 カインは相手に向かって叫んだ。
「女子供を、ここから逃がしてからだ! 我々の対決に邪魔な者は要らぬ!」
 近寄る戦士が、高らかに笑う声が大地に響く。
「なにを今さら善人ぶってやがる! その女子供も今まで殺してきた貴様が!」
 カインは戦士の言葉に驚き、彼を凝視する。魔王の頭の中では、様々な感情が目まぐるしく回っていた。

 善人……?
 ああ、そうか。あの戦士のように他者を守り、命を捨てることも惜しまぬことを善と呼ぶのか。

 もうこれで、わたしも尽きるのだろう。わたし自身の、この子にかけていた祈りによって。

 今度こそ、わたしは生まれ変わりたい。今度こそ。

 なぜかカインの目から熱いものが、はらはらとこぼれ落ちる。訳もわからぬうち、彼は片手でエーベルの体と赤子を抱き寄せていた。
 背後では戦士が剣を抜く音がする。
「次に生まれてくる時は、本当の善人になりたい。善人になった姿で、おまえたちとふたたび、めぐり逢いたい」
 ――どんな災いにも負けない、強い子になりますように――

「善人になりたいなどと、笑わせるな!」
 つぶやいた魔王の背中を、戦士が深々と切り裂いていく。

 ・・・

 山の高台に朝陽が昇りはじめている。瞼を開けたカインは、触れている地面の温度が変わっていたことに気づく。
 目の前にはエレーナの白く細い足首があった。彼の耳に、女王の小さな声がする。
「顔を上げてください、カイン」
 カインは唇を結び、顔を上げた。エレーナが目に涙をいっぱい溜めて、こちらを見ている。彼は両膝を着いたまま後ずさった。
「わたしは奪った赤子が亡くなった時に、心に穴が開きました。はじめて感じた悲しみでした。人の気持ちが理解できたと思ったのも束の間、魔王として世界に君臨することを繰り返していただけの男です。あなたの曽祖父さまを討った時、あの時の赤子がすぐそばにいることに気がつかなければ、今生も同じ過ちを繰り返していたでしょう」
 エレーナ女王がカインに大きくかぶりを振って、いざり寄る。
「……ずっと前から、カインはわたしの側にいてくれています」
 彼は深くうなだれた。
「デメテール陛下に目通りして今のあなたにお会いした時に、魔王が覚醒したのです。今でも覚えています。陛下に『チャンスをくださいまして、ありがとうございます』と申し上げたことを」
「チャンス……?」
「そう。わたしは善人になりたかった。使える力をすべて封印して、普通の男としてあなたをお守りしたかった。今度こそ、生まれ変わりたいと願ったんです。自ら立てた誓いを大きく破った戴冠式の日から、そんなことを願う資格を失ったのかもしれません」
 カインが力なく立ち上がり、エレーナに背中を向けた。
「虫がいいことは承知しています。わたしとエーベルが、あなたの曽祖父さまを陥れてルーンケルン王族の血脈を根絶やしにしようと企んだ。なによりも、その遥か前に……ご両親を殺め、あなたを兄から引き剥がした。わたしが攫ってしまわなければ、わたしと出会ってしまわなければ、当時から天命を全うできる人生を送れていたのかもしれない。わたしの祈りが、それから先のあなたの輪廻を邪魔しなかったかもしれない。わたしこそ、あなたを裏切り続けてきた元凶なのだと思います。レフティがわたしを恨み続けても無理はない」
 彼は深く頭を垂れた。やがて背後から、あたたかくこちらを包み込む存在を感じる。彼女は、カインの背中に強く頬を押し当てた。
「……贖罪の気持ちだけでは、父やわたしの近くには居られなかったのではないですか?」
 振り向いた彼をエレーナが、涙をぽろぽろこぼして見上げていた。カインは俯き、掌を額に当てる。
「今でもわからないのです。なぜ、誰からも恐れられていた魔王に、あの赤子だけが笑いかけて懐いてくれたのか」
 彼女はまばたきをし、無理矢理に笑顔を作る。
「それも、わたしたちの必然なのかもしれません」
 二人は見つめ合い、それから静かに抱き合い続けた。

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魔王に抱かれた私……56

魔王に抱かれた私――優美香

56、告解・1

 星が煌々とまたたく空の下。
 消えかけた焚き火の前、カインはエレーナと座っていた。二人は寄り添い、一枚の毛布を肩から掛け合っている。
「寒くありませんか」
「……大丈夫です」
 彼は返事を聞き、そっと女王の肩に腕を回す。エレーナが、しんみりとため息をついた。カインは思う。夜明けと同時にルーンケルンは、あらたな動乱に巻きこまれていくに違いない。
 もちろん首謀者はレフティだ。彼はレフティの変節に思いを馳せた。あの男は自分と性格は違っても、主君への忠誠心の厚い男であったはずだ、と。
 それがあればこそ、二人の表立っての諍いは無かったのだ。
「やはり、西の呪術師の差し金か」
 カインは隣で寝息をたてはじめたエレーナを、起こさぬように立ち上がる。そして、静かに伸びをした。
 彼はエレーナの戴冠式の日を思い出す。国を追放された呪術師が、満を持して彼女を襲撃に来た日。呪術師たちは思い知ったはずだ。その日に女王を絶命させることは不可能だと。
 いったんはあきらめた彼らが、宮中の人間に呪術の狙いを定めても不思議はない。そうすれば女王を簡単に篭絡できる。
 本来ならばエレーナの命は、そこで尽きているのが天命だったのだ。カインは思う。それを止めたのはわたしであり、エーベルだと。
 魔族には、遥か昔から定められていた禁忌があった。未来を予測し、都合よく改変することだ。誰よりも力を誇り、思うがままに力を奮う己に課せられた唯一の枷である。
 運命を破綻させ歴史を変えた者には、それなりの禍が降りかかる。カインはもはや、それに怯えてはいなかった。
 しかし彼は改めて、他者を守る術を持たないことを悔やむ。
 明らかにレフティが危険だということは、自分もエーベルも予期していた。彼に宛てる、わずかな力を使うことを躊躇したのは明らかに自分の|咎《とが》だ。
 歩き出したカインはこめかみを押さえ、崖の下を見下ろす。この場所からは、ルーンケルンの国土の様子が四方まで見渡せた。海の向こうから、かすかに陽の光が見える時刻が近づいている。
 心なしか、夜風に血の匂いが漂ってくるような気がした。
 もうすぐ太陽が緑の大地を照らすのに、この地の下で繰り広げられるのは殺戮なのか。彼は疼き出す胸を押さえる。近いうちレフティは、この場所さえも突き止めてくる。その前に、最善の手を打たなければならない。
 カインが振り返った時だ。エレーナの大きな黒い瞳が、まっすぐに彼を見ていた。こちらが口を開く前に、女王が唇を震わせる。
「夢を見ていました」
「……夢?」
 彼女はカインを凝視し、一気に言った。
「もしかしたら、わたしはずっと昔に、レフティの妹だったのではないですか? そして、あなたが戦士に背中を切り裂かれた時に、わたしはあなたの胸元にいませんでしたか?」
 カインは深く目を閉じ、開けた。
「仰る通りです」
 エレーナは声を詰まらせた。
「わたしたちの過去に関する文献がないかどうか、ずっと探していたのです。でも見つからなかった。なぜ、こんな風に争い合わなければならないのか。なぜ、お父さまが必死で築いてきた国が、こんな風になってしまったのか。過去の歴史からも学びたいと思っていたのです。でも、探し方も悪かったのかもしれませんが……一冊も見つからなかった」
 女王のひたむきな視線を受け、彼は無言で彼女の目の前に膝をつく。エレーナは言葉をつないだ。
「あなたは、すべて知っているのでしょう? 『わたしたちの始まり』を」
 カインは鳶色の瞳を伏せる。夜明け前の静寂に、彼の声がひっそりと響いた。
「エレーナさま、あなたの夢の通りです。嘘偽りはありません」
 彼は|訥々《とつとつ》と語りだす。
「わたしは欲望のままに転生してきた魔族の頂点にいました。何度、生まれ変わっても欲望が満たされることはなかった。自分の力を持ってしても尚、この人間界は面白かった。どんなに絶やしたように見えても、次から次へと人が営み暮らしていく生活は、わたしにはいつしか驚異にも感じられた……」

 今よりも、ずっと世界が混沌としている時。わたしはある貧しい村を襲ったのです。その時も手下と共に村を焼き討ちにし、人々の大事にしているものを奪い、陵辱の限りを尽くしていました。
 その夜、わたしやエーベルから逃れていた年端も行かない子供がいました。それがレフティでした。
 彼は胸に女の赤子を抱えていました。わたしもエーベルも後を追い、彼の肩を斬りつけて赤子を奪ったのです。
 わたしが地べたに放り出された赤子を拾い上げました。
 その時、不思議なことがありました。それまで激しく泣いていた赤子は泣き止み、わたしの顔を見て無邪気に笑ったのです。
 その赤子は……なんの縁もゆかりのない、しかも魔王に対して笑いかけ、自ら腕を伸ばしてくれたのです。
 わたしは違う人生を生きてみたかったように思います。魔王として生きることに飽き飽きしていたようにも思います。
 他者を傷つけ殺め、奪い続ける果てに、なにがあるのだろうと。ふと心をよぎる気持ちは、しかし日々の愉しみに流されていきました。
 なによりも力を誇示することが、わたしのすべてでした。支配できる土地を広げ、屈服させる存在を増やしていくことが、わたしの存在を証明できる唯一のものでした。
 レフティから奪い取った赤子は、まもなく亡くなりました。最期までわたしに抱かれることを選び、この首に腕を巻きつけて亡くなっていきました。
 その赤子は、あなたです。
 あなたは荒んだわたしに、まっすぐ笑いかけてくれた唯一の存在でした。
 それまで、わたしを見ると泣き叫ぶ赤子を引き裂いて食することが常だったのに、あなたは自ら笑いかけてくれたのです。泣くどころか、笑いかけてくれたのです。揺らいでいた心に、なにかをほんの少しだけ、芽生えさせてくれたのがあなただったのです。
 けれど、赤子はまるで風のように、わたしの前を去って行きました。 
 赤子を埋葬するときに、わたしは術をかけました。
「次に生まれてくる時は、どうか天命を全うできるように。どんな災いにも負けない、強い子になるように」と。
 しかし次も、その次も、わたしは魔王として転生しました。あなたがくれた灯りが消し飛んでいたことも、わたしはすっかり忘れておりました。あなたを奪われた子供が転生し、戦士としてわたしに挑んでくることも、面白くてなりませんでした。ただ、愉快でした。
 彼を何度も討ち取り、わたしはますます強くなって行きました。東の国をすべて手中に収め、ルーンケルンの国王を陥れ、首を撥ねた時は「これで全世界が、わたしの物になる」と思ったのです。

 夜が明けはじめていた。エレーナは目を伏せたカインを、じっと見ている。彼は額を地につけた。

「わたしがデメテール陛下の曽祖父さまの首を撥ねました。いよいよ、曾祖母さまと隣にいた赤子を根絶やしにすれば、この国土はわたしの物になる。そう思い、赤子の顔を見た時でした。過去に笑いかけてくれた赤子、わたしが『次に生まれてくる時は、どんな災いもはね返す強い子になるように』と、なけなしの術をかけた子だと知ったのです」
「……あなたは、わたしにそんな風に祈っていたのですか」

 |額《ぬか》づくカインに、遠い日々が去来する。

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魔王に抱かれた私……55

魔王に抱かれた私――優美香

55、たとえ、破滅の朝に見えても・2


 外にカインと女王を残し、小屋に入ったエーベルがつぶやく。
「できれば人の心の中を視たり、人の未来を変えることはしたくない……」
 彼は小さな吐息をつく。目の前には、毛布にくるまって静かに眠るフランがいた。彼女も疲れただろう、そう単純にエーベルは思う。
 考えてみればフランだけではなく、ルーンケルンの民も戸惑っていてもおかしくはない。暴走し続ける軍閥の人間たちの動きが今日限り、すっぱりと終わるはずがないのだ。
 ざわざわと草木が揺れる音が、小屋の粗末な窓から漏れ聞こえていた。エーベルは椅子に腰かけ、深く目を閉じる。
 その頃、レフティは自室に運ばれて寝かされていた。エレーナ女王の部屋で、突然に激しい頭痛に襲われて倒れたのだ。
 彼は固く目を閉じ脂汗を流しつつ、浅い眠りを漂っていた。それに、さきほどからずっと、ひとつの悪夢にうなされていた。人生の半分以上を振り回されている、あの夢だ。カインと転生のたびに、あいまみえることを宿命付けられた過去世の記憶、そのものの「悪夢」。
 レフティの遠い記憶が、無意識の中で目を覚ます。静かで穏やかだった生活が、魔王の率いる魔族の襲撃で破られてしまった夜だ。
 
 おぞましい光景が今まで見ていたどんな夢よりも、鮮明に広がっている。
 彼自身は悪夢の中をふわふわとさまよいながら、あらゆる光景をつぶさに眺めていた。

 叫び声と悲鳴が止まない、燃えさかる村の中。まだ十代にもなっていない背の低い俺が、赤ん坊の妹を抱いて走っている。
 妹は恐怖と空腹で、激しく泣いていた。俺は詫びながら、妹の口を掌で押さえて走り続ける。駈けている最中に聞こえてくるのは村人の声だ。
「女は隠れろ! 早くしろ! う、うわあああああーっ!」
 ばすっ、という音と共に、村人の声が断末魔の叫びに変わる。すぐに野太く冷たい声が重なって聞こえてくる。
「無駄な抵抗をすれば、この男のように体を八つ裂きにしてやるぞ!」
 俺は振り向く。するとそこには馬に乗り、村人の首を振り回して放り投げるカインの姿が確かに見える。
「畜生!」
 叫んだ俺の目の前に、音を立てて一頭の馬が立ちはだかる。見上げれば、冷たい海のように青く目を光らせるエーベルがいる。
 妹を抱いたまま伏せる俺の目の前、カインは不気味に笑みをこぼす。そして鎧姿の魔族たちに命ずるのだ。
「こいつの親を引きずり出せよ。目の前で首を撥ねてやれ。面白い見世物だ」
「やめろ!」
 願いはむなしく、両親はゴミのように殺される。無力な俺は恐怖におののきながら、見ているだけしかできない。彼らはさも楽しそうに家に火を付け、俺に言い放つ。
「けっ! なんにもない貧乏な家に住みやがって。ガキだけは、いっちょまえに二人も作ったんだな」
「おっ、こっちに若い女が隠れてやがる。溜まってるところに、いい餌だ」
「おまえら、こっちだ! こっちの方に若い女がいるぞ!」
 カインとエーベルが気を取られたように、手下の呼ぶ方向に行く。俺は妹を抱いて走り出す。しかし子供の足と馬の速さでは、とてもではないが比べ物にならない。
 やがてカインが俺の目の前に立っている。カインは不敵な笑みをたたえ、俺に言う。あいつの鳶色の眼が光る。
「その女の赤子をよこせ」
「お、女じゃない! 違う!」
 俺は何度も叫び続ける。しかし、後ろから右肩を深く剣で斬られていた。前に倒れる時、勢いで妹が地べたに転がって行く。投げ出されたショックで、赤ん坊が火のついたように泣き出した。
 激痛に耐え、首だけ後ろを振り向く。そこには剣を持ったエーベルが、愉快そうに微笑んでいる。
「なんなら腕ごと切り落としてやろうか? 子供だからと言って容赦はしない」
「男なら殺しておいたほうがいいかもな」
 カインは転がった妹を抱き上げ、目を細めた。

 ――なぜか、カインに抱き上げられた時、妹は泣き止んだんだ。……なぜだ?

「か、返せ。返してくれ! たった一人の妹なんだ!」
「うるせえガキだな」
 エーベルが俺を蹴飛ばす。カインが愉快そうに口元を緩める。その顔を見て、妹は愉しそうにはしゃぐ。

 夢を見ているレフティは、歯を食いしばる。
 なぜ? なぜおまえは、カインに抱き上げられて笑うんだよ……? そいつは魔王なんだぞ! この世でおまえの親を殺し、俺を斬りつけて嘲笑う魔王なんだぞ!

 ――レフティが叫んだ時、急に見ていた景色が暗くなった。眠りから目覚めようとする彼を、ふたたび記憶の風景が引きずり込んでいく。まるで、底のない沼に足を取られていくように。
 彼は、はじめて見る光景を凝視した。

 首が座るようになった妹が、はいはいをしながらカインにまとわりついている。
 レフティは夢を見ながら叫んでいた。
「なぜだ! なぜ、そいつに懐く!」
 魔王は幾分困った顔をして、妹を抱き上げる。エーベルが不思議そうな顔をして、カインを眺めているのがわかる。
「へっ、カインがパパかよ」
「わたしにも訳がわからぬ」
 レフティは絶望的な気持ちになってくる。どんなに叫んでも、あの場所に俺の声は届くことはないのだ。
 しかし、彼の心に疑念が湧いた。
 ――なぜ俺はこんな光景を観ている? これもカインの術なのか?
 うなされるレフティの額に脂汗が流れ落ちる。
 深く沈んだ意識の底では、言い訳をするようなカインと、無垢な笑みを絶やさず、きゃっきゃっと腕を彼の首に回す妹がいる。
 エーベルの声が聞こえる。
「あと十年も経ったら、おまえの嫁にすればいい。いや、この子なら……。十年も経たないうちに足を広げるかもしれないな」
「ば、馬鹿なことを言うな!」
「情でも移ったってのか、今までなら女の赤子は食ってたのに」
 カインが眉をしかめて、赤子のはだけた胸の上着を直す。レフティは愕然とした。
 いつから胸に大きなホクロができていた? しかも左の乳房の下だ。エレーナと同じ箇所?

 もしかしたら、俺の妹は?
 あの時から、カインだけでなくエレーナ女王とも運命の輪がつながっていたとでも言うのか?

「情が移るだなんて下等動物みたいなことが、ありえるはずがない」
 カインが仕方なく妹の頭を撫でている光景は、暗転して行く。レフティはふたたび、暗い無意識の海をさまよった。
 次に見た光景では、妹は死んでいた。カインに抱かれていた真っ赤な顔をしていた赤ん坊が、みるみるうちに真っ白い亡骸になっていく。
 レフティは妹に手を伸ばした。やはり、あの時に転んでも手を放すべきではなかったのだ。妹を殺したのはカイン、やはりおまえしかいない。
 彼が悔しさで唇を切れるほど噛んでいた時、カインの痛恨の情のこもった声が頭に響いた。
「ありがとう……」
 なにが「ありがとう」なんだよ! レフティは叫ぶ。何千年も前の記憶の風景なのは知っている、この声も聞こえないのは理解している。しかし、憤る感情を、怒鳴る以外に表せる方法がない。
 カインとエーベルが整列した鎧を着た男の集団の前、花を手向けて妹を地に埋める。上から眺めるだけの存在のレフティには、空々しい光景だった。
「次に生まれて来る時には、どんな災厄も降りかからず……天命を全うする人生になるがいい」
 魔王の言葉にエーベルが問いかける。
「どんな災厄も?」
「そう。たとえ、わたしと会ったとしても。どんな災厄もはね返す、強い子に」

 うなされるレフティの額の汗は止まらない。あいつの言うことは偽善だ。たまたま、赤ん坊の存在で善性が開いたとしても。
 罪なき人を殺め続けた罪を償え。魂の痛みを償え。俺が地獄に引導を渡してやる。貴様がいつから「善人になりたい」などと、寝言を言うようになったのかは知らぬ。カイン、貴様は俺の親だけでなく、妹までも殺したんだ。おまえのせいで、妹、いやエレーナも。
 忘れるな……!

 叫んだ瞬間、彼に見える景色が暗転する。暗闇の中、町の人間の声だけが響いては消えて行く。どうやら暴動を治めていた先々で、自分たち軍人が民からかけられた言葉らしい。
「あなたがたが国を治める立場になってくれたらいいのに」
 同じ人間が小さくつぶやく声がする。
「……乱暴者を取り押さえてくれるのはありがたいんだけどさ、あんたがた。あいつらよりも家を荒らしてくれたよね」
 レフティは眉を吊り上げた。
 俺たち軍人がいなかったら、おまえらの生活は根こそぎボロボロだったくせに! 内心で叫ぶが、次々と集まる声は、彼らの本音と建前を見せつけていく。
「そうしたら、こんな乱暴な人たちに迷惑をかけられることもなかったのに」
「……こう言っておいたら、こいつら満足なんだろう」
「そうよね。貴族の人たちは、なにもしてくれないもの」
「……あんたがたも暴力以外は取柄がないけどね」
 ――黙れ!
 激しい怒りと共に、レフティは汗びっしょりになって飛び起きた。周りには、自分と同じようにギラギラした眼の部下が大勢いる。彼らは指揮官が目覚めるのを待っていたのだ。
 彼の目覚めに、部下たちが集まってくる。レフティは片手を上げて口を開いた。
「もう大丈夫だ。今から町に降りよう」
「町に、ですか?」
 彼は部下の問いに凄惨な笑みを浮かべる。
「どうやら俺たちの存在を、おもしろくないと思っている存在があるらしい。こうなったら、とことん国家を制圧してやる。カインとエレーナの居場所も手繰れるかもしれない」
「……でも、どうやって?」
 レフティはベッドから降り、地図を開いた。皆、そこに集まってくる。
「まずは、文官たちから尋問するとしようか」
「……宮殿隣の教会は、どうなさいますか? あそこに多くの文官が集まっておりますが」
 部下は告げた。教会は既に軍人以外の避難先になっている、と。
「好都合だな、手間が省けていい」
 彼は唇をゆがめ、決意した。今まで自分を軽んじた人間すべてに、思い知らせてやる。

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魔王に抱かれた私……54

魔王に抱かれた私――優美香

54、たとえ、破滅の朝に見えても・1


 ぱちぱちと燃えさかる焚き火の前、エーベルがフランと並んで腰かけている。彼はじっと遠くを見ていた。フランは時折、彼の横顔を盗み見る。
 エーベルはやがて目を閉じ、視える光景に熱中しはじめていた。フランが膝を抱え、彼の隣でうたた寝をし始める。
 彼はカインがエレーナ女王の部屋を去った直後から、レフティの心を手繰り寄せている。

 レフティは呆然としていた。エレーナ女王の部屋に入ったはいいが、肝心の彼女本人がどこにもいない。
 すぐに一緒にいた部下たちと血眼になって部屋中を探す。しかし、エレーナの姿は影も形もなかった。
「畜生!」
 彼は、たかぶってくる感情のままに歯噛みした。理性は既に、遠くに消えている。万能感だけが肥大し、レフティのすべてを支配していた。
 エレーナを思うがままに抱いてから後、なにもかもが自分の思い通りに行っていたはずだ。カインとエーベルを探して見つけ出す以外には。
「くそっ! あの女も魔族だったのかよ!」
 誰かの声に、レフティは激しく反応した。彼は振り向き、声を発した部下を見る。
「貴様、今なんと言った?」
 部下が目を血走らせ、彼を見返す。
「ありえないでしょう? 部屋の外には見張りもいたんだ。この部屋から身を投げるほど、あの女は強くない」
 レフティは窓の外を指差す部下の、胸ぐらをつかむ。
「彼女をそんな風に呼ぶのはよせよ。次にその言葉を貴様から聞いた時は、俺が首を折ってやる」
「なっ……?」
 部下は己の首元にある上官の拳を見遣り、次の瞬間に激しい憎悪の眼差しを向けた。
「あんたが言ったんだろ? この国を災いの元を断て、と。俺らはそれに従っているだけだが?」
 レフティは唇をゆがめ、部下を思いきり壁に向かって突き飛ばす。よろめいた部下が壁に背中をぶつけた。
「エレーナは俺の伴侶になる女だ! 悪く言う奴は許さん!」
 彼の宣言に、軍人たちは息を飲む。レフティは部下を威圧するように見渡した。
「この国の頂点に立つために、エレーナは必要だ。俺たちが国家の禍根を取り除き、そして国家のトップに躍り出る。それに毛筋でも異言を唱えるヤツは出て来いよ」
 レフティの言葉は低く、まるで澱のように全員の心に響いていく。暗く、重苦しい空気が部屋の中に充満しはじめていた。
「俺たちの誰かがエレーナに孕ませれば、ルーンケルンを縛っていたなにもかもが崩壊する。それでいいんだよ」
 彼の自信満々につぶやく言葉に、皆が納得したような表情を浮かべる。港や街の中、暴動を鎮める先々で彼らは言われていたのだ。
「あなたがたが国を治める立場になってくれたらいいのに」
「そうしたら、こんな乱暴な人たちに迷惑をかけられることもなかったのに」
「そうよね。貴族の人たちは、なにもしてくれないもの」
 レフティは笑みを浮かべる。以前、呪術師ヴィクティムが予言したことが着々と叶いつつある、と。
 ――わたしは知っておりました。あなただけが、エレーナさまの愛情を受けていらっしゃる方だと。いつかあなたは、エレーナさまと愛し合うようになる。
 ――あなたこそがルーンケルンの国王になる器がある方なのです。
 彼の体の奥深くでは、エディットの呪術師・ヴィクティムに言われた言葉が芽吹き、大きく育ちはじめていた。
 そうだ。俺はエレーナの愛を一身に受けている。あいつよりも、ずっと。
 レフティの心に、カインの姿が浮かぶ。俺よりも生まれた時から、なにもかも持って生まれてきた男。俺よりもずっと、周りの信頼を受けて期待されて生きてきた男。なにもかも、俺よりも上の男。そして、もしかしたら今もなお、エレーナの心に残っているであろう男。
 カインの存在そのものを消さない限り、俺はいつまでも怯え続ける。そう思ったレフティは、大きく眉を吊り上げた。
「あいつを殺せば、ルーンケルンは平穏になるんだよ! なのになぜ、こう邪魔が入るんだ!」
 彼は怒声を上げた。エレーナを孕ませ有無を言わせず、名実ともに国主になることが今のレフティの野望のすべてだ。
 息巻くレフティに、やってきた軍閥の臣下が鼻を鳴らして話しかける。
「おや、エレーナさまは?」
 彼は目を剥いて臣下に答えた。
「どこにもいませんよ、まさか、あんたが逃げる手引きをしたんじゃないでしょうね?」
 たかぶった感情にある時に、心を折りにくる連中は皆が敵だ。臣下はわざとらしく、驚いたような表情を作る。
「いやあ、あなたの愛人は自力で逃げ出したんでしたっけ?」
 レフティの顔がこわばる。その臣下は、いかにも好々爺を装い続けた。
「レフティさま、寝物語でおかしなことを口走ってはいないでしょうね?」
「おかしなこと、とは?」
 彼は臣下の背後にいた部下に目配せをした。部下が軽く頷いたのを見定め、レフティは続けた。
「なにが仰りたいのかな?」
 答えようと臣下が息を吸った直後、目を丸くしてレフティを凝視する。背後の部下が、短剣で思いきり臣下の肺腑を抉っていた。
 ぐっ、と息を吐いて唇から血を流した彼に、レフティがにやりと笑って膝下を蹴飛ばした。
「おまえに言われなくてもわかってる、クズが」
 レフティは倒れた老人を踏みつけて転がした。その瞬間、彼の頭が割るように痛み出す。呻き、うずくまった彼は悲鳴を上げた。

 いつしかエーベルの隣にはカインがいる。エーベルが彼の気配に気がついた時、カインは掌の中に水晶玉を乗せていた。
 水晶玉はエレーナの私室の床で頭を抱え、のたうち回っているレフティの姿を克明に映し出していた。
 夜の静けさの中、ひっそりとカインの声が響く。
「あれだけルーンケルンに忠誠を誓ったレフティも、強い悪縁に触れると、こうも変節してしまうものだなと思うよ」
「ええ。元々、人間なんて惰弱な存在ではないのでしょうか。我々とは違う」
「そう言われると立つ瀬がないな」
「いえ、カインさまのことではなく」
 カインとエーベルは「剣の儀式」の光景を思い出していた。二人の胸に、奇妙な寂しさがよぎる。しかし、それにとらわれている暇はない。
 カインは水晶玉に手をかざす。すると、中に映っていたレフティが倒れたまま、動かなくなった。エーベルは水晶玉を見遣り、それから友の顔を見る。
「これは……?」
 彼がエーベルの問いに答えるべく、口を開いた時だ。背後の小屋の扉が開いた音がした。
 二人が振り返ると、そこにはエレーナ女王が立っている。彼女は焚き火のほのかな光を受け、どことなく青ざめて見えた。
 彼ら二人は立ち上がり、カインが駆け寄ろうとする。彼女は片手で押しとどめた。
「そちらにまいります」
 エレーナ女王がふらついた足取りで、二人の元へと歩き出す。エーベルはカインを盗み見た。彼は今にも泣き出しそうな目で、女王を見ている。
 エレーナがカインを見上げた。
「レフティから宮殿を、ルーンケルンを取り戻します。あの人たちに、この国は任せておけません。どうか、わたしに力を貸してください」
 彼女は言い終わり、深々と頭を下げた。顔を上げた時、エーベルが目を細めてエレーナを見つめていた。
「エーベル、あなたもよろしくお願いします。わたしに力を貸してください」
 エーベルは頬を緩め、カインと女王を交互に眺める。
「わたしに命令できるのは、今はカインさまだけです。あとは御二人でお話しください」
 彼は女王に礼を返し、さっさと小屋の中に入ってしまう。呆気に取られたようなエレーナが、苦く笑うカインに視線を移した。
「……エーベルは、わたしのことを嫌いになってしまったのかしら」
 彼は静かに首を振る。
「そんなことはありえない」
「で、でも」
 エレーナのおどおどした視線を、カインは柔らかく受け止めた。
「言ったはずです。わたしは、あなたのためならどんなことでもすると。エーベルも同じ気持ちでしょう、お忘れになりましたか?」
 俯いた彼女の足元に、ぽたぽたと涙が落ちる。エレーナは声を詰まらせた。
「いいえ。忘れてはおりません……」
「では、それでいいではないですか」
 頬を涙で濡らした女王が、カインを見上げる。
「でも……っ」
「でも?」
「本当なら、わたしがあなた方を信じきれずに酷いことばかり言ってしまったのに。謝らないとならないのは、わたしの方なのに……」
 エレーナが遂に、感情をこらえきれず泣き出した。カインが見下ろす彼女の姿は、捨てられた仔猫が雨に濡れて鳴いているようにも見える。
「もう、済んだことです」
 彼の声は震えていた。
 聞き届けたエレーナがカインを見上げる。彼の鳶色の目を見つめたと同時、きつく抱きしめられていた。
 カインは目を閉じて女王を固く抱き、髪の中に頬を埋めた。エレーナの耳元で、彼の切ない囁きが聞こえてくる。
「ずっと……。こうしてみたかった……」
「わたしと、ですか……?」
「あなた以外に、誰がいると言うのですか」
 その昔、ほのかに心を許した人がここにいる。無邪気に手を伸べてくれた人がいる。あなたでなければならなかった。あなた以外にはいなかった。こんなわたしに。
 カインはエレーナの体を深く、いたわるように抱きしめ続けた。彼女は顔を上げる。カインの優しい眼差しが、そこにあった。エレーナは黙って眼を閉じた。
 彼の唇が、おずおずとためらいながら近づいてくる。わずかな吐息の揺れはやがて収まり、互いに立てる乾いた音に変わっていった。


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魔王に抱かれた私……53

魔王に抱かれた私――優美香

53……心のかたち・4

 カインにきつく抱きしめられたエレーナは、悲鳴を上げて抵抗する。女王は激しく腕を動かし、彼の身から離れようと暴れた。
 カインはかまわず、彼女の体をぴったりと抱きしめる。
「静かに」
 ばたばたと暴れるエレーナの耳元で言い、目を閉じる。同時に、レフティが部屋の扉を壊して入ってくる気配がした。

 カインは女王を抱き、小屋の床に転がっていた。どすん、という音に、ほどなくしてエーベルとフランがあわただしく扉を開ける。
 エーベルがカインに駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
 その声に女王が固く目を閉じたままで、大きく悲鳴を上げる。カインは彼女を抱きしめていた腕をほどき、背中をさすった。
「落ち着いてください、ここには、軍人はいないから……!」
 エレーナは「いやああああ!」と大きく叫び、彼の身を突き飛ばして離れた。そして床を這い、彼から逃れようとする。
 戸口にいたフランは、女王の姿を見て絶句した。叫び続ける彼女の頬が、真っ赤に腫れ上がっている。唇の端も切れていた。つやつやした髪もばさばさに乱れ、とてもではないが「女王」の姿ではない。
「一体、誰が……エレーナさまを!」
 口走ったフランはたまらず、女王に駆け寄り|跪《ひざまず》く。
「エレーナさま、落ち着いてください。ここには、あなたを傷つける者は誰もいません」
 泣きすぎて真っ赤な目をしたエレーナが、顔を上げた。彼女はフランの顔をじっと見、それから激しく泣き出した。
 フランは黙って女王の両肩に手を添えて頷き、彼女に向かってなだめるように繰り返す。
「安心して、いいんですよ」
 カインがフランの肩をつつき、毛布を差し出す。フランは彼に小さく礼を返し、それを女王の体にかけた。
 少しして彼女は気づく。小屋の中には、自分と女王の二人きりだということに。やがて、エレーナが俯いたまま何度か、しゃくりあげている。
「ほ、ほんとに」
 フランは女王の言葉に耳をすませた。
「本当に、安心してもいいの?」
「もちろんじゃないですか」
 彼女は泣きやみかけたエレーナに、温かく言葉を返す。女王はくすんと鼻を鳴らし、あらためて両手で毛布をかぶりなおした。
 エレーナは二度ほど大きく深呼吸をして、フランを見上げる。
「ねえ。どうしてこうなったのか、あなたにわかる?」
 問われた彼女は、困ってしまった。フラン自身、よくわかっていないことが多すぎる。なので、率直に言った。
「わたしにも、わからないことが多すぎるのは事実です。だけど、もしかしたら……。わたしたちの知らない真実は、どこか違うところにあるのかもしれません」
 エレーナは深いため息をついた。リネン係の言う通りなのかもしれない。あまりにも急に、現実のなにもかもが変わりすぎる。
「どうしてこうなったんだろう、って思うの」
 女王のぽつんと漏らした言葉に、フランも唇を少し尖らせた。
「本当に、わからないんです。エーベルは『避けられなかったこと』だって、言うのですけども……」
「そう」
 ふたたびエレーナが俯き、腫れた頬の半分を毛布の中に埋めた。
 フランは立ち上がり、小屋の中を見渡してみる。女王の頬を冷やすために、水がほしかった。この狭い建物の中には水瓶はなさそうだ。
「少しだけ、お待ちくださいね」
 エレーナに声をかけて扉を開けると、焚き火のそばに立っていたカインが振り向く。
「どうした?」
「なんとか少し、落ち着いたみたい。エレーナさまの頬っぺたを冷やしてあげたいのよ。スープを作ってくれた時に、使ったお水がほしいんだけど。どこにあるの?」
「小屋の裏側だけど、下手したら崖の下に落ちるよ」
 彼女はカインを凝視し、鼻から大きく息を吸った。こんな夜に崖下に落ちるなんて、真っ平御免だ。
「じゃあどうするのよ。可哀想じゃない」
 彼が思い出したように、フランの顔をまじまじと見つめた。
「一緒に来てくれるかい?」
「いいわよ」
 カインは返事を聞くが早いか、小屋の中に入って行った。
「ちょっと、カイン!」
 フランがあわてて彼の後を追う。カインの背中越し、開いた扉の向こう側に女王が毛布にくるまっているのが見える。
 エレーナ女王は彼を大きく目を開いて見つめ、かすかに首を振っていた。カインの頭の中には、女王のあらゆる感情が流れ込んできている。 
 ――レフティが言っていた。カインこそが、ルーンケルンの災厄そのものだと。彼を討たなければ、わたしにもルーンケルンにも平安は訪れないのだと。
 ――でも、わたしはレフティに何度も頬を打たれた。
 女王の脳裏にはレフティが眉を吊り上げ目を剥き出しにして、その手をこちらの頬に打ちつける情景が何度も浮かぶ。そのたびに倒れそうなくらいの痛みが、頬から全身に響いていた。
 フランは泣き出しそうな表情になったエレーナを見て焦った。なにもできなくてもいい、彼女の近くに行きたい。しかし、カインの背中が邪魔をする。
 彼の声が静かに響いた。
「今、エレーナさまがなにを考えていらっしゃるか。当ててみましょうか」
 彼女が頷く間もなく、カインは続ける。
「レフティに頬を殴られましたよね? 彼は『王位を渡せ』と言ったのでしょう?」
 フランが絶句して彼の背中とエレーナを見比べた。エレーナはカインの顔を凝視したまま、涙をぽろぽろとこぼし始める。
 彼は女王の前に歩み寄り、両膝をついた。そして、彼女に向かい、両手を差し伸べる。
「あなたの心の傷は癒せないかもしれない、でも。その頬の痛みは取って差し上げましょう」
 カインは呆然としているエレーナの返事を聞かず、両方の掌で彼女の頬を包んだ。後ろから眺めているフランは、思わずため息をつく。
「動かないで……」
 低く言った彼の掌から、橙色の蝋燭の灯りにも似た光が漏れる。エレーナの表情が、ほんの少しだけ明るさを帯びてきていた。
 ぼうっとした淡い光が、カインの掌から放たれ続ける。やがて彼はエレーナの頬から、ためらいつつ両手を外す。フランは目を丸くして女王の顔を凝視した。カインをはさみ、彼女とエレーナの視線がぶつかった。
 エレーナ女王は、こちらの反応を待っているのだ。そう直感したフランは、腰が抜けそうになりながらも何度も頷いて見せた。
「あ。……す、すごい。は、腫れていたのが。ぜ、全部、きれいに治っていらっしゃいますよ」
 フランは言い終わってから、本当に尻餅をつきそうになった。その背中を、エーベルが支えてくれている。
 エレーナの頬の腫れはもちろんのこと、泣きはらしていた目元の赤みもすっかり取れていた。女王は黒い瞳は大きく見開き、無言で片手を頬に触れさせる。
 女王はかすかに目線を落とし、小さく息を吸った。そして、カインをまっすぐに見つめて唇を震わせた。
「もう、痛くありません……」
 フランは床にぺたんと座り込み、カインとエーベルをきょろきょろと見比べていた。カインが膝をついた姿勢で、フランを肩ごしに見つめる。
「鏡、持ってる?」
 問われた彼女は立ち上がり、首を細かく横に振った。フランの後ろにいる、エーベルもかぶりを振っている。カインはふたたび、鳶色の目を穏やかにエレーナへと向けた。
「お部屋に入り込んだ無礼を、お許しください」
 彼をじっと見つめるエレーナ女王の瞳に、ふたたび大粒の涙が溢れ出る。

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ゆみか 

Author:ゆみか 
男性向け18禁小説に掲載した作品を主に置いています。

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ですから、無断でお持ち帰りなど、なさらないでくださいね^^。
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